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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

2日目 ⑩

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優しく私に触れる唇に、心は誰だか教えてくれたが、私の眼は確かめようと見開いたまま…答えを探していた。

鍛え上げられた体。
少し濡れた黒髪から覗く赤い瞳。

その瞳を細め…
「ロザリー…。」

と私の名前を呼んだ唇がゆっくりと離れて行く。


「…どうして?あの男が、王宮に駆け込んでも…2日前にルシアン殿下は視察に…」
茫然として、うまく言葉が出てこない。

ローラン国に入ってから戴冠式、結婚式と国事行為が相次ぐために、その準備にルシアン殿下も私も追われ、特に2カ月程前から視察ということで、国内を見て回られることになってからは、すれ違いの日々はますます多くなり、二日前にも、ルシアン殿下は城を出られたのに…

「2日前…に…」と口にして、ハッとした。
そんな私の顔に気が付かれたルシアン殿下は…バツが悪そうに私から視線を外し

「視察と行って、この町に来ていたんだ。」

「それでは…2カ月前から…ロイとしてこの町と、王宮を行ったり来たりしていたんですね。」
顔色が変わった私を見て、ルシアン殿下の手が緩んだ瞬間、反動をつけて反対に私がルシアン殿下を組み敷いた。

ふう~と息を吐き。
「2カ月も!おひとりで敵のど真ん中に入っていた!そういうことですか!」

「ロザリー…、話を聞け。」


わからないことが多い。
だが一番はルシアン殿下とロイが、どうして入れ替わることができたのかだ。

睨む私に、ルシアン殿下は何とも言えない顔で
「ローラン国に入ってすぐだった。反乱分子が王家の誰かを祭り上げ、俺の代わり王に据えようとしているという計画があることを、リドリー伯爵から報告があった。」


リドリー伯爵。

ルシアン殿下がローラン王になることに、伯爵は表立ってルシアン殿下への忠誠を誓ってはいなかったが、年齢もそう変わらないリドリー伯爵とルシアン殿下は、実は数年前から交流があった。そのきっかけは…あの先代ローラン王の側近だったことだったが、まさか隠密にリドリー伯爵が動いていらしたとは…。


「先々代の日記からナダル達を利用されるのではないかと案じていたのに…。リドリー伯爵が敵方の懐に入って、少しづつ牙城を切り崩していってくれていたのに…遅かったんだ。」

「どういうことですか?」

「ロザリー…。ロイだと紹介された俺を見てどう思った。」

「…体格が…ルシアン殿下に似ている…と」

「そう、俺とロイは体格が似ているんだ。だが…顔は違う。」

そう言われて、目を瞑られたルシアン殿下は
「俺を暗殺すれば、また国は揺れ、それを機に他国が侵攻するかもしれないと考えたのだろう。そこで、見つけたのがロイだ。だが、ロイを入れ替えるためには…顔をどうにかしなくてはならなかった。」

「まさか…それで…ロイの顔を?」

頷かれたルシアン殿下に、背筋が凍った。

「リドリー伯爵がすぐにロイを助けだしたが、顔の火傷は…残ってしまった。俺の考えが甘かった。そこまでやるとは思わなかったんだ。

リドリー伯爵に助けられたロイに会った時に…
俺はローラン国が、母の国が、平和で豊かな国になるのであれば…自分が統治しなくてもよいと思っていると言ったのだ。だが…ロイは笑って『ルシアン殿下にお会いして、俺には無理だとわかりました。あの伯爵様の期待に応えられることは無理だと…。』

後々、ロイが話してくれた、あの寡黙なリドリー伯爵が、顔を真っ赤にして大きな声で叫んだそうだ。

【火傷を理由に顔を隠して、ルシアン殿下と入れ替わったとしても、国を動かす術を学んでいないあなたが、ルシアン殿下に代わったら…あなたが憎む先々代と同じような愚王になるだけだ。一国民として言わせていただきます。あなたが私達国民に、応えられるような王になれるとは思えません。
気づいてください!なぜ、そんなあなたを王に推すのか!愚王にしかならないあなたを推すのか!ルシアン殿下にお会いなさい。そして、この国を任せられる方か、あなたのその目で、その耳で判断してください!】

…重い言葉だ。それは俺自身にも向けられた言葉でもあるんだと思う。
ローラン国の貴族達に推されて、ローラン王になる俺に、傀儡になるなと言っているのかもしれないとな。」


ルシアン殿下はそう言って、私を見られた。
赤い瞳に映った私の顔は、歪んでいる…ほんとに私はこの数カ月何をしていたんだ。
こんな大事な時に…


ルシアン殿下を押さえていた私の手が緩み、ルシアン王子の手は私の顔へと伸ばされ
「泣くな。俺は…おまえが俺の妃になることを喜び、ドレスを選ぶ姿を見て幸せだと思った。これから先は安易なことなど、一つも浮かばない道に引きずり込んだことがつらかったんだ。でも!おまえを手放すことなど考えられなかった。だからせめて…結婚式まではおまえの笑顔を曇らさせたくなかった。すまない…おまえに黙って危険なことをして…心配かけた。」


私は声を上げて泣いた。

愛されていることが嬉しくて、この方と生きて行ける人生が、どんなに辛くても…幸せだと思った。

「私は…どんな困難も、ルシアン殿下となら幸せです。」


私の頬に流れる涙を拭った手に、引き寄せられて、私は大きな胸の中に、ゆっくりと倒れて行った。





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