85 / 214
恋とは…。
しおりを挟む
言った言葉に偽りはない。
だが、眼の前で困惑した青い瞳が、何か言いたげに揺れているのを見てしまうと、思わず苦笑してしまった。
…だろうな。いくら主君とはいえ、男の俺にそんな事を言われたら困惑もするな。
そういう俺自身も困惑しているのだから…。
だが、嫌だったんだ。本当に嫌だったんだ。
アストンに触れられるシリルを、俺は見たくなかったんだ。
それはどういう意味なのか、俺は心が感じたものがなんなのかわかるから、俺は…困惑している。
*****
それは…
その言葉は…
あの赤い瞳のどこかで、私がロザリーではないかと感じてとって下さっているから…あんな事を言われたんだと、そう思いたい。
『足掻いて見たい。惚れた女が俺を守る為に、命をかけてこの場に来てくれたのだから、俺もこの恋に足掻いてみたい。』
そう言って下さったあの場面を…
ドキドキと鳴る心音を…
そして…ルシアン王子の真っ赤な顔を…
また思い出す。
私は俯き、微笑んだ。
ルシアン王子の中には私がいる。ううん、ロザリーがいる。
良い…それだけで良い。
…でも
私はそっと、その方へと視線を移し唇を噛んだ。
でも、私の幸せは、この方の悲しみとなる。
私の眼の端で、その方は溢れ出てくる哀しみを抑えきれず…泣いている姿が見えた。
「…どうして…どうしてよ。」
泣きながら、呟くように言っていた言葉は叫び声になって
「どうして!!どうして私じゃないの?ロイ!!」
アデリーナ様が思わず言ったその名前に、ルシアン王子が
「…ロイというのか?…前世の俺は…」
「そうよ。ロイ!!思い出して!私たちの恋を…。あなたを愛していた私を思い出してよ。」
「俺は…」
そう言って、ルシアン王子はアデリーナ様を見つめると言われた。
「俺はブラチフォード国の第二王子、ルシアン・ウィルフレッド・メイフィールドだ。ロイではない。」
「でも…」
「俺にとっての人生は今だけだ。今がすべてなのだ。」
「じゃぁ…今…愛して。現世で…私を愛してよ。」
その声に、ルシアン王子は顔を歪め
「なぜ、そう前世に拘る?いや…なぜロイに拘る?現世で俺に愛されたいのなら、ロイと言う男になぜ拘る必要がるんだ。」
「いや…だって…」
「お前は…俺を愛しているのではない。そして…ロイも愛しているとは俺には思えない。」
「…愛しているもの…愛しているから…」
「愛しているから、それ以外はどうでもいい。愛しているから、この恋を邪魔するものはすべて消す。それは…愛なのだろうか?それは…子供が玩具が欲しいと駄々を捏ねているのと変わらない。」
「だってしょうがないじゃない、神が私とロイを引き離そうとするから!邪魔をするから!やるしかなかったのよ!」
「…アデリーナ…。」
「ロイ…思い出して?私達が幸せだったあの頃を…ね。」
その微笑は…ルシアン王子の部屋に飾ってあったスミラ様の絵姿と同じに見えた。ルシアン王子にもそう見えたのだろう。俯かれ眼を伏せられたが、唇を強く噛んでアデリーナ様へと視線をやり
「アデリーナ…今の俺を見ろ。俺は…俺はロイではない。お前が愛した男ではない。」
「姿は変わっても…魂は同じなんだから…だからあなたはロイよ。なにを言っているの?」
憎むべき人なのに、その姿は悲しかった。
この方にとって、恋とは…なんだったのだろう。
孤独な方なのかもしれない。
初めて知った恋が実らず、溢れた思いをどう始末していいのかわからないから、追いかけたのだろう。悪魔と取引をして、長い命を得ても…でも答えは見つからなかったのだ。
だから…
「ロイ…ロイ」
ルシアン王子の中にいて欲しいと願うその人の名を、甘えるような声で呼ぶアデリーナ様に…私は思った。
きっと、ルシアン王子の存在そのものが…アデリーナ様には恋というものの姿なのかもしれない…と。
恋とは…なんなのだろう。
ルシアン王子も、私も言葉を無くしていた中、大きな溜め息が聞こえてきた。
「もういい加減にしろよ!気分が悪いぜ。」
うざったそうにそう言ったアストンはアデリーナ様に
「なにが、私達は恋人だ。修道女さんよ。知っているぜ俺は…。あんたは、記憶を失ったロイに惚れたが、なかなか自分に靡いてくれない。だから、嘘の記憶を植えつけたらしいな。」
「アストン!!」
アストンはクスクスと笑うと
「恋人だった私を思い出して、神よりあなたを選んだ私は…もうどこにも行ける場所がないの。なんて言ったらしいじゃん。神に仕えていたくせに、とんだ女だな。修道女を辞めたから、ここを放り出されると言われりゃ、お優しいロイ君はあんたを好きになろうとするだろうな。」
「私は…だって…私は…」
「気づいていたんだろう。ロイには心の中に別の女がいることを…思い出そうとしていたことを…それをあんたは、思い出させないようにしたんだろう。」
「それのどこがいけないのよ?!好きな男は…思い出せない女をずっと心の中で捜し、心も体も抱きしめられる女が側にいるのに…振り向かない。それなら、どんな事をしてでも、振り向かせるしかなかった。何がいけないと言うのよ。好きな人に自分を選んで欲しいと思うのは、誰もが考える事だわ。ローラン王だって…アストン、あんただってそうでしょう!」
大きく伸びをしながら、アストンはつまらなそうに
「ローラン王は…ちょっと違うと思うな。前世の恋が現世で結ばれなかったら、どうなるのか…とあんたを面白がって見ている。そして俺は、陰でこそこそ策を練るあんたのようなマネはしねぇ。堂々と恋敵の前で…」
アストンはルシアン王子に眼をやり
「愛していると言ってやるさ。」
そう言って、私を見た。
だが、眼の前で困惑した青い瞳が、何か言いたげに揺れているのを見てしまうと、思わず苦笑してしまった。
…だろうな。いくら主君とはいえ、男の俺にそんな事を言われたら困惑もするな。
そういう俺自身も困惑しているのだから…。
だが、嫌だったんだ。本当に嫌だったんだ。
アストンに触れられるシリルを、俺は見たくなかったんだ。
それはどういう意味なのか、俺は心が感じたものがなんなのかわかるから、俺は…困惑している。
*****
それは…
その言葉は…
あの赤い瞳のどこかで、私がロザリーではないかと感じてとって下さっているから…あんな事を言われたんだと、そう思いたい。
『足掻いて見たい。惚れた女が俺を守る為に、命をかけてこの場に来てくれたのだから、俺もこの恋に足掻いてみたい。』
そう言って下さったあの場面を…
ドキドキと鳴る心音を…
そして…ルシアン王子の真っ赤な顔を…
また思い出す。
私は俯き、微笑んだ。
ルシアン王子の中には私がいる。ううん、ロザリーがいる。
良い…それだけで良い。
…でも
私はそっと、その方へと視線を移し唇を噛んだ。
でも、私の幸せは、この方の悲しみとなる。
私の眼の端で、その方は溢れ出てくる哀しみを抑えきれず…泣いている姿が見えた。
「…どうして…どうしてよ。」
泣きながら、呟くように言っていた言葉は叫び声になって
「どうして!!どうして私じゃないの?ロイ!!」
アデリーナ様が思わず言ったその名前に、ルシアン王子が
「…ロイというのか?…前世の俺は…」
「そうよ。ロイ!!思い出して!私たちの恋を…。あなたを愛していた私を思い出してよ。」
「俺は…」
そう言って、ルシアン王子はアデリーナ様を見つめると言われた。
「俺はブラチフォード国の第二王子、ルシアン・ウィルフレッド・メイフィールドだ。ロイではない。」
「でも…」
「俺にとっての人生は今だけだ。今がすべてなのだ。」
「じゃぁ…今…愛して。現世で…私を愛してよ。」
その声に、ルシアン王子は顔を歪め
「なぜ、そう前世に拘る?いや…なぜロイに拘る?現世で俺に愛されたいのなら、ロイと言う男になぜ拘る必要がるんだ。」
「いや…だって…」
「お前は…俺を愛しているのではない。そして…ロイも愛しているとは俺には思えない。」
「…愛しているもの…愛しているから…」
「愛しているから、それ以外はどうでもいい。愛しているから、この恋を邪魔するものはすべて消す。それは…愛なのだろうか?それは…子供が玩具が欲しいと駄々を捏ねているのと変わらない。」
「だってしょうがないじゃない、神が私とロイを引き離そうとするから!邪魔をするから!やるしかなかったのよ!」
「…アデリーナ…。」
「ロイ…思い出して?私達が幸せだったあの頃を…ね。」
その微笑は…ルシアン王子の部屋に飾ってあったスミラ様の絵姿と同じに見えた。ルシアン王子にもそう見えたのだろう。俯かれ眼を伏せられたが、唇を強く噛んでアデリーナ様へと視線をやり
「アデリーナ…今の俺を見ろ。俺は…俺はロイではない。お前が愛した男ではない。」
「姿は変わっても…魂は同じなんだから…だからあなたはロイよ。なにを言っているの?」
憎むべき人なのに、その姿は悲しかった。
この方にとって、恋とは…なんだったのだろう。
孤独な方なのかもしれない。
初めて知った恋が実らず、溢れた思いをどう始末していいのかわからないから、追いかけたのだろう。悪魔と取引をして、長い命を得ても…でも答えは見つからなかったのだ。
だから…
「ロイ…ロイ」
ルシアン王子の中にいて欲しいと願うその人の名を、甘えるような声で呼ぶアデリーナ様に…私は思った。
きっと、ルシアン王子の存在そのものが…アデリーナ様には恋というものの姿なのかもしれない…と。
恋とは…なんなのだろう。
ルシアン王子も、私も言葉を無くしていた中、大きな溜め息が聞こえてきた。
「もういい加減にしろよ!気分が悪いぜ。」
うざったそうにそう言ったアストンはアデリーナ様に
「なにが、私達は恋人だ。修道女さんよ。知っているぜ俺は…。あんたは、記憶を失ったロイに惚れたが、なかなか自分に靡いてくれない。だから、嘘の記憶を植えつけたらしいな。」
「アストン!!」
アストンはクスクスと笑うと
「恋人だった私を思い出して、神よりあなたを選んだ私は…もうどこにも行ける場所がないの。なんて言ったらしいじゃん。神に仕えていたくせに、とんだ女だな。修道女を辞めたから、ここを放り出されると言われりゃ、お優しいロイ君はあんたを好きになろうとするだろうな。」
「私は…だって…私は…」
「気づいていたんだろう。ロイには心の中に別の女がいることを…思い出そうとしていたことを…それをあんたは、思い出させないようにしたんだろう。」
「それのどこがいけないのよ?!好きな男は…思い出せない女をずっと心の中で捜し、心も体も抱きしめられる女が側にいるのに…振り向かない。それなら、どんな事をしてでも、振り向かせるしかなかった。何がいけないと言うのよ。好きな人に自分を選んで欲しいと思うのは、誰もが考える事だわ。ローラン王だって…アストン、あんただってそうでしょう!」
大きく伸びをしながら、アストンはつまらなそうに
「ローラン王は…ちょっと違うと思うな。前世の恋が現世で結ばれなかったら、どうなるのか…とあんたを面白がって見ている。そして俺は、陰でこそこそ策を練るあんたのようなマネはしねぇ。堂々と恋敵の前で…」
アストンはルシアン王子に眼をやり
「愛していると言ってやるさ。」
そう言って、私を見た。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる