206 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㊸
しおりを挟む
ここは…?
そう思いながらグルリと周りを見てみると、思わず笑みが零れた。
あのくすの木は…。
知っている。きっとあのくすの木も私を覚えているだろうな。だってあんなに泣いて…そして…
はぁ~なんでこんな夢をみているんだろう。
でもこの木の下で思いっきり泣いたことが、今の私を作った原点だもの。だから、忘れられないから夢にまで出てくるのかなぁ。
あれは8歳の夏、一番上のお姉様の結婚式が終わった夜だったな。
もう今宵は来客はないからと、男の子用の式服から、ピンクのドレスへと着替えた日。
ピンクのドレスが可愛くて、キラキラと輝く髪飾りが眩しくて…。とってもはしゃいでいたのに…1時間足らずだった、お父様が申し訳なさそうに言われたんだ。
『…ロザリー、すまない。そのドレスを着替えてはくれぬか…。』
『わ、わたしは…ドレスを着ていても剣は握れます。…だから…」
『…すまない、ライアンと…エイブが来たんだ。すまない、ロザリー。』
(すまない)と言われるお父様に、私は目を見開いた。
これは…いけないことなんだ。ドレスを着て剣を握る事はいけないんだ。お父様を困らせる事なんだ。
でも(はい)という返事がすぐに出てこなくて、もどかしくて代りに何度も頷いた。お父様を困らせたくないから何度も頷いた。そんな私を見て、お父様が顔を歪め…涙を零されたんだった。
ブラチフォード国では男しか爵位は継げない、そして我が家は女ばかり6人。このままだと将来、お父様の弟ライアン伯爵の息子エイブが爵位を継ぐことになる。お父様は地位や名誉には興味はない方だが、弟であるライアン伯爵の数々の所業を目にするたびに、ライアン伯爵家が侯爵家を名乗ることに不安を抱いていた。
だから7人目の私が生まれた日、女の子が生まれたと聞いて意気揚々とやってくるライアン伯爵に、その場しのぎの嘘、男女の双子…だと言ったのが発端だった。
剣は好きだった。でも可愛いドレスもキラキラと輝く髪飾りも大好きだった
だからあの日、屋敷の中だけとはいえ、初めて身に着けるドレスに心臓がドキドキして…嬉しくて、こんなドレスを毎日着ていたいと思った。こんなドレスを着て剣を握る自分を想像したくらいだった。
でも、それはお父様にあんな顔をさせた。
悲しかった、大好きなお父様を泣かせたことがただ悲しくて、私はその場から逃げ出してしまった。
庭へと走る私をお父様は追っては来られなかった。
あの時のお父様は、女であることを隠す為に、幼い私にドレスを着ることさえも、我慢をさせているのかと思うとお辛かったのだろう。
はっきりとした覚悟だとは言えないけれど、騎士として国を民を守りたいという思いはあった。
でも、男とか女とかなんて考えてはいなかった。
ドレスを着ていても、騎士の服を着ていても、国や民の為に戦う自分がいつも頭の中にいたから、男とか女とか関係ないと思っていた。
ドレスも好き、髪を結いおしゃれをするのも好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私だと思っていたから悲しくて堪らなかった。
でも…今は無理なんだという事もわかっていた、そしてそれは今ではないということも。
だから今は…そう今は、女が剣を使う事を拒む世だから、男になって剣技を磨くときだ…と涙を拭いだ。
ドレスが似合わない髪型なら、ドレスを着ようなんて思わないし、家族ももう勧めないだろう。
そう決めた瞬間、私はいざというときにと渡されていた短剣で髪を切った。
でも、金色の髪が掴んでいた手から、落ちて行く様を見た時、涙が止まらなくて…このくすの木にしがみ付いて泣いたんだった。
もっと大きな木のような気がしていた。
そっと触れ、木の肌に頬を寄せると、誰かが私の服を引っ張った。
「ねぇ、どうしたの?」
それは…ピンクのドレスを着た…あの時の私?!
「ぁ、あ…」
8歳の私はクスクスと笑い
「大丈夫?」
「…え、ええ」
これは夢だから、8歳の自分に会うってこともありだよね。
でも…なんか変…。
私がなにも言わないからだろうか、8歳の私はドレスの裾を持つとクルリと周り
「素敵でしょう?このドレスね、お父様が今日の日のために作ってくださっていたの。突然渡されて…私…嬉しくて。」
うん、すごく嬉しかった。
「…とっても素敵ね。」
「でも、あなたの方が素敵。だってウェディングドレスだもの。どんな方と結婚したの?」
青い瞳を輝かせる幼い自分に、教えてあげたかった。だから満面の笑顔で答えた。
「すっごく素敵な方よ。」
「私が…ドレスを着て剣を握っても…大丈夫な方?」
「もちろん!騎士としても私を信用してくださる方なの。だっていままで誰にも守らせなかった背中を、私にあずけてくださったのよ。」
ねぇ今は…色々考えちゃうだろうけど信じて…。
ドレスが好き、髪を結いおしゃれをするのが好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私ですと言える日が来るわ。そしてそんな私を愛してくれる人が将来待ってるから。
8歳の私はにっこり笑い
「じゃぁ、もう行かないとね。あなたを呼ぶその方の声が聞こえているものね。」
うん、聞こえるわ。私の名を愛おしそうに呼んでくださる声が…。
「えぇ、行くわね。」
大切な人を守るために、私は両手にしっかり剣を握った。
「あぁ、斬ってやる!ルシアンも俺をバカにする輩もみんなだ!!」
バウマンの振り下ろした剣は、ルシアンの首に届く前に…キーンと空気を断ち切る金属音が響き、ルシアンの背中を守る剣にバウマンの剣は跳ね返された。
大きな背中がビクンと震え、掠れた声が
「…ロザリー…」と名を呼び、ルシアンは赤い瞳を揺らして振り返った。
ロザリーはルシアンに微笑むと、ゆっくり立ち上がりバウマンに
「私はルシアン殿下の背中を守る事を唯一許されたロザリーです。バウマン公爵、ルシアン殿下に刃を向けるのであれば、まず私を倒してからにして頂きたい。」
そう思いながらグルリと周りを見てみると、思わず笑みが零れた。
あのくすの木は…。
知っている。きっとあのくすの木も私を覚えているだろうな。だってあんなに泣いて…そして…
はぁ~なんでこんな夢をみているんだろう。
でもこの木の下で思いっきり泣いたことが、今の私を作った原点だもの。だから、忘れられないから夢にまで出てくるのかなぁ。
あれは8歳の夏、一番上のお姉様の結婚式が終わった夜だったな。
もう今宵は来客はないからと、男の子用の式服から、ピンクのドレスへと着替えた日。
ピンクのドレスが可愛くて、キラキラと輝く髪飾りが眩しくて…。とってもはしゃいでいたのに…1時間足らずだった、お父様が申し訳なさそうに言われたんだ。
『…ロザリー、すまない。そのドレスを着替えてはくれぬか…。』
『わ、わたしは…ドレスを着ていても剣は握れます。…だから…」
『…すまない、ライアンと…エイブが来たんだ。すまない、ロザリー。』
(すまない)と言われるお父様に、私は目を見開いた。
これは…いけないことなんだ。ドレスを着て剣を握る事はいけないんだ。お父様を困らせる事なんだ。
でも(はい)という返事がすぐに出てこなくて、もどかしくて代りに何度も頷いた。お父様を困らせたくないから何度も頷いた。そんな私を見て、お父様が顔を歪め…涙を零されたんだった。
ブラチフォード国では男しか爵位は継げない、そして我が家は女ばかり6人。このままだと将来、お父様の弟ライアン伯爵の息子エイブが爵位を継ぐことになる。お父様は地位や名誉には興味はない方だが、弟であるライアン伯爵の数々の所業を目にするたびに、ライアン伯爵家が侯爵家を名乗ることに不安を抱いていた。
だから7人目の私が生まれた日、女の子が生まれたと聞いて意気揚々とやってくるライアン伯爵に、その場しのぎの嘘、男女の双子…だと言ったのが発端だった。
剣は好きだった。でも可愛いドレスもキラキラと輝く髪飾りも大好きだった
だからあの日、屋敷の中だけとはいえ、初めて身に着けるドレスに心臓がドキドキして…嬉しくて、こんなドレスを毎日着ていたいと思った。こんなドレスを着て剣を握る自分を想像したくらいだった。
でも、それはお父様にあんな顔をさせた。
悲しかった、大好きなお父様を泣かせたことがただ悲しくて、私はその場から逃げ出してしまった。
庭へと走る私をお父様は追っては来られなかった。
あの時のお父様は、女であることを隠す為に、幼い私にドレスを着ることさえも、我慢をさせているのかと思うとお辛かったのだろう。
はっきりとした覚悟だとは言えないけれど、騎士として国を民を守りたいという思いはあった。
でも、男とか女とかなんて考えてはいなかった。
ドレスを着ていても、騎士の服を着ていても、国や民の為に戦う自分がいつも頭の中にいたから、男とか女とか関係ないと思っていた。
ドレスも好き、髪を結いおしゃれをするのも好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私だと思っていたから悲しくて堪らなかった。
でも…今は無理なんだという事もわかっていた、そしてそれは今ではないということも。
だから今は…そう今は、女が剣を使う事を拒む世だから、男になって剣技を磨くときだ…と涙を拭いだ。
ドレスが似合わない髪型なら、ドレスを着ようなんて思わないし、家族ももう勧めないだろう。
そう決めた瞬間、私はいざというときにと渡されていた短剣で髪を切った。
でも、金色の髪が掴んでいた手から、落ちて行く様を見た時、涙が止まらなくて…このくすの木にしがみ付いて泣いたんだった。
もっと大きな木のような気がしていた。
そっと触れ、木の肌に頬を寄せると、誰かが私の服を引っ張った。
「ねぇ、どうしたの?」
それは…ピンクのドレスを着た…あの時の私?!
「ぁ、あ…」
8歳の私はクスクスと笑い
「大丈夫?」
「…え、ええ」
これは夢だから、8歳の自分に会うってこともありだよね。
でも…なんか変…。
私がなにも言わないからだろうか、8歳の私はドレスの裾を持つとクルリと周り
「素敵でしょう?このドレスね、お父様が今日の日のために作ってくださっていたの。突然渡されて…私…嬉しくて。」
うん、すごく嬉しかった。
「…とっても素敵ね。」
「でも、あなたの方が素敵。だってウェディングドレスだもの。どんな方と結婚したの?」
青い瞳を輝かせる幼い自分に、教えてあげたかった。だから満面の笑顔で答えた。
「すっごく素敵な方よ。」
「私が…ドレスを着て剣を握っても…大丈夫な方?」
「もちろん!騎士としても私を信用してくださる方なの。だっていままで誰にも守らせなかった背中を、私にあずけてくださったのよ。」
ねぇ今は…色々考えちゃうだろうけど信じて…。
ドレスが好き、髪を結いおしゃれをするのが好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私ですと言える日が来るわ。そしてそんな私を愛してくれる人が将来待ってるから。
8歳の私はにっこり笑い
「じゃぁ、もう行かないとね。あなたを呼ぶその方の声が聞こえているものね。」
うん、聞こえるわ。私の名を愛おしそうに呼んでくださる声が…。
「えぇ、行くわね。」
大切な人を守るために、私は両手にしっかり剣を握った。
「あぁ、斬ってやる!ルシアンも俺をバカにする輩もみんなだ!!」
バウマンの振り下ろした剣は、ルシアンの首に届く前に…キーンと空気を断ち切る金属音が響き、ルシアンの背中を守る剣にバウマンの剣は跳ね返された。
大きな背中がビクンと震え、掠れた声が
「…ロザリー…」と名を呼び、ルシアンは赤い瞳を揺らして振り返った。
ロザリーはルシアンに微笑むと、ゆっくり立ち上がりバウマンに
「私はルシアン殿下の背中を守る事を唯一許されたロザリーです。バウマン公爵、ルシアン殿下に刃を向けるのであれば、まず私を倒してからにして頂きたい。」
0
お気に入りに追加
1,378
あなたにおすすめの小説

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる