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私はお前を信じてる。
しおりを挟む右腕をしっかりと握った左腕に、お父様の手が重なり、
「…お前をここまで、強くした右手を責めるな。信じるんだ。」
「でも…」
「私は裏切らないと信じている。お前の右手は、守りたいと思う人を、助けてやりたいと思う人を見捨てるようなことはしない。ロザリー…私はお前を信じてる。」
「お父様…。」
「今の私は…こんな事しか言えぬ。父として、騎士の先輩として、こんなに悩むお前に、こんな事しか言えぬとは情けない。すまぬ。もっとお前の話を聞いてやりたい、お前にもっと考える時間をやりたい。だが、答えを見つけるだけの時間は、今はやれないのだ。殿下は90日で、片を付けるおつもりだ。」
「90日…。」
「だから今は…違う形で、殿下にお仕えしてくれ。」
「それは…後宮に入り込むことですか?ミランダ姫の侍女に…」
お父様は頷かれ
「今は女のお前にしかできぬことで、殿下を助けてくれ。」
殿下の剣となり、盾となって、殿下をお助けすることだけが、仕えることではないとはわかっている、だから、後宮にもぐりこむことには、なんの躊躇いもなかった。だがそれは、騎士として殿下のお役に立つ事ができていると言うことが、前提だった。
騎士の誓いをしたのに…
頭の中で…騎士の誓いの言葉が聞こえた。
『謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となり、主の敵を討つ矛となり、騎士である身を忘れることなく、この命を主に…尽くすことを誓う。』
時間がないのに…私は…
この不安から抜け出せない。
黙り込んだお父様と私に…お父様を呼ぶ、女性の泣きそうな声が聞こえてきた。
「ウ、ウィスレット侯爵様!!」
茶色い髪を高く結い上げ、首元までぴっしりとボタンで留めたドレスに身を包んだ女性が、その格好とは裏腹に、バタバタと音が聞こえるような足音で、走ってくるのが見えた。
「じょ、女官長?!!」
「あぁ…良かった。ここでウィスレット侯爵様にお会いできたのは…ほんとうに…」
と言って、涙ぐみ…そして叫ばれた。
「姫を、ミランダ姫をお助けくださいませ!!」
「ミランダ姫がどうされたのですか!」
「ルシアン殿下が具合を悪くされ、床に伏せっていると聞かれた姫は、お見舞いに行くと言われ、もう今からでは、時間も遅うございますし、殿下にもご連絡しておりませんので、明日…と申し上げましたら…」
嫌な…そうなんか嫌な予感がした。お父様もそう思われたのか、私と声が重なった。
「「…申し上げたら?」」
「では小鳥になって、空を飛んで行くと仰られて…木の上に登ろうとされておられるのです!」
「「こ、ことり?!!」」
で、でた!今週は小鳥バージョンだったんだ。
「お願いです!助けてくださいませ!今、侍女が必死で止めておりますが、私共の話など聞いては下さりません。でも!ミランダ姫が慕っておられる殿下と侯爵の言うことなら、ぜっ~たい聞いてくださいます。」
お父様の目が…私を見た。その目は…
《行け、お前が行け。》
《今、私はシリルです、この格好では会えません。》
《あっ、で、でも…》
お父様に目が揺れている。
・
・
よし!おわかり頂けたようだ。
「では…お父…ウィンスレット侯爵、私はここで失礼致します。」
「ちょ、ちょ、待て!」
そう叫んだお父様の右手を、女官長はしっかりつかむと引きずるように
「ウィンスレット侯爵様!お早く!」
お父様の必死な声が聞こえきた。
「私は裏切らないと信じているぞ!お前は、守りたいと思う人を、助けてやりたいと思う人を見捨てるようなことはしない!おーい!!私はお前を信じてる。だから、おい逃げるな~!」
…と、必死で私に助けを求めるお父様の声を、背中で聞きながら(そのセリフはさっき聞いたのと同じだ。でも、状況が違うと…ずいぶん受ける印象が…)と思ったら、ようやくクスッと笑みが口元から零れた。
まだ…笑える。
まだまだ、不安だけど、まだ笑える。
私は右手にそっと触れた。
信じよう。だから今はだたやるのみ!前に向かってやるのみ!
「…お前をここまで、強くした右手を責めるな。信じるんだ。」
「でも…」
「私は裏切らないと信じている。お前の右手は、守りたいと思う人を、助けてやりたいと思う人を見捨てるようなことはしない。ロザリー…私はお前を信じてる。」
「お父様…。」
「今の私は…こんな事しか言えぬ。父として、騎士の先輩として、こんなに悩むお前に、こんな事しか言えぬとは情けない。すまぬ。もっとお前の話を聞いてやりたい、お前にもっと考える時間をやりたい。だが、答えを見つけるだけの時間は、今はやれないのだ。殿下は90日で、片を付けるおつもりだ。」
「90日…。」
「だから今は…違う形で、殿下にお仕えしてくれ。」
「それは…後宮に入り込むことですか?ミランダ姫の侍女に…」
お父様は頷かれ
「今は女のお前にしかできぬことで、殿下を助けてくれ。」
殿下の剣となり、盾となって、殿下をお助けすることだけが、仕えることではないとはわかっている、だから、後宮にもぐりこむことには、なんの躊躇いもなかった。だがそれは、騎士として殿下のお役に立つ事ができていると言うことが、前提だった。
騎士の誓いをしたのに…
頭の中で…騎士の誓いの言葉が聞こえた。
『謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となり、主の敵を討つ矛となり、騎士である身を忘れることなく、この命を主に…尽くすことを誓う。』
時間がないのに…私は…
この不安から抜け出せない。
黙り込んだお父様と私に…お父様を呼ぶ、女性の泣きそうな声が聞こえてきた。
「ウ、ウィスレット侯爵様!!」
茶色い髪を高く結い上げ、首元までぴっしりとボタンで留めたドレスに身を包んだ女性が、その格好とは裏腹に、バタバタと音が聞こえるような足音で、走ってくるのが見えた。
「じょ、女官長?!!」
「あぁ…良かった。ここでウィスレット侯爵様にお会いできたのは…ほんとうに…」
と言って、涙ぐみ…そして叫ばれた。
「姫を、ミランダ姫をお助けくださいませ!!」
「ミランダ姫がどうされたのですか!」
「ルシアン殿下が具合を悪くされ、床に伏せっていると聞かれた姫は、お見舞いに行くと言われ、もう今からでは、時間も遅うございますし、殿下にもご連絡しておりませんので、明日…と申し上げましたら…」
嫌な…そうなんか嫌な予感がした。お父様もそう思われたのか、私と声が重なった。
「「…申し上げたら?」」
「では小鳥になって、空を飛んで行くと仰られて…木の上に登ろうとされておられるのです!」
「「こ、ことり?!!」」
で、でた!今週は小鳥バージョンだったんだ。
「お願いです!助けてくださいませ!今、侍女が必死で止めておりますが、私共の話など聞いては下さりません。でも!ミランダ姫が慕っておられる殿下と侯爵の言うことなら、ぜっ~たい聞いてくださいます。」
お父様の目が…私を見た。その目は…
《行け、お前が行け。》
《今、私はシリルです、この格好では会えません。》
《あっ、で、でも…》
お父様に目が揺れている。
・
・
よし!おわかり頂けたようだ。
「では…お父…ウィンスレット侯爵、私はここで失礼致します。」
「ちょ、ちょ、待て!」
そう叫んだお父様の右手を、女官長はしっかりつかむと引きずるように
「ウィンスレット侯爵様!お早く!」
お父様の必死な声が聞こえきた。
「私は裏切らないと信じているぞ!お前は、守りたいと思う人を、助けてやりたいと思う人を見捨てるようなことはしない!おーい!!私はお前を信じてる。だから、おい逃げるな~!」
…と、必死で私に助けを求めるお父様の声を、背中で聞きながら(そのセリフはさっき聞いたのと同じだ。でも、状況が違うと…ずいぶん受ける印象が…)と思ったら、ようやくクスッと笑みが口元から零れた。
まだ…笑える。
まだまだ、不安だけど、まだ笑える。
私は右手にそっと触れた。
信じよう。だから今はだたやるのみ!前に向かってやるのみ!
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