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………
きっと今頃、私の父にどう話したらいいのかとか、計画がうまくいった後の私の人生とか…考え込まれていらしゃるのではないでしょうか?
アークフリード様、ご心配には及びません。
父は末端ではありますが、ノーフォーク国の貴族でございます。蓄えた財力と、そして商売を通じて得た他国との伝手を、国の為に使う事はノーフォークの貴族としての責務であり、名誉だと心得ております。そんな父ですから、きっとわかってくれると信じ、今回のアークフリード様との結婚が偽装結婚だと私の方から話しをしました。
偽装結婚と聞いた時点で、父は全てを理解したようです。
バクルー国からきた二人の女性、ノーフォーク王の王妃となったカトリーヌ様。そしてブランドン公爵の妻となったパメラ様。
おふたりがバクルー王の命を受け、ノーフォーク国を手中に治めようと画策している事は、父の耳にも入っていたからでしょう。
でもノーフォークの剣聖と言われるアークフリード様の動きを封じる為に、まさか結婚という策をパメラ様が持って来られるとは、父も予想はしていなかったようです。
パメラ様…いえバクルー王の息がかかった女性なら、おそらく殺人も厭わない女性。
公爵家にそんな女性を入れれば、妹君のフランシス様を始め、屋敷の方々を人質に取られたも同然。
その結婚を阻止する為には、誰が聞いても、納得できる相手が必要。
コンウォールは下位の貴族ではありますが、財力と他国の貴族への伝手は、大陸一とまで言われております。
そんなコンウォールの娘なら、パメラ様とて反対はしづらいはず。反対すれば、ただでも疑いの目を向けている者達が騒ぐ事を考えれば…きっと上手く行くはずです。
大丈夫です。
必ず父が、コンウォール家が、お支えいたします。
ただ…アークフリード様が御心に決めた方がいらしたら、偽りとは言え結婚というのは、真摯なアークフリード様の心情はいかばかりかと存じます。
ですが、どうかバクルー国がノーフォーク国から手を引くまでは、その方への想いを心の中に留めておいて頂けないでしょうか?
アークフリード様と離縁をした後は、その方に私からご説明致しますので、どうかお許しください。
では、3日後お待ちしております。
ミーナ.コンウォール
………
ミーナからの手紙は、アークフリードの心をざわつかせる言葉に溢れていた。
その言葉の波に、心が沈んでいくような気がしていたが…。
トントン…と扉を叩くリズミカルな音が、深い水の底に沈みかけていた心を引き上げていった。
「旦那様、執事のエパードございます。」
エパードはアークフリードが幼い頃から、公爵家に仕えてくれている執事で、妹プリシアをパメラの悪意から、守ってくれているひとりだった。
「お嬢様が、旦那様に至急お会いしたいとおっしゃっておられますが。」
「フランシスが…?」
「どうやら、旦那様のご結婚のことのようです。」
アークフリードは思わず立ち上がると
「なぜ?!それを!フランシスが知っているんだ?まさか義母にも知られているのか?!!」
日頃、実際の年齢より落ち着いた物腰のアークフリードが慌てふためく姿に、エバートは微笑むと落ち着いた声で言った。
「旦那様、大丈夫でございます。パメラ様はご存じありません。フランシス様は、アーガイル伯爵様からお聞きになられたようでございます。」
「ライド?屋敷にいつ訪ねてきたんだ。俺は会ってないぞ。」
「先程、お嬢様のところにお花を「届けに来てるのか!」」
驚いて執事の言葉が終わらないうちにアークフリードは叫んでいた。
「…ぁ…すまない。」
「いいえ、旦那様」
アークフリードは疲れた体を投げ出すように、椅子に座り込み、大きなため息をつくと頭を抱えた。
妹フランシスにもちろん結婚のことを言わないわけにはいかない事はわかっているが、お互いが求めあった結婚ではない…と思うとフランシスへの後ろめたさが結婚の話を躊躇させていた。
ーわかっている、俺が妹に話しにくいだろうと思って、ライドが先に話したことは…。
「だが、どうフランシスに話せばいいんだ。」
呟くように言いながらズルズルと書斎の大きな机に打伏したアークフリードだった。
エパードは、主人であるアークフリードから、今回の計画を聞かされて以来、心が年甲斐もなく騒いでいたが、だがノーフォークのため、公爵家のための偽装結婚という計画に、エバートは違和感を持っていた。
偽装結婚と言っても、このまま本当に夫婦になれば問題はないだろうが、バクルー国をノーフォーク国から追い出すことができたあと…もし離縁することになれば…女性にとっては大きな瑕疵だ。
騎士としての誇り高きアークフリードが、女性の名誉を軽んじるとは思えない…なぜ?とそれが引っかかっていたエパードだったが、書斎の机に打伏し、幼い子のように、ライドの悪口をぶつぶつ言っている アークフリードを見て…なんだかわかったような気がした。
偽装でも結婚を選んだアークフリードの不器用な思いを…。
芽生えかけた思いを…。
エパードも覚悟を決めた。
ー私は私の出来ることで、旦那様をお助けするのだ。お嬢様をそして嫁いでこられる若奥様を、パメラ様から命をかけてもお守りいたします。
でも…。
その前に、机に打伏す旦那様を力づけなくてはと、アークフリードに気づかれないように小さく笑った。
きっと今頃、私の父にどう話したらいいのかとか、計画がうまくいった後の私の人生とか…考え込まれていらしゃるのではないでしょうか?
アークフリード様、ご心配には及びません。
父は末端ではありますが、ノーフォーク国の貴族でございます。蓄えた財力と、そして商売を通じて得た他国との伝手を、国の為に使う事はノーフォークの貴族としての責務であり、名誉だと心得ております。そんな父ですから、きっとわかってくれると信じ、今回のアークフリード様との結婚が偽装結婚だと私の方から話しをしました。
偽装結婚と聞いた時点で、父は全てを理解したようです。
バクルー国からきた二人の女性、ノーフォーク王の王妃となったカトリーヌ様。そしてブランドン公爵の妻となったパメラ様。
おふたりがバクルー王の命を受け、ノーフォーク国を手中に治めようと画策している事は、父の耳にも入っていたからでしょう。
でもノーフォークの剣聖と言われるアークフリード様の動きを封じる為に、まさか結婚という策をパメラ様が持って来られるとは、父も予想はしていなかったようです。
パメラ様…いえバクルー王の息がかかった女性なら、おそらく殺人も厭わない女性。
公爵家にそんな女性を入れれば、妹君のフランシス様を始め、屋敷の方々を人質に取られたも同然。
その結婚を阻止する為には、誰が聞いても、納得できる相手が必要。
コンウォールは下位の貴族ではありますが、財力と他国の貴族への伝手は、大陸一とまで言われております。
そんなコンウォールの娘なら、パメラ様とて反対はしづらいはず。反対すれば、ただでも疑いの目を向けている者達が騒ぐ事を考えれば…きっと上手く行くはずです。
大丈夫です。
必ず父が、コンウォール家が、お支えいたします。
ただ…アークフリード様が御心に決めた方がいらしたら、偽りとは言え結婚というのは、真摯なアークフリード様の心情はいかばかりかと存じます。
ですが、どうかバクルー国がノーフォーク国から手を引くまでは、その方への想いを心の中に留めておいて頂けないでしょうか?
アークフリード様と離縁をした後は、その方に私からご説明致しますので、どうかお許しください。
では、3日後お待ちしております。
ミーナ.コンウォール
………
ミーナからの手紙は、アークフリードの心をざわつかせる言葉に溢れていた。
その言葉の波に、心が沈んでいくような気がしていたが…。
トントン…と扉を叩くリズミカルな音が、深い水の底に沈みかけていた心を引き上げていった。
「旦那様、執事のエパードございます。」
エパードはアークフリードが幼い頃から、公爵家に仕えてくれている執事で、妹プリシアをパメラの悪意から、守ってくれているひとりだった。
「お嬢様が、旦那様に至急お会いしたいとおっしゃっておられますが。」
「フランシスが…?」
「どうやら、旦那様のご結婚のことのようです。」
アークフリードは思わず立ち上がると
「なぜ?!それを!フランシスが知っているんだ?まさか義母にも知られているのか?!!」
日頃、実際の年齢より落ち着いた物腰のアークフリードが慌てふためく姿に、エバートは微笑むと落ち着いた声で言った。
「旦那様、大丈夫でございます。パメラ様はご存じありません。フランシス様は、アーガイル伯爵様からお聞きになられたようでございます。」
「ライド?屋敷にいつ訪ねてきたんだ。俺は会ってないぞ。」
「先程、お嬢様のところにお花を「届けに来てるのか!」」
驚いて執事の言葉が終わらないうちにアークフリードは叫んでいた。
「…ぁ…すまない。」
「いいえ、旦那様」
アークフリードは疲れた体を投げ出すように、椅子に座り込み、大きなため息をつくと頭を抱えた。
妹フランシスにもちろん結婚のことを言わないわけにはいかない事はわかっているが、お互いが求めあった結婚ではない…と思うとフランシスへの後ろめたさが結婚の話を躊躇させていた。
ーわかっている、俺が妹に話しにくいだろうと思って、ライドが先に話したことは…。
「だが、どうフランシスに話せばいいんだ。」
呟くように言いながらズルズルと書斎の大きな机に打伏したアークフリードだった。
エパードは、主人であるアークフリードから、今回の計画を聞かされて以来、心が年甲斐もなく騒いでいたが、だがノーフォークのため、公爵家のための偽装結婚という計画に、エバートは違和感を持っていた。
偽装結婚と言っても、このまま本当に夫婦になれば問題はないだろうが、バクルー国をノーフォーク国から追い出すことができたあと…もし離縁することになれば…女性にとっては大きな瑕疵だ。
騎士としての誇り高きアークフリードが、女性の名誉を軽んじるとは思えない…なぜ?とそれが引っかかっていたエパードだったが、書斎の机に打伏し、幼い子のように、ライドの悪口をぶつぶつ言っている アークフリードを見て…なんだかわかったような気がした。
偽装でも結婚を選んだアークフリードの不器用な思いを…。
芽生えかけた思いを…。
エパードも覚悟を決めた。
ー私は私の出来ることで、旦那様をお助けするのだ。お嬢様をそして嫁いでこられる若奥様を、パメラ様から命をかけてもお守りいたします。
でも…。
その前に、机に打伏す旦那様を力づけなくてはと、アークフリードに気づかれないように小さく笑った。
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