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何とも言いようのない不安。
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私は親族の控え室にいたので、葬儀のことはわからなかったが、翔兄は、先程の号泣がなかったかのように、粛々と喪主をこなしていたようだ、葬儀社の人達が
「若いのに…しっかりしているよね。」と言っているのが、聞こえていた。でも私は心配だった、あれだけ感情を露わにした人が、こんなに簡単に冷静に戻れるはずはないと思っていたからだ。側にいきたい。大丈夫なのか心配だ。でもこの姿で斎場をウロウロできないし、もし、見つかったら大変だ。どうしようとずいぶん迷った、だが、どうしても翔兄のことが気になって、私は思い切って鞄から抜け出し、キョロキョロと周りを窺って、襖の隙間からそっと中を覗いた。
次々と焼香をする会葬者、制服だから学校の生徒だ、先生もいる、あっ!…おばあちゃんだ…私が熱が出て寝込んでいるから、お通夜にはお母さんが、そして葬儀にはおばあちゃんが交代して来てるんだ。
翔兄が、頭を下げているのが見えた、会葬者にお礼を言っているみたいだ、翔兄の頭が上がり、顔が見えた。
顔が…ぁ…あの顔は、カッコイイ先輩、頼りがいのある…秋月 翔太を演じている顔だ。誰もがこの姿を秋月 翔太だと思っている、いや、翔兄はそう思わせている。本当は…寂しがりやで、ちょっと泣き虫なくせに、そうやって我慢する。
翔兄のバカ…
寂しいって、辛いって言わないと、悲しみに押しつぶされてしまうよ…翔兄。
11年前のように、あの握り締めた翔兄の手に、私の手を添えてあげたかった…でも無理だ、今はそばにさえ行けない。私は黒い毛に覆われた手を見つめ…ポロリと涙が出た。
そばにいたいよ。翔兄の側にいてあげたい。でも私は…猫…なんだ。今、私は猫なんだ…。
「猫?!」
後ろからまるで確認するかのように聞こえた。
「にゃぁ~(はい。)」
ハッ?!いや…なに返事してんだよ、私!! 見つかった!やばい!! に、逃げなきゃ!
*****
俺は、出棺前に親族の控え室にいた。控え室に置いている荷物を取りにいきたいと葬祭社の関係者に言ってきたのだが、本当は平蔵を花音のおばあちゃんに預けようと思っていた、だが学生鞄の中に平蔵はいなかった…。どこに?小さな声で「平蔵」と呼ぶが、姿どころか、泣き声さえ聞こえない。
せまい控え室、いくら小さな子猫とはいえ、隠れるスペースは限られている…そう思ったら、俺は呆然とした。
どこに?俺を置いてどこに?
「お…まえも俺の側から…いなくなってしまったのか…」そう言葉にしたら…
【おまえはひとりぼっちになったんだ】と、突きつけられたような気がして体が動かなくなった。
寂しいということはこんなにも…心細いんだ。動くことさえ怯えるくらいに…心細いんだ。
俺は…せまい控え室で、葬祭社の関係者に声をかけられるまで…立ち尽くしていた。
*****
どこをどう走ったかわからない。気がついたときは、斎場の玄関前の植え込み。
ま、また…植え込みだ…。もういや…泣きそうだよ。
その時だ、出棺前の挨拶をする翔兄の声が聞こえた。
「本日は皆様ご多用にもかからわらず、ご会葬、ご焼香を賜り、誠にありがとうございます。お陰をもちまして葬儀、告別式をとどこうりなく執り行うことができました。……。」
翔兄の言葉が止まった。心ここに有らずと言う感じで、ぼんやりとしているように見え、私の心臓がドキンと大きく音を鳴らした。
翔兄…。
ざわざわと会葬者、葬祭関係者から心配する声が上がり、翔兄はハッとしたように、目を見開いたが、ゆっくりと目を瞑り、大きく息を吸ったかと思ったら一気に話しだした。
「また、故人が生前ひとかたならぬご厚情をたまわりましたこととあわせてお礼申し上げます。簡単ではございますが、ひとことご挨拶を申し上げ、お礼にかえさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。」
翔兄…。
私は、何とも言いようのない不安に襲われた。
「若いのに…しっかりしているよね。」と言っているのが、聞こえていた。でも私は心配だった、あれだけ感情を露わにした人が、こんなに簡単に冷静に戻れるはずはないと思っていたからだ。側にいきたい。大丈夫なのか心配だ。でもこの姿で斎場をウロウロできないし、もし、見つかったら大変だ。どうしようとずいぶん迷った、だが、どうしても翔兄のことが気になって、私は思い切って鞄から抜け出し、キョロキョロと周りを窺って、襖の隙間からそっと中を覗いた。
次々と焼香をする会葬者、制服だから学校の生徒だ、先生もいる、あっ!…おばあちゃんだ…私が熱が出て寝込んでいるから、お通夜にはお母さんが、そして葬儀にはおばあちゃんが交代して来てるんだ。
翔兄が、頭を下げているのが見えた、会葬者にお礼を言っているみたいだ、翔兄の頭が上がり、顔が見えた。
顔が…ぁ…あの顔は、カッコイイ先輩、頼りがいのある…秋月 翔太を演じている顔だ。誰もがこの姿を秋月 翔太だと思っている、いや、翔兄はそう思わせている。本当は…寂しがりやで、ちょっと泣き虫なくせに、そうやって我慢する。
翔兄のバカ…
寂しいって、辛いって言わないと、悲しみに押しつぶされてしまうよ…翔兄。
11年前のように、あの握り締めた翔兄の手に、私の手を添えてあげたかった…でも無理だ、今はそばにさえ行けない。私は黒い毛に覆われた手を見つめ…ポロリと涙が出た。
そばにいたいよ。翔兄の側にいてあげたい。でも私は…猫…なんだ。今、私は猫なんだ…。
「猫?!」
後ろからまるで確認するかのように聞こえた。
「にゃぁ~(はい。)」
ハッ?!いや…なに返事してんだよ、私!! 見つかった!やばい!! に、逃げなきゃ!
*****
俺は、出棺前に親族の控え室にいた。控え室に置いている荷物を取りにいきたいと葬祭社の関係者に言ってきたのだが、本当は平蔵を花音のおばあちゃんに預けようと思っていた、だが学生鞄の中に平蔵はいなかった…。どこに?小さな声で「平蔵」と呼ぶが、姿どころか、泣き声さえ聞こえない。
せまい控え室、いくら小さな子猫とはいえ、隠れるスペースは限られている…そう思ったら、俺は呆然とした。
どこに?俺を置いてどこに?
「お…まえも俺の側から…いなくなってしまったのか…」そう言葉にしたら…
【おまえはひとりぼっちになったんだ】と、突きつけられたような気がして体が動かなくなった。
寂しいということはこんなにも…心細いんだ。動くことさえ怯えるくらいに…心細いんだ。
俺は…せまい控え室で、葬祭社の関係者に声をかけられるまで…立ち尽くしていた。
*****
どこをどう走ったかわからない。気がついたときは、斎場の玄関前の植え込み。
ま、また…植え込みだ…。もういや…泣きそうだよ。
その時だ、出棺前の挨拶をする翔兄の声が聞こえた。
「本日は皆様ご多用にもかからわらず、ご会葬、ご焼香を賜り、誠にありがとうございます。お陰をもちまして葬儀、告別式をとどこうりなく執り行うことができました。……。」
翔兄の言葉が止まった。心ここに有らずと言う感じで、ぼんやりとしているように見え、私の心臓がドキンと大きく音を鳴らした。
翔兄…。
ざわざわと会葬者、葬祭関係者から心配する声が上がり、翔兄はハッとしたように、目を見開いたが、ゆっくりと目を瞑り、大きく息を吸ったかと思ったら一気に話しだした。
「また、故人が生前ひとかたならぬご厚情をたまわりましたこととあわせてお礼申し上げます。簡単ではございますが、ひとことご挨拶を申し上げ、お礼にかえさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。」
翔兄…。
私は、何とも言いようのない不安に襲われた。
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