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この日を境に…。
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試験はそれは見事な点数で終わった…。
いつもより、勉強をする時間はなかったけど、最悪だった。
……再テストはいつだろう…。
「戸田さん、試験どうだった。」
突然できた自称親友と言う女子1号は、満面の笑顔で私に聞いてきた。
「…あまり…」
そう言って笑ったが、この笑みは翔兄の笑みよりぎこちないだろうな。今、ようやく翔兄の笑顔の辛さがわかるよ。
あれから、親友と名乗る女子達と、憐みの目で見る生徒達が一気に増えた。
生徒会長、サッカー部のエース、頭脳明晰、おまけにイケメンでやさしい…秋月 翔太の幼馴染、戸田 花音。
変人と名高い花巻 真一の妹、戸田 花音。
宣伝文句のような言葉が、私の名前の前につくようになった。
ぜんぜん目立たなかった私が、一躍注目の人だ。
特に翔兄の幼馴染という話は、かなりのインパクトがあったわけで、事あるごとに、女子に腕を引かれ
「幼馴染っていうだけよね。」
「幼馴染だからって、秋月さんに近づかないでよね。」
と言われ…あぁ、これってなんかのドラマみたいだと思えるくらいだったから、このことで私のダメージは大きくなかったが、(変人の妹…あぁ、なんかわかる~)と言われたことの方が、かなりのダメージだった、
そんな事を思いながら、自称親友と名乗る女子1号のとりとめのない話を聞いていたら、
突然、自称親友1号が私の手を引き
「戸田さん!また、来てるわよ!」
そう叫ぶと私を窓際まで引っ張り、下を指さし
「ほら、あの子。他校の制服を着た子。」
私の目に映ったのは…
翔兄にぴったりと寄り添う女子生徒。
自称親友1号によると、試験が終わった翌週、他校の生徒会長の訪問があり、その生徒会長はそれ以来、毎日うちの学校に現れているという話だった。
なぜ、毎日うちの学校にくるのかは、わからないらしいが、白鷺女学院の生徒会長、松宮 理香さんという女子だという。
白鷺女学院といえばお嬢様学校で進学校。良い家柄で、美人で、頭も良いんだ…。
私の頭の中に、さっき返してもらった数学のテストが浮かんだ。
どうにか二桁…という点数。違い過ぎる…。同じように思っている女子生徒たちが大勢いるんだろうなぁ。
つい数日前まで、翔兄の周辺は金魚の糞状態だったのが、今や翔兄と松宮 理香さんを囲むドーナツ状態に変化した理由がわかった気がした。
自称親友1号は、ムッとした顔でその様子を見て
「行かなきゃ…このままだと他校の生徒に先輩を取られちゃう!」
そう言って、自称親友1号は私を置いて、あのドーナツに向かって走っていった。
翔兄の幼馴染というインパクトは大きかったが…持続しなかったようだ。
まぁ、自称と名乗る女子が減っていくのはありがたい。
でも…
ドーナツの中心にいる二人から、視線を外し、遠くに立つ鉄塔を見た。
あの出来事から、翔兄は私を見かけたら声をかけてくれるようになり、少しづつ、私も昔みたいに話せるようになってきた。昼間は花音、夜は平蔵として、こんなに長く翔兄の側にいたら……
頭に浮かんだ言葉を打ち消すように、私は激しく頭を横に振った。
妹でいい。妹でいいんだ。
私はただ、もう翔兄を11年前のように…この間の雨の中のように…泣かせたくないだけ。
だから、そばにいるの。
そう心の中で呟き、翔兄達を見た。
翔兄が私に拘るのは…辛らかったあの日を、そして楽しかった家族との日々を共有できるからだ。
お兄ちゃんは翔兄が私を好きだと思っているようだったが、それは女性としてというより、家族のような気持ちだと思う。
「私は翔兄の…妹。」
…と口に出した。出したらなんだか泣けてきた。
「子猫になって、身近で翔兄を知れば知るほど…辛くなっちゃう。もう…子猫は…」
【嫌だ。】と続けるつもりだったが、言葉がでない。
それでも、側にいたいという気持ちが強かったから…。
だから今夜も、人間として眠ってしまうと、猫になっていた。
目が覚めると、いつも通りに翔兄の部屋だったが真っ暗だった。
翔兄はまだ帰ってきていない?
暗闇でも見える目を凝らして、机の上の時計を見た22時だ…。翔兄はどこに言ったんだろう?まさかおじいさんに何かあった?!
不安で窓から外を何度も覗いていたら、時計は24時になろうとしていた。
「にゃぁ…(翔兄)」
どれだけ鳴いただろうか。
掠れてきた声に、心臓を打つ鼓動に、不安がピークに差し掛かろうとしていた時だった。
暗闇の道にポツンポツンと街灯が灯る中、大きな車が静かに家の前に止まった。
車の名前は良く知らないが、あのエンブレムは…外車だ。住宅が立ち並ぶ狭い道になんで?と驚いたが、それ以上に驚いたことは、その車から翔兄が出てきたからだった。
えっ?翔兄?なぜ…車からと思っていたら、その後ろから…女性が…あれは…松本 理香さん?!…。
こんな時間まで、ふたりは一緒だったの。
ふたりは、何か話していたが…突然、理香さんは泣き出した、翔兄はそんな理香さんの肩に手を置き、何かを言ったようだったが…
私はもう見る事ができなかった。机から降り、翔兄のベットに上がると泣いた。
でもその声は…「にゃぁ~にゃぁ~」としか出なくて、
泣き声が…今の私では……鳴き声にしかならない、そう思うとより悲しくて鳴いた。
私の鳴き声が聞こえたのだろうか、カタンと音がして、慌てて翔兄が部屋に入ってきて
「ごめんな。遅くなって」と言って私の頭を撫で抱いてくれたが、この手が理香さんの肩に置かれたものだと思ったら、いつものように、心が穏やかにならなかった。
もう翔兄を11年前のように…この間の雨の中のように…泣かせたくないからそばにいる。
ひとりで悲しさや寂しさを背負わせないために…そのためにそばにいる。
でも、もう翔兄がひとりじゃないのなら。
私がそばにいる必要があるのだろうか。
理香さんの姿が浮かび、私はちいさな頭を翔兄の胸へともたれて鳴くと、翔兄の大きな手が私の頭にそっと触れ
「今度、平蔵に紹介したい子がいるんだ。きっと、平蔵も好きになるよ。」
この日を境に私が…猫として翔兄に会うことがなくなった…。
いつもより、勉強をする時間はなかったけど、最悪だった。
……再テストはいつだろう…。
「戸田さん、試験どうだった。」
突然できた自称親友と言う女子1号は、満面の笑顔で私に聞いてきた。
「…あまり…」
そう言って笑ったが、この笑みは翔兄の笑みよりぎこちないだろうな。今、ようやく翔兄の笑顔の辛さがわかるよ。
あれから、親友と名乗る女子達と、憐みの目で見る生徒達が一気に増えた。
生徒会長、サッカー部のエース、頭脳明晰、おまけにイケメンでやさしい…秋月 翔太の幼馴染、戸田 花音。
変人と名高い花巻 真一の妹、戸田 花音。
宣伝文句のような言葉が、私の名前の前につくようになった。
ぜんぜん目立たなかった私が、一躍注目の人だ。
特に翔兄の幼馴染という話は、かなりのインパクトがあったわけで、事あるごとに、女子に腕を引かれ
「幼馴染っていうだけよね。」
「幼馴染だからって、秋月さんに近づかないでよね。」
と言われ…あぁ、これってなんかのドラマみたいだと思えるくらいだったから、このことで私のダメージは大きくなかったが、(変人の妹…あぁ、なんかわかる~)と言われたことの方が、かなりのダメージだった、
そんな事を思いながら、自称親友と名乗る女子1号のとりとめのない話を聞いていたら、
突然、自称親友1号が私の手を引き
「戸田さん!また、来てるわよ!」
そう叫ぶと私を窓際まで引っ張り、下を指さし
「ほら、あの子。他校の制服を着た子。」
私の目に映ったのは…
翔兄にぴったりと寄り添う女子生徒。
自称親友1号によると、試験が終わった翌週、他校の生徒会長の訪問があり、その生徒会長はそれ以来、毎日うちの学校に現れているという話だった。
なぜ、毎日うちの学校にくるのかは、わからないらしいが、白鷺女学院の生徒会長、松宮 理香さんという女子だという。
白鷺女学院といえばお嬢様学校で進学校。良い家柄で、美人で、頭も良いんだ…。
私の頭の中に、さっき返してもらった数学のテストが浮かんだ。
どうにか二桁…という点数。違い過ぎる…。同じように思っている女子生徒たちが大勢いるんだろうなぁ。
つい数日前まで、翔兄の周辺は金魚の糞状態だったのが、今や翔兄と松宮 理香さんを囲むドーナツ状態に変化した理由がわかった気がした。
自称親友1号は、ムッとした顔でその様子を見て
「行かなきゃ…このままだと他校の生徒に先輩を取られちゃう!」
そう言って、自称親友1号は私を置いて、あのドーナツに向かって走っていった。
翔兄の幼馴染というインパクトは大きかったが…持続しなかったようだ。
まぁ、自称と名乗る女子が減っていくのはありがたい。
でも…
ドーナツの中心にいる二人から、視線を外し、遠くに立つ鉄塔を見た。
あの出来事から、翔兄は私を見かけたら声をかけてくれるようになり、少しづつ、私も昔みたいに話せるようになってきた。昼間は花音、夜は平蔵として、こんなに長く翔兄の側にいたら……
頭に浮かんだ言葉を打ち消すように、私は激しく頭を横に振った。
妹でいい。妹でいいんだ。
私はただ、もう翔兄を11年前のように…この間の雨の中のように…泣かせたくないだけ。
だから、そばにいるの。
そう心の中で呟き、翔兄達を見た。
翔兄が私に拘るのは…辛らかったあの日を、そして楽しかった家族との日々を共有できるからだ。
お兄ちゃんは翔兄が私を好きだと思っているようだったが、それは女性としてというより、家族のような気持ちだと思う。
「私は翔兄の…妹。」
…と口に出した。出したらなんだか泣けてきた。
「子猫になって、身近で翔兄を知れば知るほど…辛くなっちゃう。もう…子猫は…」
【嫌だ。】と続けるつもりだったが、言葉がでない。
それでも、側にいたいという気持ちが強かったから…。
だから今夜も、人間として眠ってしまうと、猫になっていた。
目が覚めると、いつも通りに翔兄の部屋だったが真っ暗だった。
翔兄はまだ帰ってきていない?
暗闇でも見える目を凝らして、机の上の時計を見た22時だ…。翔兄はどこに言ったんだろう?まさかおじいさんに何かあった?!
不安で窓から外を何度も覗いていたら、時計は24時になろうとしていた。
「にゃぁ…(翔兄)」
どれだけ鳴いただろうか。
掠れてきた声に、心臓を打つ鼓動に、不安がピークに差し掛かろうとしていた時だった。
暗闇の道にポツンポツンと街灯が灯る中、大きな車が静かに家の前に止まった。
車の名前は良く知らないが、あのエンブレムは…外車だ。住宅が立ち並ぶ狭い道になんで?と驚いたが、それ以上に驚いたことは、その車から翔兄が出てきたからだった。
えっ?翔兄?なぜ…車からと思っていたら、その後ろから…女性が…あれは…松本 理香さん?!…。
こんな時間まで、ふたりは一緒だったの。
ふたりは、何か話していたが…突然、理香さんは泣き出した、翔兄はそんな理香さんの肩に手を置き、何かを言ったようだったが…
私はもう見る事ができなかった。机から降り、翔兄のベットに上がると泣いた。
でもその声は…「にゃぁ~にゃぁ~」としか出なくて、
泣き声が…今の私では……鳴き声にしかならない、そう思うとより悲しくて鳴いた。
私の鳴き声が聞こえたのだろうか、カタンと音がして、慌てて翔兄が部屋に入ってきて
「ごめんな。遅くなって」と言って私の頭を撫で抱いてくれたが、この手が理香さんの肩に置かれたものだと思ったら、いつものように、心が穏やかにならなかった。
もう翔兄を11年前のように…この間の雨の中のように…泣かせたくないからそばにいる。
ひとりで悲しさや寂しさを背負わせないために…そのためにそばにいる。
でも、もう翔兄がひとりじゃないのなら。
私がそばにいる必要があるのだろうか。
理香さんの姿が浮かび、私はちいさな頭を翔兄の胸へともたれて鳴くと、翔兄の大きな手が私の頭にそっと触れ
「今度、平蔵に紹介したい子がいるんだ。きっと、平蔵も好きになるよ。」
この日を境に私が…猫として翔兄に会うことがなくなった…。
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