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宰相のパーラント侯爵や、騎士団のオーランド伯爵にとっては、 商工会の大物コンウォール男爵やあの軍事大国のバクルー王が出席している晩餐会は、とても意義のある晩餐会だったろうが…と 
ライドは出席者を見渡して、「なんだかなぁ…」と思わず口に出た言葉を、 慌てて心の中で…なんか違うんだよ…と言って、そっとあのふたりへと眼をやった、 自分よりそう思っているはずだからだ。

だが、アークフリードは、確かに目は、笑ってはいなかったがバクルー王に、にこやかに対応していた。
そして、エリザベスも時折小さな笑い声をあげて、パメラを入れたご夫人達と談笑していた。

…あの2人、恐い。

 

俺ならここで笑って過ごせないぞとぼやいていたが、でも、ライドが思っていたよりも、二人の気持ちは追い詰められていた。



晩餐会もデザートを終え、男性客はそのまま居残り、 時計回りにワインを飲み始め、一旦女性客は居間へ移動してコーヒーや紅茶を飲む頃だった。

エリザベスは、少し酔いを醒ましてきますと出席者に挨拶をして、 席を外し、庭に続くテラスに来ていた。 庭に続くテラスに吹く風は、心地よかったが、ここに来るであろう御仁を思うと緊張して、背中に汗が流れる感じがした。


カタンと居間からテラスに続く扉を開く音がした。



 来た…。



「ミーナ嬢、気分が優れないのか…」とバクルー王がそう言って近づいてくるのをエリザベスはにっこり笑い

「バクルー王、もう猿芝居はやめて、そろそろ本音でお話を聞かせてください。」
と言って エリザベスも一歩バクルー王へ足を進めた。



少し驚いたように、眼を丸くしたバクルー王だったが…
「ふ~ん、その気の強い話し方は、マールバラ王家特有か?パメラにそっくりだぜ…。」

そう言ってにやりと笑えば、そんなバクルー王にエリザベスも、
「あら?私は母リリスに似ていると言われますわよ。」と笑いあっさりとエリザベスだと認めた。




「フ~ン、リリス王妃の娘だと…エリザベス王女だと認めていいのか?」

「今更…」と言ってエリザベスは笑うと「王女と言っても、13年前に滅んだ国の話ですわ。」


「まぁ、そうだったなぁ、俺が13年前に、地図から消した国だったなぁ。」


 今まで、顔だけはにこやかだったエリザベスの顔が……少し歪んだ。


「さすがだなぁ、結構…頭にきただろうに。感情はその程度しか出さないんだ。…良いなぁ。でも…」

と言って居間から持ってき たグラスの酒に口をつけた。そして…


「おまえの父親のキース王は、あいつはダメだ。だからパメラがおかしくなった。パメラを女として見れないのなら、早く切るべきだった。非情にならないのが、やさしさだと俺は思わんがなぁ…。そして、あいつだ…アークフリード。おまえは、どうも父親のキース王といい、アークフリードといい、やさしいばかりでつまらん男を慕うなぁ…。」

エリザベスは、黙ってバクルー王がを見ていたがゆっくりを口を開いた。


「父は…やさしい父には、王という立場は向いていなかったかもしれません。でもマールバラ王家の宿命の重さは、王本人しかわからないこと…他国の方に簡単に言って戴きたくありません。」



そう言うと、バクルー王にさらに鋭い眼を向け
「アークフリード様は、ご立派な方です。あの方は自分の宿命に抗い、戦っておいでです。 慕う?いえそんな言葉では、言い表せないくらい私は…」

と言って、一旦言葉を切ると、エリザベスは、鋭い眼はそのままで…
「 アークフリード様を、愛しております。」と口元に笑みを浮かべた。





バクルー王は、「やっぱり本物は良いなぁ」と言って大きな声で笑い、エリザベスの顔を見て

「後ろをゆっくり見ろ。居間にいるアークフリードの後ろの給仕…。」


エリザベスは、ゆっくり振り返った、アークフリードは隣の席に座ったオーランド伯爵と話をしていた。

その後ろで給仕が、エリザベスとバクルー王を見て気味の悪い笑顔を見せた。


「あれは俺が放った刺客だ。アークフリードなら、いつものアークフリードなら放たれた殺気には敏感なんだろうが…俺と、おまえに関心がいっている今のアークフリードなら、あれにも殺れるかもしれんな。」
エリザベスの顔色が変わった、その様子を見て笑うと、バクルー王はエリザベスの細い腰を抱いて庭の方に連れ出した。

「どうだ、俺にしないか?」とバクルー王は言った。 



今度はエリザベスが笑った。
「あなたはマールバラ王国に興味はなかった。あったのは、ノーフォーク王国。

跡継ぎがいないノーフォークに、バクルー国の王女を側妃でもいいから送り込みたかったが、ノーフォーク王は王妃ケイト様一人を愛されておいでだった。どうしようか思案している時に、パメラ叔母様からの密書。あなたの計画では、ノーフォーク王妃ケイト様と、ノーフォーク王の妹でもあった私の母リリスや、その娘の私も殺し、ノーフォーク王家の血筋を絶ちたかった。そして、ノーフォーク王に自分の息がかかった新しい後添えを娶らせる。おそらくあなたの寵妃のひとり、つまりあなたの子を次のノーフォーク王にして、裏でノーフォーク国を手に入れることを考えた。でも、心配していたんでしょう?パメラ叔母様に…私を殺せるか…心配していた通り、《王華》のほんの一部しか持っていない叔母様には私は殺せなかった。バクルー王…あなたは王家の魔法に興味ないようですね。詳しくは知らない。でも予想はしていたのでは…。」


「確かに興味はなかったから、うまく行けば儲けものぐらいにしかな。ただ単純に《王華》が面白そうだと思っただけだ。だが、計画していたことより面白くなった。おまえら親子がアークフリードに《王華》を移したことで、パメラがアークフリードに近づいた。おまえ…パメラを嵌めたんだろう。パメラを嵌めるために《王華》をあのアークフリードに移すことをおまえはキース王に提案していた。俺はおまえが短剣で胸を刺し、炎の中に入っていったと聞いた時、どこの三文小説だと笑ったぜ。ガキだった頃のおまえでも一個師団に、ひとり囲まれても勝てただろうに、たった数人の兵に囲まれただけで死を選ぶなんて…あり得ねぇ。もっともアークフリードの周りに肉の塊になっちまった兵士らを見た時におまえは生きてると思っていたがね。」

バクルー王はエリザベスを見た。エリザベスが顔色一つ変えないことに、「そんなところ…実に良いな。」

そう言いながら、笑うと
「守りたい人間の為なら、人を殺めることもできるおまえに興味が沸いたのだ。だからパメラがアークフリードに近づくのをおまえが待っていたように、俺はお前が出てくるのを待っていたんだ。いつか必ずおまえが出てくると踏んだ。そしていい事を思いついたんだ。」とそれは楽しそうな満面の笑顔を見せた。



エリザベスは、予想できなかったバクルー王の笑顔に、嫌な予感がした。



ーこの男の思考は…私の更に上を行く。



「おいおい、俺の笑顔を気味悪そうにみるなよ、おまえの言う通り、俺の子を孕んだ女をノーフォーク王に嫁がせるつもりだった。だが、あの一件以来、いろいろ知らべていくうちに、おまえに更に興味が湧いた。 《王華》を持って生まれた王女。3歳になったと同時にキース王と一緒に政治に関わり、5歳の頃にはいままで王家に甘えていた国民に、コンウォールと手を組み、織物という新しい産業を取り入れた。…悪かったな、軌道に乗せる寸前だったのに…俺の計画がそれを邪魔したな。そして…あの日アークフリードを守るための惨劇、わずか7歳でだ…大人になったらどうなるんだと思ったら会いたかった。

だから、俺は待った。おまえを待ったんだ。そのために計画の一部を変えた。

魅了魔法でノーフォーク王をパメラの虜にさせ、後添えの王妃が人ではないことがばれないようにした。マールバラ王家は、自分が好きにならないと子はできない、だからパメラにはできない。もちろん、形代の王妃にも…」


エリザベスはまさかと思ったが、言わずにいられなかった。声が震えた。

 「…なにが言いたいの…」


「おいおい、俺に言って欲しいのか。まぁプロポーズは男からだよなぁ。

俺がノーフォークの血を引くおまえを嫁にすると言ってるんだ、そしてノーフォークを手に入れる。俺には、子供はたくさんいるから、おまえとの間に子供はできなくても、跡継ぎは心配要らんしなぁ」



エリザベスは、やっぱりだと唇を噛んだ…私にはノーフォーク王家の血もが流れている。このまま、ノーフォーク王に子供ができなければ、姪の私が継ぐことも可能だ。ましてや私は《王華》を持つ身。その私と婚姻すれば…それこそ、軍を動かさずノーフォークが奪える。


「居間でアークフリードを狙っている奴はひとりだが、これからはどうかなぁ。

もし、ノーフォークとバクルーが戦闘になったら、俺はこう命令する。アークフリードひとりを狙えと…10人の兵士となら、アークフリードの腕なら勝てるだろう。だが100人なら、1000人なら…どうだ。」



エリザベスの顔色が変わった。

バクルー王はにやりを笑い…「チェックメイト」

そう言って、エリザベスの腰をより強くひきつけ、エリザベスの顔に自分の顔を寄せてきた。



エリザベスは瞬きもせず、なんの感情も見せず、バクルー王を見ていた。



バクルー王とエリザベスの唇が重なった。
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