17 / 41
私の知らないこと。
しおりを挟む
(翔兄を助けて)と平蔵に願った思いは叶った。
気が付けば、私は病院の中庭の低木の下で、よだれを垂らし大の字になっていた。
(…なんで、大の字になってんの。おまけによだれ…最低。)
よだれを黒い毛に覆われた両手で拭い、低木から顔を出して、キョロキョロと目を動かすと、すぐに翔兄を見つけたが、飛び出そうとした前足は、翔兄の言葉に止まった。
「追いかけて、花音の腕を掴んで…で…何を言うんだ。あの頃とは違う。一番、側にいて欲しい花音は…一番、心の弱さを知られたくない人になってしまったんだ。そんな花音に…何を言うんだ。何が言えるんだ。」
そう言った翔兄は、小さく息を吐くと苦しそうに…
「わかってる。そんなことわかってる!」と叫んだ。
その苦し気な翔兄の顔に、そして涙を拭った手の甲に残っていた悲しみの跡は私の胸を締め付けた。
でも一番は…
【一番、側にいて欲しい花音は…一番、心の弱さを知られたくない人になってしまったんだ。】と翔兄が言ったこの言葉。
私は頭がいまいちだから、上手く言えないけど…。
心が弱いって、誰もがそうだと思う。寧ろ心が強い人なんていないんじゃないかな。
だって…
悩み?!いいわよ!どーんと来なさい!と言う人って聞いたことないもん。
人って、悩んで、バカして、これじゃいけないと思って頑張り、また新たな問題にぶつかると、悩んで、バカして、また頑張る。それの繰り返しをして、生きているんじゃないかと思う。
だから翔兄…。悩んで、バカしていいの。
私が見たいのはカッコイイ先輩、頼りがいのある男を演じている翔兄じゃなくて、悩んで、バカしてる本当の翔兄なの。
みんなが知っている、秋月 翔太じゃなく…みんなが知らない…寂しがりやで、ちょっと泣き虫な、秋月 翔太をもっともっと知りたいの。
翔兄は頑張ったあとの姿だけを人に見せたいと思っているようだけど、私はその頑張りの過程が知りたいし、見たいし、力になりたい。
私ね…頑張るに至るまでの情けない姿を見せられる、そんな存在になりたい。
平蔵と話す時のように、私にも悲しいことや辛いことも話して、そして今みたいに泣きたいときに、そばにいさせてもらえる、そんな存在になりたいの。
私は低木から飛び出すと、翔兄の膝の上に飛び乗り「にゃぁ~ん」と鳴き、翔兄の手の平に頭を擦りつけた。
「…まさか…平蔵?」と言って、驚くその顔に私は
「にゃぁ~(そうだよ)」と返事をして、翔兄の膝から降りると横に座り、今度はベンチをポンポンと叩き、翔兄を見て
「にゃぁ~(話して、全部聞くから)」と言った。
翔兄はクスッと笑うと
「俺の耳は都合がいいように聞こえるらしい。おまえが…まるで俺に…」
と言って私を見た。(どうしたの?)と言うように、首をかしげ翔兄を見るとその仕草に…翔兄は微笑み、頭を横に振った。
「…都合がいいのは耳だけじゃないみたいだ。」と不思議な事を言った。
******
どのくらいの時間がたったのだろうか…
大きな手は優しく私の体を撫でていたが、突然その手が止まった。
翔兄の顔を見上げると、翔兄は中庭に入ってきた人物に、目をやり私を膝から下ろすと立ち上がった。
「翔太…このまま斎場に秋月さんを運んでいただいて、今日は斎場で通夜を、明日は葬儀でいいか?」
「…はい、叔父さんと叔母さんが良ければ、それでかまいません。」
叔父さんと呼ばれた男性は…翔兄の言葉に、目を見開き驚いたようだったが、また、翔兄の顔を見つめ…何も言わず背を向け中庭を出て行った。
驚いた。翔兄の声に…驚いてしまった、つい先程までおじいさんのことで泣いていた翔兄の声ではなかったから…ううん、いつもの翔兄の穏やかな声でもなかった。それは事務的で、心がなかった。
驚いたように見つめる私に気がついたのか、翔兄は私を見て苦笑し、私を抱き上げると、翔兄は、私の顔に自分の頬を寄せ…そしてぎゅっと抱きしめ、小さな声で囁いた。
「ごめんなぁ…おまえを病院内に連れて行けない。しばらく、ここで待っててくれ。」
そう言って翔兄は叔父さん…ううん…あれはたぶん理香さんのお父さんだ。その後を追って、病院内へ入っていった。
私の知らないことが…まだまだあるんだ。翔兄と叔父さんとの間に流れる…この違和感ってなに…?
その時、お兄ちゃんが言っていた言葉を思い出した…
(翔太の身の振り方だが、俺ら兄妹より複雑なところに引き取られそうなんだ。)
お兄ちゃん…翔兄は理香さんのところに?そういうことなの?
でも複雑なところに引き取られそうなんだ。ってどういうこと…?
翔兄に抱かれていた体が、翔兄が離れたことで、冷たい風が一層冷たく感じられた。
気が付けば、私は病院の中庭の低木の下で、よだれを垂らし大の字になっていた。
(…なんで、大の字になってんの。おまけによだれ…最低。)
よだれを黒い毛に覆われた両手で拭い、低木から顔を出して、キョロキョロと目を動かすと、すぐに翔兄を見つけたが、飛び出そうとした前足は、翔兄の言葉に止まった。
「追いかけて、花音の腕を掴んで…で…何を言うんだ。あの頃とは違う。一番、側にいて欲しい花音は…一番、心の弱さを知られたくない人になってしまったんだ。そんな花音に…何を言うんだ。何が言えるんだ。」
そう言った翔兄は、小さく息を吐くと苦しそうに…
「わかってる。そんなことわかってる!」と叫んだ。
その苦し気な翔兄の顔に、そして涙を拭った手の甲に残っていた悲しみの跡は私の胸を締め付けた。
でも一番は…
【一番、側にいて欲しい花音は…一番、心の弱さを知られたくない人になってしまったんだ。】と翔兄が言ったこの言葉。
私は頭がいまいちだから、上手く言えないけど…。
心が弱いって、誰もがそうだと思う。寧ろ心が強い人なんていないんじゃないかな。
だって…
悩み?!いいわよ!どーんと来なさい!と言う人って聞いたことないもん。
人って、悩んで、バカして、これじゃいけないと思って頑張り、また新たな問題にぶつかると、悩んで、バカして、また頑張る。それの繰り返しをして、生きているんじゃないかと思う。
だから翔兄…。悩んで、バカしていいの。
私が見たいのはカッコイイ先輩、頼りがいのある男を演じている翔兄じゃなくて、悩んで、バカしてる本当の翔兄なの。
みんなが知っている、秋月 翔太じゃなく…みんなが知らない…寂しがりやで、ちょっと泣き虫な、秋月 翔太をもっともっと知りたいの。
翔兄は頑張ったあとの姿だけを人に見せたいと思っているようだけど、私はその頑張りの過程が知りたいし、見たいし、力になりたい。
私ね…頑張るに至るまでの情けない姿を見せられる、そんな存在になりたい。
平蔵と話す時のように、私にも悲しいことや辛いことも話して、そして今みたいに泣きたいときに、そばにいさせてもらえる、そんな存在になりたいの。
私は低木から飛び出すと、翔兄の膝の上に飛び乗り「にゃぁ~ん」と鳴き、翔兄の手の平に頭を擦りつけた。
「…まさか…平蔵?」と言って、驚くその顔に私は
「にゃぁ~(そうだよ)」と返事をして、翔兄の膝から降りると横に座り、今度はベンチをポンポンと叩き、翔兄を見て
「にゃぁ~(話して、全部聞くから)」と言った。
翔兄はクスッと笑うと
「俺の耳は都合がいいように聞こえるらしい。おまえが…まるで俺に…」
と言って私を見た。(どうしたの?)と言うように、首をかしげ翔兄を見るとその仕草に…翔兄は微笑み、頭を横に振った。
「…都合がいいのは耳だけじゃないみたいだ。」と不思議な事を言った。
******
どのくらいの時間がたったのだろうか…
大きな手は優しく私の体を撫でていたが、突然その手が止まった。
翔兄の顔を見上げると、翔兄は中庭に入ってきた人物に、目をやり私を膝から下ろすと立ち上がった。
「翔太…このまま斎場に秋月さんを運んでいただいて、今日は斎場で通夜を、明日は葬儀でいいか?」
「…はい、叔父さんと叔母さんが良ければ、それでかまいません。」
叔父さんと呼ばれた男性は…翔兄の言葉に、目を見開き驚いたようだったが、また、翔兄の顔を見つめ…何も言わず背を向け中庭を出て行った。
驚いた。翔兄の声に…驚いてしまった、つい先程までおじいさんのことで泣いていた翔兄の声ではなかったから…ううん、いつもの翔兄の穏やかな声でもなかった。それは事務的で、心がなかった。
驚いたように見つめる私に気がついたのか、翔兄は私を見て苦笑し、私を抱き上げると、翔兄は、私の顔に自分の頬を寄せ…そしてぎゅっと抱きしめ、小さな声で囁いた。
「ごめんなぁ…おまえを病院内に連れて行けない。しばらく、ここで待っててくれ。」
そう言って翔兄は叔父さん…ううん…あれはたぶん理香さんのお父さんだ。その後を追って、病院内へ入っていった。
私の知らないことが…まだまだあるんだ。翔兄と叔父さんとの間に流れる…この違和感ってなに…?
その時、お兄ちゃんが言っていた言葉を思い出した…
(翔太の身の振り方だが、俺ら兄妹より複雑なところに引き取られそうなんだ。)
お兄ちゃん…翔兄は理香さんのところに?そういうことなの?
でも複雑なところに引き取られそうなんだ。ってどういうこと…?
翔兄に抱かれていた体が、翔兄が離れたことで、冷たい風が一層冷たく感じられた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる