王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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【閑話】暗躍する者たち①

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カタン…

扉の前に長い間立っていた奴が、ようやく扉を開ける決心が付いて入ってきたが…口を開く決心はまだ付いていないのか…俺の顔を見て、すぐに下を向いた。

「なぁ…なんか用事があったんだろう。」

「…カルヴィン・アストン。」

「フルネームで呼んで戴いて恐縮です。」

「ふざけるな。」

「はいはい。いったいなんでしょうか?わざわざ、ここまで俺に会いに来たのは、なんか話があるんだろう。」

「あぁ…ルシアン王子の暗殺は一時中止だ。」

「そっちこそ、ふざけるなよ。ルシアン王子の警護に、やっと入り込めたのに…暗殺は中止するだって?!じゃぁ俺はどうすんだよ。まさかこのまま、あの王子に90日間張り付いておくだけか?俺はあの王子と剣を交えたかったから、引き受けたんだぜ。なんだよ。」

「一時だと言っているだろう。場合によっては殺る。」

「場合ってなんだよ。」

「お前に言う必要はない。」

「あぁ、そうですか。」

「そう、むくれるな。ルシアン王子を殺る前に殺って欲しい人間がいるんだ。」

「ふ~ん、誰だ。」

「……王大子の子供…ミランダ姫だ。」

「…ミランダ?って、まだガキじゃないか。そんな仕事は他に頼めよ。」

「そう簡単にはいかないかもしれない。いや…お前はミランダ姫に近づくことさえ、できないかもしれないぞ。」

「……どう意味だ?」

「もしかしたら…ルシアン王子ではなく、ミランダ姫かもしれないという……話さ。」

「殺さなきゃいけない理由が、ルシアン王子じゃなくて、ミランダ姫だったということか?」

「まぁ…6割、いや7割は…ルシアン王子ではなく、ミランダ姫が持っていると思われると、情報が入った。」

「ふ~ん…あんたさ。フッフフフ…」

「なんだ、その笑いは…」

「いや、あんたがなかなかこの部屋に入ってこなかったのは…そういうことかと思って…」

「そういうこと?」

「…ガキを殺すのは少々心が痛むんだろう?だから、部屋に入るのを躊躇していたんだろう?フン、笑えるね。あんたにもそんな心があるとはね。」

「…まぁ…いろいろとあるのだよ。こちらにも…」

「ほぉ、そうか、まぁ、ガキを殺るのはかまわんさ、だがつまらんな。」

「そうでもないぞ。面白い話がある。」

「面白い話?」

「ウィンスレット侯爵のあの双子が、ミランダ姫の警護に付くらしい。」

「あぁ…男のほうは見た。いい腕だが…優しすぎる。女のほうも警護につくのか?」

「そうらしい。」

「女の腕はどうなんだ?」

「いい腕らしいぞ。」

「だが同じだろう。やっぱりつまらん。優しすぎて、殺気が感じられないような剣では、いくら腕が良くても興味は半減だ。やっぱりルシアン王子を殺りたい。」

「なら…殺気が出せるようにしてやれ。あの双子の実力を…引き出してやればいいじゃないか…楽しめるぞ。」

「引き出す…?」

「そうさ…双子の眼の前でミランダ姫を殺ればいい。きっと…熱くなってくれる。」

「まぁ、悪くないやり方だな。男のほうのシリルと言う奴は…小柄だったがあの動きは…面白かったしな。」

「剣の腕は…父親譲りだ。」

「フッフフ…いいね。いつやる?」

「明後日だ。明日はお前はルシアン王子の警護だろう?」

「そうだった。そう言えば、明日は双子の親父殿と一緒なんだ。先に親父を殺っちまうか?!」

「バカいえ!ウィンスレット侯爵は…お前が見た双子の片割れとは違う。戦いに出たことがある男だ。いざと言うときに迷いなどないぞ。」

「そりゃいい。やりたいな。腕の良い奴とやってみたい。」

「まだ、ダメだ。まともに遣り合ったら、例えお前が勝ったとしても…無傷ではないだろう。まだ…これからなんだ。」

「了解…自制しておきますよ。」

「長い時間をかけて、ようやくここまできたんだ。頼むぞ、カルヴィン・アストン。」

そいつはそう言って笑ったが、どこまで本音なのかわからん。信用できるか、怪しいもんだ。
まぁいいさ。俺は腕の良い奴と剣を交えたいだけだ。



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