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触れられたところから、熱く体が溶けていくような気がした。

怖くて、名前を呼んだ‥‥「アーク」


青い瞳が、眼を細め、私を見る…。


もう一度名前を呼ぼうとしたが、言葉は口づけで奪われた。

熱い舌がすべてを奪うように蠢き、私の舌を見つけると絡ませたかと思ったら…離れて行き

「あっ…」思わず名残惜しげな声が出てしまった。



アークは、笑い軽く口づけをすると

「エリザベス、君から…」と言って私を誘う。

私もアークの唇を軽く噛んで、舌を絡ませようとしたが、彼の舌が逃げていく。

唇を離して意地悪と言おうとしたら、先に言われた…「下手くそ」



悔しくて、そしてなんだか可笑しくて…アークの鼻を摘まんで、大きな声で笑った。

摘ままれた鼻に、手をやりながら「痛いよ…。」と言ってアークも笑った。







舟遊びに疲れた私を背負って歩いた広い背中。



帰らないでと泣く私を抱きしめてくれた腕。



あの日、左胸から血を流しながらも、私へと伸ばされた手。



突然プロポーズした私を見つめていた青い瞳。



初めての夜、狂おしいほど私を求めてくれた唇。



すべてが、あなたへの愛へと繋がっていく。



私の心が言っている愛していると。笑っていたのに、こんなに幸せなのに…涙が零れた。
アークの指が、涙を拭い掠れた声が耳元で聞こえた。

「愛してる」




失いたくない…私はこの人を…アークを失いたくない。

左胸に残る白い傷跡を撫でながら、もう…この人に血を流させない。

アークの首に手を廻し、口づけをした。舌を絡ませ…もっと欲しいのと強請るように舌を吸った。




私はバクルー王のもとに行く。

あの男の陰謀を潰す…。アークはバクルー王のもとに行くことを良しとはしないだろ。
どこかに身を潜めるなど、アークにやはりできないだろう。


この人は、きっと身を挺してでも私を守る。
ならば、早く決着をつけなければ…バクルー王が策を講じる前に…潰さなければ。







アーク、お願いわかって…



アークフリードの右手が、エリザベスの白い胸を愛おしむように、強く、そして…優しく触った。
その胸にそっと唇を落として行く。



そして、左手は…

焦らすかのように…何度もエリザベス唇に触れる。

たまらず、紫の瞳は青い瞳を見て…縋った…、青い瞳は、意地悪く眼を細め、唇が「まだだ」と言った。そしてその唇は、乳房に赤い花を咲かせた。



一輪、また一輪と…やがて唇は赤い花の出来具合に、満足したように弧を描いた。







愛していると囁いた途端、強請るように、舌を絡ませる口づけを仕掛けてきたエリザベス。

それまで、恥ずかしいそうにしていたのが…変わった。



俺は、気づいた…。



俺が彼女の為なら命を懸けても良いと思うように、エリザベスもそう思っていることに…。





彼女が…自分を犠牲にしてまで守るもの。

それをコンウォール男爵がなぜ止めないのか。

あのコンウォール男爵が、そんな計画を進めるのがどうしてもわからなかったが…。自惚れでなければ…俺だ。
エリザベスが自分を犠牲にしてまで、守るものは俺だ。


自惚れであって欲しい…俺の自惚れであって欲しい。



だが…


「エリザベス…。もう離れるな。もう、俺から離れるな。」




エリザベスは、アークフリードの激しい言葉に、甘く溶けていた体が心が…強張った。

アークは…気づいている?私がこれからやろうとすることを…。



エリザベスは、アークフリードの顔を見ようと、閉じていた眼を開いた。

青い瞳が、切なく揺れていた。…震えた…この人を…死なせたくない。



エリザベスは唇を震わせ言葉を発した…それは アークフリードの熱く激しい言葉への返答ではなかった。



「アーク!アーク!、私を愛して、壊れるほど愛して…」



アークフリードは、エリザベスの決意を見た。


もう…それ以上言えなかった…。


彼女の決意を翻すことができないだろう。



彼女は5歳で国を動かすほどの才知と、冷徹に粛清する王者しか持ちえない迫力と厳しさを持つ…人だ…。

だが、俺は君の中に優しすぎるくらい、優しい心と、傷つきやすい心があることを知っている。



君の優しい心を傷つきやすい心を守りたい。そんな俺の気持ちをわかってくれと心の中で叫んだが…


エリザベスと同様に唇は違う言葉を紡いだ。



「遠慮はしない…望み通り壊していいんだな。」







エリザベスの手は、アークフリードの背中に回り、爪を立てた…



二人の心の声は… 言っていた。  



      あなたを…

      君を…

             


  「「 死なせない。 」」…と 

 
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