2 / 214
本日、私は青いドレスとハイヒール。
しおりを挟む
【不安げな顔をして、本当に大丈夫?】
私は、鏡の中の私に言った。
見慣れない栗色の髪、14歳の時に着て以来の青いドレス。
泣きそうな顔で立っている女性は、いつもとは違う私。
似合わない…全然似合わない。
でもこれが最後のチャンス。明日からは、もう二度とこんなことはできないから。
誰かに誘ってもらえるだろうか…?
万が一、ダンスに誘ってもらっても、この仮面できっと私とはわからないだろうなぁ。
ううん、まさかドレスを着て、来ているとは思わないよ。
ああぁ…気づいて欲しいと思う反面、絶対!私だと気づいて欲しくないと思ってしまう…複雑…。
だって、これが女性として最後の…仮面舞踏会なんだもの。
でも…私は…今。
「どうしよう…。大広間に行けない。迷子だ。」
なにやってんだか、必死な覚悟で来たと言うのに、なに迷子になっての…私。
ヒールだ。やっぱりこのハイヒールのせいだ。体がふらついて、足元を見ないとうまく歩けなかったから、足元ばかり見ていて…変なところに入り込んじゃった。
ハイヒールを履くのは、18年の人生で2度目。
前回は4年前のアリス姉さまの結婚式以来、なのにドレスにハイヒールで、王宮の舞踏会に行こうなんて、大それたことを考えたせいだ。
ハードルが高かった。
明日からは騎士団の一員として、男として生きるんだもの。最後の夜ぐらいレディとして、過ごしたかったのに、ダンスだって女性のステップを練習して来たのに…最後の夜はこれだなんて…最悪。
お父様がいけないんだ。
私を男女の双子ということで、育てようとするなんて、だいたい無理があるの!
そ、そりゃぁ…私は…
確かに、馬車に乗るより、馬に跨ったほうが好き。
刺繍をするより、剣の稽古をする方が好きだったりするけど…
綺麗なドレスだって好きだし、髪だって…ほんとうは伸ばしたい。こんなウィッグでなんかで、誤魔化したくないよ。
病弱な双子の姉弟、いつもどちらかが体調を崩し、屋敷に篭もっている…そんな設定でほんとよく、18年もやってきたものだわ。あぁ、でも、まさか18の歳まで、一人二役をやるなんて…ありえない。これで騎士団の寮に入る事になっていたら、お父様はどうするつもりだったんだろう。
いや…あの父なら
「お前の剣の腕はピカイチだ。そんじょそこらの男に引けはとらんわ!」と言うわよね。
確かにそうだけど…少しは娘の貞操を心配して欲しい!
まぁ…運が良いのか、悪いのか…あの第二王子付きになったことで、寮生活は免れたけど、第二王子様は…ルシアン王子はあと三ヶ月余りで、隣国の姫と結婚を控えている。
その間だけの…90日間だけの…任務。
黒い髪に赤い瞳のルシアン王子。肩より少し長い黒い髪を結び、浅黒い肌に鋭く赤い瞳、でも国民の前に立った時、ほんの少し目元を和らげ微笑むあの姿、カッコ良いいのよね。ううん、それだけじゃない…あの大きな体に見合う剣捌きも見事なんだもの。
憧れていたんだけどなぁ。私より3つ上だから、もし隣国の話がなければ…そして私がただの侯爵令嬢だったら、お話があったかも…なんて思ったこともあったけど…。
はぁ~もっとも、今の私の状態では縁談も来ないか。
…なんだか、すっごく疲れた。
今、何時だろう。お父様に最後だから、女性として舞踏会に出たい!と言って来たのはいいけど、もうダンス始まってるよね。踊りたかったなぁ…。
でも、もういいや。どうせヒールで痛めたこの足では踊れないし、だからと言って仮面舞踏会とはいえ、裸足で踊ったらひんしゅくものだもの。
あっ!!でも、ここなら…。うん、そうよ。ここならいいよね。
この部屋なら、家具はあの長椅子とベットぐらいだもの。
それにしても…ここって…客間なんだろうか?それにしても、家具がこれだけって…変だよね。
まぁ、家具がない分、広いからいいんだけどね。
はあぁ…ヒールをぽんと投げ、もう最高!
「…足が生き返る!」
かかとが少し赤くなった右足を見て、
「踊る前から、これでは…、無理だったかも…」
微かに聞こえてくる音楽に…体を揺らし…そっと左足を出した。
目を瞑ると、そこは舞踏会。そしてパートナーが微笑んでいる。
そう…ゆっくり右足を軽くひいて、パートナーに挨拶を…
踊るのは大好き。幼い頃から、よく練習をしたなぁ。もっとも、男性のパートだったけどなぁ。
あぁ…ここだ。ここで、こうやって手を伸ばすと男性が女の手を引く。
・
・
えっ?!腕を引かれた。
この私が…人の気配を読めなかったなんて…
今日に限って女性の格好なのに…どうする?落ち着け、そう落ち着いてゆっくりと眼を開くのよ。
ゆっくりと、そして睨むように目を開けると…
温度を感じられない、冷たい赤い瞳の人がいた。
私は、鏡の中の私に言った。
見慣れない栗色の髪、14歳の時に着て以来の青いドレス。
泣きそうな顔で立っている女性は、いつもとは違う私。
似合わない…全然似合わない。
でもこれが最後のチャンス。明日からは、もう二度とこんなことはできないから。
誰かに誘ってもらえるだろうか…?
万が一、ダンスに誘ってもらっても、この仮面できっと私とはわからないだろうなぁ。
ううん、まさかドレスを着て、来ているとは思わないよ。
ああぁ…気づいて欲しいと思う反面、絶対!私だと気づいて欲しくないと思ってしまう…複雑…。
だって、これが女性として最後の…仮面舞踏会なんだもの。
でも…私は…今。
「どうしよう…。大広間に行けない。迷子だ。」
なにやってんだか、必死な覚悟で来たと言うのに、なに迷子になっての…私。
ヒールだ。やっぱりこのハイヒールのせいだ。体がふらついて、足元を見ないとうまく歩けなかったから、足元ばかり見ていて…変なところに入り込んじゃった。
ハイヒールを履くのは、18年の人生で2度目。
前回は4年前のアリス姉さまの結婚式以来、なのにドレスにハイヒールで、王宮の舞踏会に行こうなんて、大それたことを考えたせいだ。
ハードルが高かった。
明日からは騎士団の一員として、男として生きるんだもの。最後の夜ぐらいレディとして、過ごしたかったのに、ダンスだって女性のステップを練習して来たのに…最後の夜はこれだなんて…最悪。
お父様がいけないんだ。
私を男女の双子ということで、育てようとするなんて、だいたい無理があるの!
そ、そりゃぁ…私は…
確かに、馬車に乗るより、馬に跨ったほうが好き。
刺繍をするより、剣の稽古をする方が好きだったりするけど…
綺麗なドレスだって好きだし、髪だって…ほんとうは伸ばしたい。こんなウィッグでなんかで、誤魔化したくないよ。
病弱な双子の姉弟、いつもどちらかが体調を崩し、屋敷に篭もっている…そんな設定でほんとよく、18年もやってきたものだわ。あぁ、でも、まさか18の歳まで、一人二役をやるなんて…ありえない。これで騎士団の寮に入る事になっていたら、お父様はどうするつもりだったんだろう。
いや…あの父なら
「お前の剣の腕はピカイチだ。そんじょそこらの男に引けはとらんわ!」と言うわよね。
確かにそうだけど…少しは娘の貞操を心配して欲しい!
まぁ…運が良いのか、悪いのか…あの第二王子付きになったことで、寮生活は免れたけど、第二王子様は…ルシアン王子はあと三ヶ月余りで、隣国の姫と結婚を控えている。
その間だけの…90日間だけの…任務。
黒い髪に赤い瞳のルシアン王子。肩より少し長い黒い髪を結び、浅黒い肌に鋭く赤い瞳、でも国民の前に立った時、ほんの少し目元を和らげ微笑むあの姿、カッコ良いいのよね。ううん、それだけじゃない…あの大きな体に見合う剣捌きも見事なんだもの。
憧れていたんだけどなぁ。私より3つ上だから、もし隣国の話がなければ…そして私がただの侯爵令嬢だったら、お話があったかも…なんて思ったこともあったけど…。
はぁ~もっとも、今の私の状態では縁談も来ないか。
…なんだか、すっごく疲れた。
今、何時だろう。お父様に最後だから、女性として舞踏会に出たい!と言って来たのはいいけど、もうダンス始まってるよね。踊りたかったなぁ…。
でも、もういいや。どうせヒールで痛めたこの足では踊れないし、だからと言って仮面舞踏会とはいえ、裸足で踊ったらひんしゅくものだもの。
あっ!!でも、ここなら…。うん、そうよ。ここならいいよね。
この部屋なら、家具はあの長椅子とベットぐらいだもの。
それにしても…ここって…客間なんだろうか?それにしても、家具がこれだけって…変だよね。
まぁ、家具がない分、広いからいいんだけどね。
はあぁ…ヒールをぽんと投げ、もう最高!
「…足が生き返る!」
かかとが少し赤くなった右足を見て、
「踊る前から、これでは…、無理だったかも…」
微かに聞こえてくる音楽に…体を揺らし…そっと左足を出した。
目を瞑ると、そこは舞踏会。そしてパートナーが微笑んでいる。
そう…ゆっくり右足を軽くひいて、パートナーに挨拶を…
踊るのは大好き。幼い頃から、よく練習をしたなぁ。もっとも、男性のパートだったけどなぁ。
あぁ…ここだ。ここで、こうやって手を伸ばすと男性が女の手を引く。
・
・
えっ?!腕を引かれた。
この私が…人の気配を読めなかったなんて…
今日に限って女性の格好なのに…どうする?落ち着け、そう落ち着いてゆっくりと眼を開くのよ。
ゆっくりと、そして睨むように目を開けると…
温度を感じられない、冷たい赤い瞳の人がいた。
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~
緑谷めい
恋愛
ドーラは金で買われたも同然の妻だった――
レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。
※ 全10話完結予定
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる