紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

文字の大きさ
上 下
64 / 78

63

しおりを挟む
13年ぶりに、エリザベスはマールバラの地に足を踏み入れた。



マールバラの王宮は、13年前に崩れ落ちたのに…あの御仁は…とエリザベスは溜め息をついた。

なぜなら、マールバラ王宮は13年前と同じに建て直されていたからだ。

部屋の明かりもつけずとも、エリザベスには…この部屋の間取りはわかる、なぜならこの部屋はエリザベスの部屋だったところだからだ。




ーこの部屋に私を案内するとは…。
どんなご趣味を持ち合わせておられるのやら…だがあいにく私には懐古趣味はない。
ましてや、自分の手で壊した王宮に未練はない。

「あまり気に入ってはいないようだなぁ…エリザベス」と断りもなしに、バクルー王が入ってきた。

「バクルー王…女性の部屋に断りもなしに入られるとは、いささかお行儀の悪い王様ですこと。」

「それは無作法で悪かった。」と言って、開いたままの扉を叩いた。

「これでよろしいか?婚約者殿」

「あなたに何を言っても無駄ようですわね。」

「何でも切り口上で言うな。なぁ、もう少し、女性らしい雰囲気を出したらどうだ…たとえば…そうだ…俺をフレディと呼んでみろ。」

「まぁ、とんでもございませんわ。あの軍事大国の王を呼び捨てなどできませんわ。バ・ク・ルー王。」



バクルー王は、眉間に皺を寄せ

「おまえはほんと意地の悪い言い方をするよなぁ…まぁいい、それより…話がある。」



そう言いながら、バクルー王はソファに座り、人払いをした。
エリザベスはバクルー王の態度に緊張が走った、だが、堂々としていないと飲み込まれると、表情を変えずバクルー王の向かいの席に座った。



バクルー王は、その様子を見て、にやりと笑い切り出した。

「マールとフランシス嬢は、コンウォール商会が一口噛んで、保護しているらしいなぁ。さすが、コンウォールだ、俺のところの密偵も場所が掴めない。おまえの一手は、守りから入っていったか…。」

と小さく笑い…身を乗り出して向かいの席に座るエリザベスに、

「だが、攻めないと食われるぞ。」と言って今度は大きな声で笑った。

「私は、足元は頑丈にしたいものですから、あなたのように攻め一辺倒のやり方は性に合いませんの。」

「だが、守りたい肝心なあいつは…あぁそうだったなぁ。アーガイル伯爵とふたりでこちらに向かってきているんだった。なにをするつもりだ?おまえを取り返すつもりか?まぁなにを仕掛けてきてもいいさ。おまえが予定通りに、俺の妻となってマールバラとノーフォークを持ってきてもらえればいい。ただ…言っておく、檻の中で大人しくしていれば、俺は手を出さないが…檻から飛び出してきた獲物を俺は外したことはない。」



ー結婚を邪魔すれば殺すというのか…。



アークひとりに、100人の兵士が切りかかるところを想像し、エリザベスは体が震えそうになった。

バクルー王の眼は、そんなエリザベスの内心を探るように…眼を細め、

「明日、おまえのお披露目だ。マールバラのエリザベスだと、公表する。」

「どうやってエリザベスだと証明するの?まさか大道芸人のように、みんなの前で魔法を使って見せるわけ?」

「まさしくその通りだ。おまえに魔法を使ってもらう。それに、ある程度魔法を使ってもらって、魔法を枯渇してもらわないと、おまえに手が出せないからなぁ…。」



エリザベスは大きく眼を見開いた。


「おいおい、まさかおまえ、俺がおまえに手を出さないと思っていたのか?」


エリザベスは顔を陰鬱に沈み込ませ

「…嫌だと言ったら…。アークを狙うと言うの。」

「そうだな。…それが一番効果的かなぁ。」

「そう、でも何の為に私を抱くの?私はあなたを愛していないから、子供はできないわ。」


バクルー王は、苦笑し

「さぁ、どうしてだろうか。なんとなくおまえが気になるのさ。だから抱いてみたい。」

「それだけの理由で…ほんと馬鹿馬鹿しい。」

「ほんと…おまえって…。」と言って、顔を歪めそして頭を振りながら立ち上がり

「まぁ、明日を楽しみにしている。」そう言って、部屋を出て行った。




不毛な会話ばかりだったが、でもひとつだけ…そうひとつだけ、嬉しくて思わず笑みが出そうだった。


アークがマールバラに向かってきている。と言うことは…ペンダントを取り戻せたと言うことだ。


ペンダントの気配を探った…すごい速さで、マールバラへ移動している。

だが…まだ遠い。マールバラに着くのはやはり明後日だろう。



エリザベスは両膝に額を押し付け

「アーク助けて…あの男に抱かれたくないの…アーク…」そう言って、両手で自分の体を抱きしめた。









アークフリードとライドはコンウォール商会から、オクトからマールバラの街道に位置する街々に、馬を用意してもらっていた。 街に着く度に、馬を変えて走るのだが、自分の体はそうはいかない。

「ライド…11人になったぞ。」

「だんだん増えてきたなぁ、マールバラに着く間に何人になるのやら。」と溜め息をついた。

アークフリード達は、街に着く度に怪しい男達が増えていくのがわかっていた。
長旅で疲れている。戦うのは出来れば避けたいが、街に寄るたびに増える男達に、どうしていいのか判断に迷っていた。

「なぁ、アークフリード、やろうぜ。確かに今11人倒しても、また出てくるだろうが、一気に何十人も来られたら、気分的にヤバイ。それにいうじゃないか、ことわざで…*危ない橋も一度は渡れって」


アークフリードは笑って頷き

「そうだなぁ、おまえとなら11人ぐらい簡単にやれそうだ。一緒にいてくれ。」

「それって、プロポーズだなぁ。」

「おまえって、ほんと能天気の奴だなぁ。」

そう言ったアークフリードに、ライドは「そうか?」とまた暢気な返事を返し、二人は笑った。



そして

「じゃぁ…やりますか!」とライドの声に、アークフリードの口元が弧を描いた。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

すれ違ってしまった恋

秋風 爽籟
恋愛
別れてから何年も経って大切だと気が付いた… それでも、いつか戻れると思っていた… でも現実は厳しく、すれ違ってばかり…

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

処理中です...