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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㊸
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ここは…?
そう思いながらグルリと周りを見てみると、思わず笑みが零れた。
あのくすの木は…。
知っている。きっとあのくすの木も私を覚えているだろうな。だってあんなに泣いて…そして…
はぁ~なんでこんな夢をみているんだろう。
でもこの木の下で思いっきり泣いたことが、今の私を作った原点だもの。だから、忘れられないから夢にまで出てくるのかなぁ。
あれは8歳の夏、一番上のお姉様の結婚式が終わった夜だったな。
もう今宵は来客はないからと、男の子用の式服から、ピンクのドレスへと着替えた日。
ピンクのドレスが可愛くて、キラキラと輝く髪飾りが眩しくて…。とってもはしゃいでいたのに…1時間足らずだった、お父様が申し訳なさそうに言われたんだ。
『…ロザリー、すまない。そのドレスを着替えてはくれぬか…。』
『わ、わたしは…ドレスを着ていても剣は握れます。…だから…」
『…すまない、ライアンと…エイブが来たんだ。すまない、ロザリー。』
(すまない)と言われるお父様に、私は目を見開いた。
これは…いけないことなんだ。ドレスを着て剣を握る事はいけないんだ。お父様を困らせる事なんだ。
でも(はい)という返事がすぐに出てこなくて、もどかしくて代りに何度も頷いた。お父様を困らせたくないから何度も頷いた。そんな私を見て、お父様が顔を歪め…涙を零されたんだった。
ブラチフォード国では男しか爵位は継げない、そして我が家は女ばかり6人。このままだと将来、お父様の弟ライアン伯爵の息子エイブが爵位を継ぐことになる。お父様は地位や名誉には興味はない方だが、弟であるライアン伯爵の数々の所業を目にするたびに、ライアン伯爵家が侯爵家を名乗ることに不安を抱いていた。
だから7人目の私が生まれた日、女の子が生まれたと聞いて意気揚々とやってくるライアン伯爵に、その場しのぎの嘘、男女の双子…だと言ったのが発端だった。
剣は好きだった。でも可愛いドレスもキラキラと輝く髪飾りも大好きだった
だからあの日、屋敷の中だけとはいえ、初めて身に着けるドレスに心臓がドキドキして…嬉しくて、こんなドレスを毎日着ていたいと思った。こんなドレスを着て剣を握る自分を想像したくらいだった。
でも、それはお父様にあんな顔をさせた。
悲しかった、大好きなお父様を泣かせたことがただ悲しくて、私はその場から逃げ出してしまった。
庭へと走る私をお父様は追っては来られなかった。
あの時のお父様は、女であることを隠す為に、幼い私にドレスを着ることさえも、我慢をさせているのかと思うとお辛かったのだろう。
はっきりとした覚悟だとは言えないけれど、騎士として国を民を守りたいという思いはあった。
でも、男とか女とかなんて考えてはいなかった。
ドレスを着ていても、騎士の服を着ていても、国や民の為に戦う自分がいつも頭の中にいたから、男とか女とか関係ないと思っていた。
ドレスも好き、髪を結いおしゃれをするのも好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私だと思っていたから悲しくて堪らなかった。
でも…今は無理なんだという事もわかっていた、そしてそれは今ではないということも。
だから今は…そう今は、女が剣を使う事を拒む世だから、男になって剣技を磨くときだ…と涙を拭いだ。
ドレスが似合わない髪型なら、ドレスを着ようなんて思わないし、家族ももう勧めないだろう。
そう決めた瞬間、私はいざというときにと渡されていた短剣で髪を切った。
でも、金色の髪が掴んでいた手から、落ちて行く様を見た時、涙が止まらなくて…このくすの木にしがみ付いて泣いたんだった。
もっと大きな木のような気がしていた。
そっと触れ、木の肌に頬を寄せると、誰かが私の服を引っ張った。
「ねぇ、どうしたの?」
それは…ピンクのドレスを着た…あの時の私?!
「ぁ、あ…」
8歳の私はクスクスと笑い
「大丈夫?」
「…え、ええ」
これは夢だから、8歳の自分に会うってこともありだよね。
でも…なんか変…。
私がなにも言わないからだろうか、8歳の私はドレスの裾を持つとクルリと周り
「素敵でしょう?このドレスね、お父様が今日の日のために作ってくださっていたの。突然渡されて…私…嬉しくて。」
うん、すごく嬉しかった。
「…とっても素敵ね。」
「でも、あなたの方が素敵。だってウェディングドレスだもの。どんな方と結婚したの?」
青い瞳を輝かせる幼い自分に、教えてあげたかった。だから満面の笑顔で答えた。
「すっごく素敵な方よ。」
「私が…ドレスを着て剣を握っても…大丈夫な方?」
「もちろん!騎士としても私を信用してくださる方なの。だっていままで誰にも守らせなかった背中を、私にあずけてくださったのよ。」
ねぇ今は…色々考えちゃうだろうけど信じて…。
ドレスが好き、髪を結いおしゃれをするのが好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私ですと言える日が来るわ。そしてそんな私を愛してくれる人が将来待ってるから。
8歳の私はにっこり笑い
「じゃぁ、もう行かないとね。あなたを呼ぶその方の声が聞こえているものね。」
うん、聞こえるわ。私の名を愛おしそうに呼んでくださる声が…。
「えぇ、行くわね。」
大切な人を守るために、私は両手にしっかり剣を握った。
「あぁ、斬ってやる!ルシアンも俺をバカにする輩もみんなだ!!」
バウマンの振り下ろした剣は、ルシアンの首に届く前に…キーンと空気を断ち切る金属音が響き、ルシアンの背中を守る剣にバウマンの剣は跳ね返された。
大きな背中がビクンと震え、掠れた声が
「…ロザリー…」と名を呼び、ルシアンは赤い瞳を揺らして振り返った。
ロザリーはルシアンに微笑むと、ゆっくり立ち上がりバウマンに
「私はルシアン殿下の背中を守る事を唯一許されたロザリーです。バウマン公爵、ルシアン殿下に刃を向けるのであれば、まず私を倒してからにして頂きたい。」
そう思いながらグルリと周りを見てみると、思わず笑みが零れた。
あのくすの木は…。
知っている。きっとあのくすの木も私を覚えているだろうな。だってあんなに泣いて…そして…
はぁ~なんでこんな夢をみているんだろう。
でもこの木の下で思いっきり泣いたことが、今の私を作った原点だもの。だから、忘れられないから夢にまで出てくるのかなぁ。
あれは8歳の夏、一番上のお姉様の結婚式が終わった夜だったな。
もう今宵は来客はないからと、男の子用の式服から、ピンクのドレスへと着替えた日。
ピンクのドレスが可愛くて、キラキラと輝く髪飾りが眩しくて…。とってもはしゃいでいたのに…1時間足らずだった、お父様が申し訳なさそうに言われたんだ。
『…ロザリー、すまない。そのドレスを着替えてはくれぬか…。』
『わ、わたしは…ドレスを着ていても剣は握れます。…だから…」
『…すまない、ライアンと…エイブが来たんだ。すまない、ロザリー。』
(すまない)と言われるお父様に、私は目を見開いた。
これは…いけないことなんだ。ドレスを着て剣を握る事はいけないんだ。お父様を困らせる事なんだ。
でも(はい)という返事がすぐに出てこなくて、もどかしくて代りに何度も頷いた。お父様を困らせたくないから何度も頷いた。そんな私を見て、お父様が顔を歪め…涙を零されたんだった。
ブラチフォード国では男しか爵位は継げない、そして我が家は女ばかり6人。このままだと将来、お父様の弟ライアン伯爵の息子エイブが爵位を継ぐことになる。お父様は地位や名誉には興味はない方だが、弟であるライアン伯爵の数々の所業を目にするたびに、ライアン伯爵家が侯爵家を名乗ることに不安を抱いていた。
だから7人目の私が生まれた日、女の子が生まれたと聞いて意気揚々とやってくるライアン伯爵に、その場しのぎの嘘、男女の双子…だと言ったのが発端だった。
剣は好きだった。でも可愛いドレスもキラキラと輝く髪飾りも大好きだった
だからあの日、屋敷の中だけとはいえ、初めて身に着けるドレスに心臓がドキドキして…嬉しくて、こんなドレスを毎日着ていたいと思った。こんなドレスを着て剣を握る自分を想像したくらいだった。
でも、それはお父様にあんな顔をさせた。
悲しかった、大好きなお父様を泣かせたことがただ悲しくて、私はその場から逃げ出してしまった。
庭へと走る私をお父様は追っては来られなかった。
あの時のお父様は、女であることを隠す為に、幼い私にドレスを着ることさえも、我慢をさせているのかと思うとお辛かったのだろう。
はっきりとした覚悟だとは言えないけれど、騎士として国を民を守りたいという思いはあった。
でも、男とか女とかなんて考えてはいなかった。
ドレスを着ていても、騎士の服を着ていても、国や民の為に戦う自分がいつも頭の中にいたから、男とか女とか関係ないと思っていた。
ドレスも好き、髪を結いおしゃれをするのも好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私だと思っていたから悲しくて堪らなかった。
でも…今は無理なんだという事もわかっていた、そしてそれは今ではないということも。
だから今は…そう今は、女が剣を使う事を拒む世だから、男になって剣技を磨くときだ…と涙を拭いだ。
ドレスが似合わない髪型なら、ドレスを着ようなんて思わないし、家族ももう勧めないだろう。
そう決めた瞬間、私はいざというときにと渡されていた短剣で髪を切った。
でも、金色の髪が掴んでいた手から、落ちて行く様を見た時、涙が止まらなくて…このくすの木にしがみ付いて泣いたんだった。
もっと大きな木のような気がしていた。
そっと触れ、木の肌に頬を寄せると、誰かが私の服を引っ張った。
「ねぇ、どうしたの?」
それは…ピンクのドレスを着た…あの時の私?!
「ぁ、あ…」
8歳の私はクスクスと笑い
「大丈夫?」
「…え、ええ」
これは夢だから、8歳の自分に会うってこともありだよね。
でも…なんか変…。
私がなにも言わないからだろうか、8歳の私はドレスの裾を持つとクルリと周り
「素敵でしょう?このドレスね、お父様が今日の日のために作ってくださっていたの。突然渡されて…私…嬉しくて。」
うん、すごく嬉しかった。
「…とっても素敵ね。」
「でも、あなたの方が素敵。だってウェディングドレスだもの。どんな方と結婚したの?」
青い瞳を輝かせる幼い自分に、教えてあげたかった。だから満面の笑顔で答えた。
「すっごく素敵な方よ。」
「私が…ドレスを着て剣を握っても…大丈夫な方?」
「もちろん!騎士としても私を信用してくださる方なの。だっていままで誰にも守らせなかった背中を、私にあずけてくださったのよ。」
ねぇ今は…色々考えちゃうだろうけど信じて…。
ドレスが好き、髪を結いおしゃれをするのが好き、剣が好き、古武術が好き、それを全部まとめて私ですと言える日が来るわ。そしてそんな私を愛してくれる人が将来待ってるから。
8歳の私はにっこり笑い
「じゃぁ、もう行かないとね。あなたを呼ぶその方の声が聞こえているものね。」
うん、聞こえるわ。私の名を愛おしそうに呼んでくださる声が…。
「えぇ、行くわね。」
大切な人を守るために、私は両手にしっかり剣を握った。
「あぁ、斬ってやる!ルシアンも俺をバカにする輩もみんなだ!!」
バウマンの振り下ろした剣は、ルシアンの首に届く前に…キーンと空気を断ち切る金属音が響き、ルシアンの背中を守る剣にバウマンの剣は跳ね返された。
大きな背中がビクンと震え、掠れた声が
「…ロザリー…」と名を呼び、ルシアンは赤い瞳を揺らして振り返った。
ロザリーはルシアンに微笑むと、ゆっくり立ち上がりバウマンに
「私はルシアン殿下の背中を守る事を唯一許されたロザリーです。バウマン公爵、ルシアン殿下に刃を向けるのであれば、まず私を倒してからにして頂きたい。」
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