55 / 214
王子様の背中。
しおりを挟む
目の前を小石が、横切ったその瞬間……俺は笑っていた。
(当身は…もう少し強くても良かったようだ。)
小石はエイブの顔面に見事にあたって、弾丸は乾いた音だけをこの場に残し、俺の右の肩先を抜けて行った。
エイブは顔面に流れる血を拭いながら、なにやら叫んでいたが…俺の顔を見て青褪め、小さな悲鳴を上げ、慌ててもう一度引き金に指をかけようとしたが
「やらせるか!!」
俺は剣を振りかざし、銃を弾き飛ばすと、エイブの首筋に一撃を加え気を失わせ、小石が飛んで来た方向へと視線だけ動かした。
…視線の先には…
金色の髪を風に靡かせ、大きく肩で息をする騎士が、不安そうに揺れる青い瞳で俺を見ていた。
……やはり彼女だった。
太古の昔から、助けに来るのは王子で、助けられるのは姫だろう。
そう思うと、まだ危機から脱していないのに、また笑ってしまいそうだ。
だが、まだだ。ロザリーと無事を喜ぶのはまだだ。
ミランダを…
そう、俺は瞳で言うと、わかったのだろう。
ロザリーは口元に笑みを浮かべ、俺の横を走り抜けると、ミランダを捕まえている男の頭を、腰を捻って蹴り上げた。
カッコ良すぎだろう…ロザリー。
ミランダの泣き声が聞こえる。
そして…(もう大丈夫です。)と柔らかい声が聞こえる。
あぁ…そうだった。俺が…ロザリーに惹かれたのは…
妖精のように見えたあの可憐さ、ミランダを見るときの慈愛に満ちたあの微笑だけじゃない。
俺がロザリーに惹かれたのは…
ドレスの袖を引きちぎって、止血をするあの冷静さと潔さだったじゃないか…。
そう、あの男前のところだ。
そして…
俺がシリルを信じたのは…
剣捌きに一点の曇りもなく、ただひたすらに忠義をつくす生真面目さと、主君である俺の言葉に納得できなければ、頭を立てに振らない頑固者のところも…
…参った。
俺はロザリー達に、向かってくる輩に剣を向けて、これ以上近づかせないようにして、後ろのロザリーへと叫んだ。
「ミランダを俺のところへ!」
「はい。」
俺は頷くと、まだ涙が止まらないミランダを彼女から受け取り…息を飲んだ。目の端にロザリーの腰に帯びた剣が見えたから…。
それは彼女が得意とするレイピアではなく、サーベルだった。
レイピアでは…一撃では殺れない。
ミランダがいる以上、長引かせる戦いは危ないと冷静な判断をし、大勢に囲まれると覚悟と、その輩を切る覚悟でここに来たことが、サーベルを帯刀してきたことでわかった。
…本当に参った。
ロザリーの時でも、シリルの時でも…俺の心を揺らすのは彼女だけだな。
大きく息を吸い、彼女を見た。
それは惚れた女に言う言葉ではなかった。
「…お前の命は俺が預かる。」
「御意。」
男は女を守る者だと頑なに思っていた、だからどんなに剣の腕が良くても、ロザリーを戦いの場には、連れて行きたくはなかった。
覚悟を決めろとロザリーに言ったが、覚悟を決めるのは俺のほうだ。
俺と対等に剣を交える事ができる者は、女どころか、男だって早々にいない。今…この国の為にはどうしても欲しい人物だと、わかっていたが…俺は躊躇っていた。
いつか後悔する時が来るかもしれない。
どんなに腕があっても…傷を負うことはある。それは…死と隣りあわせだと言うことだ。
彼女を失いたくない。
だが、彼女だけを守る事はできない。
そして…彼女だけを愛することができない。
そんなジレンマに、きっと一生苦しむかもしれない。
…だから…
だから、せめて…
「シリル!」
「…は、はい。」
俺はお前に命を預ける。
誰も信用できずに預け切れなかった俺の背中を…お前にだけに…愛しているお前だけに…
「俺の背中をお前に預ける。」
彼女の青い瞳が大きく見開くと、袖で目元を拭い
「…は、はい!お任せください!」
「さぁ、シリル行くぞ!」
不死身の体を持つ輩に、俺の背中を守る騎士と…向かっていった。
(当身は…もう少し強くても良かったようだ。)
小石はエイブの顔面に見事にあたって、弾丸は乾いた音だけをこの場に残し、俺の右の肩先を抜けて行った。
エイブは顔面に流れる血を拭いながら、なにやら叫んでいたが…俺の顔を見て青褪め、小さな悲鳴を上げ、慌ててもう一度引き金に指をかけようとしたが
「やらせるか!!」
俺は剣を振りかざし、銃を弾き飛ばすと、エイブの首筋に一撃を加え気を失わせ、小石が飛んで来た方向へと視線だけ動かした。
…視線の先には…
金色の髪を風に靡かせ、大きく肩で息をする騎士が、不安そうに揺れる青い瞳で俺を見ていた。
……やはり彼女だった。
太古の昔から、助けに来るのは王子で、助けられるのは姫だろう。
そう思うと、まだ危機から脱していないのに、また笑ってしまいそうだ。
だが、まだだ。ロザリーと無事を喜ぶのはまだだ。
ミランダを…
そう、俺は瞳で言うと、わかったのだろう。
ロザリーは口元に笑みを浮かべ、俺の横を走り抜けると、ミランダを捕まえている男の頭を、腰を捻って蹴り上げた。
カッコ良すぎだろう…ロザリー。
ミランダの泣き声が聞こえる。
そして…(もう大丈夫です。)と柔らかい声が聞こえる。
あぁ…そうだった。俺が…ロザリーに惹かれたのは…
妖精のように見えたあの可憐さ、ミランダを見るときの慈愛に満ちたあの微笑だけじゃない。
俺がロザリーに惹かれたのは…
ドレスの袖を引きちぎって、止血をするあの冷静さと潔さだったじゃないか…。
そう、あの男前のところだ。
そして…
俺がシリルを信じたのは…
剣捌きに一点の曇りもなく、ただひたすらに忠義をつくす生真面目さと、主君である俺の言葉に納得できなければ、頭を立てに振らない頑固者のところも…
…参った。
俺はロザリー達に、向かってくる輩に剣を向けて、これ以上近づかせないようにして、後ろのロザリーへと叫んだ。
「ミランダを俺のところへ!」
「はい。」
俺は頷くと、まだ涙が止まらないミランダを彼女から受け取り…息を飲んだ。目の端にロザリーの腰に帯びた剣が見えたから…。
それは彼女が得意とするレイピアではなく、サーベルだった。
レイピアでは…一撃では殺れない。
ミランダがいる以上、長引かせる戦いは危ないと冷静な判断をし、大勢に囲まれると覚悟と、その輩を切る覚悟でここに来たことが、サーベルを帯刀してきたことでわかった。
…本当に参った。
ロザリーの時でも、シリルの時でも…俺の心を揺らすのは彼女だけだな。
大きく息を吸い、彼女を見た。
それは惚れた女に言う言葉ではなかった。
「…お前の命は俺が預かる。」
「御意。」
男は女を守る者だと頑なに思っていた、だからどんなに剣の腕が良くても、ロザリーを戦いの場には、連れて行きたくはなかった。
覚悟を決めろとロザリーに言ったが、覚悟を決めるのは俺のほうだ。
俺と対等に剣を交える事ができる者は、女どころか、男だって早々にいない。今…この国の為にはどうしても欲しい人物だと、わかっていたが…俺は躊躇っていた。
いつか後悔する時が来るかもしれない。
どんなに腕があっても…傷を負うことはある。それは…死と隣りあわせだと言うことだ。
彼女を失いたくない。
だが、彼女だけを守る事はできない。
そして…彼女だけを愛することができない。
そんなジレンマに、きっと一生苦しむかもしれない。
…だから…
だから、せめて…
「シリル!」
「…は、はい。」
俺はお前に命を預ける。
誰も信用できずに預け切れなかった俺の背中を…お前にだけに…愛しているお前だけに…
「俺の背中をお前に預ける。」
彼女の青い瞳が大きく見開くと、袖で目元を拭い
「…は、はい!お任せください!」
「さぁ、シリル行くぞ!」
不死身の体を持つ輩に、俺の背中を守る騎士と…向かっていった。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~
流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。
しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。
けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる