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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
2日目⑨
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頭からタオルを被り、月明りを背にベットに座るその姿には、殺気は感じられないが…黒髪から僅かに覗く赤い瞳を細め、私を見るその瞳がイラついているように感じる。
どうして私にイラついた目を向ける?
この男と会ったのは今朝の話だ。疎まれるようなことはないはず。
なのに…なぜそんな目を私に向ける?!
嫌な気分だった。
男の体格が、ルシアン殿下に似ているからかもしれない。
ましてや、赤い瞳だ。
ルシアン殿下から向けられた目のように感じてしまう。
ルシアン殿下であるはずはないのに…そんな目で見られるのは嫌な気分だ。
イラついた赤い瞳からの視線をさけ…私を愛しむように見ていた2日前のルシアン殿下の赤い瞳を思い出そうとした。
『ロザリー…。』と熱い目で私を呼び。
そして、どこか寂しげに
『おまえだけは…』と赤い瞳は揺れていた。
2日前、視察に出かけるルシアン殿下を見送りに行った時。
私と同様に見送りに来た大臣達から『陛下』と呼ばれたルシアン殿下が
『戴冠式もまだなんだぞ。陛下は…まだいいだろう。それより、婚約者との大事な時間を邪魔するな。早・く・去・れ。』
ルシアン殿下の言葉に、大臣達が慌てて去って行くのを笑いながら見ていたルシアン殿下だったが…ポツリと言われたんだった。
『陛下…か。もうルシアンと俺の名前を呼ぶ人がいなくなるんだな。』
『えっ?』
まさかそんなことを言われると思わなかった私は、あの時キョトンとしてルシアン殿下を見ていたと思う。
そんな私の額を指で押し
『なんだ?子供みたいなことを…と思っているのか?』
実際そう思った私は、気まずくてヘラリと笑ったら、ルシアン殿下は今度は私の額に指ではなく、自分の額を付け
『いくら父上でも、兄上でも、俺がローラン国の王になれば、その国に敬意を払うと意味で、俺をローラン国王と呼び、俺も父上をブラチフォード国王、兄上を王太子殿下と呼ばねばならない。変だろう?だがこれが王家なんだ。個より、国、いや…民なんだ。』
そう言って、私の額にキスをされ
『……ルシアンと言うの名は母がつけてくれたんだ。俺が生まれた日は、前日の雨が嘘のように晴れた朝で、その暖かい日差しを浴びた俺を見て願ったそうだ。この日差しのような、温かな人達に囲まれ幸せな人生を歩んで欲しいと。だから…ラテン語で光、日の出で生まれ…という意味のルシアンとつけたと言っておいでだった。母が俺を呼ぶ時は、名前の通り、日の出のあの柔らかい温かさ感じ、名を呼ばれる度に俺は嬉しかった。だが『ルシアン』と、最後に俺を呼んだ母の声は恐怖と、苦しみに包まれた声だった。
日差しのような、温かな人達に囲まれ幸せな人生を歩んで欲しいと願い、母がつけてくれた名前は、あれ以来…殺された母を思い出し、名前を呼ばれるのが辛い時期もあった、
だが、ロザリーにルシアン殿下と呼ばれる度に思い出したんだ。まぁ…敬称はついているがな。』
そう言って、クスリと笑われ
『敬称がついても愛する人に呼ばれる自分の名は…こんなにも胸を熱くし、幸せだということを思い出したんだ。』
そう言って微笑まれ
『だからおまえだけは俺の名を呼んでくれ。』
『あ…ぁ…はい!ルシアン殿下!』
大きな私の声に、ルシアン殿下は苦笑して
『二人の時は敬称なしだ。』
『い、いや~でも~』
うまく言葉が出てこない私を抱きしめると耳元で
『まさか…ベットの中でも、俺を殿下と呼ぶつもりか?』
そんな事を言われたら、ますます…ル、ルシアンなんて呼び捨てなどできず、真っ赤になった私に、ルシアン殿下は大きな声で笑うと
『帰ってきたら…呼べよ。』
その言葉を…大きな腕の中で私は頷いたんだ。
呼んでおけば良かった。
この男と戦うのなら、あの時…呼んでおけば良かった。
…この男が怖い。
勝てる自信がないからか…私は男の気配に押されている。
イラつく男の赤い瞳を避け、ルシアン殿下の赤く、そして熱い瞳を思い出し、勇気をもらおうと目を瞑った。
落ち着け…。
気配を隠し、私にこれほど近寄れる男は…幼いころからキチンと訓練を受けている者だ。
それが7歳まで、この町で普通に育てられた子供にできるとは思えない。
間違いない。
顔を隠し、声も出さないこの男は…ロイではない。
恐らく貴族。それもかなりの腕の騎士に、幼い頃から教えを受けることができた…高貴な貴族。
いや、ただの貴族ではない。黒髪、赤い瞳…ローラン王家の象徴を持つ者。
だが誰だ?
先々代の王子達の中で、赤い瞳の方は把握している。その王子達の子供もだ。
そう考えると…王宮内で育った人物ではないだろう。王宮内で育てられることがなかった赤い瞳の王子となると、当てはまる人物は…やはりロイしかいない。
また振り出しに戻ってしまう。
いったい…誰なんだ。
そっと男を見た。
男の肩が小刻みに動いている?
笑っているのか?
バカにしてる?!
ムカッとした…無茶苦茶ムカッとした!
短剣といえ、武器を手にした私が笑われるとは…腹立つ~!!!
私は立ち上がり、男に近づき
「私は…おまえにバカにされるほど弱くないぞ。」
男が被ったタオルに手をかけた瞬間、その手を取られベットに押し倒された。
しまった!
焦る心が軽率に男に近寄ってしまった。
タオルを被って、月の光を背にした男の顔は暗く見えない。
「おまえは…やっぱりロイではないな。古武術は…ブラチフォード国や、北の国の武術。いったい…誰だ。」
と言った私の顔に、男は被っていたタオルを私の顔にかけ…手足の関節を抑え込んだ。
体を返そうにも、関節を押さられては動けない。
初めて…怖いと思った。
このまま…殺されてしまうのか…?
いつだって覚悟はあった、でも…もう一度…。
少し熱くなった目頭を唇を噛んで堪え、大きく息を吐いた。
「…私を殺す前に正体を教えろ。」
男の体が微かに震え、私を押さえつけていた手を緩めると、私の耳元に唇を寄せ、掠れた声で…
「…このバカ…いい加減に気付け。」
えっ?
そう思った瞬間、唇は重なっていた。
どうして私にイラついた目を向ける?
この男と会ったのは今朝の話だ。疎まれるようなことはないはず。
なのに…なぜそんな目を私に向ける?!
嫌な気分だった。
男の体格が、ルシアン殿下に似ているからかもしれない。
ましてや、赤い瞳だ。
ルシアン殿下から向けられた目のように感じてしまう。
ルシアン殿下であるはずはないのに…そんな目で見られるのは嫌な気分だ。
イラついた赤い瞳からの視線をさけ…私を愛しむように見ていた2日前のルシアン殿下の赤い瞳を思い出そうとした。
『ロザリー…。』と熱い目で私を呼び。
そして、どこか寂しげに
『おまえだけは…』と赤い瞳は揺れていた。
2日前、視察に出かけるルシアン殿下を見送りに行った時。
私と同様に見送りに来た大臣達から『陛下』と呼ばれたルシアン殿下が
『戴冠式もまだなんだぞ。陛下は…まだいいだろう。それより、婚約者との大事な時間を邪魔するな。早・く・去・れ。』
ルシアン殿下の言葉に、大臣達が慌てて去って行くのを笑いながら見ていたルシアン殿下だったが…ポツリと言われたんだった。
『陛下…か。もうルシアンと俺の名前を呼ぶ人がいなくなるんだな。』
『えっ?』
まさかそんなことを言われると思わなかった私は、あの時キョトンとしてルシアン殿下を見ていたと思う。
そんな私の額を指で押し
『なんだ?子供みたいなことを…と思っているのか?』
実際そう思った私は、気まずくてヘラリと笑ったら、ルシアン殿下は今度は私の額に指ではなく、自分の額を付け
『いくら父上でも、兄上でも、俺がローラン国の王になれば、その国に敬意を払うと意味で、俺をローラン国王と呼び、俺も父上をブラチフォード国王、兄上を王太子殿下と呼ばねばならない。変だろう?だがこれが王家なんだ。個より、国、いや…民なんだ。』
そう言って、私の額にキスをされ
『……ルシアンと言うの名は母がつけてくれたんだ。俺が生まれた日は、前日の雨が嘘のように晴れた朝で、その暖かい日差しを浴びた俺を見て願ったそうだ。この日差しのような、温かな人達に囲まれ幸せな人生を歩んで欲しいと。だから…ラテン語で光、日の出で生まれ…という意味のルシアンとつけたと言っておいでだった。母が俺を呼ぶ時は、名前の通り、日の出のあの柔らかい温かさ感じ、名を呼ばれる度に俺は嬉しかった。だが『ルシアン』と、最後に俺を呼んだ母の声は恐怖と、苦しみに包まれた声だった。
日差しのような、温かな人達に囲まれ幸せな人生を歩んで欲しいと願い、母がつけてくれた名前は、あれ以来…殺された母を思い出し、名前を呼ばれるのが辛い時期もあった、
だが、ロザリーにルシアン殿下と呼ばれる度に思い出したんだ。まぁ…敬称はついているがな。』
そう言って、クスリと笑われ
『敬称がついても愛する人に呼ばれる自分の名は…こんなにも胸を熱くし、幸せだということを思い出したんだ。』
そう言って微笑まれ
『だからおまえだけは俺の名を呼んでくれ。』
『あ…ぁ…はい!ルシアン殿下!』
大きな私の声に、ルシアン殿下は苦笑して
『二人の時は敬称なしだ。』
『い、いや~でも~』
うまく言葉が出てこない私を抱きしめると耳元で
『まさか…ベットの中でも、俺を殿下と呼ぶつもりか?』
そんな事を言われたら、ますます…ル、ルシアンなんて呼び捨てなどできず、真っ赤になった私に、ルシアン殿下は大きな声で笑うと
『帰ってきたら…呼べよ。』
その言葉を…大きな腕の中で私は頷いたんだ。
呼んでおけば良かった。
この男と戦うのなら、あの時…呼んでおけば良かった。
…この男が怖い。
勝てる自信がないからか…私は男の気配に押されている。
イラつく男の赤い瞳を避け、ルシアン殿下の赤く、そして熱い瞳を思い出し、勇気をもらおうと目を瞑った。
落ち着け…。
気配を隠し、私にこれほど近寄れる男は…幼いころからキチンと訓練を受けている者だ。
それが7歳まで、この町で普通に育てられた子供にできるとは思えない。
間違いない。
顔を隠し、声も出さないこの男は…ロイではない。
恐らく貴族。それもかなりの腕の騎士に、幼い頃から教えを受けることができた…高貴な貴族。
いや、ただの貴族ではない。黒髪、赤い瞳…ローラン王家の象徴を持つ者。
だが誰だ?
先々代の王子達の中で、赤い瞳の方は把握している。その王子達の子供もだ。
そう考えると…王宮内で育った人物ではないだろう。王宮内で育てられることがなかった赤い瞳の王子となると、当てはまる人物は…やはりロイしかいない。
また振り出しに戻ってしまう。
いったい…誰なんだ。
そっと男を見た。
男の肩が小刻みに動いている?
笑っているのか?
バカにしてる?!
ムカッとした…無茶苦茶ムカッとした!
短剣といえ、武器を手にした私が笑われるとは…腹立つ~!!!
私は立ち上がり、男に近づき
「私は…おまえにバカにされるほど弱くないぞ。」
男が被ったタオルに手をかけた瞬間、その手を取られベットに押し倒された。
しまった!
焦る心が軽率に男に近寄ってしまった。
タオルを被って、月の光を背にした男の顔は暗く見えない。
「おまえは…やっぱりロイではないな。古武術は…ブラチフォード国や、北の国の武術。いったい…誰だ。」
と言った私の顔に、男は被っていたタオルを私の顔にかけ…手足の関節を抑え込んだ。
体を返そうにも、関節を押さられては動けない。
初めて…怖いと思った。
このまま…殺されてしまうのか…?
いつだって覚悟はあった、でも…もう一度…。
少し熱くなった目頭を唇を噛んで堪え、大きく息を吐いた。
「…私を殺す前に正体を教えろ。」
男の体が微かに震え、私を押さえつけていた手を緩めると、私の耳元に唇を寄せ、掠れた声で…
「…このバカ…いい加減に気付け。」
えっ?
そう思った瞬間、唇は重なっていた。
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