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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㊷
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ロザリーへと近づくバウマンを横目で見ながらヒューゴは、慌てる事もなくまっすぐと前を見ているルシアンの姿に眉を顰めた。
―諦めたのか?いや…まさか!
ヒューゴはハッとしてルシアンが見ている方向へと目をやったが、そこには倒れたアストンと、縛られたウィンスレット侯爵の姿しか見えない。
ルシアンにもう一度目をやると、ルシアンの唇が何かを言葉を口にしているように見えた。
―何か…ある。何か…。
ヒューゴは剣の柄に手をやると、ルシアンが突然笑いだした。
その笑い声に、ヒューゴは剣の柄を握りしめ、今までロザリーだけを見て近づいてきたバウマンも慌てて、ルシアンを見た。
「笑えるぞバウマン、ブラチフォードにいる頃から俺の耳には、おまえの悪事が事細やかに入って来ていたが、おまえがナダル達を助け、数年にわたって援助してきた事を知って、俺は笑ったぞ。
おまえのような悪党も自分の出生とナダル達を重ね、ほだされるとは…お笑いだ。まぁ一歩間違えば、おまえもあの村に連れて行かれたのだからな。」
「ルシアン…貴様に何がわかる!」
ルシアンの背中に向かって、真っ赤な顔で怒鳴るバウマンに
「母親が公爵夫人だったからあの村に行くことはなかった。公爵とていくらなんでも自分の妻が王のお手付きになって、子を成したとは言えない。でもその赤い瞳が…すべてを物語って…」
「うるさい!!!」
バウマンの意識をロザリーから自分へと移したことを、心の中で安堵しながら
「…わかる。俺もブラチフォード国では王妃と王太后に、この髪の色と赤い瞳のせいで命まで狙われた。バカバカしい話だ。好きでこの色を纏って生まれたわけじゃないのに、生まれた瞬間から線を引かれる寂しさは…。」
「…だがおまえは!」
そう言って、アストンと、ウィンスレット侯爵を見て、そしてゆっくりとロザリーを見た。
「…いる。周りにおまえを慕う者がいるではないか!そんなおまえに私の気持ちなどわかるはずはない!」
「おまえは…やはり先々代の子だな。先々代と同じだ。母上が言っていた。」
「…母上、おまえの…母?スミラ…様か?」
「あぁ、おまえにとっては異母姉になるんだな。」
そう言って、微笑むと
「母上は先々代に言ったそうだ。『お父様、自分が探しているものを女性の中で見つけようとして、その方を切り裂くような真似はなさらないでください。』と…。先々代は困ったように笑って『だが、欲しいのだ。この寂しさから救ってくれるものを…』と言われたそうだ。」
ルシアンは、バウマンが背後で僅かに身じろく気配を感じた。
「母上は俺に言われた『寂しさから救ってくれるもの…それはきっと、自分以外の誰かが愛してくれるという思い。でも、愛は乞うだけでは得られない。欲しいのなら与えなければならないと私は思う。だから誰かの中で見つけようとしても、見つかるものではない。なぜ、その事にお父様は気付かれなかったのだろう。……その間違いに気付かないまま、お父様は逝ってしまわれた。』…と。
だが…母上が殺された時、母上のその言葉は俺の中から…一時…消えていた。
信じていた兵士に、母上は殺されたからだ。
それ以来、俺は自分以外の者にすべてをゆだねる事は出来なくなった。人を信じて背中を預けたらバッサリ…ということもあるからな。
だから俺は、自分以外の誰かが愛してくれるという思いを探さなくなっていった。
バウマン、俺とおまえは求めるは…同じだ。
だが先々代のように、人を傷つけても得られないのは俺は知っていた。おまえも…気づけ。公爵家で愛されない寂しさを味わったから、ナダル達に温情を掛けたのだろう?そんなおまえならまだ救える。その心を救える!」
バウマンは一瞬だったが、顔色を変えた、だがヒューゴは…
―そんな綺麗ごとを並べて…。これはコメディか?自分が味わったものの辛さを知っているのなら、本当にわかるのであれば、母達をゴミのようには扱うなんてしやしないさ。ナダル達を助けたのもロイを信用させ、こちらの陣営に引き込むため。
まったく、ルシアンがそんなお涙ちょうだいの芝居をやるとは…がっかりだ。
ぁ…いや、待て。これはまさか時間稼ぎ?!俺やバウマンの意識を自分に集中させて…
ヒューゴは慌てて周りを見渡して、舌打ちをすると
「公爵様!ネズミが2匹…紛れ込んで来ました。」
「な、なんだと!ルシアン、貴様~どこまで俺をバカにするのだ!」
ヒューゴは笑みを浮かべ、ある一点を見つめると
「ロイ、ナダル…惜しかったな。出て来いよ。」
その声に植え込みから、ロイが、そしてナダルが姿を現した。
「俺もルシアンの芝居を最後まで見たいと思っていたが…おまえたちが斬りこんできて、公爵様と俺が死ぬと言う結末は頂けないからな。」
唇を噛んで俯くロイとナダルを鼻で笑うと
「公爵様、あなた様を小馬鹿にする三文芝居の幕を、どうぞその手でお引きください。」
「あぁ、斬ってやる!ルシアンも俺をバカにする輩もみんなだ!!」
そう言ってバウマンは、死刑執行人が斬首刑をするかのように、後ろからルシアンの首を跳ねようと剣を振った。
―諦めたのか?いや…まさか!
ヒューゴはハッとしてルシアンが見ている方向へと目をやったが、そこには倒れたアストンと、縛られたウィンスレット侯爵の姿しか見えない。
ルシアンにもう一度目をやると、ルシアンの唇が何かを言葉を口にしているように見えた。
―何か…ある。何か…。
ヒューゴは剣の柄に手をやると、ルシアンが突然笑いだした。
その笑い声に、ヒューゴは剣の柄を握りしめ、今までロザリーだけを見て近づいてきたバウマンも慌てて、ルシアンを見た。
「笑えるぞバウマン、ブラチフォードにいる頃から俺の耳には、おまえの悪事が事細やかに入って来ていたが、おまえがナダル達を助け、数年にわたって援助してきた事を知って、俺は笑ったぞ。
おまえのような悪党も自分の出生とナダル達を重ね、ほだされるとは…お笑いだ。まぁ一歩間違えば、おまえもあの村に連れて行かれたのだからな。」
「ルシアン…貴様に何がわかる!」
ルシアンの背中に向かって、真っ赤な顔で怒鳴るバウマンに
「母親が公爵夫人だったからあの村に行くことはなかった。公爵とていくらなんでも自分の妻が王のお手付きになって、子を成したとは言えない。でもその赤い瞳が…すべてを物語って…」
「うるさい!!!」
バウマンの意識をロザリーから自分へと移したことを、心の中で安堵しながら
「…わかる。俺もブラチフォード国では王妃と王太后に、この髪の色と赤い瞳のせいで命まで狙われた。バカバカしい話だ。好きでこの色を纏って生まれたわけじゃないのに、生まれた瞬間から線を引かれる寂しさは…。」
「…だがおまえは!」
そう言って、アストンと、ウィンスレット侯爵を見て、そしてゆっくりとロザリーを見た。
「…いる。周りにおまえを慕う者がいるではないか!そんなおまえに私の気持ちなどわかるはずはない!」
「おまえは…やはり先々代の子だな。先々代と同じだ。母上が言っていた。」
「…母上、おまえの…母?スミラ…様か?」
「あぁ、おまえにとっては異母姉になるんだな。」
そう言って、微笑むと
「母上は先々代に言ったそうだ。『お父様、自分が探しているものを女性の中で見つけようとして、その方を切り裂くような真似はなさらないでください。』と…。先々代は困ったように笑って『だが、欲しいのだ。この寂しさから救ってくれるものを…』と言われたそうだ。」
ルシアンは、バウマンが背後で僅かに身じろく気配を感じた。
「母上は俺に言われた『寂しさから救ってくれるもの…それはきっと、自分以外の誰かが愛してくれるという思い。でも、愛は乞うだけでは得られない。欲しいのなら与えなければならないと私は思う。だから誰かの中で見つけようとしても、見つかるものではない。なぜ、その事にお父様は気付かれなかったのだろう。……その間違いに気付かないまま、お父様は逝ってしまわれた。』…と。
だが…母上が殺された時、母上のその言葉は俺の中から…一時…消えていた。
信じていた兵士に、母上は殺されたからだ。
それ以来、俺は自分以外の者にすべてをゆだねる事は出来なくなった。人を信じて背中を預けたらバッサリ…ということもあるからな。
だから俺は、自分以外の誰かが愛してくれるという思いを探さなくなっていった。
バウマン、俺とおまえは求めるは…同じだ。
だが先々代のように、人を傷つけても得られないのは俺は知っていた。おまえも…気づけ。公爵家で愛されない寂しさを味わったから、ナダル達に温情を掛けたのだろう?そんなおまえならまだ救える。その心を救える!」
バウマンは一瞬だったが、顔色を変えた、だがヒューゴは…
―そんな綺麗ごとを並べて…。これはコメディか?自分が味わったものの辛さを知っているのなら、本当にわかるのであれば、母達をゴミのようには扱うなんてしやしないさ。ナダル達を助けたのもロイを信用させ、こちらの陣営に引き込むため。
まったく、ルシアンがそんなお涙ちょうだいの芝居をやるとは…がっかりだ。
ぁ…いや、待て。これはまさか時間稼ぎ?!俺やバウマンの意識を自分に集中させて…
ヒューゴは慌てて周りを見渡して、舌打ちをすると
「公爵様!ネズミが2匹…紛れ込んで来ました。」
「な、なんだと!ルシアン、貴様~どこまで俺をバカにするのだ!」
ヒューゴは笑みを浮かべ、ある一点を見つめると
「ロイ、ナダル…惜しかったな。出て来いよ。」
その声に植え込みから、ロイが、そしてナダルが姿を現した。
「俺もルシアンの芝居を最後まで見たいと思っていたが…おまえたちが斬りこんできて、公爵様と俺が死ぬと言う結末は頂けないからな。」
唇を噛んで俯くロイとナダルを鼻で笑うと
「公爵様、あなた様を小馬鹿にする三文芝居の幕を、どうぞその手でお引きください。」
「あぁ、斬ってやる!ルシアンも俺をバカにする輩もみんなだ!!」
そう言ってバウマンは、死刑執行人が斬首刑をするかのように、後ろからルシアンの首を跳ねようと剣を振った。
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