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あなたが大好き。
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ルシアン王子は、私から視線を外すと…
ミランダ姫の前に跪き、微笑みながら
「どうしたんだ。そんなに興奮して、なにがあったか教えてくれ。」
「…叔父様。私、あの人は……嫌いです。シリルや私を侮辱するんだもの。」
溢れてくる涙を堪えようとしているからだろう、震えるような声で、それも…時折詰まりながら答えられたが…
「侮辱?!」
…と言って厳しい顔で、エイブへと視線をやったルシアン王子を見て
「…ぁっ…。」
と小さく叫び、唇を噛み締めて、出て来る言葉を抑えられ、黙ってしまわれた。口を閉ざされたミランダ姫に、何も言わず、じっと待っていらしたルシアン王子だったが、そっと頭を撫でられ、小さな声でなにかミランダ姫に言われると、ゆっくりと立ち上がり
エイブに向かって
「おまえは、ミランダに感謝するんだな。」
「……ルシアン殿下?」
「ミランダはこれ以上言えば、俺がお前を切るとわかっているから、黙ってしまったのだ。」
「あ、ああぁ…わぁぁぁ…。」
「臣下の者が、王家の人間を侮辱すれば、どうなるのか、頭に浮かばなかったのか?こんな幼い王女とて、わかっていることがわからんとは…。ましてやお前は、騎士の誓いを立てたのだ。守ると誓った王家を侮辱するのなら…死を覚悟してやれ!」
そう言われて近づかれると、エイブの腰から剣を抜き、エイブの前で一振りされたが、その早い剣の動きに、エイブはなにがなんだかわからないようだった。
だが…私は見た。
剣先は、エイブの騎士服の一番上のボタンを飛ばしたのだ。
それは、ほんの数ミリ剣先を伸ばせば…エイブの喉元を切り裂くこともできると意味していたが、なにがあったのかわからないエイブは、喉元のボタンを飛ばされても、ただ呆然とルシアン王子を見ていた。
ルシアン王子はその剣を床に突き刺すと…
「バートに、その心根を鍛え直してもらって来い。」
そう言って私をじっと見ると
「シリル、バートを呼べ。」
「はい。」
エイブは青い顔で、「…殿下、俺…」と、何か言いたげに口を開いたが、何を言って良いのか、わからず「俺、俺は…」と繰り返し叫んでいた。
ルシアン王子は…そんなエイブに鋭い一瞥を投げ
「次はないと思え。」
ひとこと、そうエイブに告げられると、私やミランダ姫に背中を向けたまま
「バートが来たら、ミランダと一緒に部屋に入れ。」
「はい。」
ルシアン王子は振り返る事もなく、部屋の扉を開け、中に入って行かれた。
『ミランダと一緒に部屋に入れ。』
…とは言うことは、何か話しがあると言う事だ。一体、何を言われるおつもりなのだろうか。
閉まった扉を見つめ、何を言われるのかと、緊張で思わず息を吐いた時…
ミランダ姫の小さな手が、私の手を握られた。
「姫…?」
「お願い…私を嫌いにならないで…」
その言葉に、慌ててミランダ姫を見ると、ポロポロと涙を零しながら
「お父様や…お母様のように、離れて行かないでね。」
意味がわからなかったが、この可愛い方を嫌いになるはずはない。
だから、にっこり笑って、ミランダ姫の足元に跪き
「私はミランダ姫にすでに、篭絡されておる身です。離れることなど有り得ません。」
そう言うと、ミランダ姫は顔をクシャと歪め…
「やっぱり…私の思っていた通りの人。」
そう言って、私に抱きつき
「…あなたが大好き。」
泣いていらっしゃるのだろう。
震える小さな背中を撫でながら…お父様が言った言葉が頭に浮かんだ。
『ミランダ姫は…ルシアン王子が描くこの国の希望なのだ。ミランダ姫がいらっしゃるから、ルシアン王子は…この国を出ることを決められた要因のひとつなのだ。』
『ミランダ姫なしでは、我が国は滅ぶやもしれん。』
この小さな体で、背負っている物は、とてつもなく、大きくて、苦しくて、辛いものなのだろう。
その大きな物を私の力で支える事が出来るのなら…守って差し上げたい。
長い銀色の髪へと手を伸ばし、ミランダ姫を胸の中に抱き込み…
「私は騎士です。姫を守るのは太古の昔から、騎士の勤め。必ずお守りいたします。」
「…」
「姫?今なんと…仰られたのですか?」
「…ロザリーの女たらし…」
「はい!でもミランダ姫にだけですよ。この魅惑の技を使うのは!」
そう言って笑うと、胸の中でミランダ姫も、小さな声で笑われたようだった。
ミランダ姫の前に跪き、微笑みながら
「どうしたんだ。そんなに興奮して、なにがあったか教えてくれ。」
「…叔父様。私、あの人は……嫌いです。シリルや私を侮辱するんだもの。」
溢れてくる涙を堪えようとしているからだろう、震えるような声で、それも…時折詰まりながら答えられたが…
「侮辱?!」
…と言って厳しい顔で、エイブへと視線をやったルシアン王子を見て
「…ぁっ…。」
と小さく叫び、唇を噛み締めて、出て来る言葉を抑えられ、黙ってしまわれた。口を閉ざされたミランダ姫に、何も言わず、じっと待っていらしたルシアン王子だったが、そっと頭を撫でられ、小さな声でなにかミランダ姫に言われると、ゆっくりと立ち上がり
エイブに向かって
「おまえは、ミランダに感謝するんだな。」
「……ルシアン殿下?」
「ミランダはこれ以上言えば、俺がお前を切るとわかっているから、黙ってしまったのだ。」
「あ、ああぁ…わぁぁぁ…。」
「臣下の者が、王家の人間を侮辱すれば、どうなるのか、頭に浮かばなかったのか?こんな幼い王女とて、わかっていることがわからんとは…。ましてやお前は、騎士の誓いを立てたのだ。守ると誓った王家を侮辱するのなら…死を覚悟してやれ!」
そう言われて近づかれると、エイブの腰から剣を抜き、エイブの前で一振りされたが、その早い剣の動きに、エイブはなにがなんだかわからないようだった。
だが…私は見た。
剣先は、エイブの騎士服の一番上のボタンを飛ばしたのだ。
それは、ほんの数ミリ剣先を伸ばせば…エイブの喉元を切り裂くこともできると意味していたが、なにがあったのかわからないエイブは、喉元のボタンを飛ばされても、ただ呆然とルシアン王子を見ていた。
ルシアン王子はその剣を床に突き刺すと…
「バートに、その心根を鍛え直してもらって来い。」
そう言って私をじっと見ると
「シリル、バートを呼べ。」
「はい。」
エイブは青い顔で、「…殿下、俺…」と、何か言いたげに口を開いたが、何を言って良いのか、わからず「俺、俺は…」と繰り返し叫んでいた。
ルシアン王子は…そんなエイブに鋭い一瞥を投げ
「次はないと思え。」
ひとこと、そうエイブに告げられると、私やミランダ姫に背中を向けたまま
「バートが来たら、ミランダと一緒に部屋に入れ。」
「はい。」
ルシアン王子は振り返る事もなく、部屋の扉を開け、中に入って行かれた。
『ミランダと一緒に部屋に入れ。』
…とは言うことは、何か話しがあると言う事だ。一体、何を言われるおつもりなのだろうか。
閉まった扉を見つめ、何を言われるのかと、緊張で思わず息を吐いた時…
ミランダ姫の小さな手が、私の手を握られた。
「姫…?」
「お願い…私を嫌いにならないで…」
その言葉に、慌ててミランダ姫を見ると、ポロポロと涙を零しながら
「お父様や…お母様のように、離れて行かないでね。」
意味がわからなかったが、この可愛い方を嫌いになるはずはない。
だから、にっこり笑って、ミランダ姫の足元に跪き
「私はミランダ姫にすでに、篭絡されておる身です。離れることなど有り得ません。」
そう言うと、ミランダ姫は顔をクシャと歪め…
「やっぱり…私の思っていた通りの人。」
そう言って、私に抱きつき
「…あなたが大好き。」
泣いていらっしゃるのだろう。
震える小さな背中を撫でながら…お父様が言った言葉が頭に浮かんだ。
『ミランダ姫は…ルシアン王子が描くこの国の希望なのだ。ミランダ姫がいらっしゃるから、ルシアン王子は…この国を出ることを決められた要因のひとつなのだ。』
『ミランダ姫なしでは、我が国は滅ぶやもしれん。』
この小さな体で、背負っている物は、とてつもなく、大きくて、苦しくて、辛いものなのだろう。
その大きな物を私の力で支える事が出来るのなら…守って差し上げたい。
長い銀色の髪へと手を伸ばし、ミランダ姫を胸の中に抱き込み…
「私は騎士です。姫を守るのは太古の昔から、騎士の勤め。必ずお守りいたします。」
「…」
「姫?今なんと…仰られたのですか?」
「…ロザリーの女たらし…」
「はい!でもミランダ姫にだけですよ。この魅惑の技を使うのは!」
そう言って笑うと、胸の中でミランダ姫も、小さな声で笑われたようだった。
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