212 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目 ロザリー➁
しおりを挟む
「でも、その前に…」そう言って、ミランダ姫はルシアン殿下の手をとり
「叔父様は傷の手当をしてちょうだい。ロザリーは、さっきからこの手を見るたびに泣きそうなんだもの。」
「…ぁ…ミランダ様。」
「…すまない。そんな事にも気が付かず、ロザリーが戻って来てくれたことで…浮かれていた。」
「いえ、私は…私は…」
でもそれ以上の言葉が見つからない。
「ロザリー、叔父様のケガの手当をしている間に、あなたも着替えていらっしゃい。」
着替える?
ハッとして、自分の姿を見た。
白いウェディングドレスがところどころ破れ、そして模様のように点々と赤いものが…。
…これは…血だ。
「ロザリー?」
「…ぁ、はい。着替えてきます。」
私はおふたりにお辞儀をし、歩き出した。
歩く度に揺れる裾に、広がった赤い血が見える。
この血は…ウェディングドレスに付いた血は…ルシアン殿下の血だ。
きっとあの左腕の傷からの血。
角度からいって倒れたルシアン殿下に…斬りかかったんだ。
そして両手の傷。
あれは私の剣を止められた傷だ。
傷の具合から、血が飛んだ角度や場所から、その様子が頭の中で浮かんでしまう。
ゆっくりと歩き出した足は、城の中に入った途端走り出した。
このまま、どこかに逃げてしまいたいと思う心が、走らせているのだろうか。
どこをどう走ったのか…気が付いたら、自分の部屋の前だった。扉に手をかけると、あんなに走っていた足は、ねじが切れたおもちゃのように、扉の前で動かなくなり、体はずるずるとその場に沈んでいった。
「…覚えていない。でも間違いなく私がルシアン殿下を襲った。」
膝を抱え座り込むと、堪えていた涙が零れた。
『ローラン国では、好きな方の持ち物に、その方の名前と自分の名前を刺繍すると、ふたりはどんな困難に当たっても、その愛と絆は切れることがないと言われているそうなんですよ。』
キャロルさんのその言葉に浮かれて、必死に刺繍をしたのは、一週間前だというのに…。
なのに、ルシアン殿下との未来を願い、ひと針ひと針縫った私の手は、ルシアン殿下を殺そうとした。
「…覚えていない…覚えていない!」
そう叫ばないと怖かった。
でも両手を見つめると、剣を握った感覚がまだ残っていることを感じる。
剣は頭で考えてやるものではない。
ほんの一瞬が勝敗をきめるのだから、考えている暇などない。だから体で覚えろと教えられた。
だから見える。見えてしまう。
「全然覚えていないのに…。どんなふうに私が…ルシアン殿下を襲ったのか、全部見えてしまう!」
体は…覚えている。
それが辛い。
たいせつな人達を守るために、握った剣だった。
どんな状況になっても、どんなに強い相手でも、守るべき人達がいるから勝てる自信があった。
でも、まさか…
ルシアン殿下の命を狙う者が自分だったなんて
「こんなことって…。」
大好きな剣だった。この剣でルシアン殿下を守るつもりだった。
「幼い頃に信じていた兵士に裏切られてから、誰にも背中を預けることをされなかったルシアン殿下が、私に背中を預けると言って下さったのに…。どういう理由であれ、私は裏切ったんだ。」
私は初めて、剣を学んだ事を後悔した。
「叔父様は傷の手当をしてちょうだい。ロザリーは、さっきからこの手を見るたびに泣きそうなんだもの。」
「…ぁ…ミランダ様。」
「…すまない。そんな事にも気が付かず、ロザリーが戻って来てくれたことで…浮かれていた。」
「いえ、私は…私は…」
でもそれ以上の言葉が見つからない。
「ロザリー、叔父様のケガの手当をしている間に、あなたも着替えていらっしゃい。」
着替える?
ハッとして、自分の姿を見た。
白いウェディングドレスがところどころ破れ、そして模様のように点々と赤いものが…。
…これは…血だ。
「ロザリー?」
「…ぁ、はい。着替えてきます。」
私はおふたりにお辞儀をし、歩き出した。
歩く度に揺れる裾に、広がった赤い血が見える。
この血は…ウェディングドレスに付いた血は…ルシアン殿下の血だ。
きっとあの左腕の傷からの血。
角度からいって倒れたルシアン殿下に…斬りかかったんだ。
そして両手の傷。
あれは私の剣を止められた傷だ。
傷の具合から、血が飛んだ角度や場所から、その様子が頭の中で浮かんでしまう。
ゆっくりと歩き出した足は、城の中に入った途端走り出した。
このまま、どこかに逃げてしまいたいと思う心が、走らせているのだろうか。
どこをどう走ったのか…気が付いたら、自分の部屋の前だった。扉に手をかけると、あんなに走っていた足は、ねじが切れたおもちゃのように、扉の前で動かなくなり、体はずるずるとその場に沈んでいった。
「…覚えていない。でも間違いなく私がルシアン殿下を襲った。」
膝を抱え座り込むと、堪えていた涙が零れた。
『ローラン国では、好きな方の持ち物に、その方の名前と自分の名前を刺繍すると、ふたりはどんな困難に当たっても、その愛と絆は切れることがないと言われているそうなんですよ。』
キャロルさんのその言葉に浮かれて、必死に刺繍をしたのは、一週間前だというのに…。
なのに、ルシアン殿下との未来を願い、ひと針ひと針縫った私の手は、ルシアン殿下を殺そうとした。
「…覚えていない…覚えていない!」
そう叫ばないと怖かった。
でも両手を見つめると、剣を握った感覚がまだ残っていることを感じる。
剣は頭で考えてやるものではない。
ほんの一瞬が勝敗をきめるのだから、考えている暇などない。だから体で覚えろと教えられた。
だから見える。見えてしまう。
「全然覚えていないのに…。どんなふうに私が…ルシアン殿下を襲ったのか、全部見えてしまう!」
体は…覚えている。
それが辛い。
たいせつな人達を守るために、握った剣だった。
どんな状況になっても、どんなに強い相手でも、守るべき人達がいるから勝てる自信があった。
でも、まさか…
ルシアン殿下の命を狙う者が自分だったなんて
「こんなことって…。」
大好きな剣だった。この剣でルシアン殿下を守るつもりだった。
「幼い頃に信じていた兵士に裏切られてから、誰にも背中を預けることをされなかったルシアン殿下が、私に背中を預けると言って下さったのに…。どういう理由であれ、私は裏切ったんだ。」
私は初めて、剣を学んだ事を後悔した。
1
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる