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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
3日目 ⑪
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ルシアン殿下は、ナダルの近くで戦っておられた。
膝下まで水に浸かったその場所は、相手にとっても、ナダルやルシアン殿下にとっても良い場所ではない。
だが、ふたりの腕なら、五分五分…いや…こちらが有利だと…思った瞬間だった。
四方に鋭い銃声が木霊した。
銃…!!
玉はナダルの右手をかすったのか…倒れこみそうになったナダルに気付かれたルシアン殿下が、ナダルの前に出られた。
今、私達に刃を向けるこの兵士達も…
ルシアン殿下に代わって、ロイをローラン国王にしたいと思うナダルも…
ルシアン殿下は、自国の大切な国民だと、思っていらっしゃる。
だから、守るおつもりなんだ。
自分のすべてをかけて…
ならば…私はそのお心に沿う働きをするのみ。
考えろ!落ち着いて考えなくては…。
このままでは、ルシアン殿下は銃の標的だ。
ナダルの後ろは…滝、自分の後ろにナダルを隠されたルシアン殿下は、もう一歩も下がることはできない。
足元は水に浸かり、両側から、そして真正面から敵と対する。ましてや銃が狙っている…
フゥ~、本当に私の主君は無茶だ。
でも…
それでも、この方と一緒ならやれる気がする!
ルシアン殿下と目が合った。
(やれるか?)そう言われた気がした。
「やるしかないでしょう!」
そう口にしながら、三方向からくる敵を払い、私はルシアン殿下の下へと走り寄り
「…ロイ!ここは後ろが滝だから傾斜がきつく、水の厚みは小さくとも流速は早い。せめてそこの傾斜角度が緩やかな左側に逃げろ!私が右側と正面からの敵をやる。だから、左へ行け!」
私の声に片膝をついていたナダルが顔を上げ、叫んだ。
「やめろ!ロイを…ロイを危険にさらすくらいなら、俺をここで見捨てろ!」
出来るわけないでしょう!
なんたって我が主君が、ナダル達の後ろに姿を隠し、まるでチェスの駒のように人を扱うバウマン公爵から、みんなを救いたいと思っていらっしゃるんだから!
私は真正面から向かってきた兵士の顔を思い切り殴ると
「ナダル!いい加減にしろ!おまえがジャスミンやロイが大事なように、ふたりもおまえが大事なんだ。大人しく助けられろ!」
そう叫んだ私を…クスリと笑う声が聞こえ、思わずルシアン殿下を見たが、ルシアン殿下は左側から来た兵士の腕を取ると、そのまま兵士を盾にされ、ナダルについて来いと軽く頭を振られた。
元々、ローラン国の騎馬軍団の兵士達は、馬と共に大陸を移動していた民族が、ローラン国に根を張って暮らし始めた民族だと聞いた、だから仲間意識が強い。
そうか…だから盾にされた仲間がいるなら、早々に仕掛けては来ないとルシアン殿下は思われたんだ。
左側からの攻撃を躊躇する兵士達のそばを、警戒しながらルシアン殿下は進まれ、そのあとをナダルがゆっくりと足を進めて行く。
大丈夫…うまく行けるかもしれない。
その様子を横目で見ながら、私は大きな声で
「ロイ!!ここを脱出したら話がある。付き合え!」
今度ははっきりと笑っている声が聞こえ、ナダルは驚いたように、私とルシアン殿下を交互に見ながら
「…おまえら…」
そう口にしたが、それ以上は言葉が浮かばないようだった。
一歩、一歩だが、足を確実に前に進める私達が、有利に進めていることに、まさか痺れを切らした者がいるとは思わなかった。
それは…また銃だった。
目の前の出来事がコマ送りのように見える。
弾丸はナダルの足に当たり、ルシアン殿下は盾にしていた兵士の手を離し、倒れそうになったナダルへと腕を伸ばされた。周りの兵士達は茫然とその様子を見ていたが、ひとりの兵士が何か叫びながら、ナダルへと切りかかり、ルシアン殿下はナダルの腕を引き、自分の腕の中に引き込まれ、ナダルの体を覆うと、ルシアン殿下の背中に…銀色に光る剣が赤い線を纏い…振り抜かれた。
嘘…。
これは…何?
ルシアン殿下はナダルを私へと押し出すと、切りかかってきた兵士の腕を切り、後ろへと…滝がある後ろへと…倒れて行かれた。
何が起こったの?
黒髪が風に靡くのが見えた。
大きな体が滝へと吸い込まれていくのが見えた。
…ぁ…ぁ…あ…
「ルシアン!!」
何も考えられなかった。
私は滝へとルシアン殿下を追った。
そこが死への道ならば、それでもいい。
私はついて行く。
もう、離れては生きて行けない。
手を伸ばした。
…お願い、私も連れて行って。
膝下まで水に浸かったその場所は、相手にとっても、ナダルやルシアン殿下にとっても良い場所ではない。
だが、ふたりの腕なら、五分五分…いや…こちらが有利だと…思った瞬間だった。
四方に鋭い銃声が木霊した。
銃…!!
玉はナダルの右手をかすったのか…倒れこみそうになったナダルに気付かれたルシアン殿下が、ナダルの前に出られた。
今、私達に刃を向けるこの兵士達も…
ルシアン殿下に代わって、ロイをローラン国王にしたいと思うナダルも…
ルシアン殿下は、自国の大切な国民だと、思っていらっしゃる。
だから、守るおつもりなんだ。
自分のすべてをかけて…
ならば…私はそのお心に沿う働きをするのみ。
考えろ!落ち着いて考えなくては…。
このままでは、ルシアン殿下は銃の標的だ。
ナダルの後ろは…滝、自分の後ろにナダルを隠されたルシアン殿下は、もう一歩も下がることはできない。
足元は水に浸かり、両側から、そして真正面から敵と対する。ましてや銃が狙っている…
フゥ~、本当に私の主君は無茶だ。
でも…
それでも、この方と一緒ならやれる気がする!
ルシアン殿下と目が合った。
(やれるか?)そう言われた気がした。
「やるしかないでしょう!」
そう口にしながら、三方向からくる敵を払い、私はルシアン殿下の下へと走り寄り
「…ロイ!ここは後ろが滝だから傾斜がきつく、水の厚みは小さくとも流速は早い。せめてそこの傾斜角度が緩やかな左側に逃げろ!私が右側と正面からの敵をやる。だから、左へ行け!」
私の声に片膝をついていたナダルが顔を上げ、叫んだ。
「やめろ!ロイを…ロイを危険にさらすくらいなら、俺をここで見捨てろ!」
出来るわけないでしょう!
なんたって我が主君が、ナダル達の後ろに姿を隠し、まるでチェスの駒のように人を扱うバウマン公爵から、みんなを救いたいと思っていらっしゃるんだから!
私は真正面から向かってきた兵士の顔を思い切り殴ると
「ナダル!いい加減にしろ!おまえがジャスミンやロイが大事なように、ふたりもおまえが大事なんだ。大人しく助けられろ!」
そう叫んだ私を…クスリと笑う声が聞こえ、思わずルシアン殿下を見たが、ルシアン殿下は左側から来た兵士の腕を取ると、そのまま兵士を盾にされ、ナダルについて来いと軽く頭を振られた。
元々、ローラン国の騎馬軍団の兵士達は、馬と共に大陸を移動していた民族が、ローラン国に根を張って暮らし始めた民族だと聞いた、だから仲間意識が強い。
そうか…だから盾にされた仲間がいるなら、早々に仕掛けては来ないとルシアン殿下は思われたんだ。
左側からの攻撃を躊躇する兵士達のそばを、警戒しながらルシアン殿下は進まれ、そのあとをナダルがゆっくりと足を進めて行く。
大丈夫…うまく行けるかもしれない。
その様子を横目で見ながら、私は大きな声で
「ロイ!!ここを脱出したら話がある。付き合え!」
今度ははっきりと笑っている声が聞こえ、ナダルは驚いたように、私とルシアン殿下を交互に見ながら
「…おまえら…」
そう口にしたが、それ以上は言葉が浮かばないようだった。
一歩、一歩だが、足を確実に前に進める私達が、有利に進めていることに、まさか痺れを切らした者がいるとは思わなかった。
それは…また銃だった。
目の前の出来事がコマ送りのように見える。
弾丸はナダルの足に当たり、ルシアン殿下は盾にしていた兵士の手を離し、倒れそうになったナダルへと腕を伸ばされた。周りの兵士達は茫然とその様子を見ていたが、ひとりの兵士が何か叫びながら、ナダルへと切りかかり、ルシアン殿下はナダルの腕を引き、自分の腕の中に引き込まれ、ナダルの体を覆うと、ルシアン殿下の背中に…銀色に光る剣が赤い線を纏い…振り抜かれた。
嘘…。
これは…何?
ルシアン殿下はナダルを私へと押し出すと、切りかかってきた兵士の腕を切り、後ろへと…滝がある後ろへと…倒れて行かれた。
何が起こったの?
黒髪が風に靡くのが見えた。
大きな体が滝へと吸い込まれていくのが見えた。
…ぁ…ぁ…あ…
「ルシアン!!」
何も考えられなかった。
私は滝へとルシアン殿下を追った。
そこが死への道ならば、それでもいい。
私はついて行く。
もう、離れては生きて行けない。
手を伸ばした。
…お願い、私も連れて行って。
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