王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

1日目④

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前ローラン王、そしてアデリーヌ様の闇も怖かった。

だが、この男の闇はそれ以上かも知れない。
あの笑顔の下に隠れている闇は深く、どこに男の本音があるのかわからない。

飛込んで行くしかない。

ルシアン殿下を守るためには、相手の懐に飛び込むしか、それしかない。
…きっと叱られるだろうな。

『盾になることは許さん』

赤い瞳が私を見ているような気がした。


…ごめんなさい。



「……賞金の3倍」

「?」

「賞金の3倍なら、話に乗ります。」

「ほお、言ってくれるじゃん。金はそれほど欲しくなかったんじゃないのか?」


男がニヤリと笑って、右手を顎に当てたその瞬間、レイピアを抜いた。

男の右手首のボタンが、弾けるように宙に舞い、その舞うボタンにまたレイピアを振る。
ボタンは二つに割れ、地面に落ちていった。

私はにっこり笑って、そのボタンを拾い
「3倍となれば話は違う。強い奴とやるんです。自分の命の値段は自分で決めたい。」

ボタンを男に差し出し
「その価値はあるでしょう?」と笑った。

「だな…。ボンボン、いやルチアーノ。3倍で契約しよう。」


にっこり笑った男は、そう言って私に手を差し出してきた。
だがその手を握ろうとした私に…男は言った。

「じゃぁ、契約書代わりに一つ頼む。妹を襲おうとした男を、フレッドを殺ってくれ。」

「…えっ?」

地面に転がっていた男にも聞こえたのだろう、悲鳴を上げ…後ずさりしながら
「す、すまねぇ!もうこんなことはしない、しないから…頼む。ナダル!!」


…ナダル…
この男はナダルと言うのか…

私の視線を感じたのか

「可愛い妹に無体を働こうとする奴を俺が許すと思うか?」
フレッドにそう言うと、鋭い視線を私に向けた。殺さないと契約はしないと言いたいらしい。


この男は、私を信用していないんだな。
まぁ、あれぐらいで信じてもらえるとは思っていなかったが…まさか、ここで契約代わりに、人ひとり殺せと言われるとは思っても見なかった。


どうする?




「お、おにいちゃん!」

「フレッドは始末してやる。だから安心しろ。」

「…あ…ぁ…でも…でも殺すなんて…」

ジャスミンのその言葉に、フレッドという男は縋るようにジャスミンに近づき

「ジャスミン、すまない!助けてくれ!!もうしない!絶対だ!」

フレッドの手が、助けを求めるようにジャスミンに触れた瞬間だった。

フレッドの指が飛んだ。


「キャァ~!!!!、」


ジャスミンの悲鳴に、ナダルは困ったように
「おいおい、指を数本切っただけだ。そんな悲鳴をあげるな。」

転げまわるフレッドを蹴り飛ばし、ジャスミンから遠ざけると、宥めようとジャスミンを抱き寄せたが、彼女の叫び声はより一層大きくなった。



このままだと…

仕方ない。イチかバチかだ。

フウ~と息を吐き
「無抵抗な奴を殺るのは嫌なんですが…」

レイピアを握りなおし、意味ありげにナダルを見た。

(掛れ!食いついて来い!)

「この男をこのままにしておいて、なにか話されたらマズいでしょう。」

「フ~ン、殺ってくれるのか?」

「この男から、私のことも話されると、いろいろとマズイので…。」

「その落ち着きようは…やっぱり、おまえはただのボンボンじゃないな。
いくら腕があっても、それなりの修羅場を知らない奴は、いざというときには腰が引けるものだが…おまえは寧ろ、肝が据わった。その年で命を懸けて剣を抜いたことがあるようだな。面白い。なら見せてもらおうか。人を殺るときのおまえの顔を…。」

「…悪趣味ですね。私はいいですが、彼女は大丈夫ですか?部屋を出たほうがいいように思えますが?」

ナダルは腕の中で叫び続けるジャスミンに目をやり

「…確かに。」と言って、愛おしそうにその頭を撫で

「だが…。」

「ルシアンを殺るときには、特等席で見せてあげますよ。」



ナダルはクスリと笑うと、手を差し出した。


「俺はナダル。ようこそ、殺戮の世界へ。」


その手を私は強く握った。







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