王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

1日目①

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戴冠式と結婚式を一週間後に控えたローラン国。

国内からそして他国から、大勢の人が王都に集まり賑わいを見せている中。
私はそんな賑わいに背を向けて

……生まれて初めての刺繍をやってます。



事の起こりは、20日前。

キャロルさんの一言。

『ローラン国では、好きな方の持ち物に、その方の名前と自分の名前を刺繍すると、ふたりはどんな困難に当たっても、その愛と絆は切れることがないと言われているそうなんですよ。なんか乙女チックで笑えますよね~!ロザリー様?』

『…キャロルさん。私、刺繍…したいです。』

『えっ?ええっ~!!』

『お、教えてください~!』


【どんな困難に当たっても、ふたりの絆は切れることがない。】


その言葉にドキンとした。
結婚式になにかお渡ししたいと思っていたから、これだ!と思ったんだけど…甘かった。

ルシアン殿下が結婚式に使われる白い手袋を、密かに手に入れた時点で成功だと有頂天だった…あの頃が懐かしい。

まさかこんなに不器用だったとは…何度も針で刺した左手は傷だらけだ。



そんなことを考えていたからか…

「…ロザリー様。これ…ルシアンではなくてルチアーノになってますよ。」

「えっ?」

「Lucian(ルシアン)様のnの次に…oが入って…Luciano(ルチアーノ)に…)




絶句…。


「ぁ…あ…、とにかく一息いれましょう。まだ7日あります!7日もです!」
そう言いながら、慌ててキャロルさんは部屋を出て行った。


はぁ~とてもルシアン殿下に渡せない。


【どんな困難に当たっても、ふたりの絆は切れることがない。】

ルシアン殿下とそうありたいと願う気持ちが、この指には伝わっていないのかぁ。
どうして…こんなに不器用なんだろう。


「はぁ~参った。」

「はぁ~…ロザリー。おまえも退屈なのか…?」


私の大きなため息に、後ろから同じような大きなため息が聞こえ、慌てて振り返ると

「お、お父様?いつお見えになられたのですか?」

「さきほどだ…。各国の王家の方が、ローラン国にお見えになられる前に、ローラン国に行くと仰られるミランダ姫にお供してきたが…姫はお疲れのようで眠っていらっしゃるし、ルシアン殿下はお忙しいようだし…退屈で」

そう言って、私をチラリと見て
「まぁ、おまえが暇をしているなら…え~まぁその…私が手合わせをしてやってもいいが…その…暇をしているのならな。」


手合わせ…

ローラン国に来てからは、結婚式の衣装合わせやらで、バタバタしてて…剣の稽古が疎かになっている自覚はあったが、小耳に挟んだ

『ロザリー様って、お美しくて、お淑やかよね。ルシアン様とお似合い。』

侍女達のその言葉に燃えて…剣の稽古は真夜中に隠れてやっている。でもひとりで真夜中に剣の稽古は限界があり、どうしようかと考えていた。

刺繍も、剣も、中途半端。
これではいけない!

汗を掻いて、お父様に剣を見てもらって…気分転換だ。
刺繍をやり遂げるためにも、そうだ気分を一層して!




そう思いながら、俯いていた顔を上げると、お父様が嬉しそうに私を見ていた。

「や、やるか?!」

お父様の流行る声に苦笑しながら頷くと、お父様はレイピアを私へと投げ

「手加減無用で?」

「えぇ、もちろん。」






とは言ったものの…





私は手合わせどころが、人の気配を感じる度に、地面に伏していた。

「…ロザリー。これでは手合わせじゃなくて、匍匐前進(ほふくぜんしん)をやる為に、ここにいるようではないか。なぁ、鍛錬場でやろう。」

「お父様!ダメです。なにより城内の方々は、私を淑やかな女性だと思っていらっしゃるんです。こ、壊したくない。生まれて初めて言われた、このイメージは大事にしたいんです。」

「淑やか?おまえがか?」
とヘラリと口元を緩めたその顔に、私はムスッとしながら

「そ、そうです!笑わないでください。」


でも…

ルシアン殿下の一番近い場所にいる事が出来る私が、いつでも戦えるようにしておかないと…。

腕を鈍らせる訳には行かない。

淑やかな女性…
うぅ…憧れていたけど…
やはりルシアン殿下を守るのが大事!

両手を握りしめて、お父様を見た。


私の顔をじっと見つめ、息を吐かれたお父様は、ポケットからなにやらチラシを出しながら

「じゃあ、ここはどうだ?」


******

最強剣士トーナメント戦!ローラン国に於いてついに開催!!

来たれ!勇気ある者よ!
己の力を試してみよ!

賞金 $1,000,000

月日   1月10日 

時間   午後13時 

場所   ローラン国記念競技場

応募条件  剣に自信がある者。


*****


「騎士ではない者達の剣だ。荒い剣裁きでやりずらいだろうし、腕に覚えがある者が早々いるとは思えんが、城内で剣を振るのがマズイなら…どうだ。このような大会に出て見ないか?」


「で、出ます!」

と二つ返事で私は答えた。
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