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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目 最終話
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ルシアン殿下の顔を見られなくて、下を向いた私は爪痕が残るほど、両手を握りしめた。
一瞬、流れた静寂。
それは私とルシアン殿下の間に漂い、このまま時が止まってしまうのではないだろうかと思った時、
「暗示とは…」とルシアン殿下が言葉を発せられ、また時は動き始めた。
「”思い込ませる技術”を使って、相手の身体や脳に変化を与える事。あるいは相手を一点に集中させることで無意識の部分に情報を入れる事とも言われる…ブラチフォード王家の秘技だ。魔法ではない。だから暗示は本来、その人が望まないことはかからない。ましてやロザリーのような精神力が強い者には無理だ。だから俺を殺させるには、複雑な暗示を掛けているだろうとミランダは予想していた。」
ルシアン殿下は背中を扉に預け、高い天井を見上げ
「暗示とはパズルのようなものだ、一つのピースだけを見れば奇妙な形だが、その一個一個を組み合わせていけば一枚の絵になる。だが一つ間違えば絵は完成できない。
それは…
解き方を間違えたら…暗示を掛けられた者は精神が壊れるということだ。
だからミランダやマクドナルド医師とて、なんの情報もないままロザリーの暗示を解くことはできなかった。
でもこの暗示が解けない限り、ロザリーは俺を狙い続ける刃のまま、そしてそれを知ればロザリーは俺の妻になるどころか、騎士としても俺から身を引く。
なら、答えはひとつだった。解けないのなら、実行させて暗示の呪縛から切り離すことだった、だから…」
だから、スイッチを入れたと言われるのだろうか。それはあまりにも安易。
ルシアン殿下の傷を見ればわかる…本当に私はルシアン殿下を殺そうとしていた。ただ…とどめを刺す前に、運よく暗示を解く事ができたという奇跡があったから、私も、ルシアン殿下もここにいるんだ。
でも、どうしてこんな無茶なことを…。
中止にするのには時間がなかったかも知れない。なら最後のスイッチが入る前に…私を斬ればよかったんだ。
「だから…。」
また、そう言われると、黙って私を見られた。
「……違う。本当はそれだけが理由じゃない。俺は…」
ルシアン殿下の言葉に、私も黙ってルシアン殿下を見た。
「あの時の事を思い出したんだ。」
「あの時?」
「アデリーナにおまえの記憶を奪われて、俺はおまえを思い出せず、アデリーナと戦うおまえを見ていたあの時を…。」
「えっ?」
「あの時、おまえがアデリーナを浄化させるために、自分の命を掛けたその姿に俺は記憶を取り戻した。だから、俺も命を掛けなければならないと思った。命を掛けなければ、神は俺にロザリーを返してはくれないように思えたんだ。」
白い包帯で包まれた手が、怯えるように震えながら、私へと伸ばされる。
「一緒に乗り越えてきた出来事すべてを忘れて欲しくなった。」
伸ばした手を握り締めたルシアン殿下は
「でも一番は…俺を…忘れて欲しくなかった。忘れて欲しくなかったんだ。俺が初めて愛した人だから、俺の事を忘れて欲しくはなかったんだ。だから命を掛けてでもと思ったんだ。」
見た事がないルシアン殿下の姿に、茫然とした。
握りしめた手を見つめ
「でも、そう思いながらも、すべてが元通りにという、そんな奇跡はないだろうとも思った。
もし暗示を実行させ、運よく俺が怪我だけで済んだとしても、俺の傷を見ればおまえは、自分が俺を殺すつもりで剣を握っていたとわかるはず、そうなれば…暗示が解けてもおまえの心の中に付いた傷は、取返しが出来ないほど深くなる事も頭を過った。正直、迷った。ぎりぎりまで迷った。
でも、おまえのウェディングドレスを見た時…。なぜだか、奇跡が起こると思えたんだ。」
ルシアン殿下のその気持ちは、王として最悪の決断だと思う。
でも結婚の誓いの言葉より、私の心を揺さぶった。
「バカ…」
「ロザリー?」
伸ばされた手にそっと触れ
「バカです…あなたは王なのに、そんなに簡単に命を掛けてはいけないのに…。あなたの命には多くの民の命もかかっているのに…バカ、ルシアンのバカ!」
バカ…といいながら、本当は体が震えるくらい嬉しいと思ってしまう。
でも、嬉しいとは…言えない。
こんな無茶はルシアン殿下の命を、そして国を危うくする。
だから言うべきではない。
でも…これぐらいは許して欲しい。、
腕を伸ばし、ルシアン殿下の首に回してその耳に囁いた。
「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います。」
私の腰に腕が回り、大きな体はまるで小さな子供の様に震えていた。
「私を幸せにしてください。私はあなたをもっともっと幸せにしますから。」
その言葉に、ルシアン殿下は小さな笑い声をあげ
「ロザリーは…やっぱりカッコイイな。敵わない。」
「ルシアン…」
ほんの少し、不満げな声で【ルシアン殿下】と呼ぼうとしたら、途中で言葉はルシアン殿下の口でふさがれてしまった。
長いキスは私に何も考えることを許してはくれなくて、ようやく離れて行く唇をキョトンとした顔で見ていた私に、また軽くキスをされ
「ルシアン…でいい。殿下はつけるな。」
「…」
「返事は?」
「…ぎょ、御意!」
「…えっ?…まったくおまえは…」と言って、今度は大きな声で笑われ、また唇が私に触れた。
******
「まったく、段取りがあるというのに…」
そう言って、ロザリーとルシアンから目を逸らすと踵を返し、階段の前でミランダはため息をついた。
「どうしますか?リドリー伯爵に遅くなると連絡をした方が…」
「う~ん。でも日が沈む前に、あのバラ園で結婚式をしてほしい。だって綺麗なのよ!ロイ!本当に綺麗なのよ。ずっとあそこに目を付けていたんだから…。だいたいイチャイチャなんていつだってできるのに!」
そう言って、また踵を返すと、ふたりに向かって叫んだ。
「リドリー伯爵邸のバラ園で、結婚式の準備をしているの!叔父様!それから、お、お…叔母様!だからイチャイチャは後にして~!」
一瞬、周りの音が消えた、だがその静寂を破るルシアンの笑い声とロザリーの驚く声が響いた。
「な、なによ!なんで笑うのよ!」
地団駄を踏むミランダに、ルシアンが手招きをしながら
「ミランダ!結婚式の前におまえの前で、俺達は誓いたいんだ。一番身近で俺達を見守ってくれたおまえに、必ず幸せになると誓いたいんだ。」
最初は唖然と見ていたミランダだったが、後ろに控えるロイに
「…リドリー伯爵に伝えて…ほんの少し遅れると…」
そう言って、ルシアンとロザリーの下へ、大好きなふたりのところへと走っていった。
一瞬、流れた静寂。
それは私とルシアン殿下の間に漂い、このまま時が止まってしまうのではないだろうかと思った時、
「暗示とは…」とルシアン殿下が言葉を発せられ、また時は動き始めた。
「”思い込ませる技術”を使って、相手の身体や脳に変化を与える事。あるいは相手を一点に集中させることで無意識の部分に情報を入れる事とも言われる…ブラチフォード王家の秘技だ。魔法ではない。だから暗示は本来、その人が望まないことはかからない。ましてやロザリーのような精神力が強い者には無理だ。だから俺を殺させるには、複雑な暗示を掛けているだろうとミランダは予想していた。」
ルシアン殿下は背中を扉に預け、高い天井を見上げ
「暗示とはパズルのようなものだ、一つのピースだけを見れば奇妙な形だが、その一個一個を組み合わせていけば一枚の絵になる。だが一つ間違えば絵は完成できない。
それは…
解き方を間違えたら…暗示を掛けられた者は精神が壊れるということだ。
だからミランダやマクドナルド医師とて、なんの情報もないままロザリーの暗示を解くことはできなかった。
でもこの暗示が解けない限り、ロザリーは俺を狙い続ける刃のまま、そしてそれを知ればロザリーは俺の妻になるどころか、騎士としても俺から身を引く。
なら、答えはひとつだった。解けないのなら、実行させて暗示の呪縛から切り離すことだった、だから…」
だから、スイッチを入れたと言われるのだろうか。それはあまりにも安易。
ルシアン殿下の傷を見ればわかる…本当に私はルシアン殿下を殺そうとしていた。ただ…とどめを刺す前に、運よく暗示を解く事ができたという奇跡があったから、私も、ルシアン殿下もここにいるんだ。
でも、どうしてこんな無茶なことを…。
中止にするのには時間がなかったかも知れない。なら最後のスイッチが入る前に…私を斬ればよかったんだ。
「だから…。」
また、そう言われると、黙って私を見られた。
「……違う。本当はそれだけが理由じゃない。俺は…」
ルシアン殿下の言葉に、私も黙ってルシアン殿下を見た。
「あの時の事を思い出したんだ。」
「あの時?」
「アデリーナにおまえの記憶を奪われて、俺はおまえを思い出せず、アデリーナと戦うおまえを見ていたあの時を…。」
「えっ?」
「あの時、おまえがアデリーナを浄化させるために、自分の命を掛けたその姿に俺は記憶を取り戻した。だから、俺も命を掛けなければならないと思った。命を掛けなければ、神は俺にロザリーを返してはくれないように思えたんだ。」
白い包帯で包まれた手が、怯えるように震えながら、私へと伸ばされる。
「一緒に乗り越えてきた出来事すべてを忘れて欲しくなった。」
伸ばした手を握り締めたルシアン殿下は
「でも一番は…俺を…忘れて欲しくなかった。忘れて欲しくなかったんだ。俺が初めて愛した人だから、俺の事を忘れて欲しくはなかったんだ。だから命を掛けてでもと思ったんだ。」
見た事がないルシアン殿下の姿に、茫然とした。
握りしめた手を見つめ
「でも、そう思いながらも、すべてが元通りにという、そんな奇跡はないだろうとも思った。
もし暗示を実行させ、運よく俺が怪我だけで済んだとしても、俺の傷を見ればおまえは、自分が俺を殺すつもりで剣を握っていたとわかるはず、そうなれば…暗示が解けてもおまえの心の中に付いた傷は、取返しが出来ないほど深くなる事も頭を過った。正直、迷った。ぎりぎりまで迷った。
でも、おまえのウェディングドレスを見た時…。なぜだか、奇跡が起こると思えたんだ。」
ルシアン殿下のその気持ちは、王として最悪の決断だと思う。
でも結婚の誓いの言葉より、私の心を揺さぶった。
「バカ…」
「ロザリー?」
伸ばされた手にそっと触れ
「バカです…あなたは王なのに、そんなに簡単に命を掛けてはいけないのに…。あなたの命には多くの民の命もかかっているのに…バカ、ルシアンのバカ!」
バカ…といいながら、本当は体が震えるくらい嬉しいと思ってしまう。
でも、嬉しいとは…言えない。
こんな無茶はルシアン殿下の命を、そして国を危うくする。
だから言うべきではない。
でも…これぐらいは許して欲しい。、
腕を伸ばし、ルシアン殿下の首に回してその耳に囁いた。
「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います。」
私の腰に腕が回り、大きな体はまるで小さな子供の様に震えていた。
「私を幸せにしてください。私はあなたをもっともっと幸せにしますから。」
その言葉に、ルシアン殿下は小さな笑い声をあげ
「ロザリーは…やっぱりカッコイイな。敵わない。」
「ルシアン…」
ほんの少し、不満げな声で【ルシアン殿下】と呼ぼうとしたら、途中で言葉はルシアン殿下の口でふさがれてしまった。
長いキスは私に何も考えることを許してはくれなくて、ようやく離れて行く唇をキョトンとした顔で見ていた私に、また軽くキスをされ
「ルシアン…でいい。殿下はつけるな。」
「…」
「返事は?」
「…ぎょ、御意!」
「…えっ?…まったくおまえは…」と言って、今度は大きな声で笑われ、また唇が私に触れた。
******
「まったく、段取りがあるというのに…」
そう言って、ロザリーとルシアンから目を逸らすと踵を返し、階段の前でミランダはため息をついた。
「どうしますか?リドリー伯爵に遅くなると連絡をした方が…」
「う~ん。でも日が沈む前に、あのバラ園で結婚式をしてほしい。だって綺麗なのよ!ロイ!本当に綺麗なのよ。ずっとあそこに目を付けていたんだから…。だいたいイチャイチャなんていつだってできるのに!」
そう言って、また踵を返すと、ふたりに向かって叫んだ。
「リドリー伯爵邸のバラ園で、結婚式の準備をしているの!叔父様!それから、お、お…叔母様!だからイチャイチャは後にして~!」
一瞬、周りの音が消えた、だがその静寂を破るルシアンの笑い声とロザリーの驚く声が響いた。
「な、なによ!なんで笑うのよ!」
地団駄を踏むミランダに、ルシアンが手招きをしながら
「ミランダ!結婚式の前におまえの前で、俺達は誓いたいんだ。一番身近で俺達を見守ってくれたおまえに、必ず幸せになると誓いたいんだ。」
最初は唖然と見ていたミランダだったが、後ろに控えるロイに
「…リドリー伯爵に伝えて…ほんの少し遅れると…」
そう言って、ルシアンとロザリーの下へ、大好きなふたりのところへと走っていった。
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なかなか長い7日目ですが>.<ロザリーがちゃんと幸せになると思って見守りたいです!
…がそれまでの道のりが過酷です。:゚(;´∩`;)゚:。
ままっち様
感想ありがとうございます。ほんとに‥長い7日目で💦(更新がなかなかできないのが、一番の原因です、ごめんなさい。)
あと少しなので、頑張りますので、最後までよろしくお願いします。
更新ありがとうございます。いよいよ佳境ですか?どうなるのか楽しみなような、怖いような。
キリカ様
感想ありがとうございます。
ようやく、佳境です(汗)7日目がすっごーく長い一日になり、おまけに更新も遅く…申し訳ありません。
最後までお付き合いしていただけるように、頑張りますのでよろしくお願いします。
久しぶりの更新ありがとうございます。これから先はラブラブまっしぐらですか?
ふと思ったのですが、初夜の時筋肉がついた体を見られたくないと拒否したという展開になった時一体誰のせいでしょうね。娘に『男性』を押し付けた脳筋親父本気で反省してほしい。もう戦うことなく女性の幸せ一色になってほしくありますが
キリカ様、感想ありがとうございます。
確かに侯爵は反省して欲しいですね(笑)
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最後まで書き上げますので、よろしくお願いします。