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1章 葉月と樹
樹・・・振り返る。
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考えたくなかった。
『久住さんが、私を女性として見るわけないじゃないですか。21になっても、子供っぽい私なんかと…ぜんぜん合わないですよ。』
葉月ちゃんのあの言葉が、どうしてあんなにショックだったのか…
どうして、ジョセフィーヌさんのことをカッコいい言う葉月ちゃんを…
どうして、芝居とはいえ葉月ちゃんに彼氏がいることが…
考えたくなかった。今は…そんな時じゃない。
車の窓に映った俺に、(何を考えている。)と見つめた。
リムジンが大きな門をくぐった、あと数分で着くだろう。
落ち着け…今日は他の事に心をとらわれていたら、潰されるぞ。平常心だ。
俺は大きく深呼吸をすると
「今日は、面倒な事に巻き込んですみません。」と頭を下げた。
「樹…」
「はい。」
「いや…いい。今日は可愛いい恋人をやってやるよ。」
「お手柔らかに。」
と言って笑った俺に、理香さんとジョセフィーヌさんは、ほっとしたように頷いてくれた。
でも…葉月ちゃんは、硬い顔で俺を見て、なにか言おうとしたが、うまく言葉が出ないみたいだ。
そんな顔をさせたくはない。
「心を自由にしてあげるために終わらせる…そうだったよね。葉月ちゃん。」
葉月ちゃんは頷いた。
「もし、動けなかったら、背中を押してくれるんだよね。」
「久住さん…」
と言って、葉月ちゃんは何度も頷き、口元にゆっくりと笑みを浮かべてくれた。
柔らかく、温かいその笑顔は、俺の心を落ち着かせてくれる。
無敵の笑顔を貰った。
大丈夫。だから大丈夫。
リムジンは婆様ご自慢の公園のような庭を通って、車寄せで静かに止まった。
俺は、理香さん、ジョセフィーヌさん、そして葉月ちゃんの三人の顔を交互に見て言った。
「自由になるために、行ってきます。」
帰国して約2週間、アメリカで自信をつけた俺は、10年前の恋に自ら終止符を打つために、そして久住家から出るために帰ってきたはずだったが、俺は養父の下にも、そしてここ…久住本家にも足を向けることが出来ないでいた。
一番の理由は由梨奈だったが、もうひとつは弟だった。
10年前、駆け落ちに失敗し、ひとり戻ってきた俺に、中学生になったばかりだった秋継が
「兄さんはいつだって、俺の欲しいと思うものを奪っていったけど、今回だけは、無理だとほんとは笑っていたんだ。でも最後は、やっぱり兄さんの勝ちか…。まさか、父さんが兄さんを迎えに行くとは…。父さんだってわかっているはず、兄さんは久住本家が分裂する要因だと、このまま出て行ってくれたほうがよかったとわかっていたはずなのに…実の息子より、養子の兄さんが大事とは…。どこまで兄さんは俺の進む道を阻むんだ。」
いつも俺へと手を伸ばし、抱っこをせがんでいた弟はもういなかった。
だが…もう逃げない。逃げることは、俺を支えてくれるこの人達を裏切る事だ。
その思いが、広間へと進める足を速くした。
「樹、逸るな。」
理香さんが組んだ俺の腕を少し引いた。
「ゆっくり、そうゆっくりと歩いて…余裕を見せようぜ。」
「理香さん、すみません。つい…逸ってしまって」
「名の知れた華道家の娘で、弁護士のあたしが恋人役でいる。そして友人として大吾がいる。あいつの父親の政治力、作家としての名声を持つ奴がお前の友人としてついている。それも誰に誘われても、こんな席に現れなかった東条 司をだ。その男をお前が連れて来たんだ。そんなお前の手腕は…こちらにいらっしゃる方々を興奮させているだろうよ。おまえの守りの武具は整えたんだ。攻撃のほうは、お前しか出来ないんだからなぁ。だから、逸るな。」
緊張気味に頷いた俺の耳に、葉月ちゃんの笑い声が後ろから聞こえてきた。
理香さんは後ろを振り返ると
「ハイヒールだと葉月はまっすぐ歩けないのかよ。」と言って、クスクスと笑いだした。
俺もゆっくり振り返ると、葉月ちゃんがジョセフィーヌさんと腕を組んで歩いてくる。
腕を組んで…
「このバ~カ。なに、心配してんだよ。腕を組まないと葉月が歩けねぇんだよ。」
「いや…別に…」
と言いながら、自分でも二人が寄り添う姿に、視線を合わすことができなかった。
「お前が葉月を大事に思うのはわかる。葉月が持つあのバカみたいな頑張りと、人を愛し、信じるあの姿は…それを失ったあたしらにとっては、心がほんのりと温かく感じるよなぁ。葉月の側にいれば、その温かなものに包み込まれるようだ。樹、あたしも大吾も、お前とほどではないが似たような半生なんだ。これでも、イイとこのお嬢とボンボンだ。あるだろう…そういう家ではいろいろと…」
「えっ?」
理香さんの言葉に、思わす声をあげた。
「まぁ、よく言う人間不信みたいなもんだった。…大吾は…かなり、メンタルをやられていてなぁ。だけど…葉月と会ってから大吾は変わった。」
そう言って、ジョセフィーヌさんと葉月ちゃん見る、理香さんの顔は優しかった。
「樹…」と言って、俺を見た理香さんだったが、すぐに視線を下に向け
「お前と似たような環境のあたしらが、葉月の側にいるんだ。だから、お前に葉月に近づくなと言っているのは、複雑な問題を抱えているお前だからという、そんなの理由じゃないんだ。」
理香さんは今度は俺をしっかり見て
「あたしはこれでも結構お前を気に入ってんだぜ。だから、あえてもう一度言っておく、葉月にはこれ以上近づくな。あいつは…葉月は…お前にとって諸刃の剣だ。」
諸刃の剣…
俺は振り返って、葉月ちゃんを見た。
『久住さんが、私を女性として見るわけないじゃないですか。21になっても、子供っぽい私なんかと…ぜんぜん合わないですよ。』
葉月ちゃんのあの言葉が、どうしてあんなにショックだったのか…
どうして、ジョセフィーヌさんのことをカッコいい言う葉月ちゃんを…
どうして、芝居とはいえ葉月ちゃんに彼氏がいることが…
考えたくなかった。今は…そんな時じゃない。
車の窓に映った俺に、(何を考えている。)と見つめた。
リムジンが大きな門をくぐった、あと数分で着くだろう。
落ち着け…今日は他の事に心をとらわれていたら、潰されるぞ。平常心だ。
俺は大きく深呼吸をすると
「今日は、面倒な事に巻き込んですみません。」と頭を下げた。
「樹…」
「はい。」
「いや…いい。今日は可愛いい恋人をやってやるよ。」
「お手柔らかに。」
と言って笑った俺に、理香さんとジョセフィーヌさんは、ほっとしたように頷いてくれた。
でも…葉月ちゃんは、硬い顔で俺を見て、なにか言おうとしたが、うまく言葉が出ないみたいだ。
そんな顔をさせたくはない。
「心を自由にしてあげるために終わらせる…そうだったよね。葉月ちゃん。」
葉月ちゃんは頷いた。
「もし、動けなかったら、背中を押してくれるんだよね。」
「久住さん…」
と言って、葉月ちゃんは何度も頷き、口元にゆっくりと笑みを浮かべてくれた。
柔らかく、温かいその笑顔は、俺の心を落ち着かせてくれる。
無敵の笑顔を貰った。
大丈夫。だから大丈夫。
リムジンは婆様ご自慢の公園のような庭を通って、車寄せで静かに止まった。
俺は、理香さん、ジョセフィーヌさん、そして葉月ちゃんの三人の顔を交互に見て言った。
「自由になるために、行ってきます。」
帰国して約2週間、アメリカで自信をつけた俺は、10年前の恋に自ら終止符を打つために、そして久住家から出るために帰ってきたはずだったが、俺は養父の下にも、そしてここ…久住本家にも足を向けることが出来ないでいた。
一番の理由は由梨奈だったが、もうひとつは弟だった。
10年前、駆け落ちに失敗し、ひとり戻ってきた俺に、中学生になったばかりだった秋継が
「兄さんはいつだって、俺の欲しいと思うものを奪っていったけど、今回だけは、無理だとほんとは笑っていたんだ。でも最後は、やっぱり兄さんの勝ちか…。まさか、父さんが兄さんを迎えに行くとは…。父さんだってわかっているはず、兄さんは久住本家が分裂する要因だと、このまま出て行ってくれたほうがよかったとわかっていたはずなのに…実の息子より、養子の兄さんが大事とは…。どこまで兄さんは俺の進む道を阻むんだ。」
いつも俺へと手を伸ばし、抱っこをせがんでいた弟はもういなかった。
だが…もう逃げない。逃げることは、俺を支えてくれるこの人達を裏切る事だ。
その思いが、広間へと進める足を速くした。
「樹、逸るな。」
理香さんが組んだ俺の腕を少し引いた。
「ゆっくり、そうゆっくりと歩いて…余裕を見せようぜ。」
「理香さん、すみません。つい…逸ってしまって」
「名の知れた華道家の娘で、弁護士のあたしが恋人役でいる。そして友人として大吾がいる。あいつの父親の政治力、作家としての名声を持つ奴がお前の友人としてついている。それも誰に誘われても、こんな席に現れなかった東条 司をだ。その男をお前が連れて来たんだ。そんなお前の手腕は…こちらにいらっしゃる方々を興奮させているだろうよ。おまえの守りの武具は整えたんだ。攻撃のほうは、お前しか出来ないんだからなぁ。だから、逸るな。」
緊張気味に頷いた俺の耳に、葉月ちゃんの笑い声が後ろから聞こえてきた。
理香さんは後ろを振り返ると
「ハイヒールだと葉月はまっすぐ歩けないのかよ。」と言って、クスクスと笑いだした。
俺もゆっくり振り返ると、葉月ちゃんがジョセフィーヌさんと腕を組んで歩いてくる。
腕を組んで…
「このバ~カ。なに、心配してんだよ。腕を組まないと葉月が歩けねぇんだよ。」
「いや…別に…」
と言いながら、自分でも二人が寄り添う姿に、視線を合わすことができなかった。
「お前が葉月を大事に思うのはわかる。葉月が持つあのバカみたいな頑張りと、人を愛し、信じるあの姿は…それを失ったあたしらにとっては、心がほんのりと温かく感じるよなぁ。葉月の側にいれば、その温かなものに包み込まれるようだ。樹、あたしも大吾も、お前とほどではないが似たような半生なんだ。これでも、イイとこのお嬢とボンボンだ。あるだろう…そういう家ではいろいろと…」
「えっ?」
理香さんの言葉に、思わす声をあげた。
「まぁ、よく言う人間不信みたいなもんだった。…大吾は…かなり、メンタルをやられていてなぁ。だけど…葉月と会ってから大吾は変わった。」
そう言って、ジョセフィーヌさんと葉月ちゃん見る、理香さんの顔は優しかった。
「樹…」と言って、俺を見た理香さんだったが、すぐに視線を下に向け
「お前と似たような環境のあたしらが、葉月の側にいるんだ。だから、お前に葉月に近づくなと言っているのは、複雑な問題を抱えているお前だからという、そんなの理由じゃないんだ。」
理香さんは今度は俺をしっかり見て
「あたしはこれでも結構お前を気に入ってんだぜ。だから、あえてもう一度言っておく、葉月にはこれ以上近づくな。あいつは…葉月は…お前にとって諸刃の剣だ。」
諸刃の剣…
俺は振り返って、葉月ちゃんを見た。
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