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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
7日目⑳
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怖かった。
もしかしたら俺は、ロザリーを斬らねばならないかもしれないと思うと堪らなく怖かった。このままロザリーをただ抱きしめているだけでは、何一つ良い方向に変わることはないのに…。
俺はロザリーを腕の中から出す事ができず、そして頭の中では…
どうしたら、ロザリーを救えるんだ。
どうしたら…
そんな言葉で頭は一杯で、他の音は聞こえていなかった…だが…
「信じています。」
それは突然、耳に入ってきたロザリーの言葉だった。
「なにがあっても、私はおふたりを信じてついて行きます。」
ハッとして、ロザリーの顔を見た。
そこには俺を信じている透き通った瞳と、綺麗な微笑み。
俺やミランダが、何かを隠しているとわかっているのに、それがきっと自分に関することだとわかっているのに、ロザリーはそう言った。
…いつも、そうだ。
いつも、ロザリーは俺の背中を押す。
前に進めば、今以上の苦しみや悲しみがあるかもしれない、でも幸せも見つける事ができるかもしれない。
だが逃げれば、幸せはない。それだけは言える。
…だから、前に進め。
このまま背を向けても、解決しない。
心の中でそう言いながら、ミランダを見ると、ミランダも俺を見ていた。
どうやら、ミランダも俺も腹を括れたようだ。
俺はロザリーの金色の髪にキスを落とすと、ロザリーを腕の中から出した。
必ず、ロザリーをまたこの腕で抱きしめると誓いながら。
ミランダはブラチフォードから連れてきた侍女たちをこの部屋に入れると、俺の袖を引っ張り部屋の外に連れ出し開口一番。
「叔父様、このまま時間を無駄にするわけには行かないわ。だから、私も結婚式に出させて。」
「剣を抜くことになるとわかっている結婚式に、おまえを出す事は出来ないと言っていたはずだ。それに…無理なのだろう?」
「えっ?」
ミランダは大きな瞳をより大きくして俺を見た。
「ロザリーの暗示を解くのは…無理なのだろう。」
「叔父様…。」
「おまえほど暗示に詳しくはないが、俺にもわかる。記憶が途切れ途切れになっているという事が、どういう状態を意味するのか。」
ミランダは泣きそうな顔で俺を見上げ
「…でもゼロではないわ。暗示を解くのはゼロではない、だから…私を」
「ミランダ、戦場となる場所におまえを連れては行けない!それに…おまえを守るために人員を割けない。」
「わかってる!でも叔父様に向かって、剣を抜くロザリーを見たくない!」
「ミランダ…。」
「…ごめんなさい。直前にこんなことを言って…。
でも暗示を解かないと、操られたロザリーを止められるのは叔父様しかいない。叔父様が剣を抜くしかないのよ。そんなの嫌…。」
ミランダの不思議な力を宿す瞳が…俺を見た。
今にも零れそうな涙をためて揺らいでいる。
《心配するな。》《大丈夫。》そう言ってやることは簡単だ。だが、ミランダはこの瞳ですべてがわかるから。
だから…言葉は紡げない。
ミランダは俺をじっと見つめた。それは長い時間だった。
ミランダは一瞬顔を歪めたが、ゆっくりと片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ
「ご武運をお祈りいたします。」と言った。
「ミランダ。バウマン公爵たちを中庭に入れたら、すぐにここを立て。ブラチフォードの父上には連絡をとっているから、途中でブラチフォードの兵士らと合流できるはずだ。」
だがミランダは頭を下げたまま、何も言わない。
「すまない、ミランダ。ロザリーを…、おまえが大好きなロザリーをこんなことに巻き込んだ俺を許せ。」
ミランダは肩を震わせていたが、言葉はなく、顔さえも上げてはくれなかった。
俺は踵を返すと、ゆっくりとウィンスレット侯爵とアストンが待っている部屋へと歩き出した。
叔父様の足音が遠ざかる。
なにが…『おまえが大好きなロザリーをこんなことに巻き込んだ俺を許せ。』よ。
ロザリーだけじゃない。わ・た・しは叔父様も大好きなの!
そんなふたりを置いて、ひとりで安全なところに逃げるつもりなんてないわ。
頭をあげ、遠ざかる大きな背中に呟くように
「私も戦う。」
そう言うと、ミランダは歩みを速めた。
慌ててついてくる侍女らに
「すぐに、リドリー伯爵のところに行きます。馬車を用意してちょうだい。」
私の読みが当たっていれば、この計画はうまく行くはず。
100%安全じゃないけれど…。
今はこれしか浮かばない。
ミランダは立ち止まり、振り返ると
「叔父様、ごめんなさい。ふたりを助ける確率が1%でもあるのならやりたいの。」
そう言うとミランダは勢いよく走り出した。
リドリー伯爵邸にいるロイに会うために。
もしかしたら俺は、ロザリーを斬らねばならないかもしれないと思うと堪らなく怖かった。このままロザリーをただ抱きしめているだけでは、何一つ良い方向に変わることはないのに…。
俺はロザリーを腕の中から出す事ができず、そして頭の中では…
どうしたら、ロザリーを救えるんだ。
どうしたら…
そんな言葉で頭は一杯で、他の音は聞こえていなかった…だが…
「信じています。」
それは突然、耳に入ってきたロザリーの言葉だった。
「なにがあっても、私はおふたりを信じてついて行きます。」
ハッとして、ロザリーの顔を見た。
そこには俺を信じている透き通った瞳と、綺麗な微笑み。
俺やミランダが、何かを隠しているとわかっているのに、それがきっと自分に関することだとわかっているのに、ロザリーはそう言った。
…いつも、そうだ。
いつも、ロザリーは俺の背中を押す。
前に進めば、今以上の苦しみや悲しみがあるかもしれない、でも幸せも見つける事ができるかもしれない。
だが逃げれば、幸せはない。それだけは言える。
…だから、前に進め。
このまま背を向けても、解決しない。
心の中でそう言いながら、ミランダを見ると、ミランダも俺を見ていた。
どうやら、ミランダも俺も腹を括れたようだ。
俺はロザリーの金色の髪にキスを落とすと、ロザリーを腕の中から出した。
必ず、ロザリーをまたこの腕で抱きしめると誓いながら。
ミランダはブラチフォードから連れてきた侍女たちをこの部屋に入れると、俺の袖を引っ張り部屋の外に連れ出し開口一番。
「叔父様、このまま時間を無駄にするわけには行かないわ。だから、私も結婚式に出させて。」
「剣を抜くことになるとわかっている結婚式に、おまえを出す事は出来ないと言っていたはずだ。それに…無理なのだろう?」
「えっ?」
ミランダは大きな瞳をより大きくして俺を見た。
「ロザリーの暗示を解くのは…無理なのだろう。」
「叔父様…。」
「おまえほど暗示に詳しくはないが、俺にもわかる。記憶が途切れ途切れになっているという事が、どういう状態を意味するのか。」
ミランダは泣きそうな顔で俺を見上げ
「…でもゼロではないわ。暗示を解くのはゼロではない、だから…私を」
「ミランダ、戦場となる場所におまえを連れては行けない!それに…おまえを守るために人員を割けない。」
「わかってる!でも叔父様に向かって、剣を抜くロザリーを見たくない!」
「ミランダ…。」
「…ごめんなさい。直前にこんなことを言って…。
でも暗示を解かないと、操られたロザリーを止められるのは叔父様しかいない。叔父様が剣を抜くしかないのよ。そんなの嫌…。」
ミランダの不思議な力を宿す瞳が…俺を見た。
今にも零れそうな涙をためて揺らいでいる。
《心配するな。》《大丈夫。》そう言ってやることは簡単だ。だが、ミランダはこの瞳ですべてがわかるから。
だから…言葉は紡げない。
ミランダは俺をじっと見つめた。それは長い時間だった。
ミランダは一瞬顔を歪めたが、ゆっくりと片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ
「ご武運をお祈りいたします。」と言った。
「ミランダ。バウマン公爵たちを中庭に入れたら、すぐにここを立て。ブラチフォードの父上には連絡をとっているから、途中でブラチフォードの兵士らと合流できるはずだ。」
だがミランダは頭を下げたまま、何も言わない。
「すまない、ミランダ。ロザリーを…、おまえが大好きなロザリーをこんなことに巻き込んだ俺を許せ。」
ミランダは肩を震わせていたが、言葉はなく、顔さえも上げてはくれなかった。
俺は踵を返すと、ゆっくりとウィンスレット侯爵とアストンが待っている部屋へと歩き出した。
叔父様の足音が遠ざかる。
なにが…『おまえが大好きなロザリーをこんなことに巻き込んだ俺を許せ。』よ。
ロザリーだけじゃない。わ・た・しは叔父様も大好きなの!
そんなふたりを置いて、ひとりで安全なところに逃げるつもりなんてないわ。
頭をあげ、遠ざかる大きな背中に呟くように
「私も戦う。」
そう言うと、ミランダは歩みを速めた。
慌ててついてくる侍女らに
「すぐに、リドリー伯爵のところに行きます。馬車を用意してちょうだい。」
私の読みが当たっていれば、この計画はうまく行くはず。
100%安全じゃないけれど…。
今はこれしか浮かばない。
ミランダは立ち止まり、振り返ると
「叔父様、ごめんなさい。ふたりを助ける確率が1%でもあるのならやりたいの。」
そう言うとミランダは勢いよく走り出した。
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