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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㉙
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結婚式は始まったかしら?…
ミランダは、自分に近づくロイの顔を見ながらそんなことを思っていた。
ミランダがそんな事を考えているとは知らないロイは、口元に笑みを浮かべ
「もし、私が暗示とやらにかかっていたら、ミランダ姫は生きてここから出られませんよ。おわかりになってますか?ミランダ姫。」
そう言って、ロイはまた一歩ミランダに近づくと、ミランダはクスリと笑い
「ロイ、意地の悪い事を言わないで、私が悪かったわ。」
「ミランダ姫?」
ブスッとした顔で、大きなため息をついたロイは、ミランダの前に跪き
「ヒューゴに私が操られていると思われていたんですよ。そりゃ、意地の悪い事だって言いたくなりますよ!…第一、私は!!」
語気を荒げた言葉の続きを、ロイではなくミランダが言った。
「ヒューゴには会ってないのよね。顔を火傷したと言って仮面で隠し、叔父様と入れ替わった頃からね。」
キョトンとした顔でロイは
「そ、そうです。だから私が裏切ったことはバウマン公爵たちだってわかっているんですよ。会うわけないです!」
「それは私も、もちろん叔父様もわかっていたわ。ただロイが裏切っていたと知っていても、あなたは良い駒だから、簡単に手放すだろうかと思っていたの。だから叔父様はあなたをこの件から外した。でも私は…かなりの確率であなたは操り人形にはなっていないと思っていたのよ。」
そう言って、目を細め
「だって、あの御仁がロイをあいつらの操り人形なんかにさせるはずはないもの。ローラン国を愛しているあの御仁ならね。でもそれは、叔父様には言えないでしょう?あの御仁がこのローラン国にいた事は…。」
ロイはゴクンと息を飲んだ。ミランダはにっこりを笑い
「責めはしないわ。ロイはあの御仁を慕っているものね。でも、これが最後よ。例えロイにとっては恩人であろうが、そして兄弟であろうが…今後、私に仕えるつもりなら、心の中であっても主人をふたり持つことを、私は許さないわ。そうでなくては、あなたに命を預けられない!」
「…はい。」
ロイは短く返事をすると、深々と頭を下げ
「…確かに…疑いたくもなりますよね。」
ミランダは跪くロイの肩にそっと触れ、ゆっくりと近くの椅子に座ると
「それて、疑ったわけじゃないのよ。人を操る技は心の隙を狙ってくるから、抗う事が難しいの。だからヒューゴに会った事がある者は疑ってかかれないと命取りなの。ただ今回はあなたの側にはあの御仁がいた、あの御仁にヒューゴごときが近づけはしなかったはず。問題はあの御仁がロイの側から離れた後。おそらく私と会った夜明け前からの十数時間。でもその十数時間のほとんどの時間はロイは私の側から離れなかったから、問題は…リドリー伯爵の屋敷に入ってからの数時間だと踏んでいたの。」
そう言って、ミランダはニヤリと笑うと
「よかったわね。リドリー伯爵とヒューゴが犬猿の仲で…。」
「えっ?」
「寄り付きもしないくらい、お互い嫌っていたんですって。そんなヒューゴが正面玄関から、堂々と訪ねてくることはないし、バウマンの陣営に入り込んだリドリー伯爵の身を守るために、この屋敷はあらゆる仕掛けがあるんだけど、その仕組みを知ろうとしても、その仕組みを知る者はリドリー伯爵本人のみ、だからヒューゴには暗示をかけてこの仕組みを知ることはできない。運良く忍び込めても、そこを突破できるのは相当の腕じゃないと無理。そう叔父様やロザリー並みにないとね。だから、これもない。でも…0%じゃなかった。実際ロイの顔を見て、その反応を見るまでは0%じゃなかったの。」
「ミランダ姫…。」
「ごめんなさい。それぐらい陣営は崩されているの。」
「操られている者がいるのですか?…」
「…ロザリーよ。」
ロイは叫びそうになった声を手を押さえた。
「姿を見せないナダルも…おそらく」
「…そんな…」
「ロイ、力を貸して。」
「…私はどうしたら…いいのですか?!」
ミランダは一瞬躊躇うように、視線をロイから外したが、顔を上げ
「あの御仁に…前ローラン王に会わせて!」
「…すみません…連絡の方法はないんです。いつも…閣下から…」
ミランダは目を瞑り、フウ~と息を吐くと…
「そうはうまくいかないか…。」
ミランダはこの国を愛している前ローラン王なら、力を貸してくれるのではないかと思っていたのだった。
(きっと、私達のドタバタをどこかで見ているんでしょうね。)
ミランダの耳に(これぐらいできるだろう?)と鼻で笑う声が聞こえた気がした。
「まぁ、しょうがないか。」
そう言って、クスリを笑ったミランダは
「じゃぁ、見せてあげるわ。あの御仁に。新しい王が見事この苦難を乗り越えるのところをね。」
ミランダは立ち上がり、扉へと歩き出そうとしたが、その足は遠くから聞こえる荘厳な曲に怯んだ。
「ミランダ姫?」
「・・・。」
呟くようにロザリーの名を呼んだミランダは、両手を握りしめ
「ロイ、その命…私に使わせて」
「御意。」
「行くわよ。血で染まるであろう結婚式に…。」
「はい、お供致します。」
その頃、ナダルは結婚式が執り行われている中庭にいた。
花で囲まれた祭壇に向かって歩くルシアンとロザリーを、揺れる眼差しで見つめ
「…これで…いいんだよな。」
と、ポツリと言いながら、腰の剣を強く握り締めていた。
ミランダは、自分に近づくロイの顔を見ながらそんなことを思っていた。
ミランダがそんな事を考えているとは知らないロイは、口元に笑みを浮かべ
「もし、私が暗示とやらにかかっていたら、ミランダ姫は生きてここから出られませんよ。おわかりになってますか?ミランダ姫。」
そう言って、ロイはまた一歩ミランダに近づくと、ミランダはクスリと笑い
「ロイ、意地の悪い事を言わないで、私が悪かったわ。」
「ミランダ姫?」
ブスッとした顔で、大きなため息をついたロイは、ミランダの前に跪き
「ヒューゴに私が操られていると思われていたんですよ。そりゃ、意地の悪い事だって言いたくなりますよ!…第一、私は!!」
語気を荒げた言葉の続きを、ロイではなくミランダが言った。
「ヒューゴには会ってないのよね。顔を火傷したと言って仮面で隠し、叔父様と入れ替わった頃からね。」
キョトンとした顔でロイは
「そ、そうです。だから私が裏切ったことはバウマン公爵たちだってわかっているんですよ。会うわけないです!」
「それは私も、もちろん叔父様もわかっていたわ。ただロイが裏切っていたと知っていても、あなたは良い駒だから、簡単に手放すだろうかと思っていたの。だから叔父様はあなたをこの件から外した。でも私は…かなりの確率であなたは操り人形にはなっていないと思っていたのよ。」
そう言って、目を細め
「だって、あの御仁がロイをあいつらの操り人形なんかにさせるはずはないもの。ローラン国を愛しているあの御仁ならね。でもそれは、叔父様には言えないでしょう?あの御仁がこのローラン国にいた事は…。」
ロイはゴクンと息を飲んだ。ミランダはにっこりを笑い
「責めはしないわ。ロイはあの御仁を慕っているものね。でも、これが最後よ。例えロイにとっては恩人であろうが、そして兄弟であろうが…今後、私に仕えるつもりなら、心の中であっても主人をふたり持つことを、私は許さないわ。そうでなくては、あなたに命を預けられない!」
「…はい。」
ロイは短く返事をすると、深々と頭を下げ
「…確かに…疑いたくもなりますよね。」
ミランダは跪くロイの肩にそっと触れ、ゆっくりと近くの椅子に座ると
「それて、疑ったわけじゃないのよ。人を操る技は心の隙を狙ってくるから、抗う事が難しいの。だからヒューゴに会った事がある者は疑ってかかれないと命取りなの。ただ今回はあなたの側にはあの御仁がいた、あの御仁にヒューゴごときが近づけはしなかったはず。問題はあの御仁がロイの側から離れた後。おそらく私と会った夜明け前からの十数時間。でもその十数時間のほとんどの時間はロイは私の側から離れなかったから、問題は…リドリー伯爵の屋敷に入ってからの数時間だと踏んでいたの。」
そう言って、ミランダはニヤリと笑うと
「よかったわね。リドリー伯爵とヒューゴが犬猿の仲で…。」
「えっ?」
「寄り付きもしないくらい、お互い嫌っていたんですって。そんなヒューゴが正面玄関から、堂々と訪ねてくることはないし、バウマンの陣営に入り込んだリドリー伯爵の身を守るために、この屋敷はあらゆる仕掛けがあるんだけど、その仕組みを知ろうとしても、その仕組みを知る者はリドリー伯爵本人のみ、だからヒューゴには暗示をかけてこの仕組みを知ることはできない。運良く忍び込めても、そこを突破できるのは相当の腕じゃないと無理。そう叔父様やロザリー並みにないとね。だから、これもない。でも…0%じゃなかった。実際ロイの顔を見て、その反応を見るまでは0%じゃなかったの。」
「ミランダ姫…。」
「ごめんなさい。それぐらい陣営は崩されているの。」
「操られている者がいるのですか?…」
「…ロザリーよ。」
ロイは叫びそうになった声を手を押さえた。
「姿を見せないナダルも…おそらく」
「…そんな…」
「ロイ、力を貸して。」
「…私はどうしたら…いいのですか?!」
ミランダは一瞬躊躇うように、視線をロイから外したが、顔を上げ
「あの御仁に…前ローラン王に会わせて!」
「…すみません…連絡の方法はないんです。いつも…閣下から…」
ミランダは目を瞑り、フウ~と息を吐くと…
「そうはうまくいかないか…。」
ミランダはこの国を愛している前ローラン王なら、力を貸してくれるのではないかと思っていたのだった。
(きっと、私達のドタバタをどこかで見ているんでしょうね。)
ミランダの耳に(これぐらいできるだろう?)と鼻で笑う声が聞こえた気がした。
「まぁ、しょうがないか。」
そう言って、クスリを笑ったミランダは
「じゃぁ、見せてあげるわ。あの御仁に。新しい王が見事この苦難を乗り越えるのところをね。」
ミランダは立ち上がり、扉へと歩き出そうとしたが、その足は遠くから聞こえる荘厳な曲に怯んだ。
「ミランダ姫?」
「・・・。」
呟くようにロザリーの名を呼んだミランダは、両手を握りしめ
「ロイ、その命…私に使わせて」
「御意。」
「行くわよ。血で染まるであろう結婚式に…。」
「はい、お供致します。」
その頃、ナダルは結婚式が執り行われている中庭にいた。
花で囲まれた祭壇に向かって歩くルシアンとロザリーを、揺れる眼差しで見つめ
「…これで…いいんだよな。」
と、ポツリと言いながら、腰の剣を強く握り締めていた。
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