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守りたいと思う心
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「…細く、小さな手だ。」
「えっ?」
「その体で、ここまで強くなったのは、才能もあるだろう、だが、相当な努力をしてきたのだろうな。」
「殿下。」
なんだか、胸が熱くなっていく。
剣は好きだったが、その鍛錬は並大抵ではなく、あまりの辛さに好きだった剣が、嫌いになった時期もあった。
綺麗なドレスも、長い髪も捨てて…いったい何をやっているんだろう…と、剣ダコができた手のひらを見つめては、悲しくて堪らなかった時もあった。
貴族の娘なのに、華やかな社交界とは全く無縁の世界。
そんな世界に身を置かねばならない、自分の境遇が悲しかった…でも…もういい。
ルシアン王子の言葉ですべては報われた。
まだ…頑張れる。まだ、私は殿下のお役に立てる。
そう思いながら、目を瞑った私に聞こえてきた声は…
「もう…終わりにしろ。」
熱くなっていた胸に…小さなヒビが入った気がした。
終わり?どういう意味?言われている意味が解からない。
「……?」
唖然としていた私を、苛立ったように殿下は、私の手を高く上へ持ち上げられると
「もう、男の真似などするな。お前は女だ。この細い腕に見合った人生を歩め。」
「殿下…」
「爵位は男にしか受け継げないと言う事が、お前を縛っているのなら、その件は俺が王太子に必ず意見をする…だから安心しろ。」
違う。今、私の頭を過ぎったのは侯爵家のことなどではない。
今…頭の中は…
「侯爵家のことなど…どうでもいいんです!」
「ロザリー…?」
「女に戻れとは…どういう意味ですか?それは騎士であることを…やめろと言っておいでなのですか?」
「…その通りだ。」
「で、でも、まだ私には騎士としてやるべきことがあります。」
「今宵の事なら…お前は来る必要はない。」
「どうしてですか!先程は…付き合えと…」
あぁ…そうか…アストンだ。
アストンからエイブに、私が約束の時間前に行かない事が、耳に入ることを恐れて…あの場はそう言われたんだ。
始めから…私を置いて行くおつもりだったのか。
だけど…
「エイブは!エイブは私を殺したいほど憎んでいます!その私が、約束の場所に現れなかった時点で、エイブはミランダ姫を手にかけるかもしれません!」
「エイブが殺したいほど憎んでいるシリルと言う名の騎士は…この世には存在しない男だ。」
シリルは…存在しない。
そんな名前の騎士は…存在しない。
嫌だ、こんな…こんな形で終わることなんかできやしない。
問いかけるように赤い瞳を見ると、迷いのない赤い瞳が私を見つめて居られる。
赤い瞳は揺れてはいない…迷ってはいらっしゃらない。ダメなんだ。もうそうお決めになられたんだ。
…私はうな垂れて唇を噛んだ。
ずっと…ずっと…憧れていた。
力強く、そして流れるような剣捌きに…
国民の前で、ほんの少し照れくさそうに微笑む姿に…憧れていた。
でもそれは、ルシアン王子の一部分だった。
『俺は…はぁはぁ…信用していない者は、男でも…女でも…自分の後ろには…やらん。』
それほどルシアン王子にとって王宮は、危険で…そして孤独だったことを知り、胸が震えた。
女物のコート着た私に、『脱げ!』とムキになって、子供みたいに剥れた顔。
『シリル…盾になることは断じて許さん。』私の迷いを見抜いた赤い瞳の鋭さ。
『ロザリー、あの時はありがとう。』優しい言葉と綺麗な微笑み。
ルシアン王子の姿を知る度に、いつしか憧れが、恋に変わっていったが、どうにもならないとわかっていた。だから叶うことなどない恋だから…この手で好きな方を守りたいと思った。
女として、ルシアン王子の側にいられないのなら、せめて騎士としてお守りしたい…と、なのにそれさえも…許してはもらえないんだ。
……嫌。やっぱり嫌だ!
男と偽って、生きてきたのは…こんなときの為だもの。
「…私は…シリルです。」
「ロザリー!!」
「私は殿下に騎士の誓いをたてた騎士です。」
「バカを言うな!お前は女なんだぞ!」
「私は殿下の剣であり、盾です。」
「いい加減しにしろ!惚れた女を危い目にあわせられるか!!」
「…えっ?」
「……」
「今…」
「…惚れていると言った。」
「…殿下…」
握られていた腕が引っ張られ…ルシアン王子の胸の中で、私は切ない声を聞いた。
「こんな形で…想いを打ち明ける事になるとは…。」
「…わ、私…」
「悪い。このままで居てくれ。お前の顔を見ては言えそうもないんだ。俺は……青いドレスで踊るお前を見た時から…惹かれていた。でも俺はお前に、愛も…将来も…何も与えることが出来ない。だからせめてお前の命だけは守りたいんだ。だから…わかってくれ。」
「…」
「ロザリー…?」
「私は!私は騎士なんです。守ってもらうのではない、守りたいんです。」
ルシアン王子の胸を押しながら
「だって騎士じゃないと…殿下のお側にいられない…。」
「ロザリー、お前…」
視線が絡み合ったが、ルシアン王子は眼を逸らして、呟くように
「すまない…」
その言葉と同時に、ルシアン王子が私のみぞおちに当身を入れられた。
「うっ……」
赤い瞳が揺れるのが見えたのが最後、意識は…ここで途切れてしまった。
・
・
・
「ロザリー」
ルシアン王子が震えながら私の名前を呼び…私の唇に触れられたことも…知らないまま…
時は…20時を回ろうとしていた。
「えっ?」
「その体で、ここまで強くなったのは、才能もあるだろう、だが、相当な努力をしてきたのだろうな。」
「殿下。」
なんだか、胸が熱くなっていく。
剣は好きだったが、その鍛錬は並大抵ではなく、あまりの辛さに好きだった剣が、嫌いになった時期もあった。
綺麗なドレスも、長い髪も捨てて…いったい何をやっているんだろう…と、剣ダコができた手のひらを見つめては、悲しくて堪らなかった時もあった。
貴族の娘なのに、華やかな社交界とは全く無縁の世界。
そんな世界に身を置かねばならない、自分の境遇が悲しかった…でも…もういい。
ルシアン王子の言葉ですべては報われた。
まだ…頑張れる。まだ、私は殿下のお役に立てる。
そう思いながら、目を瞑った私に聞こえてきた声は…
「もう…終わりにしろ。」
熱くなっていた胸に…小さなヒビが入った気がした。
終わり?どういう意味?言われている意味が解からない。
「……?」
唖然としていた私を、苛立ったように殿下は、私の手を高く上へ持ち上げられると
「もう、男の真似などするな。お前は女だ。この細い腕に見合った人生を歩め。」
「殿下…」
「爵位は男にしか受け継げないと言う事が、お前を縛っているのなら、その件は俺が王太子に必ず意見をする…だから安心しろ。」
違う。今、私の頭を過ぎったのは侯爵家のことなどではない。
今…頭の中は…
「侯爵家のことなど…どうでもいいんです!」
「ロザリー…?」
「女に戻れとは…どういう意味ですか?それは騎士であることを…やめろと言っておいでなのですか?」
「…その通りだ。」
「で、でも、まだ私には騎士としてやるべきことがあります。」
「今宵の事なら…お前は来る必要はない。」
「どうしてですか!先程は…付き合えと…」
あぁ…そうか…アストンだ。
アストンからエイブに、私が約束の時間前に行かない事が、耳に入ることを恐れて…あの場はそう言われたんだ。
始めから…私を置いて行くおつもりだったのか。
だけど…
「エイブは!エイブは私を殺したいほど憎んでいます!その私が、約束の場所に現れなかった時点で、エイブはミランダ姫を手にかけるかもしれません!」
「エイブが殺したいほど憎んでいるシリルと言う名の騎士は…この世には存在しない男だ。」
シリルは…存在しない。
そんな名前の騎士は…存在しない。
嫌だ、こんな…こんな形で終わることなんかできやしない。
問いかけるように赤い瞳を見ると、迷いのない赤い瞳が私を見つめて居られる。
赤い瞳は揺れてはいない…迷ってはいらっしゃらない。ダメなんだ。もうそうお決めになられたんだ。
…私はうな垂れて唇を噛んだ。
ずっと…ずっと…憧れていた。
力強く、そして流れるような剣捌きに…
国民の前で、ほんの少し照れくさそうに微笑む姿に…憧れていた。
でもそれは、ルシアン王子の一部分だった。
『俺は…はぁはぁ…信用していない者は、男でも…女でも…自分の後ろには…やらん。』
それほどルシアン王子にとって王宮は、危険で…そして孤独だったことを知り、胸が震えた。
女物のコート着た私に、『脱げ!』とムキになって、子供みたいに剥れた顔。
『シリル…盾になることは断じて許さん。』私の迷いを見抜いた赤い瞳の鋭さ。
『ロザリー、あの時はありがとう。』優しい言葉と綺麗な微笑み。
ルシアン王子の姿を知る度に、いつしか憧れが、恋に変わっていったが、どうにもならないとわかっていた。だから叶うことなどない恋だから…この手で好きな方を守りたいと思った。
女として、ルシアン王子の側にいられないのなら、せめて騎士としてお守りしたい…と、なのにそれさえも…許してはもらえないんだ。
……嫌。やっぱり嫌だ!
男と偽って、生きてきたのは…こんなときの為だもの。
「…私は…シリルです。」
「ロザリー!!」
「私は殿下に騎士の誓いをたてた騎士です。」
「バカを言うな!お前は女なんだぞ!」
「私は殿下の剣であり、盾です。」
「いい加減しにしろ!惚れた女を危い目にあわせられるか!!」
「…えっ?」
「……」
「今…」
「…惚れていると言った。」
「…殿下…」
握られていた腕が引っ張られ…ルシアン王子の胸の中で、私は切ない声を聞いた。
「こんな形で…想いを打ち明ける事になるとは…。」
「…わ、私…」
「悪い。このままで居てくれ。お前の顔を見ては言えそうもないんだ。俺は……青いドレスで踊るお前を見た時から…惹かれていた。でも俺はお前に、愛も…将来も…何も与えることが出来ない。だからせめてお前の命だけは守りたいんだ。だから…わかってくれ。」
「…」
「ロザリー…?」
「私は!私は騎士なんです。守ってもらうのではない、守りたいんです。」
ルシアン王子の胸を押しながら
「だって騎士じゃないと…殿下のお側にいられない…。」
「ロザリー、お前…」
視線が絡み合ったが、ルシアン王子は眼を逸らして、呟くように
「すまない…」
その言葉と同時に、ルシアン王子が私のみぞおちに当身を入れられた。
「うっ……」
赤い瞳が揺れるのが見えたのが最後、意識は…ここで途切れてしまった。
・
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「ロザリー」
ルシアン王子が震えながら私の名前を呼び…私の唇に触れられたことも…知らないまま…
時は…20時を回ろうとしていた。
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