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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie
4日目⑦…もう一つの場所で
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鏡へ、酒瓶を投げつけ、バウマンは叫んだ。
「くそっ!!なんで失敗したんだ!リドリーを、リドリー伯爵を呼べ!」
「公爵様、リドリー伯爵は3日目後の式典のことで、ブラチフォード国のミランダ姫に呼ばれておられ、こちらに、すぐにはお見えになられる事は難しいかと…。」
「あの…クソガキにか…。では、失敗した経緯を説明出来る者を連れてこい!」
そう言って傍らに置いた酒瓶を、跪く男に向かって投げ、男は慌てて部屋を飛び出していった。
カイザー・バウマン。赤い瞳の公爵。
その瞳のせいで、一時は先々代ローラン王の子だとも噂されたが
「先祖返りなんですよ。変な噂で、母や陛下の名誉を、傷つけるようなことはしないでください。」
と本人は笑って否定をしていたが…だが、本心は野心の塊だった。
「何が先祖返りだ。何が名誉を傷つけるようなことはしないでください…だ。
誰が父親か、一目瞭然の私のこの姿なのに、そう言わねば我が国は乱れると…公爵の父が仰るから…そう私も言わねばならなかった。
なぜ?公爵の父は…そして母は、何の見返りも王に要求せず、黙って逝ってしまわれた。
なぜ?妻を弄ばれ、不義の子を産まされたのに…なぜ黙って逝かれた。
言えば良かったのだ。言えば…私が王となって、黒髪と赤い瞳を持ち、心に悪魔を飼っている王家の輩をこの世から、消して差し上げてもよかったのに…あはは…。」
ひとしきり笑ったバウマンだったが…ぼんやりとカラになったグラスを見つめ
「前ローラン王が姿を消したことで、チャンスだと思ったが…」
そう口にし、グラスになみなみと酒を注ぎ
「子供がいなかった前王に、重鎮達は次の王を、兄弟であるバカな先々代の王子達の中から、選ぶと言う愚策は、流石にやらなんだが…なぜ…ルシアンなのだ?!
赤い瞳を持つ者を王にしたいのなら…ここにいるではないか…この私が…この有能な私が。
私があの先々代のローラン王と、公爵夫人との間に生まれた子だと、みんな知っているくせに。
…なぜ私ではいけない。
ルシアンは…他国に嫁いだ姫の子ではないか?!
一応、公爵の息子として生まれたからか?
私が王となったら、先々代の女遊びが、臣下の妻にまで及んでいたと世に知らしめることになるからか?
…それはこの国の品位を貶めるからか?
じゃぁ、手を付けた身分の低い女を、山の中に一堂に集めていたと言う話は…どうなんだ。
余程…そちらのほうがこの国の品位を貶める話じゃないか?
子供を産ませるくらいなら、いっそ母を愛妾にしてくれればよかったのだ。
そうすれば…私は簡単に王になれたのに…。
おかげで大変だ。
武力で、この国を手に入れるより、もっと安易な方法を思いついたというのに…。
ロイが寝返り…計画は潰れた。
ナダルに任せていたのが間違いだった。
娼婦だったニナの息子…ナダル。
私の血を引く者だから、有能だと思っていたが…とんだ欠陥品だったな。」
そう言って、グラスを一気にあけたが…もう次を注ぐ酒はなかった。
昨夜から、飲み続けていた酒は流石に底をつき始めていたのだった。
「おい!誰かおらぬか!」
だが、バウマンの声に出てくる者はおらず、バウマンはふらつく足で立ち上がり、部屋の扉をあけ
「…誰か…酒を…」と言って…ニヤリと笑った。
そこには跪く老兵がいたからだった。
「待ちかねたぞ。リドリー伯爵。」
「遅くなり申し訳ありません。まずは…この度の襲撃の失敗のことですが…。」
「いや、それよりも…クソガキに呼ばれたそうだが…そのことを聞きたい。子供とは言え…なにやら不思議な力を持つと言う噂の王女様は何といっておる。」
リドリー伯爵は、クスリと笑うと
「…結婚式を」
「結婚式…ルシアンのか?」
「はい。戴冠式後に執り行う予定だった結婚式を、戴冠式前にふたりを知る者だけを集めてやりたいとの仰せで」
「なぜだ?」
「ミランダ姫はウィンスレット侯爵の娘が大層お気に入りで、我々が戴冠式を狙って襲ってきたら、その後に執り行う結婚式ができなくなるから、それではロザリーが可哀そうだと仰っておいでで…。」
バウマンはリドリーが言い終わる前に、クスクスと笑うと
「そんな質素な結婚式をやってもらっても、ロザリーとやらは喜ばないだろうに…やはり子供だな。貴族の女の欲と言う物をしらんな。」
そう言って、空瓶を廊下に放り投げ
「もう、戴冠式を狙う計画はロイの裏切りでご破算なのだからな。クソガキが好きなようにすればいいさ。
なぁ…リドリー。良い計画だったと思わないか?有能な私が考えた計画は良かったと思うだろう?!
ルシアンがご執心の…あのロザリーと言う女を人質にして、戴冠式には、ロイをルシアンの身代わりとして執り行い。傀儡政権を作ると言う計画は…良かったと…。だが…もう打つ手がなくなった。」
「いや、そうでもございません。ミランダ姫を始め、あちらでは、我々が戴冠式を狙うとまだ思っております。正直、戴冠式を経て王となられたルシアン殿下の結婚式に、剣を向ければ国家反逆罪。逆賊になってはマズイからと、結婚式での襲撃は考えておりませんでしたが…。ミランダ姫の…」
そう言って、一旦言葉を止めて、リドリーはにっこり笑うと
「戴冠式前に…。ルシアン殿下の結婚式を少人数でやりたいと言うご希望は…。それは我々には願ってもないこと。どうでしょうか…公爵。傀儡政権で楽に手に、国を手に入れることより、ルシアン殿下を殺して、自ら王となられてはいかがでしょうか?」
バウマンは酒で赤くなった顔をより赤くし
「なるほど…これは…私にローラン王になれという神命かもしれないな。」
戴冠式と結婚式を3日後に控えた夜。
王都でロザリーとルシアンを待ち構える輩が、闇の中で笑っていた。
「くそっ!!なんで失敗したんだ!リドリーを、リドリー伯爵を呼べ!」
「公爵様、リドリー伯爵は3日目後の式典のことで、ブラチフォード国のミランダ姫に呼ばれておられ、こちらに、すぐにはお見えになられる事は難しいかと…。」
「あの…クソガキにか…。では、失敗した経緯を説明出来る者を連れてこい!」
そう言って傍らに置いた酒瓶を、跪く男に向かって投げ、男は慌てて部屋を飛び出していった。
カイザー・バウマン。赤い瞳の公爵。
その瞳のせいで、一時は先々代ローラン王の子だとも噂されたが
「先祖返りなんですよ。変な噂で、母や陛下の名誉を、傷つけるようなことはしないでください。」
と本人は笑って否定をしていたが…だが、本心は野心の塊だった。
「何が先祖返りだ。何が名誉を傷つけるようなことはしないでください…だ。
誰が父親か、一目瞭然の私のこの姿なのに、そう言わねば我が国は乱れると…公爵の父が仰るから…そう私も言わねばならなかった。
なぜ?公爵の父は…そして母は、何の見返りも王に要求せず、黙って逝ってしまわれた。
なぜ?妻を弄ばれ、不義の子を産まされたのに…なぜ黙って逝かれた。
言えば良かったのだ。言えば…私が王となって、黒髪と赤い瞳を持ち、心に悪魔を飼っている王家の輩をこの世から、消して差し上げてもよかったのに…あはは…。」
ひとしきり笑ったバウマンだったが…ぼんやりとカラになったグラスを見つめ
「前ローラン王が姿を消したことで、チャンスだと思ったが…」
そう口にし、グラスになみなみと酒を注ぎ
「子供がいなかった前王に、重鎮達は次の王を、兄弟であるバカな先々代の王子達の中から、選ぶと言う愚策は、流石にやらなんだが…なぜ…ルシアンなのだ?!
赤い瞳を持つ者を王にしたいのなら…ここにいるではないか…この私が…この有能な私が。
私があの先々代のローラン王と、公爵夫人との間に生まれた子だと、みんな知っているくせに。
…なぜ私ではいけない。
ルシアンは…他国に嫁いだ姫の子ではないか?!
一応、公爵の息子として生まれたからか?
私が王となったら、先々代の女遊びが、臣下の妻にまで及んでいたと世に知らしめることになるからか?
…それはこの国の品位を貶めるからか?
じゃぁ、手を付けた身分の低い女を、山の中に一堂に集めていたと言う話は…どうなんだ。
余程…そちらのほうがこの国の品位を貶める話じゃないか?
子供を産ませるくらいなら、いっそ母を愛妾にしてくれればよかったのだ。
そうすれば…私は簡単に王になれたのに…。
おかげで大変だ。
武力で、この国を手に入れるより、もっと安易な方法を思いついたというのに…。
ロイが寝返り…計画は潰れた。
ナダルに任せていたのが間違いだった。
娼婦だったニナの息子…ナダル。
私の血を引く者だから、有能だと思っていたが…とんだ欠陥品だったな。」
そう言って、グラスを一気にあけたが…もう次を注ぐ酒はなかった。
昨夜から、飲み続けていた酒は流石に底をつき始めていたのだった。
「おい!誰かおらぬか!」
だが、バウマンの声に出てくる者はおらず、バウマンはふらつく足で立ち上がり、部屋の扉をあけ
「…誰か…酒を…」と言って…ニヤリと笑った。
そこには跪く老兵がいたからだった。
「待ちかねたぞ。リドリー伯爵。」
「遅くなり申し訳ありません。まずは…この度の襲撃の失敗のことですが…。」
「いや、それよりも…クソガキに呼ばれたそうだが…そのことを聞きたい。子供とは言え…なにやら不思議な力を持つと言う噂の王女様は何といっておる。」
リドリー伯爵は、クスリと笑うと
「…結婚式を」
「結婚式…ルシアンのか?」
「はい。戴冠式後に執り行う予定だった結婚式を、戴冠式前にふたりを知る者だけを集めてやりたいとの仰せで」
「なぜだ?」
「ミランダ姫はウィンスレット侯爵の娘が大層お気に入りで、我々が戴冠式を狙って襲ってきたら、その後に執り行う結婚式ができなくなるから、それではロザリーが可哀そうだと仰っておいでで…。」
バウマンはリドリーが言い終わる前に、クスクスと笑うと
「そんな質素な結婚式をやってもらっても、ロザリーとやらは喜ばないだろうに…やはり子供だな。貴族の女の欲と言う物をしらんな。」
そう言って、空瓶を廊下に放り投げ
「もう、戴冠式を狙う計画はロイの裏切りでご破算なのだからな。クソガキが好きなようにすればいいさ。
なぁ…リドリー。良い計画だったと思わないか?有能な私が考えた計画は良かったと思うだろう?!
ルシアンがご執心の…あのロザリーと言う女を人質にして、戴冠式には、ロイをルシアンの身代わりとして執り行い。傀儡政権を作ると言う計画は…良かったと…。だが…もう打つ手がなくなった。」
「いや、そうでもございません。ミランダ姫を始め、あちらでは、我々が戴冠式を狙うとまだ思っております。正直、戴冠式を経て王となられたルシアン殿下の結婚式に、剣を向ければ国家反逆罪。逆賊になってはマズイからと、結婚式での襲撃は考えておりませんでしたが…。ミランダ姫の…」
そう言って、一旦言葉を止めて、リドリーはにっこり笑うと
「戴冠式前に…。ルシアン殿下の結婚式を少人数でやりたいと言うご希望は…。それは我々には願ってもないこと。どうでしょうか…公爵。傀儡政権で楽に手に、国を手に入れることより、ルシアン殿下を殺して、自ら王となられてはいかがでしょうか?」
バウマンは酒で赤くなった顔をより赤くし
「なるほど…これは…私にローラン王になれという神命かもしれないな。」
戴冠式と結婚式を3日後に控えた夜。
王都でロザリーとルシアンを待ち構える輩が、闇の中で笑っていた。
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