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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
5日目②
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王都を離れたのは僅か数日だったが、戴冠式と結婚式を明後日に控えた王都は、その時よりも賑わいを見せていた。
「どうだい!ルシアン王とロザリー王妃が織り込まれているタペストリーは!」
「ワインを飲んでくれよ。明後日の式典の為に特別に作られてんだ!」
戴冠式と結婚式を見物に来た旅人一行だと思われた私達は、露店の商人には捕まえたい客だったのだろう。
声を掛けられ、その度に私達は
「…今から宿に行くから、土産は後で」
「それまで商品は残っていないよ。間違いなく売り切れるね。この国だけじゃない、周辺の国からも大勢の人が来てんだ。それによ。このタペストリーなんか、とくにそうだ。王妃になられるロザリー様がお気に入りで、城へ何十枚も注文されてるんだ。」
と言われ、私達は苦笑しながら通り過ぎていた。
だが…ひとりだけ、ムッとした顔でいらした方がいた。
お父様と一緒に、騎乗されたミランダ姫だけは、その賑わいを横目で見ながら
「…間違いなく…明日までに売らないと…売れ残るわね。商売どころじゃなくなるものね。」
そう言われて、私を見られた。
ミランダ姫の目は怒っているというより、泣いているように見え、何を言ったらいいのかわからないくせに、声を掛けようとした私の肩にルシアン殿下の手が乗せられて、ハッとして唇を噛んだ。
そんな私から、ミランダ姫は視線を別のところに移され、私はミランダ姫の横顔を見ていた。
城に戻った私を待っていたのは、キャロルさんの涙と…
そして…叫び声だった。
「キャァ~!!!か…髪の毛が…バサバサ。肌が…カサカサ。」
「いや~そこまではないと思うけど…」
「この数カ月に及ぶ私の努力が…たった数日で粉々にされるとは…。お手入れの方法を伝授いたしましたよね!やらなかったのですか!!」
青い顔で私の顔を見て涙ぐむキャロルさんに、俯いた私は
「…色々ありまして、とてもお手入れなんてできる状況ではなくて…」
「はぁ~。ロザリー様。明後日ですよ。結婚式は!どうなさるおつもりですの。」
そう言って、私を見ていたキャロルさんは、両手を突き上げ
「ぁ…もう!!落ち込んでなんかいられないわ。時間がないんですもの。やるわ!必ずロザリー様をこの大陸一の美女に!!甦らせるわ!」
「…大陸一の…美女?!…キャロルさん…もともと私は、そこまでないから…。」
「いいえ!ロザリー様は素材はピカ一。そしてこの美の伝道師の私の腕にかかれば…大陸一に決まっております。」
「はぁ~キャロルさん~。」
困った顔の私に、キャロルさんが微笑んだ。
すごく優しい笑顔で…。その笑顔があまりにも優しい笑顔だったので、見惚れていたら…。
「結婚式は女性が一番幸せな瞬間だから、ルシアン殿下にも、お招きするお客様方にも、そしてなによりも、ロザリー様をお育てされたご両親様にも…結婚式のロザリー様をより美しく、皆様の心に残したいのです。」
言えなかった。
こんなに私の結婚式を思ってくれるキャロルさんに、結婚式にバウマン公爵を取り押さえるための…罠を仕掛けるとは言えなかった。
「…どうなさったのですか?青い顔で…。」
私の顔を覗き込み、心配そうにキャロルさんの瞳が揺れた。
「ご心配になられましたか?すみません…言い過ぎました。大丈夫ですよ、ロザリー様。このキャロルが培った技で明後日までには、ロザリー様の髪を、肌を、元通りにします。お任せください。」
バウマン公爵ら、反逆者たちを城に閉じ込め、一掃する計画は、町の被害を最小限に抑えるために考えた計画だった。でもミランダ姫、そしてキャロルさんが、私以上に喜び、楽しみにしてくださっていた結婚式は、きっとめちゃくちゃだろう。
血で穢れた結婚式だと、後の世に言われるかもしれない。
「どうだい!ルシアン王とロザリー王妃が織り込まれているタペストリーは!」
「ワインを飲んでくれよ。明後日の式典の為に特別に作られてんだ!」
戴冠式と結婚式を見物に来た旅人一行だと思われた私達は、露店の商人には捕まえたい客だったのだろう。
声を掛けられ、その度に私達は
「…今から宿に行くから、土産は後で」
「それまで商品は残っていないよ。間違いなく売り切れるね。この国だけじゃない、周辺の国からも大勢の人が来てんだ。それによ。このタペストリーなんか、とくにそうだ。王妃になられるロザリー様がお気に入りで、城へ何十枚も注文されてるんだ。」
と言われ、私達は苦笑しながら通り過ぎていた。
だが…ひとりだけ、ムッとした顔でいらした方がいた。
お父様と一緒に、騎乗されたミランダ姫だけは、その賑わいを横目で見ながら
「…間違いなく…明日までに売らないと…売れ残るわね。商売どころじゃなくなるものね。」
そう言われて、私を見られた。
ミランダ姫の目は怒っているというより、泣いているように見え、何を言ったらいいのかわからないくせに、声を掛けようとした私の肩にルシアン殿下の手が乗せられて、ハッとして唇を噛んだ。
そんな私から、ミランダ姫は視線を別のところに移され、私はミランダ姫の横顔を見ていた。
城に戻った私を待っていたのは、キャロルさんの涙と…
そして…叫び声だった。
「キャァ~!!!か…髪の毛が…バサバサ。肌が…カサカサ。」
「いや~そこまではないと思うけど…」
「この数カ月に及ぶ私の努力が…たった数日で粉々にされるとは…。お手入れの方法を伝授いたしましたよね!やらなかったのですか!!」
青い顔で私の顔を見て涙ぐむキャロルさんに、俯いた私は
「…色々ありまして、とてもお手入れなんてできる状況ではなくて…」
「はぁ~。ロザリー様。明後日ですよ。結婚式は!どうなさるおつもりですの。」
そう言って、私を見ていたキャロルさんは、両手を突き上げ
「ぁ…もう!!落ち込んでなんかいられないわ。時間がないんですもの。やるわ!必ずロザリー様をこの大陸一の美女に!!甦らせるわ!」
「…大陸一の…美女?!…キャロルさん…もともと私は、そこまでないから…。」
「いいえ!ロザリー様は素材はピカ一。そしてこの美の伝道師の私の腕にかかれば…大陸一に決まっております。」
「はぁ~キャロルさん~。」
困った顔の私に、キャロルさんが微笑んだ。
すごく優しい笑顔で…。その笑顔があまりにも優しい笑顔だったので、見惚れていたら…。
「結婚式は女性が一番幸せな瞬間だから、ルシアン殿下にも、お招きするお客様方にも、そしてなによりも、ロザリー様をお育てされたご両親様にも…結婚式のロザリー様をより美しく、皆様の心に残したいのです。」
言えなかった。
こんなに私の結婚式を思ってくれるキャロルさんに、結婚式にバウマン公爵を取り押さえるための…罠を仕掛けるとは言えなかった。
「…どうなさったのですか?青い顔で…。」
私の顔を覗き込み、心配そうにキャロルさんの瞳が揺れた。
「ご心配になられましたか?すみません…言い過ぎました。大丈夫ですよ、ロザリー様。このキャロルが培った技で明後日までには、ロザリー様の髪を、肌を、元通りにします。お任せください。」
バウマン公爵ら、反逆者たちを城に閉じ込め、一掃する計画は、町の被害を最小限に抑えるために考えた計画だった。でもミランダ姫、そしてキャロルさんが、私以上に喜び、楽しみにしてくださっていた結婚式は、きっとめちゃくちゃだろう。
血で穢れた結婚式だと、後の世に言われるかもしれない。
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