135 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
3日目⑨
しおりを挟む
「なんだよ。さっきの勢いはどうした?」
「いや…」
ナダルの声にハッとした私の耳に…また驚くような音が聞こえてきた。
それは、今ここにいる者たちが知る音。
馬の蹄の音。
激しくぶつかる金属の音。
そして…悲鳴。
一体何者がここに乗り込んで来たんだ?
「ルシアンに気づかれたか?くそっ!」
ナダルがそう叫んだと同時に、ルシアン殿下が部屋を飛びだし、それに続いてナダルとアストンが出て行った。
だが…動けなかった。私は動けないでいた。
ルシアン殿下が安定した国を作りの為に、自分以外のローラン王家の血筋はすべて始末すると言ったという噂を、真実にするために…バウマン公爵が放った者達だろうか…いや、まさか…ルシアン殿下がロイになって、この町に潜入していることがバレたのだろうか?
「ロザリー!なにをしているの!私の側には侯爵がいるわ、行って!」
と叫ばれたミランダ姫の声にも…
「なにをしている!行け!」
と叫ぶお父様の声にも、私の体は強張ったように動けずにいた。
私が側にいることでルシアン殿下がイラつき、その感情の乱れが剣筋に現れたら、かえって危ないのではと思うと…動けなかった。
「お父様が…お父様が行ってください。私がミランダ姫をお守りします!」
私の声に、眉を顰められたお父様…そしてミランダ姫に、私は思わず視線を外すと、小さな手が私の両頬に当てられ
「不愉快だわ。叔父様を追って行けない理由を私にしないで!」
そう言われて、私の両頬を引っ張られ
「叔父様との間に何があったのかは、知らないけど…。後悔しない?!もし叔父様がここでケガをしたり、もしものことが…あったとしたら、後悔しないの?!あの時、叔父様の背中を守っていれば…と後悔しないのなら、ここにいればいいわ。」
「ミランダ姫…。」
「バカね!泣きそうな声で、何を怖がっているの?行きなさい。好きで好きでたまらない人を守りに行きなさい。」
ミランダ姫の両手が、私の頬から離れて、私の首へと周り…
「ロザリーが自分だけではなく、誰にでも優しいことに、ヤキモチを焼いているしている子供みたいな叔父様を…どうか守って。」
「ヤキモチ…ルシアン殿下が?」
「そうやって、いつまでも【殿下】と自分は呼ばれているのに、3日前に会ったナダルは呼び捨て…。寂しいのよ。ようやくつかまえたロザリーなのに…。ようやく妃に、ううん、お嫁さんになるのに…。いつまでたっても、自分をただの男として見てくれないことが…。甘えさせてあげて。お母さまをあんな形で亡くし、誰にも甘えることができなかった。叔父様をお願い。」
そう言われたミランダ姫は、私の頬にキスをされ
「叔父様の下に行って…。ロザリーならきっと、叔父様の体も心も守ってくれると信じてるわ。」
「は、はい。」
背中を向け走り出した私に、ミランダ姫の声がした。
「叔母様!」
「…えっ?」
慌てて振り返ると、ミランダ姫が足を後ろへと一歩引き、両手でドレス持ち上げて頭を下げ
「叔母様と叔父様が、おふたりご一緒で無事ご帰還されますように」
「あ、あの…!」
「もう~!ロザリーここは頷くだけいいの!せっかく淑女らしい挨拶をやったのに~!もう~早く行って!」
「はい!必ず、ふたりで戻ってまいります。」
ミランダ姫はにっこりされると、グッと親指を立てて見せられた。
*****
ミランダは走って行くロザリーの背中から、後ろにいる侯爵へと振り返って…何度も瞬きをしたかと思ったら、茫然とした声で
「なぜ?…なぜ…侯爵が泣いているの?」
「…ミランダ姫が…ロザリーをお・お・叔母様と…呼んで下さって…私は…。」
「はぁ~もう。当たり前でしょう。叔父様のお嫁さんになるんだもん、叔母様と呼ぶのは…。まぁ、それも子供の間だけしか許されないんだけど…ね。何れ、ローラン国王陛下、妃殿下と呼ばないといけない時が来るのよね…寂しいわね。ほんと王家なんて面倒くさい。でも、他国の王になるんだもの、しょうがないことなのよ。だから今のうちにたくさん使っておこうと思ったの。」
鼻を啜り、まだ泣いている侯爵に、ミランダは少し下を向いて微笑むと、
「侯爵、ぐずぐずしてられないわよ。私達のせいで、叔父様達が動けなくなってはマズイわ。敵がここに乗り込んでくる前に、私を安全な場所に連れて行ってちょうだい。」
そして両手を侯爵に向かって広げ、ニヤリと笑うと…
「だから、じぃちゃん、抱っこ!」
侯爵は胸のポケットに入れたチーフを出すと、鼻を噛み
「ミミ。じぃちゃんが、必ず守るから、心配するな。」
侯爵の臭い芝居に、一瞬驚いた顔のミランダだったが
「ナダルに対しての、ロザリーの芝居もなかなかだったけど…侯爵の今の芝居が一番かも…」
と言って侯爵へ、早く抱っこしてとせがむように、両手をより大きく広げた。
「いや…」
ナダルの声にハッとした私の耳に…また驚くような音が聞こえてきた。
それは、今ここにいる者たちが知る音。
馬の蹄の音。
激しくぶつかる金属の音。
そして…悲鳴。
一体何者がここに乗り込んで来たんだ?
「ルシアンに気づかれたか?くそっ!」
ナダルがそう叫んだと同時に、ルシアン殿下が部屋を飛びだし、それに続いてナダルとアストンが出て行った。
だが…動けなかった。私は動けないでいた。
ルシアン殿下が安定した国を作りの為に、自分以外のローラン王家の血筋はすべて始末すると言ったという噂を、真実にするために…バウマン公爵が放った者達だろうか…いや、まさか…ルシアン殿下がロイになって、この町に潜入していることがバレたのだろうか?
「ロザリー!なにをしているの!私の側には侯爵がいるわ、行って!」
と叫ばれたミランダ姫の声にも…
「なにをしている!行け!」
と叫ぶお父様の声にも、私の体は強張ったように動けずにいた。
私が側にいることでルシアン殿下がイラつき、その感情の乱れが剣筋に現れたら、かえって危ないのではと思うと…動けなかった。
「お父様が…お父様が行ってください。私がミランダ姫をお守りします!」
私の声に、眉を顰められたお父様…そしてミランダ姫に、私は思わず視線を外すと、小さな手が私の両頬に当てられ
「不愉快だわ。叔父様を追って行けない理由を私にしないで!」
そう言われて、私の両頬を引っ張られ
「叔父様との間に何があったのかは、知らないけど…。後悔しない?!もし叔父様がここでケガをしたり、もしものことが…あったとしたら、後悔しないの?!あの時、叔父様の背中を守っていれば…と後悔しないのなら、ここにいればいいわ。」
「ミランダ姫…。」
「バカね!泣きそうな声で、何を怖がっているの?行きなさい。好きで好きでたまらない人を守りに行きなさい。」
ミランダ姫の両手が、私の頬から離れて、私の首へと周り…
「ロザリーが自分だけではなく、誰にでも優しいことに、ヤキモチを焼いているしている子供みたいな叔父様を…どうか守って。」
「ヤキモチ…ルシアン殿下が?」
「そうやって、いつまでも【殿下】と自分は呼ばれているのに、3日前に会ったナダルは呼び捨て…。寂しいのよ。ようやくつかまえたロザリーなのに…。ようやく妃に、ううん、お嫁さんになるのに…。いつまでたっても、自分をただの男として見てくれないことが…。甘えさせてあげて。お母さまをあんな形で亡くし、誰にも甘えることができなかった。叔父様をお願い。」
そう言われたミランダ姫は、私の頬にキスをされ
「叔父様の下に行って…。ロザリーならきっと、叔父様の体も心も守ってくれると信じてるわ。」
「は、はい。」
背中を向け走り出した私に、ミランダ姫の声がした。
「叔母様!」
「…えっ?」
慌てて振り返ると、ミランダ姫が足を後ろへと一歩引き、両手でドレス持ち上げて頭を下げ
「叔母様と叔父様が、おふたりご一緒で無事ご帰還されますように」
「あ、あの…!」
「もう~!ロザリーここは頷くだけいいの!せっかく淑女らしい挨拶をやったのに~!もう~早く行って!」
「はい!必ず、ふたりで戻ってまいります。」
ミランダ姫はにっこりされると、グッと親指を立てて見せられた。
*****
ミランダは走って行くロザリーの背中から、後ろにいる侯爵へと振り返って…何度も瞬きをしたかと思ったら、茫然とした声で
「なぜ?…なぜ…侯爵が泣いているの?」
「…ミランダ姫が…ロザリーをお・お・叔母様と…呼んで下さって…私は…。」
「はぁ~もう。当たり前でしょう。叔父様のお嫁さんになるんだもん、叔母様と呼ぶのは…。まぁ、それも子供の間だけしか許されないんだけど…ね。何れ、ローラン国王陛下、妃殿下と呼ばないといけない時が来るのよね…寂しいわね。ほんと王家なんて面倒くさい。でも、他国の王になるんだもの、しょうがないことなのよ。だから今のうちにたくさん使っておこうと思ったの。」
鼻を啜り、まだ泣いている侯爵に、ミランダは少し下を向いて微笑むと、
「侯爵、ぐずぐずしてられないわよ。私達のせいで、叔父様達が動けなくなってはマズイわ。敵がここに乗り込んでくる前に、私を安全な場所に連れて行ってちょうだい。」
そして両手を侯爵に向かって広げ、ニヤリと笑うと…
「だから、じぃちゃん、抱っこ!」
侯爵は胸のポケットに入れたチーフを出すと、鼻を噛み
「ミミ。じぃちゃんが、必ず守るから、心配するな。」
侯爵の臭い芝居に、一瞬驚いた顔のミランダだったが
「ナダルに対しての、ロザリーの芝居もなかなかだったけど…侯爵の今の芝居が一番かも…」
と言って侯爵へ、早く抱っこしてとせがむように、両手をより大きく広げた。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです
との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。
白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・
沈黙を続けていたルカが、
「新しく商会を作って、その先は?」
ーーーーーー
題名 少し改変しました
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる