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ミランダは動いた。
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「…その格好はなんだ。」
「殿下がローラン国王になられる覚悟で、ローラン国に行かれるとお聞きしましたので…。」
「…だから…騎士の格好をして、俺の警護に付くというのか?!」
「もともと私は90日間、殿下の騎士として、殿下をお守りしながら、ローラン国にお供をするお役目を戴いておりました。最初のお役目に戻っただけでございます。それに…シリルが殿下と共に、ローラン国に行ったことにして…ウィンスレット侯爵家を守って下さると聞き、ならば尚更、シリルの姿でローラン国にお供をしなければと準備をしておりました。」
ルシアンは舌打ちをし…
そしてミランダは眼を細め、扉近くで、大きな体を隠すように立っているウィンスレット侯爵を見た。
侯爵は気まずそうにミランダに向かって、力のない笑みを向け、その笑みの情けなさにミランダがはぁ~と溜め息交じりの息を吐いたときだった。
ルシアンが動いた。
「いったい…お前は何を聞いたのだ?」
「ですから、殿下がローラン王になる覚悟だと…聞いております。」
「あぁ、そのつもりだ。だから「だから!」」
ルシアンの声に、ロザリーの声が重なった。
ロザリーは強い眼差しをルシアンに向け
「殿下はローラン国の姫で在られたスミラ様のお子ですが…このブラチフォード国の王子。ローランの民が…貴族が殿下を簡単に迎え入れるとは思えません。ましてや姿を消された前ローラン王には、多くの兄弟がいらしたのです。皆を納得させる為には…ローラン国の人間になる為には…」
「…俺に…俺に!ローラン国の女を娶れと言うのか!それを…お前が言うのか…」
ルシアンは唇を噛み
「お前は俺を信じてはいなかったのか…」
ロザリーの青い瞳が大きく揺れ、ルシアンは赤い瞳を曇らせ、ゆっくりとその瞳を瞼の下に隠すと
「わかった。だが、騎士の格好では連れては行かない。ついてくるのなら、ロザリーの姿で来い。」
「…それでは…馬には…」
「お前は馬車だ。いいな。ドレス姿で馬車で俺について来い。」
そう言うと、ルシアンは部屋を出て行った。
ロザリーはルシアンの出て行った扉を見つめたまま、青い瞳から大粒の涙を零すと、両手で顔を覆って立ち上がり、ルシアンが出て行った扉とは反対の…寝室へと足を向けた。
何も言えず、その様子を見ていたミランダだったが、侯爵に視線を向け
「どうして、知っているの?私だって、先程聞いたばかりなのに…」
「…いや、あの…殿下から、あの直接…。」
「はぁ~確かにロザリーの父親である侯爵に、先に話をするのは当然だけど…口の軽い侯爵が先にロザリーに言ってしまうことを予測しなかったのかしら、ましてや無骨なこの侯爵が、色恋をうまく話せる人物ではないこともわかっていなかったとは…やはり私の心配していた通りだわ。」
うな垂れる侯爵を見つめ、そしてロザリーが出て行った扉にその視線を移し
「…騎士の格好では連れて行かない。ドレス姿で馬車…か。あっ!そうか…あの恋に疎い叔父様にしては、上出来!」
「…姫?ミランダ姫?」
侯爵のか細い声に、ミランダはにっこりと笑い
「侯爵、耳を貸して。」
ミランダはそう言うと、侯爵の耳を引っ張るように自分の口元に持って行き、なにやら話し始めた。初めは引っ張られた耳の痛さと、己の失敗に情けない顔だった侯爵の顔が、話が進むにつれ、だんだんと笑顔になって行き、弾むような声で
「ミランダ姫。ありがとうございます!これで…ロザリーも…」
「侯爵、まだお礼は早いわよ。」
「ですが…お礼の言葉のひとつぐらい言わせてくださいませ。」
「もちろん!お礼は貰うわよ。でもお礼の言葉ぐらいじゃダメ。」
「えっ?…」
戸惑う侯爵の顔に、ミランダは満面の笑みを浮かべると
「私がこの国を治めるときは、必ず私の側にいること。なんたって、隣の国を叔父様が治めるのよ、ロザリーも、侯爵も捕られたら、ブラチフォード国は痛手だもの。いいわね。侯爵。」
ウィンスレット侯爵は顔をくしゃくしゃにして
「…御意…。」と言うと、ポロポロと涙を零した。
ミランダは微笑みながら
「ロザリーのような美人の涙は綺麗だけど…、おじさんの涙は、情けないだけだからもう泣かない。」
「…御意…。」と、鼻を啜りながら泣く侯爵に、ミランダは笑ったが…その口元を引き締めると
「侯爵。叔父様とロザリーが結婚と言う形でローラン国に入らないと、また邪魔がはいるのは間違いないわ。叔父様もそれがわかっているから、女性の姿でロザリーをローラン国へ連れて行くつもりなんだと思うの。でも…それだけではダメ。ロザリーと叔父様の気持ちをひとつにしないと。周りに付け込まれる。あの恋愛音痴の二人だもんね。だから…叔父様とロザリーの恋を叶える秘密組織の出番なの。必ずやり遂げるわよ。」
ミランダは握り締めた手を高く上げると
「がんばろう!!」
と叫んだが、隣で唖然としている侯爵を見て、眉を顰めると
「侯爵も!」
「…ぁ…は、はい。」
ふたりは握り締めた手を高く上げ、シュプレヒコールをあげた。
「殿下がローラン国王になられる覚悟で、ローラン国に行かれるとお聞きしましたので…。」
「…だから…騎士の格好をして、俺の警護に付くというのか?!」
「もともと私は90日間、殿下の騎士として、殿下をお守りしながら、ローラン国にお供をするお役目を戴いておりました。最初のお役目に戻っただけでございます。それに…シリルが殿下と共に、ローラン国に行ったことにして…ウィンスレット侯爵家を守って下さると聞き、ならば尚更、シリルの姿でローラン国にお供をしなければと準備をしておりました。」
ルシアンは舌打ちをし…
そしてミランダは眼を細め、扉近くで、大きな体を隠すように立っているウィンスレット侯爵を見た。
侯爵は気まずそうにミランダに向かって、力のない笑みを向け、その笑みの情けなさにミランダがはぁ~と溜め息交じりの息を吐いたときだった。
ルシアンが動いた。
「いったい…お前は何を聞いたのだ?」
「ですから、殿下がローラン王になる覚悟だと…聞いております。」
「あぁ、そのつもりだ。だから「だから!」」
ルシアンの声に、ロザリーの声が重なった。
ロザリーは強い眼差しをルシアンに向け
「殿下はローラン国の姫で在られたスミラ様のお子ですが…このブラチフォード国の王子。ローランの民が…貴族が殿下を簡単に迎え入れるとは思えません。ましてや姿を消された前ローラン王には、多くの兄弟がいらしたのです。皆を納得させる為には…ローラン国の人間になる為には…」
「…俺に…俺に!ローラン国の女を娶れと言うのか!それを…お前が言うのか…」
ルシアンは唇を噛み
「お前は俺を信じてはいなかったのか…」
ロザリーの青い瞳が大きく揺れ、ルシアンは赤い瞳を曇らせ、ゆっくりとその瞳を瞼の下に隠すと
「わかった。だが、騎士の格好では連れては行かない。ついてくるのなら、ロザリーの姿で来い。」
「…それでは…馬には…」
「お前は馬車だ。いいな。ドレス姿で馬車で俺について来い。」
そう言うと、ルシアンは部屋を出て行った。
ロザリーはルシアンの出て行った扉を見つめたまま、青い瞳から大粒の涙を零すと、両手で顔を覆って立ち上がり、ルシアンが出て行った扉とは反対の…寝室へと足を向けた。
何も言えず、その様子を見ていたミランダだったが、侯爵に視線を向け
「どうして、知っているの?私だって、先程聞いたばかりなのに…」
「…いや、あの…殿下から、あの直接…。」
「はぁ~確かにロザリーの父親である侯爵に、先に話をするのは当然だけど…口の軽い侯爵が先にロザリーに言ってしまうことを予測しなかったのかしら、ましてや無骨なこの侯爵が、色恋をうまく話せる人物ではないこともわかっていなかったとは…やはり私の心配していた通りだわ。」
うな垂れる侯爵を見つめ、そしてロザリーが出て行った扉にその視線を移し
「…騎士の格好では連れて行かない。ドレス姿で馬車…か。あっ!そうか…あの恋に疎い叔父様にしては、上出来!」
「…姫?ミランダ姫?」
侯爵のか細い声に、ミランダはにっこりと笑い
「侯爵、耳を貸して。」
ミランダはそう言うと、侯爵の耳を引っ張るように自分の口元に持って行き、なにやら話し始めた。初めは引っ張られた耳の痛さと、己の失敗に情けない顔だった侯爵の顔が、話が進むにつれ、だんだんと笑顔になって行き、弾むような声で
「ミランダ姫。ありがとうございます!これで…ロザリーも…」
「侯爵、まだお礼は早いわよ。」
「ですが…お礼の言葉のひとつぐらい言わせてくださいませ。」
「もちろん!お礼は貰うわよ。でもお礼の言葉ぐらいじゃダメ。」
「えっ?…」
戸惑う侯爵の顔に、ミランダは満面の笑みを浮かべると
「私がこの国を治めるときは、必ず私の側にいること。なんたって、隣の国を叔父様が治めるのよ、ロザリーも、侯爵も捕られたら、ブラチフォード国は痛手だもの。いいわね。侯爵。」
ウィンスレット侯爵は顔をくしゃくしゃにして
「…御意…。」と言うと、ポロポロと涙を零した。
ミランダは微笑みながら
「ロザリーのような美人の涙は綺麗だけど…、おじさんの涙は、情けないだけだからもう泣かない。」
「…御意…。」と、鼻を啜りながら泣く侯爵に、ミランダは笑ったが…その口元を引き締めると
「侯爵。叔父様とロザリーが結婚と言う形でローラン国に入らないと、また邪魔がはいるのは間違いないわ。叔父様もそれがわかっているから、女性の姿でロザリーをローラン国へ連れて行くつもりなんだと思うの。でも…それだけではダメ。ロザリーと叔父様の気持ちをひとつにしないと。周りに付け込まれる。あの恋愛音痴の二人だもんね。だから…叔父様とロザリーの恋を叶える秘密組織の出番なの。必ずやり遂げるわよ。」
ミランダは握り締めた手を高く上げると
「がんばろう!!」
と叫んだが、隣で唖然としている侯爵を見て、眉を顰めると
「侯爵も!」
「…ぁ…は、はい。」
ふたりは握り締めた手を高く上げ、シュプレヒコールをあげた。
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