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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目㉖
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ヒューゴはロザリーをぼんやりと見ながら、自分の母親を思い出していた。
女でありながら…
あの手は剣を握った手だった。
武神と言われるウィスレット侯爵の娘とはいえ、かなり修行をした手だった。
そういう生き方ができたあの女は、俺の母親とは大違いだ。
女にもあんな奴がいたとは…。
俺の母親も、あの女も、貴族の娘として生まれ、同じように王となる男に見初められたのに…本当に大きな違いだな。
自分の腕で道を切り開いた女と、誰かにすがって生きる術しか知らなかった女か…。
俺は…
俺は感謝すべきなんだろうな。そんな女だったから、俺が生まれたわけだから…。
でも、母さん。
なぜ、俺の父親なんかに縋ったんだ。
母さんの心や体を弄び、飽きたらボロ布のように母さんを捨てた男なんかに…。
もう少し相手を選べよ。
あんたの人生はボロボロじゃないか…。
どうして、男に縋る事しかできないんだ。
どうして、また……王家の男に惹かれるんだ。
母さんは死ぬまで俺の父親の事は言わなかったよね、でも兄さんは知っていたよ。
兄さんがあんな暴挙に出たのは、俺の父親のことが切っ掛けだったと思う、でも引き金は母さんの死だ。
母さんの葬儀の夜、兄さんが言ったんだ。
『ブラチフォード国といい、ローラン国といい、王家の血を引く者にはろくな奴がいない。いや…俺達の父親が最低なんだろうな。イラつく…。ブラチフォードもローランの王家も潰してやりたい、でもそれだけじゃ足りない。あぁ…そうだ。それぞれの王家を潰した後、俺達兄弟がブラチフォード国とローラン国を治めればどうだろう。』
ヒューゴは片方の唇を持ち上げるように、ロザリーの横に並ぶルシアンを見た。
俺は…わかるよ。あの時の兄さんの気持ちが…。
ブラチフォード王は、母さんが他の男を追って出奔したという王太后と王妃の作り話を信じ、母さんを探さなかった。それどころか、母さんの事なんかすっかり忘れて、他の女を愛し、子供を作り、新しい家族を作った。
その家族を見た兄さんの気持ち…俺はわかるよ。
壊してしまいたい。その幸せを壊してやりたいという気持ちは、俺はわかるよ。
母さんと兄さんが亡くなった後、抜け殻だった俺の体を動かしていたのは、憎しみと悲しみ、そして復讐だった。俺はチャンスを待ち、心の中にある憎しみや悲しみを隠して、王太后と王妃を殺すつもりで近づいたんだ。ようやく、その時だと確信した時だった。
聞いてしまったんだ。
母さんの人生が辛かったことは知っていたが、でも王太后と王妃が口にした話を聞いて、簡単に殺したくないと思うほど…惨い話だった。
『王は余程、あの女に愛されている自信がなかったのでしょうか。あの下賤な女が男を追って城を逃げ出した話をしたら、(自分が不甲斐なかったからだ。)と言って肩を落とし、もう哀れなものでしたわ。』
『もともとあの女には許嫁がいたのに、ブラチフォード王に会った途端、許嫁を捨てた女だから、そのような作り話でも本当の話のように聞こえたんだわ。まさしく身から出た錆ね。うふふ…。』
『…で、あの女は今どこに?』
『あの女がここに戻ってこれないように、男達に襲わせることが目的だったから、その後は知らないわ。そのまま殺されたのかもしれないわね。…それとも男に媚びるのが得意な女だったから、そのままあの男達の慰み者になったかも』
血が…逆流したよ。
あいつらを殺したいと体中の血が叫んでいたよ!
でも、あの二人の前に飛び出そうと瞬間、俺は…思ったんだ。
簡単に殺したくない。
もっと苦しみ、絶望の中で死んで行くのを見てやりたい。
そして、兄さんが思い描いたように、ローラン国もブラチフォード国も奪ってやりたい。
だから、辛抱しろ。その方法を見つけるまでは、闇の中で潜むんだと…ね。
気の遠くなるほどの時間がかかるだろうと思っていた。でも、その方法はすぐに見つかったんだ。
それは王太后と王妃以上の化け物に会ったからさ。
アデリーナ。
その女は本物の化け物だったよ。
女でありながら…
あの手は剣を握った手だった。
武神と言われるウィスレット侯爵の娘とはいえ、かなり修行をした手だった。
そういう生き方ができたあの女は、俺の母親とは大違いだ。
女にもあんな奴がいたとは…。
俺の母親も、あの女も、貴族の娘として生まれ、同じように王となる男に見初められたのに…本当に大きな違いだな。
自分の腕で道を切り開いた女と、誰かにすがって生きる術しか知らなかった女か…。
俺は…
俺は感謝すべきなんだろうな。そんな女だったから、俺が生まれたわけだから…。
でも、母さん。
なぜ、俺の父親なんかに縋ったんだ。
母さんの心や体を弄び、飽きたらボロ布のように母さんを捨てた男なんかに…。
もう少し相手を選べよ。
あんたの人生はボロボロじゃないか…。
どうして、男に縋る事しかできないんだ。
どうして、また……王家の男に惹かれるんだ。
母さんは死ぬまで俺の父親の事は言わなかったよね、でも兄さんは知っていたよ。
兄さんがあんな暴挙に出たのは、俺の父親のことが切っ掛けだったと思う、でも引き金は母さんの死だ。
母さんの葬儀の夜、兄さんが言ったんだ。
『ブラチフォード国といい、ローラン国といい、王家の血を引く者にはろくな奴がいない。いや…俺達の父親が最低なんだろうな。イラつく…。ブラチフォードもローランの王家も潰してやりたい、でもそれだけじゃ足りない。あぁ…そうだ。それぞれの王家を潰した後、俺達兄弟がブラチフォード国とローラン国を治めればどうだろう。』
ヒューゴは片方の唇を持ち上げるように、ロザリーの横に並ぶルシアンを見た。
俺は…わかるよ。あの時の兄さんの気持ちが…。
ブラチフォード王は、母さんが他の男を追って出奔したという王太后と王妃の作り話を信じ、母さんを探さなかった。それどころか、母さんの事なんかすっかり忘れて、他の女を愛し、子供を作り、新しい家族を作った。
その家族を見た兄さんの気持ち…俺はわかるよ。
壊してしまいたい。その幸せを壊してやりたいという気持ちは、俺はわかるよ。
母さんと兄さんが亡くなった後、抜け殻だった俺の体を動かしていたのは、憎しみと悲しみ、そして復讐だった。俺はチャンスを待ち、心の中にある憎しみや悲しみを隠して、王太后と王妃を殺すつもりで近づいたんだ。ようやく、その時だと確信した時だった。
聞いてしまったんだ。
母さんの人生が辛かったことは知っていたが、でも王太后と王妃が口にした話を聞いて、簡単に殺したくないと思うほど…惨い話だった。
『王は余程、あの女に愛されている自信がなかったのでしょうか。あの下賤な女が男を追って城を逃げ出した話をしたら、(自分が不甲斐なかったからだ。)と言って肩を落とし、もう哀れなものでしたわ。』
『もともとあの女には許嫁がいたのに、ブラチフォード王に会った途端、許嫁を捨てた女だから、そのような作り話でも本当の話のように聞こえたんだわ。まさしく身から出た錆ね。うふふ…。』
『…で、あの女は今どこに?』
『あの女がここに戻ってこれないように、男達に襲わせることが目的だったから、その後は知らないわ。そのまま殺されたのかもしれないわね。…それとも男に媚びるのが得意な女だったから、そのままあの男達の慰み者になったかも』
血が…逆流したよ。
あいつらを殺したいと体中の血が叫んでいたよ!
でも、あの二人の前に飛び出そうと瞬間、俺は…思ったんだ。
簡単に殺したくない。
もっと苦しみ、絶望の中で死んで行くのを見てやりたい。
そして、兄さんが思い描いたように、ローラン国もブラチフォード国も奪ってやりたい。
だから、辛抱しろ。その方法を見つけるまでは、闇の中で潜むんだと…ね。
気の遠くなるほどの時間がかかるだろうと思っていた。でも、その方法はすぐに見つかったんだ。
それは王太后と王妃以上の化け物に会ったからさ。
アデリーナ。
その女は本物の化け物だったよ。
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