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アストンの言葉。
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「おや~、それでおしまいなんですか?…殿下。」
アストンの声は森の中に響くほどの大声だったか、殿下はまるで聞こえてはいないかのように、黙っておられる。
「…殿下」
私の小さな声に、気がついたのはアストンのほうだった。
アストンはにやりと私に向かって笑うと
「ロザリー、殿下からお暇を貰ったら、俺のところに来いよ。」
「私は騎士だ。敵であるお前の手に落ちるくらいなら死を選ぶ!」
アストンは大きな声で笑い出し
「騎士?いや違う。お前は女だ。女の体をその勇ましい騎士服の中に隠しても…女だ。なぁ…どんなに剣の腕が良くても、戦場で数十人の、いや数百人の男に囲まれ勝てるか?!そして…もし、そう…もしだ。女をわかれば…どうなるかなぁ。想像するだけでも…恐ろしいな。」
睨みつけた私を可笑しく堪らないかのように、目を細め
「そう言えば言っていたな。『死ぬ覚悟て来ているんだ。体を穢されるくらいなんともない。』と…」
そう言って、チラリと殿下を見て笑うと
「偉そうなことを言っているが…お前は国や殿下を騙していたんだ、騎士としては…もう終わりだ。それどころか、もうこの国にはおられないだろう。だから来い。剣が好きなんだろう?俺なら、『 女』としても『剣士』としてもお前を可愛がってやれるぞ。」
「…バカにするな!」
悔しくて、叫ぶように言った私の言葉を無視して…アストンは殿下に
「でも、残念でしたね。殿下も俺と同じように、昼は剣士そして夜は娼婦として、こいつを扱うおつもりだったんでしょう?だから、女ではないかと疑っていても、こいつを側から放さなかったのに…でも…」
クスクスと笑うと
「でも、自分が手をつける前に…俺が味見したのが気に入らなくて、ロザリーをお払い箱にか…いや~殿下もなかなか潔癖なんだ。」
殿下の顔色が変わられた。
くそっ!アストンの狙いは…殿下を見た途端に、私から殿下へと…興味が変わったんだ。
あの男は人を殺すことに、喜びを感じる男だ、それがより強い相手なら…なおさらだ。殿下の心が乱れるのを狙っている。
でも…そんなことで殿下の心は乱れない、乱れる事などない。
「アストン、そんなくだらない話で、殿下の御心を乱すことなどできないぞ。」
殿下は軽く息を吐かれ…「このバカ。」と言われた。
えっ?
「くだらない話じゃないだろう!」
そう私に言って、アストンに向かって
「アストン、お前は…、ロザリーがそして俺が怖いのか?まともに戦って勝てないから、口でまず攻撃か…笑わせるな。そんな手を使わないと勝てないと思っている時点で、お前はもう俺たちに負けている。」
「…なんだと…」
「俺の臣下に対して、これ以上の暴言は……許さん。」
そう言って、剣をアストンに向けられた。
アストンは私と殿下を交互に見ながら、溜め息を吐くと
「あぁ、動揺させるどころか…本気モードに入れてしまったか…こりゃ失敗だな。ひとりでもヤバイのに、あんたらふたりに俺がひとりで敵うはずはないもんな。でも、ここで俺を切るのはマズイぞ。」
「どういう意味だ。」
「姫の誘拐はエイブの一存だ。依頼人は姫を即…殺せと言って来た、それも事故に見せかけてだ。だが、エイブはそれを無視した。俺がここにいるのは、依頼人とエイブの繋ぎだ。もし俺が、戻らなければ依頼人はどうでるかなぁ。ひょっとしたらエイブの企みを知って、エイブごと…」
と言って、視線を燃え盛る屋敷を見て笑った。
「…エイブがミランダを誘拐をした理由がわからん限り、その話は信用できん。」
「簡単さ。あいつは…ロザリーが、いやシリルが嫌いだから、シリルが憧れていた殿下に切られれば面白いと思っているからさ。」
「そんな…理由で…こんな事を…。」
思わず私の口から零れた言葉に、アストンが
「そうだ、そんな理由だ。そんな理由だから悩むことなく、躊躇することなくやれるんだ。まぁ…真面目なおふたりにはわからんだろうな。だが人を殺るのに、大層な理由をつけ、自分は大儀の為になどと嘯くほうが、俺にとっては【そんな理由】と思うぜ。命を奪うのに、理由をつけ自分を正当化するほうが…虫唾が走る。まぁ…今ここで論争する気はない、時間もないしな。どうする?おふたりさんよ。依頼人はこの状況に気づいたらすぐに殺るぜ。それよりも、23時までは姫の命が保障されているほうが…良いと思うがな。」
アストンはそう言いながら、足を一歩後ろへ下げた。
「…行け、決着は今夜だ。」
殿下の言葉に、アストンはにやりと笑うと
「さすが…ご立派なお方だ。」と大きな声で笑いながら、走って行った。
「…立派だと…どこがだ。」そう言って、殿下は剣を鞘に納め、私に向かって
「シリ…ル、いやロザリーだったな…。」
「殿下…。申し訳ありません。」
涙が口元まで、零れ落ちてきた。
泣いてなんかいられないのに…。
こんな事に負けるわけには行かないのに…。
押さえておかないと、はだける胸元から手を離し、袖口で涙を拭い、殿下に
「取り乱してしまい、申し訳ございません。一度屋敷に戻り着替えてまいります。」
そうだ、私は女でも騎士だ。だから胸元が肌蹴ても…恥ずかしくなんかない。
唇を噛んで、立ち上がった私の手を、殿下が引き止めるように握られた。
アストンの声は森の中に響くほどの大声だったか、殿下はまるで聞こえてはいないかのように、黙っておられる。
「…殿下」
私の小さな声に、気がついたのはアストンのほうだった。
アストンはにやりと私に向かって笑うと
「ロザリー、殿下からお暇を貰ったら、俺のところに来いよ。」
「私は騎士だ。敵であるお前の手に落ちるくらいなら死を選ぶ!」
アストンは大きな声で笑い出し
「騎士?いや違う。お前は女だ。女の体をその勇ましい騎士服の中に隠しても…女だ。なぁ…どんなに剣の腕が良くても、戦場で数十人の、いや数百人の男に囲まれ勝てるか?!そして…もし、そう…もしだ。女をわかれば…どうなるかなぁ。想像するだけでも…恐ろしいな。」
睨みつけた私を可笑しく堪らないかのように、目を細め
「そう言えば言っていたな。『死ぬ覚悟て来ているんだ。体を穢されるくらいなんともない。』と…」
そう言って、チラリと殿下を見て笑うと
「偉そうなことを言っているが…お前は国や殿下を騙していたんだ、騎士としては…もう終わりだ。それどころか、もうこの国にはおられないだろう。だから来い。剣が好きなんだろう?俺なら、『 女』としても『剣士』としてもお前を可愛がってやれるぞ。」
「…バカにするな!」
悔しくて、叫ぶように言った私の言葉を無視して…アストンは殿下に
「でも、残念でしたね。殿下も俺と同じように、昼は剣士そして夜は娼婦として、こいつを扱うおつもりだったんでしょう?だから、女ではないかと疑っていても、こいつを側から放さなかったのに…でも…」
クスクスと笑うと
「でも、自分が手をつける前に…俺が味見したのが気に入らなくて、ロザリーをお払い箱にか…いや~殿下もなかなか潔癖なんだ。」
殿下の顔色が変わられた。
くそっ!アストンの狙いは…殿下を見た途端に、私から殿下へと…興味が変わったんだ。
あの男は人を殺すことに、喜びを感じる男だ、それがより強い相手なら…なおさらだ。殿下の心が乱れるのを狙っている。
でも…そんなことで殿下の心は乱れない、乱れる事などない。
「アストン、そんなくだらない話で、殿下の御心を乱すことなどできないぞ。」
殿下は軽く息を吐かれ…「このバカ。」と言われた。
えっ?
「くだらない話じゃないだろう!」
そう私に言って、アストンに向かって
「アストン、お前は…、ロザリーがそして俺が怖いのか?まともに戦って勝てないから、口でまず攻撃か…笑わせるな。そんな手を使わないと勝てないと思っている時点で、お前はもう俺たちに負けている。」
「…なんだと…」
「俺の臣下に対して、これ以上の暴言は……許さん。」
そう言って、剣をアストンに向けられた。
アストンは私と殿下を交互に見ながら、溜め息を吐くと
「あぁ、動揺させるどころか…本気モードに入れてしまったか…こりゃ失敗だな。ひとりでもヤバイのに、あんたらふたりに俺がひとりで敵うはずはないもんな。でも、ここで俺を切るのはマズイぞ。」
「どういう意味だ。」
「姫の誘拐はエイブの一存だ。依頼人は姫を即…殺せと言って来た、それも事故に見せかけてだ。だが、エイブはそれを無視した。俺がここにいるのは、依頼人とエイブの繋ぎだ。もし俺が、戻らなければ依頼人はどうでるかなぁ。ひょっとしたらエイブの企みを知って、エイブごと…」
と言って、視線を燃え盛る屋敷を見て笑った。
「…エイブがミランダを誘拐をした理由がわからん限り、その話は信用できん。」
「簡単さ。あいつは…ロザリーが、いやシリルが嫌いだから、シリルが憧れていた殿下に切られれば面白いと思っているからさ。」
「そんな…理由で…こんな事を…。」
思わず私の口から零れた言葉に、アストンが
「そうだ、そんな理由だ。そんな理由だから悩むことなく、躊躇することなくやれるんだ。まぁ…真面目なおふたりにはわからんだろうな。だが人を殺るのに、大層な理由をつけ、自分は大儀の為になどと嘯くほうが、俺にとっては【そんな理由】と思うぜ。命を奪うのに、理由をつけ自分を正当化するほうが…虫唾が走る。まぁ…今ここで論争する気はない、時間もないしな。どうする?おふたりさんよ。依頼人はこの状況に気づいたらすぐに殺るぜ。それよりも、23時までは姫の命が保障されているほうが…良いと思うがな。」
アストンはそう言いながら、足を一歩後ろへ下げた。
「…行け、決着は今夜だ。」
殿下の言葉に、アストンはにやりと笑うと
「さすが…ご立派なお方だ。」と大きな声で笑いながら、走って行った。
「…立派だと…どこがだ。」そう言って、殿下は剣を鞘に納め、私に向かって
「シリ…ル、いやロザリーだったな…。」
「殿下…。申し訳ありません。」
涙が口元まで、零れ落ちてきた。
泣いてなんかいられないのに…。
こんな事に負けるわけには行かないのに…。
押さえておかないと、はだける胸元から手を離し、袖口で涙を拭い、殿下に
「取り乱してしまい、申し訳ございません。一度屋敷に戻り着替えてまいります。」
そうだ、私は女でも騎士だ。だから胸元が肌蹴ても…恥ずかしくなんかない。
唇を噛んで、立ち上がった私の手を、殿下が引き止めるように握られた。
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