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1章 葉月と樹

葉月・・・ゴックンする。

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「だ・か・ら、俺は心配して声をかけたのになぁ…。」

「…」私は黙って頷いた。

「だいたい、その道はこの桜の木をぐるりと囲んだ道だから、進んでもまた戻ってくるって、言おうと思ったのに…はぁ…人の親切をそうやって斜めに見るからだよ。」

この弟久住さんをチラリと見れば、嬉しそうに…いや可笑しそうに眼を細めて見ている。

くそっ…何たる失態。
フンフンと鼻息を荒くして、進んでいったら、この小憎らしい顔が、眼を輝かせて待っていたとは…付いていない。

弟久住さんは、わざとらしい微笑みをたたえ
「教えようか…広間までの道。」

うっっ…上から目線だ…悔しいけど…、ゆっくりと頷くと

「じゃぁ…《教えてください》って言えよ。」

私は黙って立ち上がり、頭を下げ歩き出した。

「おい!なんだよ。」

「やっぱり、なんかムカつくからいいです。さようなら。」

「なんだよ。それ!」

「あなたに聞くくらいなら、ここで遭難したほうが百倍もマシだと思うので、じゃぁ…さようなら。」

「はぁ…わかったよ。おまえを相手してると、疲れるから…もういい。付いて来いよ。」

「へぇ?広間に…行くんですか?」

「あぁ、隠れているとか言われて…少し、腹も立つけど…一理あるし…。」

「へぇ~」

「なんだよ。」

「高宮 葉月。」

「えっ?」

「名前ですよ。弟久住さん。」

「はぁ?!なんだそれ?!弟久住って…」

「だって、お兄さんを久住さんって、呼んでいるから同じだと、どちらの話をしているのか、わからなくなりそうなので…弟久住さん。」

「樹…って、呼んでいないのか?」

「ぁ、当たり前じゃないですか!年上の男の人を呼び捨てだなんて…」

「俺はいいぞ。秋継って呼び捨てでも…葉月。」

「嫌です!葉月って呼び捨ても嫌です!やっぱり、さようなら。」

「おまえ…。あぁ!もう…行くぞ!」

久住さんより、少し細い後ろ姿を見ながら、大きく息を吐いた。
まさか…久住さんの弟さんと知り合うとは…

久住さん…
由梨奈さんとお話できたのかなぁ。10年前の恋にちゃんと、さよならできたかなぁ。

「おい、高宮 葉月。ぼんやりしていたら置いてゆくぞ。」

「今、行きます!弟久住さん!」

チッと舌打ちが聞こえたけど…
一番解かりやすくて良いと思うんだけど…どうやらお気に召していないみたい。

いくつか上だったと思うけど、なんだか子供みたいで、少し苦手。
お坊ちゃまだからなのかなぁ、上から目線での物言いで、でもそれがなんだかバカにされてるみたいで…キツイ物言いでも、理香さんには愛を感じられるけど…この人には感じられない。

「高宮 葉月、兄貴は…。」

「えっ?」

「…兄貴は……由梨奈と話をしていたか…?」

あぁ…そうだった。この人が、由梨奈さんの…

「…まぁ、バカな事をしてくれなきゃ…どうでもいいけど…ほんとにどうでもいいけど。」

苦手なんて、言っちゃいけないよね。
お兄さんの好きだった人と結婚をするんだもの、きっと悩んで、そのイライラが人に対して尖がった物言いになっているかも。この人はこの人なりに、どうしていいのかわからなくて、ここにいたのかもしれないのに…私は…

アマちゃんを卒業しろとか…。
逃げてばかりいたって、物事は解決しないとか…。
こんなところで隠れていないで、あなたも前に足を進めるべきですとか…。

悪い事、言ったなぁ。

「今、お話しされているかも…知れません。でも久住さんは問題を片付けるために、日本に帰ってきたんです。だから…「そうか、そう言っていたのか…」」

私に最後まで言わせないで、弟久住さんはそう言って立ち止まり
「この塀を乗り越えると早いけど…高宮 葉月、どうだ。」

「いや、どうだと言われても、私はワンピースです、おまけにハイヒール。無理ですよ。」

弟久住さんは、う~んと唸ると
「でも、ここから行ったほうが、10分は早いんだけどなぁ。」と言いながら、私の顔を覗き込んできた。私は後ろへ下がりながら

「10分、遅くなっても普通の、そう普通の道でお願いします!!」

弟久住さんは返事をせず、じっと私を見て
「高宮 葉月…お前、それ本名か?」

「えっ…?!」

「どっかで…見たんだよなぁ。似たような顔…」

「はぁ?」

「…その髪の色は地毛か?」

「は、はい。」

弟久住さんは、鋭い眼をより鋭くして

「その瞳の色もか…?!」

「そうですが…。えっ…となにか?」

「…お前、ハーフか、クォーターだろう?」

思わず、ゴックンと大きな音をたてて、唾を飲み込んでしまった。









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