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王子様は驚愕する。

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まるで殺されるかのように、叫ばれて…呆然とした。

…そんなに叫ぶほどのことか?


俺は溜め息を付き、少年の胸倉から手を外すと
「俺も意固地なってしまった。すまない。だが何でそう意地なってるんだ。誰かにそんな姿を見られたら、騎士としてはやって行けないぞ。とにかく早く脱いで、女に返して来い。」

少年は俯くと
「でも…あ、あの…、もう…行ってしまったので…返せないんです。」
と言って、コートの前をぎゅっと握った。


もう…行ってしまった?!



そう思った瞬間、青い瞳…青いドレスが浮かんだ。
まさかその女なのか?…そのコートの女は…。

「その女…その赤いコートの女は、青い瞳で青いドレスの女か?」

こいつは大きく眼を見開くと、小刻みに頭を横に振った。

嘘だ…な。

あの女性はいたんだ…。
俺の部屋で踊っていた女性。
ドレスの左袖を引きちぎって、俺の右腕を止血したあの女性は…いたんだ。

俺はまだはっきりしていない頭で、自分の右腕を見た。
そこには、あの女性の青い左袖はなく、白い包帯。

どういうことだ?

問うように、赤いコートを羽織った少年に眼をやれば、恨めしげに俺を見ている。

なんだ…その眼は…
もう聞くなと、言っているようだな。

だが、青い瞳で青いドレスの女をひた隠す事といい、この異常なまでに、この女物のコートに執着するといい…気になる。

そう言えば、こいつ…妙な事をしていたな。扉に手を置いて、なにかを言っていた。
あれはもしかして、扉を挟んで、あの女性と話しをしていたのか?

「朝一番・・」…と、こいつが言っていたのは、扉越しにあの女性との朝一番に会おうという約束をしていたのか…?

もう一度、少年に眼をやると、俺がなにか言う前から、小刻みに頭を横に振っている。

なんにも言わないと言うポーズか…おいおい

はぁ…隠されると気にはなるな。
「誰なんだ?お前とそう変わらない年齢の青い瞳に青いドレスの女性は…?隠さなければならないのはなぜだ?」

小刻みに頭を横に振っていた少年は、俯くと動かなくなったしまった。

「おい、聞いているのか?」


コンコン・・


まるで、秘密を暴こうとするのを邪魔するように、誰かが扉を叩いた。

「…入れ。」

入って来た人物は…大きな声で、「ルシアン殿下!!」と俺の名を叫ぶと鼻を啜りながら
「おおっ!殿下!傷はたいしたことがなかったのに、毒のせいで、出血が止まらず心配しておりました。あぁ、良かった。安心しました。」

ウィンスレット侯爵はこの城内で俺の為に泣いてくれる、数少ない人物のひとり。この侯爵の優しい心があったから、俺はいつも微笑みを絶やすことなく、この城にいることができたが、だが、もうこれ以上、俺に関わるのは、たとえ侯爵でも危険になってきた。だから俺は、彼らのために…俺を大事に思ってくれる人達のために…この国を出る覚悟ができた。

もう…いい。
もう俺はいい。

俺を心配してくれる、その優しい心に…鼻を噛みながら、何度もよかったと口にするウィンスレット侯爵の姿に…俺は微笑んだ。

だが突然…
ズズッと鼻を啜った侯爵は、じっと少年を見て、訝しげに眉をあげると驚くようなことを叫んだ。

「シリル…なぜお前は、母親のコートなんぞ着ているのだ?」

「お…父上!」

シリルだって…その名は、侯爵の息子ではないか?
…まさか…こ、こいつが?こいつがか?

でも、ウィンスレット侯爵夫人は知っている。あの青い瞳に青いドレスの女性ではない。
では、青い瞳に青いドレスの女性は…誰だ?

俺は…今度はウィンスレット侯爵に聞いた。
「俺を助けてくれた、あの青い瞳に青いドレスの女性に礼を言いたいのだが…」

「それは私の娘です。お礼など、とんでもない。どうぞお気になさないで、くださいませ。」

眼の端で、シリルが頭を抱え込むのが見えた。


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