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王子様も結構…やります。
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どれだけ…過保護なんだと俺はクスリと笑った。
どうやら、侯爵は、息子のシリルがまだ戻って来ないことが、余程気になって仕方ないのだろう。
ベットで横になっていた俺は体を起こし、窓ガラスにへばりつくように立つ侯爵に笑っていた。
やはりひとり息子は可愛いいのだろう。
いや…娘の結婚の時も号泣したと聞いたから、子煩悩なのだ侯爵は…
だから……
そう、だから…俺に嘘をついてまで、なにかを隠そうとした。
ロザリーという娘には、なにかある…俺に言えないなにかが…
侯爵やその息子シリルが嘘をついてでも、ロザリーのなにかを隠そうとしたことは気にはなる。
だが…侯爵が泣きそうな顔で言った嘘には…悪意が感じられなかった。
その息子の騎士の誓いには…真摯な気持ちが溢れていた。
だから、信じる。それ以上の詮索は無用だ。
だから…忘れよう。
青い瞳…青いドレス…を
『医者を呼ぶなと仰るのなら、殿下の右腕は、私に止血させてください。』
と言って、ドレスの左袖を引きちぎった姿を。
扉の近くで、ゆっくりと、あの青いドレスを細い肩から落としてゆき、扉に手を置き祈っているような姿を。
……忘れよう。
意識が遠のく前に、もっと彼女を見ていたいと思った気持ちを
……忘れよう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか視線が下がっていたのだろう。
ハッとして、顔を上げたとき
窓の外に眼をやって、ニヤリと笑う侯爵に気がついた。
「侯爵、どうしたんだ。あまり人が良い笑みには見えなかったぞ。」
「すみません、殿下。ちょっと…わくわくしておりました。」
「わくわく?」
「はい。うちのシリルが…従兄らに絡まれておりましたのを見て、年甲斐もなくちょっとわくわくして…しまいました。」
俺は、ベットから出ると、窓の前に立つ侯爵の横に並び、中庭で三人に囲まれるシリルに眼をやった。
「ほぉ~、3対1か。もちろん…」
「はい、もちろんでございます。」
「ならば、見せてもらおうか…ウィンスレット侯爵家の嫡男の腕前を…」
「御意。」
そう言って、笑った侯爵に、俺も笑った。
小柄な体を利用したシリルの動きは、早くそして的確で、思わず感嘆の声が出るほど、美しい動きだった。だが、あまりにも一方的な戦いに…隣に立つ侯爵から
「つまらん。」と小さな声が聞こえ、思わず苦笑した。
確かにあれでは…ダメだ。あの三人では…とてもシリルをやれない、それどころかシリルにかすり傷ひとつ、つけることもできないだろう。
「古武術か…」
「はい。」
「攻撃はもちろんだが、戦場で負傷した者を運ぶことも容易になる。だったな…師匠?」
「殿下…師匠は止めてください。」
「侯爵は、剣や古武術を教えてくれた私の師匠であることは、間違いないではないか。」
「いや…師匠と呼ばれるほど、うまくお教えできませんでしたし、無礼な振る舞いばかりで…あの時は…申し訳ありません。」
「確かに、あの頃の侯爵は厳しかったな。」
「私には、男子がおりませんでしたから…おそれながら殿下が、息子のように思え、私のすべての武を伝えたいと、ついつい厳しくなってしまいました。申し訳ありません。」
「だが…そのおかげでそれなりに強くなった。」
俺は侯爵の襟をしっかりと握ると、肘を外側に出すようにして、釣り上げ、侯爵のかかとが浮いた瞬間、俺はにやりと笑って、侯爵を投げた。
侯爵は、仰向けになったまま
「殿下…」
と、情けない声をあげ、その声に俺は大きな声で笑いながら、俺も侯爵の横に寝転んだ。
いろいろとあった…
いや、まだこの国でやらねばならない事がある。
不穏分子の一掃。
俺は横に寝転ぶ、侯爵に顔を向け
「侯爵は、俺の師でもあり、そして…父親のような存在。」
「殿下?」
「だが…その命を俺にくれ。」
「はい。その覚悟は、とうの昔に決めております。」
でも…次に言う言葉は、顔を見ては言えなくて、目を瞑り
「それは…侯爵個人の覚悟か…それとも侯爵家の覚悟か…」
息を飲む侯爵の気配を感じた。
子煩悩の侯爵に俺は、息子シリルの命もくれと言っているのだ。
「…騎士の誓いを立てたシリルはすでに、殿下の剣であり、盾でございます。」
侯爵の落ち着いた声に、俺は…
「ならば…90日で終わらせるために…ウィンスレット侯爵家のすべてを貰い受ける。」
「御意。」
どうやら、侯爵は、息子のシリルがまだ戻って来ないことが、余程気になって仕方ないのだろう。
ベットで横になっていた俺は体を起こし、窓ガラスにへばりつくように立つ侯爵に笑っていた。
やはりひとり息子は可愛いいのだろう。
いや…娘の結婚の時も号泣したと聞いたから、子煩悩なのだ侯爵は…
だから……
そう、だから…俺に嘘をついてまで、なにかを隠そうとした。
ロザリーという娘には、なにかある…俺に言えないなにかが…
侯爵やその息子シリルが嘘をついてでも、ロザリーのなにかを隠そうとしたことは気にはなる。
だが…侯爵が泣きそうな顔で言った嘘には…悪意が感じられなかった。
その息子の騎士の誓いには…真摯な気持ちが溢れていた。
だから、信じる。それ以上の詮索は無用だ。
だから…忘れよう。
青い瞳…青いドレス…を
『医者を呼ぶなと仰るのなら、殿下の右腕は、私に止血させてください。』
と言って、ドレスの左袖を引きちぎった姿を。
扉の近くで、ゆっくりと、あの青いドレスを細い肩から落としてゆき、扉に手を置き祈っているような姿を。
……忘れよう。
意識が遠のく前に、もっと彼女を見ていたいと思った気持ちを
……忘れよう。
そんなことを考えていたら、いつの間にか視線が下がっていたのだろう。
ハッとして、顔を上げたとき
窓の外に眼をやって、ニヤリと笑う侯爵に気がついた。
「侯爵、どうしたんだ。あまり人が良い笑みには見えなかったぞ。」
「すみません、殿下。ちょっと…わくわくしておりました。」
「わくわく?」
「はい。うちのシリルが…従兄らに絡まれておりましたのを見て、年甲斐もなくちょっとわくわくして…しまいました。」
俺は、ベットから出ると、窓の前に立つ侯爵の横に並び、中庭で三人に囲まれるシリルに眼をやった。
「ほぉ~、3対1か。もちろん…」
「はい、もちろんでございます。」
「ならば、見せてもらおうか…ウィンスレット侯爵家の嫡男の腕前を…」
「御意。」
そう言って、笑った侯爵に、俺も笑った。
小柄な体を利用したシリルの動きは、早くそして的確で、思わず感嘆の声が出るほど、美しい動きだった。だが、あまりにも一方的な戦いに…隣に立つ侯爵から
「つまらん。」と小さな声が聞こえ、思わず苦笑した。
確かにあれでは…ダメだ。あの三人では…とてもシリルをやれない、それどころかシリルにかすり傷ひとつ、つけることもできないだろう。
「古武術か…」
「はい。」
「攻撃はもちろんだが、戦場で負傷した者を運ぶことも容易になる。だったな…師匠?」
「殿下…師匠は止めてください。」
「侯爵は、剣や古武術を教えてくれた私の師匠であることは、間違いないではないか。」
「いや…師匠と呼ばれるほど、うまくお教えできませんでしたし、無礼な振る舞いばかりで…あの時は…申し訳ありません。」
「確かに、あの頃の侯爵は厳しかったな。」
「私には、男子がおりませんでしたから…おそれながら殿下が、息子のように思え、私のすべての武を伝えたいと、ついつい厳しくなってしまいました。申し訳ありません。」
「だが…そのおかげでそれなりに強くなった。」
俺は侯爵の襟をしっかりと握ると、肘を外側に出すようにして、釣り上げ、侯爵のかかとが浮いた瞬間、俺はにやりと笑って、侯爵を投げた。
侯爵は、仰向けになったまま
「殿下…」
と、情けない声をあげ、その声に俺は大きな声で笑いながら、俺も侯爵の横に寝転んだ。
いろいろとあった…
いや、まだこの国でやらねばならない事がある。
不穏分子の一掃。
俺は横に寝転ぶ、侯爵に顔を向け
「侯爵は、俺の師でもあり、そして…父親のような存在。」
「殿下?」
「だが…その命を俺にくれ。」
「はい。その覚悟は、とうの昔に決めております。」
でも…次に言う言葉は、顔を見ては言えなくて、目を瞑り
「それは…侯爵個人の覚悟か…それとも侯爵家の覚悟か…」
息を飲む侯爵の気配を感じた。
子煩悩の侯爵に俺は、息子シリルの命もくれと言っているのだ。
「…騎士の誓いを立てたシリルはすでに、殿下の剣であり、盾でございます。」
侯爵の落ち着いた声に、俺は…
「ならば…90日で終わらせるために…ウィンスレット侯爵家のすべてを貰い受ける。」
「御意。」
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