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王子様、走る!
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緊張で少し声が高めのその騎士は、双眼鏡で相手の距離を確認すると、馬を俺の横につけた。
「殿下…おおよそ8キロだと思います。そうなると追いつかれるのは15分前後かと…。」
馬のスピードは時速60~70キロだ。
単純に同じぐらいのスピードで走れば、追いつかれることはないだろうが…こちらは馬車が2台ある。その分相手より遅い。
確かに15分ぐらいで追いつかれるだろう。
だが…
「落ち着け。俺はこのまま後ろに下がり、馬車の横に付く。」
「この人数で…や、やれるでしょうか?」
俺は安心しろと頷き微笑むと、若い騎士は強張った笑みを浮かべた。
50~60ほどの蹄の音には、かなり前から気づいていたが、砂煙をあげ、蹄の音を高らかに響かせる者達にまさかと思っていたが、ローラン国の旗が見えて、思わず肩の力が抜けてゆく気がした。
何を考えているのだ。
ローラン国に行くことは、確かに危険を伴うと覚悟はしていたが、まさか堂々と国旗を掲げて襲ってくるとは…。ブラチフォード国第二王子の俺を、襲うということの意味の大きさをわからないのか…。
ただ俺に王になって欲しくないから殺す、という目先の考えなら愚かとしかいいようがない。
なぜわからない…。それはブラチフォード国に宣戦布告したと言うことだと…なぜわからない。
そんな愚か者が、上に立っているのか。
確かに20人程の俺達一行で、剣が握れる者は半分の約10人、それなりの腕の者だか、実戦の経験が乏しい若い騎士が多い。そして残りの10人は剣は苦手な文官と女性。
そこに漬け込んできたのだろうが。
あまりにも、浅はかな考えに笑ってしまった。
勢いだけで、俺達一行を襲うような輩だ。これでは、剣の腕も大した事はないだろう。
そんな輩なら、彼女と俺で…半数は、いや全てやれるかもしれん。
不謹慎だが、ロザリーと一緒に戦えるかと思うと笑みが零れた。
どうやら俺は…ロザリーのあの剣にも惚れているようだ。
零れた笑みが、風を切ってゆく音に固まった。
矢だ。
矢を放ってきた。
8キロほど離れているところから、移動している俺たちを狙えるとは思えない、おそらく…先行していた部隊がいたというわけか…骨のある奴もいたようだ。
なら、こちらも遠慮なしで剣が振るえる!
「殿下!御者が!矢で!!」
後ろから叫ぶような声が聞こえていた。
「…御者…?!」
その声と同時に走り出したが、視線の先に見える馬車は、矢を受けた御者を振り落として、横転しながら数メートル下の岩場に落ちていった。
「ロザリー!!」
馬車までの距離はそれほどではなかったが、矢が雨のように降り注ぎ、簡単には近づけない。
「くそっ!馬車に乗せるのではなかった。ロザリー!」
神経を研ぎ澄ませ、矢を避けながら、視線の先の馬車へと…ロザリーへと馬を走らせるが、思うように進めない。
イラつく心を抑えろ。
こんな気持ちだと…矢は避けられない。
大きく息を吐くつもりだった。
「…ぁ…!」
だが出たのは、叫び声に近い声。
「そこに!そこに近づくな!」
まだ距離があり、聞こえるはずはないのに、岩場に落ちた馬車に近づく男に俺は叫んでいた。
ロザリーがあの蹄の音に気が付かなかったことはないだろう。
きっと、なにか対処を考えていたはずだ…だが、もし、もしもだ、キャロルを庇って怪我でもして、動けない状態だったら…。
息を呑んだ瞬間…矢が頬を掠っていった。
「殿下!南から50騎、やって来ます!」
「殿下…おおよそ8キロだと思います。そうなると追いつかれるのは15分前後かと…。」
馬のスピードは時速60~70キロだ。
単純に同じぐらいのスピードで走れば、追いつかれることはないだろうが…こちらは馬車が2台ある。その分相手より遅い。
確かに15分ぐらいで追いつかれるだろう。
だが…
「落ち着け。俺はこのまま後ろに下がり、馬車の横に付く。」
「この人数で…や、やれるでしょうか?」
俺は安心しろと頷き微笑むと、若い騎士は強張った笑みを浮かべた。
50~60ほどの蹄の音には、かなり前から気づいていたが、砂煙をあげ、蹄の音を高らかに響かせる者達にまさかと思っていたが、ローラン国の旗が見えて、思わず肩の力が抜けてゆく気がした。
何を考えているのだ。
ローラン国に行くことは、確かに危険を伴うと覚悟はしていたが、まさか堂々と国旗を掲げて襲ってくるとは…。ブラチフォード国第二王子の俺を、襲うということの意味の大きさをわからないのか…。
ただ俺に王になって欲しくないから殺す、という目先の考えなら愚かとしかいいようがない。
なぜわからない…。それはブラチフォード国に宣戦布告したと言うことだと…なぜわからない。
そんな愚か者が、上に立っているのか。
確かに20人程の俺達一行で、剣が握れる者は半分の約10人、それなりの腕の者だか、実戦の経験が乏しい若い騎士が多い。そして残りの10人は剣は苦手な文官と女性。
そこに漬け込んできたのだろうが。
あまりにも、浅はかな考えに笑ってしまった。
勢いだけで、俺達一行を襲うような輩だ。これでは、剣の腕も大した事はないだろう。
そんな輩なら、彼女と俺で…半数は、いや全てやれるかもしれん。
不謹慎だが、ロザリーと一緒に戦えるかと思うと笑みが零れた。
どうやら俺は…ロザリーのあの剣にも惚れているようだ。
零れた笑みが、風を切ってゆく音に固まった。
矢だ。
矢を放ってきた。
8キロほど離れているところから、移動している俺たちを狙えるとは思えない、おそらく…先行していた部隊がいたというわけか…骨のある奴もいたようだ。
なら、こちらも遠慮なしで剣が振るえる!
「殿下!御者が!矢で!!」
後ろから叫ぶような声が聞こえていた。
「…御者…?!」
その声と同時に走り出したが、視線の先に見える馬車は、矢を受けた御者を振り落として、横転しながら数メートル下の岩場に落ちていった。
「ロザリー!!」
馬車までの距離はそれほどではなかったが、矢が雨のように降り注ぎ、簡単には近づけない。
「くそっ!馬車に乗せるのではなかった。ロザリー!」
神経を研ぎ澄ませ、矢を避けながら、視線の先の馬車へと…ロザリーへと馬を走らせるが、思うように進めない。
イラつく心を抑えろ。
こんな気持ちだと…矢は避けられない。
大きく息を吐くつもりだった。
「…ぁ…!」
だが出たのは、叫び声に近い声。
「そこに!そこに近づくな!」
まだ距離があり、聞こえるはずはないのに、岩場に落ちた馬車に近づく男に俺は叫んでいた。
ロザリーがあの蹄の音に気が付かなかったことはないだろう。
きっと、なにか対処を考えていたはずだ…だが、もし、もしもだ、キャロルを庇って怪我でもして、動けない状態だったら…。
息を呑んだ瞬間…矢が頬を掠っていった。
「殿下!南から50騎、やって来ます!」
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