35 / 214
ドナ.ドナ.ドナ?
しおりを挟むわかっている。
国を、王家を欺いた罪は、何れ償わねばならないことは…
でも…まだ、知られたくない。
「まだ…」
そう小さな声で口にし、唇を噛み締めた時だった。
俯いた私を守ろうかとするかのように、背中に優しい…温もりを感じた。
それは…
「ロザリー!」
ミランダ姫が私の名前を呼んで、背中に抱きついてこられた温もりだった。
ルシアン王子は私とミランダ姫を見つめて、なにか呟かれると、後ろに控えていたお父様へと視線を向けられたが、迷うように赤い瞳が揺らして…まるで言葉を探しておいでのように見える。
そんなルシアン王子に、お父様は黙って頭を垂れ、次の言葉を待っていた。
お父様とて、カルヴィン・アストンがここにいる以上、真実は言えないだろうと私は思っていたが、でも…お父様のあのご様子は…
私はお父様を見た。
お父様も私を見られた。
微かにお父様が、頷かれたように見える。
あぁ…やっぱりお父様は…
ルシアン王子に…お父様はもう嘘をつきたくないから…
【シリルとロザリーは同一人物なのか?】とルシアン王子に問われたら、お父様は【はい。】と言われるおつもりだ。
「侯爵。」
ルシアン王子は、そうお父様に声をかけると、しばらくお父様を見つめていらしたが、その赤い瞳に迷う色は見えなかった。
お気持ちが決まったのだ。
私はゆっくりと眼を瞑ると、言葉を待った。
「侯爵、ロザリーとふたりだけで話しがしたいのだか、良いだろうか?その間、ミランダを頼む。」
一瞬、ルシアン王子の以外な言葉に、お父様が眼を見開かれたが、私をチラリと見て
「…御意。」
私に直接お聞きになられるおつもりなのだろうか。
ふたりだけになったら、ルシアン王子は黙って歩かれた。
私はその後を付いて行く。
その構図が…
こんな時なのに…な、なんだか、売られて行く子牛みたいに思えて、頭の中で…
♪かわいい子牛、売られて行くよ。悲しそうな瞳で見ているよ。ドナ ドナ ド~ナ ド~ナ~♪
そのメロディが頭の中で流れている。
苦しいことや、嫌な事があると…違う事を考えて逃げるのは…私のダメなところだ。何やってんだか…
はぁ~。
クスッ。
と笑う声が聞こえ、ハッとして顔を上げると…口元を押さえ笑いを噛み締めるルシアン王子がいた。
「…なんだ?その顔は…。まるで売られて行くみたいだな。」
当たりです。そんな気分です…と無理矢理口角を上げると、ルシアン王子は大声で笑いながら
「俺の腕を止血する為に、左袖を引きちぎった猛女とは思えないな。」
「も、も…猛女だと思っていらしたのですか?」
ハイヒールを放り投げ、裸足で殿下の部屋で踊っていた、頭のおかしな女だと思われているかも知れないとは、覚悟していたけど、プラス…猛女までついていたとは…最悪だ。
よほど、青ざめた顔だったのか、ルシアン王子が眉を八の字にして
「すまない。レディに…」
「いえ、いいんです。昔から言われていたので。」
「昔から?」
「…はい、剣の稽古の時に、お父様から…淑女なぞ、目指すな!目指すなら、猛女となって、俺を打ち負かせ!と」
「あはは…俺も昔、そんな熱い事を言われたな。【猛者となって、男の生き様をこの老いぼれに見せてくださいませ。】とな。」
お父様は…熱い。というより…暑苦しい。
いったい何を、ルシアン王子や私に求めているのやら…。はぁ~
情けない私の顔を見て、ルシアン王子は微笑み
「お前とシリル…そして俺は、そうか…兄弟弟子なんだな。」
そう言って、また笑われ…私をじっと見られると
「あの時…」
「はい?」
「朦朧とする中、やっと部屋に戻ったら…踊るお前がいた。青いドレスの裾を翻しながら踊る姿を見て…天使かと思った。」
「えっ?」
「でもまだ、死ぬわけにいかないから…。まだ、天使を迎えるのには、やるべき事があるから…焦った。それでお前に対して、いや…天からのお迎えに、反発するようなキツイ物言いになってしまい…本当に悪かった。命を助けてくれたのに、酷い言い方で…御礼も言えなかった。ずっと心に引っかかっていたんだ。」
「ルシアン殿下…。」
「ロザリー、あの時はありがとう。」
何度も頭を横に振った。
御礼なんて…言ってもらえるような人間じゃない、だって私はルシアン王子を騙しているだもん。なのに…御礼なんて…
ごめんなさい。
涙がどんどん溢れてきて、止まらなかった。
袖で何回も拭いたけど、止まらなくて…両手で顔を覆うとしたら…
親指と人差し指の付け根あたりに剣だこある、硬く大きな手が…
私の頬に触れ…涙を拭っていった。
「…ロザリー…」
小さな声で私の名前を呼んだ、ルシアン王子の赤い瞳が近くで見えた。
国を、王家を欺いた罪は、何れ償わねばならないことは…
でも…まだ、知られたくない。
「まだ…」
そう小さな声で口にし、唇を噛み締めた時だった。
俯いた私を守ろうかとするかのように、背中に優しい…温もりを感じた。
それは…
「ロザリー!」
ミランダ姫が私の名前を呼んで、背中に抱きついてこられた温もりだった。
ルシアン王子は私とミランダ姫を見つめて、なにか呟かれると、後ろに控えていたお父様へと視線を向けられたが、迷うように赤い瞳が揺らして…まるで言葉を探しておいでのように見える。
そんなルシアン王子に、お父様は黙って頭を垂れ、次の言葉を待っていた。
お父様とて、カルヴィン・アストンがここにいる以上、真実は言えないだろうと私は思っていたが、でも…お父様のあのご様子は…
私はお父様を見た。
お父様も私を見られた。
微かにお父様が、頷かれたように見える。
あぁ…やっぱりお父様は…
ルシアン王子に…お父様はもう嘘をつきたくないから…
【シリルとロザリーは同一人物なのか?】とルシアン王子に問われたら、お父様は【はい。】と言われるおつもりだ。
「侯爵。」
ルシアン王子は、そうお父様に声をかけると、しばらくお父様を見つめていらしたが、その赤い瞳に迷う色は見えなかった。
お気持ちが決まったのだ。
私はゆっくりと眼を瞑ると、言葉を待った。
「侯爵、ロザリーとふたりだけで話しがしたいのだか、良いだろうか?その間、ミランダを頼む。」
一瞬、ルシアン王子の以外な言葉に、お父様が眼を見開かれたが、私をチラリと見て
「…御意。」
私に直接お聞きになられるおつもりなのだろうか。
ふたりだけになったら、ルシアン王子は黙って歩かれた。
私はその後を付いて行く。
その構図が…
こんな時なのに…な、なんだか、売られて行く子牛みたいに思えて、頭の中で…
♪かわいい子牛、売られて行くよ。悲しそうな瞳で見ているよ。ドナ ドナ ド~ナ ド~ナ~♪
そのメロディが頭の中で流れている。
苦しいことや、嫌な事があると…違う事を考えて逃げるのは…私のダメなところだ。何やってんだか…
はぁ~。
クスッ。
と笑う声が聞こえ、ハッとして顔を上げると…口元を押さえ笑いを噛み締めるルシアン王子がいた。
「…なんだ?その顔は…。まるで売られて行くみたいだな。」
当たりです。そんな気分です…と無理矢理口角を上げると、ルシアン王子は大声で笑いながら
「俺の腕を止血する為に、左袖を引きちぎった猛女とは思えないな。」
「も、も…猛女だと思っていらしたのですか?」
ハイヒールを放り投げ、裸足で殿下の部屋で踊っていた、頭のおかしな女だと思われているかも知れないとは、覚悟していたけど、プラス…猛女までついていたとは…最悪だ。
よほど、青ざめた顔だったのか、ルシアン王子が眉を八の字にして
「すまない。レディに…」
「いえ、いいんです。昔から言われていたので。」
「昔から?」
「…はい、剣の稽古の時に、お父様から…淑女なぞ、目指すな!目指すなら、猛女となって、俺を打ち負かせ!と」
「あはは…俺も昔、そんな熱い事を言われたな。【猛者となって、男の生き様をこの老いぼれに見せてくださいませ。】とな。」
お父様は…熱い。というより…暑苦しい。
いったい何を、ルシアン王子や私に求めているのやら…。はぁ~
情けない私の顔を見て、ルシアン王子は微笑み
「お前とシリル…そして俺は、そうか…兄弟弟子なんだな。」
そう言って、また笑われ…私をじっと見られると
「あの時…」
「はい?」
「朦朧とする中、やっと部屋に戻ったら…踊るお前がいた。青いドレスの裾を翻しながら踊る姿を見て…天使かと思った。」
「えっ?」
「でもまだ、死ぬわけにいかないから…。まだ、天使を迎えるのには、やるべき事があるから…焦った。それでお前に対して、いや…天からのお迎えに、反発するようなキツイ物言いになってしまい…本当に悪かった。命を助けてくれたのに、酷い言い方で…御礼も言えなかった。ずっと心に引っかかっていたんだ。」
「ルシアン殿下…。」
「ロザリー、あの時はありがとう。」
何度も頭を横に振った。
御礼なんて…言ってもらえるような人間じゃない、だって私はルシアン王子を騙しているだもん。なのに…御礼なんて…
ごめんなさい。
涙がどんどん溢れてきて、止まらなかった。
袖で何回も拭いたけど、止まらなくて…両手で顔を覆うとしたら…
親指と人差し指の付け根あたりに剣だこある、硬く大きな手が…
私の頬に触れ…涙を拭っていった。
「…ロザリー…」
小さな声で私の名前を呼んだ、ルシアン王子の赤い瞳が近くで見えた。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

治療係ですが、公爵令息様がものすごく懐いて困る~私、男装しているだけで、女性です!~
百門一新
恋愛
男装姿で旅をしていたエリザは、長期滞在してしまった異国の王都で【赤い魔法使い(男)】と呼ばれることに。職業は完全に誤解なのだが、そのせいで女性恐怖症の公爵令息の治療係に……!?「待って。私、女なんですけども」しかも公爵令息の騎士様、なぜかものすごい懐いてきて…!?
男装の魔法使い(職業誤解)×女性が大の苦手のはずなのに、ロックオンして攻めに転じたらぐいぐいいく騎士様!?
※小説家になろう様、ベリーズカフェ様、カクヨム様にも掲載しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる