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13年ぶりに、エリザベスはマールバラの地に足を踏み入れた。
マールバラの王宮は、13年前に崩れ落ちたのに…あの御仁は…とエリザベスは溜め息をついた。
なぜなら、マールバラ王宮は13年前と同じに建て直されていたからだ。
部屋の明かりもつけずとも、エリザベスには…この部屋の間取りはわかる、なぜならこの部屋はエリザベスの部屋だったところだからだ。
ーこの部屋に私を案内するとは…。
どんなご趣味を持ち合わせておられるのやら…だがあいにく私には懐古趣味はない。
ましてや、自分の手で壊した王宮に未練はない。
「あまり気に入ってはいないようだなぁ…エリザベス」と断りもなしに、バクルー王が入ってきた。
「バクルー王…女性の部屋に断りもなしに入られるとは、いささかお行儀の悪い王様ですこと。」
「それは無作法で悪かった。」と言って、開いたままの扉を叩いた。
「これでよろしいか?婚約者殿」
「あなたに何を言っても無駄ようですわね。」
「何でも切り口上で言うな。なぁ、もう少し、女性らしい雰囲気を出したらどうだ…たとえば…そうだ…俺をフレディと呼んでみろ。」
「まぁ、とんでもございませんわ。あの軍事大国の王を呼び捨てなどできませんわ。バ・ク・ルー王。」
バクルー王は、眉間に皺を寄せ
「おまえはほんと意地の悪い言い方をするよなぁ…まぁいい、それより…話がある。」
そう言いながら、バクルー王はソファに座り、人払いをした。
エリザベスはバクルー王の態度に緊張が走った、だが、堂々としていないと飲み込まれると、表情を変えずバクルー王の向かいの席に座った。
バクルー王は、その様子を見て、にやりと笑い切り出した。
「マールとフランシス嬢は、コンウォール商会が一口噛んで、保護しているらしいなぁ。さすが、コンウォールだ、俺のところの密偵も場所が掴めない。おまえの一手は、守りから入っていったか…。」
と小さく笑い…身を乗り出して向かいの席に座るエリザベスに、
「だが、攻めないと食われるぞ。」と言って今度は大きな声で笑った。
「私は、足元は頑丈にしたいものですから、あなたのように攻め一辺倒のやり方は性に合いませんの。」
「だが、守りたい肝心なあいつは…あぁそうだったなぁ。アーガイル伯爵とふたりでこちらに向かってきているんだった。なにをするつもりだ?おまえを取り返すつもりか?まぁなにを仕掛けてきてもいいさ。おまえが予定通りに、俺の妻となってマールバラとノーフォークを持ってきてもらえればいい。ただ…言っておく、檻の中で大人しくしていれば、俺は手を出さないが…檻から飛び出してきた獲物を俺は外したことはない。」
ー結婚を邪魔すれば殺すというのか…。
アークひとりに、100人の兵士が切りかかるところを想像し、エリザベスは体が震えそうになった。
バクルー王の眼は、そんなエリザベスの内心を探るように…眼を細め、
「明日、おまえのお披露目だ。マールバラのエリザベスだと、公表する。」
「どうやってエリザベスだと証明するの?まさか大道芸人のように、みんなの前で魔法を使って見せるわけ?」
「まさしくその通りだ。おまえに魔法を使ってもらう。それに、ある程度魔法を使ってもらって、魔法を枯渇してもらわないと、おまえに手が出せないからなぁ…。」
エリザベスは大きく眼を見開いた。
「おいおい、まさかおまえ、俺がおまえに手を出さないと思っていたのか?」
エリザベスは顔を陰鬱に沈み込ませ
「…嫌だと言ったら…。アークを狙うと言うの。」
「そうだな。…それが一番効果的かなぁ。」
「そう、でも何の為に私を抱くの?私はあなたを愛していないから、子供はできないわ。」
バクルー王は、苦笑し
「さぁ、どうしてだろうか。なんとなくおまえが気になるのさ。だから抱いてみたい。」
「それだけの理由で…ほんと馬鹿馬鹿しい。」
「ほんと…おまえって…。」と言って、顔を歪めそして頭を振りながら立ち上がり
「まぁ、明日を楽しみにしている。」そう言って、部屋を出て行った。
不毛な会話ばかりだったが、でもひとつだけ…そうひとつだけ、嬉しくて思わず笑みが出そうだった。
アークがマールバラに向かってきている。と言うことは…ペンダントを取り戻せたと言うことだ。
ペンダントの気配を探った…すごい速さで、マールバラへ移動している。
だが…まだ遠い。マールバラに着くのはやはり明後日だろう。
エリザベスは両膝に額を押し付け
「アーク助けて…あの男に抱かれたくないの…アーク…」そう言って、両手で自分の体を抱きしめた。
アークフリードとライドはコンウォール商会から、オクトからマールバラの街道に位置する街々に、馬を用意してもらっていた。 街に着く度に、馬を変えて走るのだが、自分の体はそうはいかない。
「ライド…11人になったぞ。」
「だんだん増えてきたなぁ、マールバラに着く間に何人になるのやら。」と溜め息をついた。
アークフリード達は、街に着く度に怪しい男達が増えていくのがわかっていた。
長旅で疲れている。戦うのは出来れば避けたいが、街に寄るたびに増える男達に、どうしていいのか判断に迷っていた。
「なぁ、アークフリード、やろうぜ。確かに今11人倒しても、また出てくるだろうが、一気に何十人も来られたら、気分的にヤバイ。それにいうじゃないか、ことわざで…*危ない橋も一度は渡れって」
アークフリードは笑って頷き
「そうだなぁ、おまえとなら11人ぐらい簡単にやれそうだ。一緒にいてくれ。」
「それって、プロポーズだなぁ。」
「おまえって、ほんと能天気の奴だなぁ。」
そう言ったアークフリードに、ライドは「そうか?」とまた暢気な返事を返し、二人は笑った。
そして
「じゃぁ…やりますか!」とライドの声に、アークフリードの口元が弧を描いた。
マールバラの王宮は、13年前に崩れ落ちたのに…あの御仁は…とエリザベスは溜め息をついた。
なぜなら、マールバラ王宮は13年前と同じに建て直されていたからだ。
部屋の明かりもつけずとも、エリザベスには…この部屋の間取りはわかる、なぜならこの部屋はエリザベスの部屋だったところだからだ。
ーこの部屋に私を案内するとは…。
どんなご趣味を持ち合わせておられるのやら…だがあいにく私には懐古趣味はない。
ましてや、自分の手で壊した王宮に未練はない。
「あまり気に入ってはいないようだなぁ…エリザベス」と断りもなしに、バクルー王が入ってきた。
「バクルー王…女性の部屋に断りもなしに入られるとは、いささかお行儀の悪い王様ですこと。」
「それは無作法で悪かった。」と言って、開いたままの扉を叩いた。
「これでよろしいか?婚約者殿」
「あなたに何を言っても無駄ようですわね。」
「何でも切り口上で言うな。なぁ、もう少し、女性らしい雰囲気を出したらどうだ…たとえば…そうだ…俺をフレディと呼んでみろ。」
「まぁ、とんでもございませんわ。あの軍事大国の王を呼び捨てなどできませんわ。バ・ク・ルー王。」
バクルー王は、眉間に皺を寄せ
「おまえはほんと意地の悪い言い方をするよなぁ…まぁいい、それより…話がある。」
そう言いながら、バクルー王はソファに座り、人払いをした。
エリザベスはバクルー王の態度に緊張が走った、だが、堂々としていないと飲み込まれると、表情を変えずバクルー王の向かいの席に座った。
バクルー王は、その様子を見て、にやりと笑い切り出した。
「マールとフランシス嬢は、コンウォール商会が一口噛んで、保護しているらしいなぁ。さすが、コンウォールだ、俺のところの密偵も場所が掴めない。おまえの一手は、守りから入っていったか…。」
と小さく笑い…身を乗り出して向かいの席に座るエリザベスに、
「だが、攻めないと食われるぞ。」と言って今度は大きな声で笑った。
「私は、足元は頑丈にしたいものですから、あなたのように攻め一辺倒のやり方は性に合いませんの。」
「だが、守りたい肝心なあいつは…あぁそうだったなぁ。アーガイル伯爵とふたりでこちらに向かってきているんだった。なにをするつもりだ?おまえを取り返すつもりか?まぁなにを仕掛けてきてもいいさ。おまえが予定通りに、俺の妻となってマールバラとノーフォークを持ってきてもらえればいい。ただ…言っておく、檻の中で大人しくしていれば、俺は手を出さないが…檻から飛び出してきた獲物を俺は外したことはない。」
ー結婚を邪魔すれば殺すというのか…。
アークひとりに、100人の兵士が切りかかるところを想像し、エリザベスは体が震えそうになった。
バクルー王の眼は、そんなエリザベスの内心を探るように…眼を細め、
「明日、おまえのお披露目だ。マールバラのエリザベスだと、公表する。」
「どうやってエリザベスだと証明するの?まさか大道芸人のように、みんなの前で魔法を使って見せるわけ?」
「まさしくその通りだ。おまえに魔法を使ってもらう。それに、ある程度魔法を使ってもらって、魔法を枯渇してもらわないと、おまえに手が出せないからなぁ…。」
エリザベスは大きく眼を見開いた。
「おいおい、まさかおまえ、俺がおまえに手を出さないと思っていたのか?」
エリザベスは顔を陰鬱に沈み込ませ
「…嫌だと言ったら…。アークを狙うと言うの。」
「そうだな。…それが一番効果的かなぁ。」
「そう、でも何の為に私を抱くの?私はあなたを愛していないから、子供はできないわ。」
バクルー王は、苦笑し
「さぁ、どうしてだろうか。なんとなくおまえが気になるのさ。だから抱いてみたい。」
「それだけの理由で…ほんと馬鹿馬鹿しい。」
「ほんと…おまえって…。」と言って、顔を歪めそして頭を振りながら立ち上がり
「まぁ、明日を楽しみにしている。」そう言って、部屋を出て行った。
不毛な会話ばかりだったが、でもひとつだけ…そうひとつだけ、嬉しくて思わず笑みが出そうだった。
アークがマールバラに向かってきている。と言うことは…ペンダントを取り戻せたと言うことだ。
ペンダントの気配を探った…すごい速さで、マールバラへ移動している。
だが…まだ遠い。マールバラに着くのはやはり明後日だろう。
エリザベスは両膝に額を押し付け
「アーク助けて…あの男に抱かれたくないの…アーク…」そう言って、両手で自分の体を抱きしめた。
アークフリードとライドはコンウォール商会から、オクトからマールバラの街道に位置する街々に、馬を用意してもらっていた。 街に着く度に、馬を変えて走るのだが、自分の体はそうはいかない。
「ライド…11人になったぞ。」
「だんだん増えてきたなぁ、マールバラに着く間に何人になるのやら。」と溜め息をついた。
アークフリード達は、街に着く度に怪しい男達が増えていくのがわかっていた。
長旅で疲れている。戦うのは出来れば避けたいが、街に寄るたびに増える男達に、どうしていいのか判断に迷っていた。
「なぁ、アークフリード、やろうぜ。確かに今11人倒しても、また出てくるだろうが、一気に何十人も来られたら、気分的にヤバイ。それにいうじゃないか、ことわざで…*危ない橋も一度は渡れって」
アークフリードは笑って頷き
「そうだなぁ、おまえとなら11人ぐらい簡単にやれそうだ。一緒にいてくれ。」
「それって、プロポーズだなぁ。」
「おまえって、ほんと能天気の奴だなぁ。」
そう言ったアークフリードに、ライドは「そうか?」とまた暢気な返事を返し、二人は笑った。
そして
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