王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

文字の大きさ
上 下
109 / 214

それが出来るのは私だけ…。

しおりを挟む
 「…ダサイ。」

私の情けない声に、キャロルさんが笑いを噛み殺しながら
「で、でも、この者よりお似合いだと思います!」

いやいや、この男と比べてでは…レベルが低すぎです。

「ロザリー様。この者の服は、ローラン国の兵士の服。ダサイと思われるのなら、チャンスです。後々ロザリー様自ら、デザインされて変えられたら良いんですよ。」

「えっ?」

キャロルさんは、にっこりすると
「兵士の服のデザインを変える為にも、必ずローラン国をルシアン殿下と一緒に、治めてくださいませ。吉報をお待ちしております。」

「…キャロルさん…。」

「もう行かれてください。この者はロザリー様が縛り上げてくださってますし、私は大丈夫です。」

なんだか胸がいっぱいで、上手く声が出なくて…俯いた。

キャロルさんがクスリと笑い
「きっと、待っていらっしゃいますよ。」

「えっ?」

キャロルさんは私を見つめながら
「ロザリー様は、剣でルシアン殿下の御身を守り、愛でその御心も守る騎士。もう最強の騎士ですもの。この危機に、ルシアン殿下がロザリー様をお側に置きたいはずです。」




剣で…そして胸の中で溢れるこの思いで、ルシアン王子を守る事が…もしできるのなら…もしそうなら…私は…私は…あの方の背中を、唯一守る事を許される騎士になりたい。一番信用して頂ける騎士になりたい。

見えてきた気がする。
私がルシアン王子のお側でやるべき事が…見えてきた。私にしか出来ない事が見えてきた。

「ぁ…!。」

「ロザリー様?」

「キャロルさん…どうやら殿下に遅れをとったようです。」


小さな音だったが、私の耳には聞こえた。

口元が緩む。

「えっ?」

キャロルさんの唖然とした顔に、私が微笑んだら大きな音がした。キャロルさんも気がついたのだろう。

唇だけ動かし
(お見えになられたんですね。)

頷く私に、あの方が私の名前を呼ばれた。



「ロザリー!!」



2m程の高さから叫ばれた、その声は狭い馬車の中で響き、そして私の心に響いてくる。

荒い息を吐きながら、私の名前を呼ぶルシアン王子に微笑んで、私もルシアン王子の名前を呼んだ。

「ルシアン殿下!」


私の様子を見て、柔らかい笑みを浮かべたルシアン王子だったが…突然…キョトンとした顔で私を見られ、ハッとしたように、頭にバックを被った下着姿の男へと視線を移し、一瞬だったが眉を顰められたが…クスリと笑うと


「…準備はできているようだな。」

「はい。殿下をお待ちしておりました。」


私の返答に、またクスリと笑われると、手を伸ばして

「ならば、存分に剣を振るってもらうぞ!」

「御意!」


ルシアン王子のその手に、自分の手を重ねた。
大きな手が、私の細い手を握ると、上へと引っ張り上げて下さる。

きっと、この手は違う女性の手を掴めば、もっと楽に歩める人生かもしれない。
そう思っていたから私は…動けなかった。
愛している人が苦しみ、悩む姿を見るのが辛かったから…でも…私の手を握る大きな手は、どんな困難も乗り越えられると言っているかのように、力強く私を上へと上げて下さる。

付いて行こう。ううん、この手を信じ付いて行きたい。

そしてもし、ルシアン殿下のこの大きな手に、受け止めるのが困難なほどの出来事があったら、私も一緒に手を差し出して、受け止めるんだ。一緒に戦って行くんだ。

それが出来るのは私だけ…。
この方を愛し、その心を抱きしめ、剣にも盾にもなることが出来るのは、私だけだから。

もう逃げない、もうあきらめない。

ルシアン殿下を愛しているから、もうこの手を離さない。




しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...