上 下
61 / 78

60

しおりを挟む
アークフリードからの手紙を読んだコンウォールは、手紙を読んだらすぐに伝書鳩でオクトにあるコンウォール商会の出張所に連絡を取った。どんなに優れた馬の乗り手であっても、1000キロの距離を飛び、全速力で飛べは200キロ近くのスピードで飛ぶことができる伝書鳩には敵わない。

ーアークフリード様、早くペンダントをエリザベス様に…お願いします。



アークフリード達が、オクトに着いたのは夜明けだった。

そのままコンウォール商会の出張所に向かったら、もうすでに多くの商会の者は、町にマールを捜しに出ていた。だが何の情報もないまま、6時間近く経とうとしていた。

ライドは、居ても立っても居られくて、自分も捜しに行こうとしたが、

「闇雲に動くより、オクトの町を知り尽くしている人たちに任せよう。」と言うアークフリードに止められていた。

自分より、逸る気持ちがあるはずのアークフリードが言うのだから、頷くしかなかった…。
だが気持ちがどんどん暗くなっていく。



昼頃だった。海沿いの倉庫近くで、金色のような髪の少女が柄の悪い男と一緒にいるという、情報が入ってきて、ふたりは海沿いの倉庫街へと急いだ。倉庫街は、町の賑やかさと一線を引くように静まり返っていた。


「ここです…」とコンウォール商会で働く少年が、指差した扉に手をかけようとした時だ…少女の叫び声が聞こえた。アークフリードは鬼神の様な形相で扉を蹴破ると、一気に男達に走りより、問答無用で、ふたりの男の首を刎ねたのだ。いつもアークフリードではない行動にライドは、一瞬…出遅れてしまった。


コンウォール商会の者からの情報で、おおよその人数はわかってはいたが…先程 焦って町に飛び出そうとした自分を諌めた、あの冷静なアークフリードではなかった。ライドは、まさか突入して、ふたりの男の首を刎ねるという、荒業をアークフ リードがやったとは信じられなくて…思わす名前を呼んだ「アーク…フ…リード」



男の血を浴びたアークフリードは、腰を抜かした少女を見ていた、少女は…
「ぁアークフリード様?」と言って、抱きつこうとした…だが アークフリードは、抱きつこうとした少女に剣先を向けた。

「エリザベスから取った、ペンダントを返してもらおう。」と冷たい声が倉庫内に響いた。

「ペンダン…ト…。それだけの為に、ここに…?」そう言ってマールは呆然とした。



黒髪に、青い瞳の少年が、草むらからひょっこり顔を出し、「ごめんね、驚いたんだね。」とそう言っ て、両手を掴んで立ち上がらせてくれて、優しく微笑んだ少年はいなかった…。


そこにいたのは、ふたりの男の血を浴び、青い瞳が殺気で鈍く光っている男だった。


ー私を助ける為に、ふたりの首を刎ねたのではなくて、エリザベス様に渡したペンダントを取り戻したい為に、ふたりの首を刎ねた…たかがペンダントのために…。

あの穏やかで美しい時間は、アークフリード様とエリザベス様だからなのだとわかっていた…だが、マールの顔が悔しくて歪んだ。…そして心が寂しくて歪んだ。

「エリザベス様から、言われたのですか。ペンダントを取り返してと。そのために私を追って…悪人とはいえ人まで殺して!いい加減に気が付かれたらどうですか!魅了魔法にかかっていることに!!」

アークフリードは、走りよろうとしたライドを手を広げ止め、マールに言った。

「俺のほうが先にエリザベスに惚れたんだ…そのペンダントは、俺が命をかけて守ると言う証で送った。おまえが持つべき物ではない! 返してもらおう…返さねば…切る。」



マールは座り込んだ…この人は…アークフリード様は、それほどまでにエリザベス様を…と思うと…もう、力が抜けた…。
その様子を見てライドは、マールに近寄り彼女の前に座わり、

「マール嬢…13年前に傷つき、寂しい思いをしたのは君だけじゃない。アークもエリザベス様も傷つき、大切な人達を失い、離れ離れになった。そんな状況でも13年の間お互いを想いあっていた。そんなふたりの絆は、誰にも邪魔することはできない。」


ライドは、上着を脱いで、マールの乱れた服を隠すように肩にかけ…優しく微笑み
「君の叫び声が聞こえた時、アークフリードは躊躇せず、飛び込んだ…どういう意味かわかるだろう。こいつは、ペンダントを盗んだ君に怒ってはいるが、君のことも心配していたんだよ。」


マールの眼は大きく揺らぎ…しゃくりあげるように泣いた。
「ごめんなさい、ご…めんなさい…」と大きな声で泣いた。

そんなマールを…辛そうに唇をかみ締め、視線をマールから離したアークフリードに…ライドは苦笑しながら、アークフリードに近づき…小さな声で
「アークフリード…おまえはマール嬢の気持ちを知っていたんだろう、だから引導を渡すつもりで、あんな恐いことを言ったって、俺はお見通しだぜ。」

「ライド…。」



ライドは振り返り

「返してくれるよね。」そう言ってライドはマールの前に手を出した。


マールは、泣きながら自分の首から、ペンダントを外しライドに渡そうとした…だがライドはその手を下ろした。マールは、ライドの意図がわかり立ち上がって、アークフリードにペンダントを差し出した。


「アークフリード様、ごめんなさい。エリザベス様にも…フランシス様にも…私は大変なことをしてしまい、本当にごめんなさい。」


アークフリードは黙って、差し出されたペンダントを受け取り、マールの頭に手を置いた。
言葉はなかったが、マールは頷き泣いていた。







アークフリードは、マールの身柄をコンウォール商会の者に預けた。

マールは泣いてはいたが、憑き物が落ちたように穏やかな顔で倉庫を出て行った。その背を見送りながら…。

アークフリードは13年前のあの日に、思いが飛んだ。




アークフリードの脳裏に浮かぶのは…。
マールバラ王国の花が咲き乱れる中庭と…エリザベスとリリス様、キース王の笑い顔。

『エリザベス、私にはその…そのお茶をいれてはくれないのかい?』

『はい、アークだけです。お父様はお母様から入れてもらってください。』

『もう…あなたたら、何をアークと張り合っているのです。』

『エリザベスは…まだエリザベスは私の娘で…まだアークのところに…嫁にはやっていない。』

拗ねたようなキース王に、リリス様がエリザベスが笑っている。

あれはマールバラ王国にバクルー王国が攻め込む、3時間前。

 
その後すぐだったという…。

エリザベスはダンスのレッスンに、俺はノーフォークに帰還する準備をするために席を立った後、数人の兵士と、短剣を手に現れたパメラがリリス様を人質にして、キース王に結界を解除するように迫り…リリス様は「私がいなければ、結界を解除する必要はないですね。」と言ってパメラ様から短剣を奪うと自ら…胸に短剣を差したという。

キース王はリリス様に治癒魔法をかけたが…ほぼ即死だったそうだ。いくら魔法が不思議な力と言っても、亡くなった人を蘇らせることはできない。キース王はリリス様を抱きかかえると、襲い掛かる兵士らの剣を受けながら、歩いて行かれたという。

愛する人を目の前で失ったキース様はどんなにお辛かっただったろう。

膨大な魔力を使うと言う治癒魔法を何回も掛け続け、そして身に受けた傷で、結界に綻びが生じ…バクルー国の兵士らの侵入を許してしまった。


コンウォール男爵が言っていた。エリザベス様は今でもよく言われます、自分は化け物だと…。

あの日、泣き叫び、コンウォール男爵の手を振りほどいたエリザベスが、王宮へ、炎の中へ、と足を進めれば進めるほど、火の手はあがり、断末魔の声が聞こえたと言う。


キース様をリリス様を死に追いやり、エリザベスの心を傷つけた。
その首謀者の一人と、決着をつけるときがきたんだ。





アークフリードの眼が、青い眼が鋭く光った。

だが声は、言いづらい言葉だったせいか…震える声で

「13年前の決着を付けに行く、ライド…すまない…俺に、命を預けてくれ…」

「俺の命は、めちゃめちゃ高いぞ。だが、ついて行ってやる!」とライドは笑った。



アークフリードは、ライドの返答に苦笑し

「では未来の弟…マールバラに行くぞ!」と踵を返した。



ライドは呆けたように、ポカンと口を開けたまま固まってしまった…が、慌てて…アークフリードを追って叫んだ。

「ちょ、ちょっと待て、おい!そんなに簡単にいいのか!フランシス殿を嫁にしていいのか!!俺は本気にとったぞ!!」





 嵐の前は…、静けさではなく…



ライドの賑やかの声と、アークフリードのからかう笑い声だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...