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恋は生涯一度だけ
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「女?…」
私が頷くと、アデリーナ様は、私が握っている手を見つめ
「双子にして、私の眼からあなたを隠そうとしたのは…ウィンスレット侯爵?」
「たまたまです。当時の父はあなたのことは知りませんでしたから。」
「たまたま?フッ…たまたま…ね。」
笑いながら、アデリーナ様は星空を見上げ、
「侯爵のその思いつきが、この私の800年に及ぶ恋を邪魔するとは…。参ったわ。もうあの時のように失敗をしたくなくて、あなたがこの世に生まれ変わったら、まだ幼いうちに消そうと考えていたのに、見事にやられたわ。侯爵のたまたまという…思いつきに…。でもね。」
そう言って、私の顔を覗き込み
「でも…今度は失敗しない。」
その瞬間、私の体は吹き飛ばされた。
「あの時とは違って、今は力があるの。悔しい?だったら、ねぇ…あなたも願ってみたら、あの時の私のように、死と言う暗闇に引き込まれる寸前に、悪魔と契約をした私のように、あなたも悪魔と契約をしたら?そうすれば…殺される恐怖はないわよ。」
そう言いながら近づくアデリーナ様に、私は震えるほど恐かったが、ゆっくりと立ち上がり剣を抜いた。
「私は、あなたに殺されるつもりはありません。でも、もし…死が訪れる時は、私は最後まで人でありたいと思ってます。」
「あなたは知らないから、死ぬときの無念さや…恐ろしさを…知らないからそう言えるのよ!」
「そうかも知れません。でもあなたを見たら、哀れすぎて…そんな生き方は私はしたくありません!」
「哀れ?」そう言って笑われると
「悪魔と契約すれば、愛する人と何度でもめぐりあい…愛を語り合えるよ、それのどこが哀れだと言うの!」
「…何度でも?」
そう口にして、私は笑った。
「そうよ。何度でもよ!愛する人がまた生まれ変わり、その度に恋をするの!」
「生まれ変わったその人は…自分が愛していた人と同じ人なのですか?」
「だって!魂は同じなのよ!同じに決まっているわ。」
「恋は生涯一度だけ…だから私にとって愛する人はひとりだと思ってます。前世の私が、今の私と同じ考えだったなら、きっと……」
そう言って、アデリーナ様を見た。
そう…きっと、こう思ったのだ。
「あなたのように、悪魔と契約をしなかったのは…その人を愛したことや、その人との思い出を全て、この体と共に受け入れて天に召されることが、その人を愛したことへの証であり、それが幸せだと思ったからだと思います。」
アデリーナ様の顔から、私を嘲う表情が消え、その顔が泣いているようにも見えた。
私は…ふと思った。
この方はどうしていたのだろう。
愛した人が生まれ変わるその時間を、どうしていらしたのだろうかと…。
その人を待つ寂しさは、その人を失うことと同じくらい寂しくて、堪らなかったのではないだろうか…哀れだ。
「どうしていらしたのですか?愛する方が生まれ変わって来るまで、どうしていらしたのですか?」
思わずそう聞いてしまった。アデリーナ様は驚いた顔で私を見られたが、顔を歪ませ
「何が言いたいの?」
そう言われたが、突然クスクスと笑い出し
「神を裏切った私が、日曜のミサに行く度に、神にロイを早くこの世に生まれ変わらせてと、祈りそして縋っていたら、面白かっただろうけど、この800年間、私は神に縋る代わりに人間の男に縋ったわ。体も心も縋って、この寂しさを紛らわせていた。あぁ…そうだったわ。でも一度だけ教会に行き、呪いの言葉を吐いたことがあったわね。」
アデリーナ様は神を信じ、そして敬う気持ちがあったから、修道女という道を一度は選んだはずだ。そんな方が本当に教会で、呪いの言葉を吐かれたのだろうか。
私は、大声で笑う姿に、眼を伏せた。
なら…アデリーナ様のその姿を神はどう思われただろうか。
私は思う。私は…
「黒髪、そして…赤い瞳、ルシアン殿下と同じ色、ましてやその顔立ちはルシアン王子のご生母様と同じ。」
私の言葉の意味を探ろうとアデリーナ様の眉が上がった。
「私は…神は、アデリーナ様も愛すべき僕だと思っていらっしゃるから、その心根を哀れだと思われたから…」
私は、アデリーナ様の姿を見つめた。
「アデリーナ様の黒髪と赤い瞳のその色を…ルシアン王子が纏って生まれたのでは…。アデリーナ様の恋心を形にしてくださったのではないでしょうか?」
「なに…それって…。」
そう言われ、俯かれ
「ロイは…前世のあなたを愛していたから、記憶を失っても、どこかにあなたがいたのね、他の女性を受け入れなかった。私がどんなに愛しているかと言ってもね。でも、私との時間を重ねて行けば、思い出さない女より、側で愛していると叫ぶ私を選んでくれると…きっと選んでくれると思っていた。でも前世のあなたに会った途端、記憶を取り戻したロイは、簡単に私を忘れたわ。簡単によ!叶わない恋を神が哀れに思って、せめて生まれ変わったロイのその体に私の色を…。私を忘れないようにと…纏わせたというの!
今でも神は、私を僕だと思っているということ?バカバカしい。そんなこと有り得ないわ!
前世をルシアン王子は思い出さない。あなただってすべては思い出していない、そんな2人にどう言ってもわからないわよね。前世の恋の話など…。
でも今も続いているの。私にとっては800年も続いている恋なの!」
アデリーナ様はそう言って、微笑まれると
「今度は必ずロイを…あぁ…今はルシアンだったわね。手に入れるためにも…。あなたを殺すわ。」
その言葉が終わらないうちに、私はまた吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
私が頷くと、アデリーナ様は、私が握っている手を見つめ
「双子にして、私の眼からあなたを隠そうとしたのは…ウィンスレット侯爵?」
「たまたまです。当時の父はあなたのことは知りませんでしたから。」
「たまたま?フッ…たまたま…ね。」
笑いながら、アデリーナ様は星空を見上げ、
「侯爵のその思いつきが、この私の800年に及ぶ恋を邪魔するとは…。参ったわ。もうあの時のように失敗をしたくなくて、あなたがこの世に生まれ変わったら、まだ幼いうちに消そうと考えていたのに、見事にやられたわ。侯爵のたまたまという…思いつきに…。でもね。」
そう言って、私の顔を覗き込み
「でも…今度は失敗しない。」
その瞬間、私の体は吹き飛ばされた。
「あの時とは違って、今は力があるの。悔しい?だったら、ねぇ…あなたも願ってみたら、あの時の私のように、死と言う暗闇に引き込まれる寸前に、悪魔と契約をした私のように、あなたも悪魔と契約をしたら?そうすれば…殺される恐怖はないわよ。」
そう言いながら近づくアデリーナ様に、私は震えるほど恐かったが、ゆっくりと立ち上がり剣を抜いた。
「私は、あなたに殺されるつもりはありません。でも、もし…死が訪れる時は、私は最後まで人でありたいと思ってます。」
「あなたは知らないから、死ぬときの無念さや…恐ろしさを…知らないからそう言えるのよ!」
「そうかも知れません。でもあなたを見たら、哀れすぎて…そんな生き方は私はしたくありません!」
「哀れ?」そう言って笑われると
「悪魔と契約すれば、愛する人と何度でもめぐりあい…愛を語り合えるよ、それのどこが哀れだと言うの!」
「…何度でも?」
そう口にして、私は笑った。
「そうよ。何度でもよ!愛する人がまた生まれ変わり、その度に恋をするの!」
「生まれ変わったその人は…自分が愛していた人と同じ人なのですか?」
「だって!魂は同じなのよ!同じに決まっているわ。」
「恋は生涯一度だけ…だから私にとって愛する人はひとりだと思ってます。前世の私が、今の私と同じ考えだったなら、きっと……」
そう言って、アデリーナ様を見た。
そう…きっと、こう思ったのだ。
「あなたのように、悪魔と契約をしなかったのは…その人を愛したことや、その人との思い出を全て、この体と共に受け入れて天に召されることが、その人を愛したことへの証であり、それが幸せだと思ったからだと思います。」
アデリーナ様の顔から、私を嘲う表情が消え、その顔が泣いているようにも見えた。
私は…ふと思った。
この方はどうしていたのだろう。
愛した人が生まれ変わるその時間を、どうしていらしたのだろうかと…。
その人を待つ寂しさは、その人を失うことと同じくらい寂しくて、堪らなかったのではないだろうか…哀れだ。
「どうしていらしたのですか?愛する方が生まれ変わって来るまで、どうしていらしたのですか?」
思わずそう聞いてしまった。アデリーナ様は驚いた顔で私を見られたが、顔を歪ませ
「何が言いたいの?」
そう言われたが、突然クスクスと笑い出し
「神を裏切った私が、日曜のミサに行く度に、神にロイを早くこの世に生まれ変わらせてと、祈りそして縋っていたら、面白かっただろうけど、この800年間、私は神に縋る代わりに人間の男に縋ったわ。体も心も縋って、この寂しさを紛らわせていた。あぁ…そうだったわ。でも一度だけ教会に行き、呪いの言葉を吐いたことがあったわね。」
アデリーナ様は神を信じ、そして敬う気持ちがあったから、修道女という道を一度は選んだはずだ。そんな方が本当に教会で、呪いの言葉を吐かれたのだろうか。
私は、大声で笑う姿に、眼を伏せた。
なら…アデリーナ様のその姿を神はどう思われただろうか。
私は思う。私は…
「黒髪、そして…赤い瞳、ルシアン殿下と同じ色、ましてやその顔立ちはルシアン王子のご生母様と同じ。」
私の言葉の意味を探ろうとアデリーナ様の眉が上がった。
「私は…神は、アデリーナ様も愛すべき僕だと思っていらっしゃるから、その心根を哀れだと思われたから…」
私は、アデリーナ様の姿を見つめた。
「アデリーナ様の黒髪と赤い瞳のその色を…ルシアン王子が纏って生まれたのでは…。アデリーナ様の恋心を形にしてくださったのではないでしょうか?」
「なに…それって…。」
そう言われ、俯かれ
「ロイは…前世のあなたを愛していたから、記憶を失っても、どこかにあなたがいたのね、他の女性を受け入れなかった。私がどんなに愛しているかと言ってもね。でも、私との時間を重ねて行けば、思い出さない女より、側で愛していると叫ぶ私を選んでくれると…きっと選んでくれると思っていた。でも前世のあなたに会った途端、記憶を取り戻したロイは、簡単に私を忘れたわ。簡単によ!叶わない恋を神が哀れに思って、せめて生まれ変わったロイのその体に私の色を…。私を忘れないようにと…纏わせたというの!
今でも神は、私を僕だと思っているということ?バカバカしい。そんなこと有り得ないわ!
前世をルシアン王子は思い出さない。あなただってすべては思い出していない、そんな2人にどう言ってもわからないわよね。前世の恋の話など…。
でも今も続いているの。私にとっては800年も続いている恋なの!」
アデリーナ様はそう言って、微笑まれると
「今度は必ずロイを…あぁ…今はルシアンだったわね。手に入れるためにも…。あなたを殺すわ。」
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