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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

3日目⑨

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「なんだよ。さっきの勢いはどうした?」

「いや…」
ナダルの声にハッとした私の耳に…また驚くような音が聞こえてきた。



それは、今ここにいる者たちが知る音。

馬の蹄の音。

激しくぶつかる金属の音。


そして…悲鳴。


一体何者がここに乗り込んで来たんだ?

「ルシアンに気づかれたか?くそっ!」

ナダルがそう叫んだと同時に、ルシアン殿下が部屋を飛びだし、それに続いてナダルとアストンが出て行った。


だが…動けなかった。私は動けないでいた。



ルシアン殿下が安定した国を作りの為に、自分以外のローラン王家の血筋はすべて始末すると言ったという噂を、真実にするために…バウマン公爵が放った者達だろうか…いや、まさか…ルシアン殿下がロイになって、この町に潜入していることがバレたのだろうか?


「ロザリー!なにをしているの!私の側には侯爵がいるわ、行って!」
と叫ばれたミランダ姫の声にも…

「なにをしている!行け!」
と叫ぶお父様の声にも、私の体は強張ったように動けずにいた。


私が側にいることでルシアン殿下がイラつき、その感情の乱れが剣筋に現れたら、かえって危ないのではと思うと…動けなかった。


「お父様が…お父様が行ってください。私がミランダ姫をお守りします!」

私の声に、眉を顰められたお父様…そしてミランダ姫に、私は思わず視線を外すと、小さな手が私の両頬に当てられ
「不愉快だわ。叔父様を追って行けない理由を私にしないで!」

そう言われて、私の両頬を引っ張られ
「叔父様との間に何があったのかは、知らないけど…。後悔しない?!もし叔父様がここでケガをしたり、もしものことが…あったとしたら、後悔しないの?!あの時、叔父様の背中を守っていれば…と後悔しないのなら、ここにいればいいわ。」

「ミランダ姫…。」

「バカね!泣きそうな声で、何を怖がっているの?行きなさい。好きで好きでたまらない人を守りに行きなさい。」

ミランダ姫の両手が、私の頬から離れて、私の首へと周り…
「ロザリーが自分だけではなく、誰にでも優しいことに、ヤキモチを焼いているしている子供みたいな叔父様を…どうか守って。」

「ヤキモチ…ルシアン殿下が?」

「そうやって、いつまでも【殿下】と自分は呼ばれているのに、3日前に会ったナダルは呼び捨て…。寂しいのよ。ようやくつかまえたロザリーなのに…。ようやく妃に、ううん、お嫁さんになるのに…。いつまでたっても、自分をただの男として見てくれないことが…。甘えさせてあげて。お母さまをあんな形で亡くし、誰にも甘えることができなかった。叔父様をお願い。」

そう言われたミランダ姫は、私の頬にキスをされ
「叔父様の下に行って…。ロザリーならきっと、叔父様の体も心も守ってくれると信じてるわ。」

「は、はい。」

背中を向け走り出した私に、ミランダ姫の声がした。
「叔母様!」

「…えっ?」

慌てて振り返ると、ミランダ姫が足を後ろへと一歩引き、両手でドレス持ち上げて頭を下げ
「叔母様と叔父様が、おふたりご一緒で無事ご帰還されますように」

「あ、あの…!」

「もう~!ロザリーここは頷くだけいいの!せっかく淑女らしい挨拶をやったのに~!もう~早く行って!」

「はい!必ず、ふたりで戻ってまいります。」

ミランダ姫はにっこりされると、グッと親指を立てて見せられた。




*****

ミランダは走って行くロザリーの背中から、後ろにいる侯爵へと振り返って…何度も瞬きをしたかと思ったら、茫然とした声で
「なぜ?…なぜ…侯爵が泣いているの?」

「…ミランダ姫が…ロザリーをお・お・叔母様と…呼んで下さって…私は…。」

「はぁ~もう。当たり前でしょう。叔父様のお嫁さんになるんだもん、叔母様と呼ぶのは…。まぁ、それも子供の間だけしか許されないんだけど…ね。何れ、ローラン国王陛下、妃殿下と呼ばないといけない時が来るのよね…寂しいわね。ほんと王家なんて面倒くさい。でも、他国の王になるんだもの、しょうがないことなのよ。だから今のうちにたくさん使っておこうと思ったの。」

鼻を啜り、まだ泣いている侯爵に、ミランダは少し下を向いて微笑むと、
「侯爵、ぐずぐずしてられないわよ。私達のせいで、叔父様達が動けなくなってはマズイわ。敵がここに乗り込んでくる前に、私を安全な場所に連れて行ってちょうだい。」

そして両手を侯爵に向かって広げ、ニヤリと笑うと…
「だから、じぃちゃん、抱っこ!」

侯爵は胸のポケットに入れたチーフを出すと、鼻を噛み
「ミミ。じぃちゃんが、必ず守るから、心配するな。」

侯爵の臭い芝居に、一瞬驚いた顔のミランダだったが
「ナダルに対しての、ロザリーの芝居もなかなかだったけど…侯爵の今の芝居が一番かも…」

と言って侯爵へ、早く抱っこしてとせがむように、両手をより大きく広げた。



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