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ラストダンスは…ガッツポーズで
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お父様は、腰を屈め私のハイヒールを手に取ると
「大広間で踊れたのか?」と言って、私を見つめた。
「…ハイヒールが気になって、足元ばかり見ていたら…迷子になってしまい、踊るどころか、大広間にもたどり着いてもおりません。」と苦笑すると
「あれほど仮面舞踏会に出たいと言っておったのに…」
「ダンスは…どうやら私には不向きのようです。」
「…ダンスは上手いではないか?」
「男性のパートは…得意なんですが、女性のパートになると、なんだ妙に力が入って…」
そう言って、俯いた私にお父様は…
「私が相手では不満だろうが…踊ってくれるか?」
「お父様…」
「まだ…大広間では演奏が続いておる。」
そう言って、私の足元にハイヒール揃えると
「舞踏会で…踊らせてやれなくて…すまなかった。」
私は揃えられたハイヒールに目をやったが、すぐにベットに横たわるルシアン王子にその視線を移した。
剣の腕も、馬も、騎士としての実力は、誰にも引けはとらない自信がある。
でも……どんなに強くなっても男にはなれない。
……この体は女だ
踊りたいわけではなかった。ただ…舞踏会に女として出たかっただけだ。男でもない、そして女でもない今の中途半端な自分を…他人から見たら、どう見えるのか知りたかっただけ。
お父様の俯いた姿に唇を噛んだ。
でも今は…なにも考えまい。男でも女でもないから…ルシアン王子を守る事が出来るのだから。
だから…今はやるだけ
「いいんですか?私とのダンスは危険を伴いますよ。足元は充分お気をつけ下さいませ。お父様。」
「ロザリー…」
「ラストダンスでしょうか…ワルツが…」
と言って、私は体を曲に委ねるように目を瞑った。
この舞踏会のラストダンス。
差し出されたお父様の手に、私は自分の手を重ね、クスッと笑い
「おみ足をお守りくださいませ、お父様。」
「…あぁ、お前に足を踏まれないように、私は己の足を守らねばならんな。」
「はい、私は攻めてゆきます。」
「お手柔らかに…レディ・ロザリー」
私は…淑女らしく、口元を扇子で隠しながら笑った。
ラストダンスは、余分な力が抜けたせいだろうか、自分でも驚くほどの出来で、曲が終わった瞬間、思わずガッツポーズをした私に、お父様は苦笑し
「ロザリー、まもなくルシアン王子の護衛が来るから、お前は先に部屋を出なさい。」
私は頭を横にふって
「お父様、今夜はこのままルシアン王子の側に付き添うつもりです。」
「だが…」
「今宵、ルシアン王子を守らねばならなかった護衛二人は…何をしていたのでしょうか。信用できません。」
私のひと言に、お父様は「あぁ…」と言って唇を噛んだ。
毒や、傷の処置をし、今深い眠りのルシアン王子は無防備、そんなところに不審な動きをしていた護衛は近づかせたくはない。
ルシアン王子の護衛はお父様が選んだ騎士のはず、きっと御自分を責めておられるだろうなぁ…。
だから明るく
「ですが…さすがに…」
と言って、ドレスを持ち上げると、お父様は少し口元を緩められ
「確かにそうだな。服を持って来させよう。」
「お願いします。」
「だが…大丈夫か、ロザリー…。」
「お父様…いえ、父上。私は今よりウィンスレット侯爵家の長男シリルです。」
「…そうだったな。シリル。」
「はい。」
お父様は私をじっと見つめて
「シリル、ルシアン王子を頼む。」
そう言って、俯くと
「無理をさせる。」と言って、部屋を出て行かれた。
お父様…
私は窓ガラスへと足を動かし、立ち去ってゆくお父様の背中に…話しかけた。
私は騎士として誓いをたてたその覚悟に一転の曇りもありません。
女ということも、この90日間は忘れるつもりです。
ですが…どうしても、言えなかったことがあるんです。
言えば、お父様は不安になられると思うと言えませんでした。
【お父様、私は…。】
・
・
お父様はゆっくりと歩いて、時折すれ違う方々から挨拶を受けると、口元を綻ばせながら、言葉を交わされ、またゆっくりと歩いて行かれる。
【私は、迷わず人を切れるでしょうか?】
・
・
あの角を曲がられたら…もう見えなくなるが、お父様は一度も振り返ることなく行かれる。
【ルシアン王子を守るために騎士として、ルシアン王子の盾に、そして刃になる覚悟です。ですが…】
・
・
窓ガラスに、無表情な顔が映っていた。
【私に人が切れるでしょうか?一瞬の迷いが、ルシアン王子の命を危うくするかもしれないのに…いざと言うときに、私は人を切る事ができるか…不安です。】
・
・
人を切る覚悟。
それは…人の命を取る覚悟。
出来るだろうか、危機が迫ったときに、この手で人を殺めることが…。
もしも、この手で人を殺めることが出来なければ…そのときは…
そう、そのときは…この身を挺して、ルシアン王子のお命を守るのみ。
握り締めた手に、うっすらと汗をかき、私は大きく息を吸い
「王子様を守る90日が始まった。」と口にした。
「大広間で踊れたのか?」と言って、私を見つめた。
「…ハイヒールが気になって、足元ばかり見ていたら…迷子になってしまい、踊るどころか、大広間にもたどり着いてもおりません。」と苦笑すると
「あれほど仮面舞踏会に出たいと言っておったのに…」
「ダンスは…どうやら私には不向きのようです。」
「…ダンスは上手いではないか?」
「男性のパートは…得意なんですが、女性のパートになると、なんだ妙に力が入って…」
そう言って、俯いた私にお父様は…
「私が相手では不満だろうが…踊ってくれるか?」
「お父様…」
「まだ…大広間では演奏が続いておる。」
そう言って、私の足元にハイヒール揃えると
「舞踏会で…踊らせてやれなくて…すまなかった。」
私は揃えられたハイヒールに目をやったが、すぐにベットに横たわるルシアン王子にその視線を移した。
剣の腕も、馬も、騎士としての実力は、誰にも引けはとらない自信がある。
でも……どんなに強くなっても男にはなれない。
……この体は女だ
踊りたいわけではなかった。ただ…舞踏会に女として出たかっただけだ。男でもない、そして女でもない今の中途半端な自分を…他人から見たら、どう見えるのか知りたかっただけ。
お父様の俯いた姿に唇を噛んだ。
でも今は…なにも考えまい。男でも女でもないから…ルシアン王子を守る事が出来るのだから。
だから…今はやるだけ
「いいんですか?私とのダンスは危険を伴いますよ。足元は充分お気をつけ下さいませ。お父様。」
「ロザリー…」
「ラストダンスでしょうか…ワルツが…」
と言って、私は体を曲に委ねるように目を瞑った。
この舞踏会のラストダンス。
差し出されたお父様の手に、私は自分の手を重ね、クスッと笑い
「おみ足をお守りくださいませ、お父様。」
「…あぁ、お前に足を踏まれないように、私は己の足を守らねばならんな。」
「はい、私は攻めてゆきます。」
「お手柔らかに…レディ・ロザリー」
私は…淑女らしく、口元を扇子で隠しながら笑った。
ラストダンスは、余分な力が抜けたせいだろうか、自分でも驚くほどの出来で、曲が終わった瞬間、思わずガッツポーズをした私に、お父様は苦笑し
「ロザリー、まもなくルシアン王子の護衛が来るから、お前は先に部屋を出なさい。」
私は頭を横にふって
「お父様、今夜はこのままルシアン王子の側に付き添うつもりです。」
「だが…」
「今宵、ルシアン王子を守らねばならなかった護衛二人は…何をしていたのでしょうか。信用できません。」
私のひと言に、お父様は「あぁ…」と言って唇を噛んだ。
毒や、傷の処置をし、今深い眠りのルシアン王子は無防備、そんなところに不審な動きをしていた護衛は近づかせたくはない。
ルシアン王子の護衛はお父様が選んだ騎士のはず、きっと御自分を責めておられるだろうなぁ…。
だから明るく
「ですが…さすがに…」
と言って、ドレスを持ち上げると、お父様は少し口元を緩められ
「確かにそうだな。服を持って来させよう。」
「お願いします。」
「だが…大丈夫か、ロザリー…。」
「お父様…いえ、父上。私は今よりウィンスレット侯爵家の長男シリルです。」
「…そうだったな。シリル。」
「はい。」
お父様は私をじっと見つめて
「シリル、ルシアン王子を頼む。」
そう言って、俯くと
「無理をさせる。」と言って、部屋を出て行かれた。
お父様…
私は窓ガラスへと足を動かし、立ち去ってゆくお父様の背中に…話しかけた。
私は騎士として誓いをたてたその覚悟に一転の曇りもありません。
女ということも、この90日間は忘れるつもりです。
ですが…どうしても、言えなかったことがあるんです。
言えば、お父様は不安になられると思うと言えませんでした。
【お父様、私は…。】
・
・
お父様はゆっくりと歩いて、時折すれ違う方々から挨拶を受けると、口元を綻ばせながら、言葉を交わされ、またゆっくりと歩いて行かれる。
【私は、迷わず人を切れるでしょうか?】
・
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あの角を曲がられたら…もう見えなくなるが、お父様は一度も振り返ることなく行かれる。
【ルシアン王子を守るために騎士として、ルシアン王子の盾に、そして刃になる覚悟です。ですが…】
・
・
窓ガラスに、無表情な顔が映っていた。
【私に人が切れるでしょうか?一瞬の迷いが、ルシアン王子の命を危うくするかもしれないのに…いざと言うときに、私は人を切る事ができるか…不安です。】
・
・
人を切る覚悟。
それは…人の命を取る覚悟。
出来るだろうか、危機が迫ったときに、この手で人を殺めることが…。
もしも、この手で人を殺めることが出来なければ…そのときは…
そう、そのときは…この身を挺して、ルシアン王子のお命を守るのみ。
握り締めた手に、うっすらと汗をかき、私は大きく息を吸い
「王子様を守る90日が始まった。」と口にした。
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