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王子様とアストン。
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「…いいのかよ…?」
ロザリーを乗せた担架が、運ばれて行くのを、黙って見つめていた俺にアストンはそう言った。
「いいのか?!と聞いてんだ!なんか言えよ。好きな女が…!!」
そう言って、唇を噛んだアストンに…
「良い訳はないだろう…。良い訳が!!!」
ロザリーの姿が見えなくなっても、俺は眼を外す事ができない。
側にいたい…大切な人が生死を彷徨っているんだ。
変われるものなら…変わってやりたい。
だが……ロザリーがそれを望んでいるとは思えない。
あの時のロザリーは俺の騎士だった。
主君を、そして国を守りたいから、自らが剣になり……盾となった騎士だった。
その思いに答えない訳には行かない。
逆方向に歩き出した俺に、アストンが叫んだ。
「見捨てるのか?!あの女を!見捨てるのか!」
「…お前には聞こえなかったのか?ロザリーの思いが…」
「…何言ってんだよ?!」
「俺には聞こえた。この国を守って欲しいと…」
「騎士としてのあいつ声しか聞こえないとは…都合が言いように聞こえる耳だな。でも、女としてのあいつの声はどうなんだよ。それには耳を塞ぐのか!」
俺は…笑みを浮かべ
「それもお前には聞こえなかったのか?いや…見えなかったのか?」
「何を言っているんだ…?」
「体を張って、俺を、そして国を守ろうとしたあの姿は…言っていた。」
「…?」
「好きだとな。命をかけても良いと思うほど、俺を好きだと……言っていた。だから、俺は行く。」
俺はアストンを見た。
「ロザリーが好きなのは、民を愛し、国を守る、そういう俺だと思う。だから、ここでとまっていたら、ロザリーに愛想をつかれる。」
アストンは…唖然とした顔で俺を見ていたが、大きな声で笑い出し
「ずげぇ、自信だよな。だが…反論できねぇや。あいつならそう言い出しかねない。じゃぁ…ローラン王のところに行くのかよ。」
「あぁ…今度はミランダだ。必ず止める。止めなければ…ロザリーに天国で会わせる顔がない。」
「死ぬつもりか?」
「バカ言え。死ぬつもりはない。惚れた女にキスひとつ出来ずに、死ぬのは…心残りだからな。」
突然、大きな溜め息をついたアストンは…ボソッと
「…俺は…」
「アストン?」
「俺は…抜ける。」
そう言って頭を垂れ、
「なんだかバカバカしくなった。王子様とここで剣を交え、万が一勝っても、得るものはないしな。」
心の中にあるものを一つ一つ確かめるように、アストンは言葉にしていた。
この男…変わった。
この男の気は、どんなときでも殺気だっていた。
だが…今は感じない。だから今、口にしている事はおそらく本音だろう。
「お前は…変わったな。」
「…ロザリーの力とかじゃないからな。」
そう言って、アストンはロザリーが城内に入っていた入り口を見つめる姿に、ミランダのように、この男の心の色が見えるような気がした。
やはりこの男が変わったのはロザリーだ。
それはロザリーの浄化の力かもしれない、あるいは…ロザリーのまっすぐな心根と、その生き方かもしれない。
ロザリーと一緒ならば、この男はもっと変わって行くかもしれない、だが…だからと言って、ロザリーを譲る気は毛頭ない。
だから…
「ロザリーと呼ぶな。あいつは俺のだ。」
アストンは苦笑すると
「でも王子様よ。生きて帰ってこないことには、あんたのものではない。その時はあいつは貰いますよ。」
「させるか…。」
アストンはニヤリと笑い、俺の足元に跪くと、
「ならば、ルシアン殿下のお帰りをお待ち申しております。せいぜい頑張ってくださいませ。」
「あぁ、待っていろ。今度はお前に、ロザリーとのキスを見せてやるから。」
アストンの少し歪んだ顔を見て、俺は苦笑すると、大きく息を吐き走りだした。
剣は役に立たない。
俺には、ロザリーのような浄化をする力などない。
だが…俺だからできる事があるはずだ。俺だから、ローラン王を止めることがあるはずだ。
母上、どうか俺に力を…
ローラン王の凶行を止める方法を…俺に教えてください。
母上を、妹と知らずに愛してしまった哀れな男を救う方法を…教えてください。
ロザリーを乗せた担架が、運ばれて行くのを、黙って見つめていた俺にアストンはそう言った。
「いいのか?!と聞いてんだ!なんか言えよ。好きな女が…!!」
そう言って、唇を噛んだアストンに…
「良い訳はないだろう…。良い訳が!!!」
ロザリーの姿が見えなくなっても、俺は眼を外す事ができない。
側にいたい…大切な人が生死を彷徨っているんだ。
変われるものなら…変わってやりたい。
だが……ロザリーがそれを望んでいるとは思えない。
あの時のロザリーは俺の騎士だった。
主君を、そして国を守りたいから、自らが剣になり……盾となった騎士だった。
その思いに答えない訳には行かない。
逆方向に歩き出した俺に、アストンが叫んだ。
「見捨てるのか?!あの女を!見捨てるのか!」
「…お前には聞こえなかったのか?ロザリーの思いが…」
「…何言ってんだよ?!」
「俺には聞こえた。この国を守って欲しいと…」
「騎士としてのあいつ声しか聞こえないとは…都合が言いように聞こえる耳だな。でも、女としてのあいつの声はどうなんだよ。それには耳を塞ぐのか!」
俺は…笑みを浮かべ
「それもお前には聞こえなかったのか?いや…見えなかったのか?」
「何を言っているんだ…?」
「体を張って、俺を、そして国を守ろうとしたあの姿は…言っていた。」
「…?」
「好きだとな。命をかけても良いと思うほど、俺を好きだと……言っていた。だから、俺は行く。」
俺はアストンを見た。
「ロザリーが好きなのは、民を愛し、国を守る、そういう俺だと思う。だから、ここでとまっていたら、ロザリーに愛想をつかれる。」
アストンは…唖然とした顔で俺を見ていたが、大きな声で笑い出し
「ずげぇ、自信だよな。だが…反論できねぇや。あいつならそう言い出しかねない。じゃぁ…ローラン王のところに行くのかよ。」
「あぁ…今度はミランダだ。必ず止める。止めなければ…ロザリーに天国で会わせる顔がない。」
「死ぬつもりか?」
「バカ言え。死ぬつもりはない。惚れた女にキスひとつ出来ずに、死ぬのは…心残りだからな。」
突然、大きな溜め息をついたアストンは…ボソッと
「…俺は…」
「アストン?」
「俺は…抜ける。」
そう言って頭を垂れ、
「なんだかバカバカしくなった。王子様とここで剣を交え、万が一勝っても、得るものはないしな。」
心の中にあるものを一つ一つ確かめるように、アストンは言葉にしていた。
この男…変わった。
この男の気は、どんなときでも殺気だっていた。
だが…今は感じない。だから今、口にしている事はおそらく本音だろう。
「お前は…変わったな。」
「…ロザリーの力とかじゃないからな。」
そう言って、アストンはロザリーが城内に入っていた入り口を見つめる姿に、ミランダのように、この男の心の色が見えるような気がした。
やはりこの男が変わったのはロザリーだ。
それはロザリーの浄化の力かもしれない、あるいは…ロザリーのまっすぐな心根と、その生き方かもしれない。
ロザリーと一緒ならば、この男はもっと変わって行くかもしれない、だが…だからと言って、ロザリーを譲る気は毛頭ない。
だから…
「ロザリーと呼ぶな。あいつは俺のだ。」
アストンは苦笑すると
「でも王子様よ。生きて帰ってこないことには、あんたのものではない。その時はあいつは貰いますよ。」
「させるか…。」
アストンはニヤリと笑い、俺の足元に跪くと、
「ならば、ルシアン殿下のお帰りをお待ち申しております。せいぜい頑張ってくださいませ。」
「あぁ、待っていろ。今度はお前に、ロザリーとのキスを見せてやるから。」
アストンの少し歪んだ顔を見て、俺は苦笑すると、大きく息を吐き走りだした。
剣は役に立たない。
俺には、ロザリーのような浄化をする力などない。
だが…俺だからできる事があるはずだ。俺だから、ローラン王を止めることがあるはずだ。
母上、どうか俺に力を…
ローラン王の凶行を止める方法を…俺に教えてください。
母上を、妹と知らずに愛してしまった哀れな男を救う方法を…教えてください。
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