王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

文字の大きさ
46 / 214

つまらないかどうか…試してみろ。

しおりを挟む
王宮からエイブの父親である、ライアン叔父上の屋敷までは馬で駆けて40分程度のところにある。

エイブが、まさかミランダ姫を屋敷に連れて行っているとは思えないが、足取りを掴めるかもしれないとここまでやって来たが…これ以上は馬で行くのはマズいだろう。

馬から降りて、眼の前の森を見つめ、そして…視線を少し右にやった。

右に出れば街道。
だか、この道を行けば、ライアン叔父上の屋敷からは丸見えになる。もし、叔父上までこの誘拐に関与をしていたら…私を友好的に迎えてはくれないだろう。

もう一度、眼の前の森を見つめた。

この森を抜ければ、すぐに屋敷の裏門に出る。
やはり屋敷内に、そっと忍び込んだほうが…いいかもしれない。

馬の鼻面を撫で
「この先は岩だらけのなの。お前の足が心配だからここまで待ってて」

この森一帯は大昔、 噴火に依って流れた溶岩流上に発達した原生林で、樹木が多く深い森であるため、少し道を外れると元の場所に戻ることが難しい。道を外れた場所の地面はむき出しの溶岩で出来ているために、大小さまざまの凹凸があるので、足をとられることもあり、人の往来はほとんどない。まぁ…遠回りといえ、街道があるのだから無理をして、この森に足を入れる必要もないということだ。

「…行きますか。」

幼い頃、この森が怖かった。
絵本で読んだ魔女や怪物が住むと言う森に、似ていたからかも知れない。魔女や怪物は…今でも好きだとは言えないが…怖いとは思わない。それよりも己の欲望の為に、手段を選ばない暗い心に支配された、人と言う生き物のほうが、魔女や怪物より怖いと知ったからだろう。


でも、まさか…身内に暗い心に支配された者が出るとは…思わなかった。
エイブは確かに楽をする事しか考えていない従兄弟だったが、まさかこうなるとは…。いや違う。ここ数年、それは異常とも思える手段を選ぶようになっていたのに、それに気がつきながらも、諌めようとはしなかったのは、お父様が仰る通り、侯爵家の責任だ。

だがエイブ。これ以上、罪を重ねるのなら……私は…この手で決着をつける。


シーンとした森に、私が大きく吐いた息で空気が動いた。
だが、空気の動きはそれだけではなかった。

足を止め、ゆっくりと振り返り、腰の剣に手を添え、空気が動いた場所を睨め付け

「どこの手の者だ。」

クスクスと笑い声をあげて、薄暗い森の中から、ユラリと出て来た影は
「良いなぁ。ようやくお前の殺気を見た。」

「…カルヴィン・アストン。お前がどうしてここに?」

「エイブの屋敷の帰りなのさ。」

「屋敷に出入りする程、いつの間に仲良くなったんだ。」

「別に仲良くなんかないさ、寧ろ嫌いだ。だが、雇い主が一緒なもんで、行動を共にする事が多くてな。」

「やはり…お前もミランダ姫を攫った一味か、いったい雇い主とは、いや黒幕は誰だ!」

「それは言えない。当たり前だろう。」

「アストン!」

叫びながら、剣を抜いた私を面白そうに見ると…笑いながら
「なんだ、お前のその顔は…?はぁ~つまらんな。」

「なんだと!」

「今のお前はつまらん。殺気が全身から溢れているが、冷静さが一欠片もない。眼が血走ってるぞ。あぁ…今のお前なら簡単に殺れる。つまらん。」

「…じゃぁ、つまらないかどうか…試してみろよ?!」

「ほぉ~、一人前に言うじゃないか。後悔するなよ。」

確かに今の私は、冷静さが足りないかも知れない。でも、ここで、アストンを取り逃がせば、ミランダ姫の情報を手に入れるチャンスのひとつを逃してしまう。

負けられない。

手のひらに薄っすらと掻いた汗に、剣が滑らないように、握り直すと、アストンは眼を細め
「…俺に勝てば、ミランダ姫の居場所を教えてやる。だが俺は強いぞ。」

「今まで、強いと思ったのは…父上とルシアン殿下だけだ。さて、お前が私のリストに載れるかな。」

私の言葉にアストンは、薄笑いを浮かべると剣を抜いた。


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

処理中です...