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いつかは…罰を受ける覚悟で

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ルシアン王子は、私を見つめていた赤い瞳を瞼の下に隠すと
「そうか…」
と、ひとこと言って俯かれた。

あぁ…やっぱり、お父様の言ったことは、嘘だとわかっていらっしゃる。

自分の部屋に忍びこんだ女が、ハイヒールを放り投げ、浮かれたように、ひとりで踊っている様は…恋する思いが溢れ、夜這いに来たなどと見えるはずなどない。
どう見ても、恋する女じゃなくて、頭のおかしい女だ。

お父様を信じていらっしゃるんだ。
そんな嘘をつかなければならなかったお父様を…。
責めるわけでもなく、その理由を聞くわけでもないのは、お父様のやる事を信じているから…。

そんな話をルシアン王子は……嘘だとわかっても信じようとされている。

お父様も、ご自分がつかれた嘘を、ルシアン王子が、気付いておいでなことはわかっているだろう。そして…その嘘を信じようとされていることも…

「そうか…」
と、もう一度言われたルシアン王子に、お父様は、もう耐え切れなかったようだ。

顔を歪めると…大きな声で
「で、殿下!」

と言って床に膝をつくと

「も、申し訳…」と頭を垂れ、嘘をついたことを告白しようとするお父様の言葉を、ルシアン王子は、言わせまいとして、お父様に声をかけられた。

「ウィンスレット侯爵…国を出る前に、ロザリーに会わせて貰えないだろうか?」

「殿下…。」
と泣きそうなお父様の声に、ルシアン王子は苦笑すると、

「私を慕って、夜這いに来たロザリーに、手を出そうなどと思ってもいない。安心しろ。ただ、礼を言いたいのだ。この国にもう二度と戻ることはないだろうから、その前に礼を言っておきたい。」

「……ほんとに礼などと…」

「ドレスの左袖を躊躇なく、引きちぎって止血をしてくれた、男前の侯爵令嬢に、敬意を表したいんだ。体が弱いと聞いていたが…さすが、武門の誉れ高きウィンスレットだな。恐れ入ったよ。」

ルシアン王子の言葉に、お父様は頭を下げ
「ありがたきお言葉…」

と言ったが、次の言葉が言えないようだった、自分の告白を遮ったルシアン王子に、どう言ったら良いのかわからないのだろう。

そっと私に視線を投げたが、決心したように…頷かれた。

お父様は、やはり告白するつもりなのだろう。
その決断の前に…私に言わせてください。

私はルシアン王子の前に跪くと
「姉ロザリーは、父上が仰るように殿下の部屋に忍びこむほど、お慕いしていたのかは、わかりません。ですが、いつも厳しく鋭い眼差しの殿下が、国民の前に立つ時だけは、目元をやわらげられる。そのお姿を見るたびに、殿下がこの国を、そして民を、どんなに大事に思っていらっしゃるのかが、わかると申しておりました。」

「…俺のことをそう言ってくれる者が、この国には、まだいてくれるのか…。」

ルシアン王子は微笑むと
「この国は安泰だな。ウィンスレット侯爵家の双子が、この国を支える者へとなって行くのだから…。あとは…頼むぞ。」

「殿下…」

お父様が嗚咽を堪え、頭を垂れると、
「わが侯爵家は、殿下が愛していらっしゃるこの国を、必ず守って行きます。」

黙って頷かれたルシアン殿下に、お父様は…やはり言われた。
「ロザリーは、間違いなく私の娘…大事な娘でございます。ただ…私のせいで、今難しい立場になってしまいました。ですが…殿下を、この国を、謀るつもりはありません。」

「なら良い。」

「殿下。」

「なら良いと申した。侯爵がブラチフォード国を、そして私を裏切るのではないのなら、それ以上は言わなくても良い。」

お父様は眼を瞑ると、片膝を付き、騎士の礼をとると
「殿下の臣下でなくなりましても、殿下は生涯、私の大切な御方でございます。」

そんなお父様を見て、私へと視線を移された殿下に…

私は…騎士の礼をとることも忘れ、両膝を床に付け正座をしたような格好で、騎士の誓いを口にしていた。

「…謙虚であれ、誠実であれ、裏切ることなく、欺くことなく、弱者には常に優しく、強者には常に勇ましく、己の品位を高め、堂々と振る舞い、民を守る盾となり、主の敵を討つ矛となり、騎士である身を忘れることなく、この命を主に…尽くすことを誓う。」


「わが名…ルシアン・コーネリアス・ブラチフォードの下に汝を騎士として認める。」


ぜんぜんカッコ良くない騎士の誓いだったけど、一番心がこもった誓いだと思えた。

王子にもそう思って欲しいと、ルシアン王子の赤い瞳をじっと見つめると、王子は私の額を指で弾かれ、ニヤリと笑うと

「でも、その赤いコートは頂けんぞ。早く、脱げ」

……あっ…そうだった…。
発端はこれだ。まだ解決していなかったんだ。

ゴックンと唾を飲み込んだ私に…、ルシアン王子は、大きな声で笑われ
「おかしな奴だな。ここで脱がなくても良い。早く行け。早くロザリーの元へ行って、返してまいれ。」

「は、はい!」
慌てて立ち上がって、扉へと走った。



これでよかったのかは、わからない。
国や、ルシアン王子を謀り、この国を危機に落とそうなどとは、お父様も私もぜんぜん思ってもいない、だけど女である事を隠し、男として侯爵家を守ろうとすることは…国の法に触れることだ。

いつか…罰を受けないといけないのかもしれない。

扉を背に、頭を下げようとした時、私の眼に……
笑うルシアン王子と、私と同じことを考えているのか、厳しい顔のお父様が見えた。


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