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第三話 失われた真実
第十一章:5 衝撃
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「呪いであるとしても不自然ですが。もしあれが呪いならば、発した元凶にしか断つことができないでしょう」
朱里が絶望的な思いに竦むと、彼方が「でも」と続けた。
「呪いなら打つ手があるかもしれないよ。呪いは不完全な呪のようなものでしょ。副担任の呪のように完全に鬼を制することができないだけで、強い思いや念によって、鬼を動かすことには変わりがない」
「たしかに彼方の言うとおりです。呪鬼を持たない者が、鬼の力に縋る方法、それが呪いです」
「だったら、副担任には昇華させることが出来るかもしれないよね」
彼方が期待をこめた眼差しで遥を眺めるが、彼は今までのように呪を以って制することをしない。奏がすぐに結論を出した。
「それが可能なら、遥がためらうはずがありません」
「呪いと鬼の繋がりを断つことができないということ?」
「わかりません。それに呪いは本来これほどの効力を持たないものです。なぜなら、呪いを発した元凶もそれ相応の反動を覚悟しなければならない。霊獣を捕らえるほどの呪いならば、元凶は魂魄を失うことになるでしょう」
雪が腑に落ちないというように首を傾げる。
「兄様、その理屈だと呪いを発した途端、元凶も絶たれることになります。ただの自滅行為で、呪い自体が成り立たないわ」
「そう。だから、呪いによって魂魄を奪うような大それたことは出来ません。ささやかな悪意しか形にできない筈です」
「じゃあ、これは呪いじゃないってこと?」
「判りません」
奏が険しい表情になる。結局話が振り出しに戻る。朱里は胸の前で握り合わせた手がぶるぶると震えた。力を込めすぎて爪が食い込むが、痛みは感じない。全ての感覚が不安と恐れに占められているかのようだった。
「結局、副担任は守護を倒すしかないってことだよね」
「そんなっ」
朱里が思わず呟くと、同時に遥の声がした。
「麟華。その戒め、すぐに解いてやる」
静謐な夜の闇に波紋を描くように、場違いなほど穏やかな呟きだった。
朱里は嫌な予感に貫かれて息が詰まる。彼方達も同じように何かを感じたらしく、まるで身動きすることを封じられたように、目の前の光景に注目していた。遥はのたうつ麟華の巨体を交わすようにひらりと跳躍した。本性を映した守護の背後に回り、手にしていた刀剣を何の未練もなく虚空に収める。
麟華は突然目の前から標的を失って低く唸ったが、すぐに主の気配を察して体躯を翻す。朱里は心臓が握りつぶされそうな思いで、その光景を見守っていた。そのまま角を振りかざして突進されたら、遥には受け止める術がないのだ。
「先生」
朱里が見つめていると、遥が一瞬こちらに視線を向けたのが判った。口元に苦い笑みが浮かぶ。朱里にはその微笑みの意味が判らなかったが、背後の奏には意図が読めたらしい。
「遥っ」
奏の叫びと、麟華の高い咆哮が重なった。しなやかな黒い影が前足を地に打ち鳴らす。猛然と遥に狙いを定めて、巨体が突進した。足元が震えて身動きできない朱里の傍らから、ざっと何かが風を切ってすり抜けていく。それが奏であると気付いたのは、麟華の長い角が遥の身体を刺し貫いた時だった。
「副担任っ」
彼方の声と、雪の絶叫が交差した。朱里は目の前の光景に感覚が追いつかない。全身を巡る震えがひときわ大きくなった。鼓動が止まるのではないかと思えるほどの、衝撃。
「先生っ」
自分の叫びをどこか他人事のように聞きながら、朱里は突き動かされるようにふらふらともつれる足で駆け寄った。
「遥、莫迦なことを」
身体を貫いた光沢のない角の根元を掴んで、彼が麟華の巨体を押さえていた。ぎりぎりと角を掴む手に力が込められているのが判る。その手が流れ出てきた遥自身の血の赤に染められるのは、すぐだった。麟華は角を押さえられて、まるで成す術がなくなったかのように動きを止めた。
光景の残酷さを滲ませるように、視界を歪ませる涙が溢れ出てくる。朱里は涙を拭うこともせず、黒い巨体と遥に取りすがるように腕を伸ばした。先生と呟く声が、はっきりとした言葉にならない。遥は浅い呼吸を繰り返しながら苦笑する。
「大丈夫。朱里、私はこれくらいの傷では、……死ねない」
それでも痛みは感じるはずだと、朱里は激しく頭を振るだけで精一杯だった。血の気のひいた蒼白な顔色が彼の衝撃を物語っている。
「麟華は――っ」
彼の言葉が不自然に費えた。角の根元を掴んでいた遥の手が、電流が走ったかのようにびりっと震える。それは瞬きする間もなく彼の全身に伝わって、その身を侵す。
「う、あ……っ」
身を苛む苦痛が高まっていくのが分かる。角を掴む彼の手から腕へと、血管が不自然に隆起し、真っ黒な筋となって這い上がって行く。目に見えぬ何かが遥の身体を蝕み、それは彼の爪先から頭頂へと侵食した。柔らかな頭髪がぞわぞわと暗黒に染められていくのが、夜の闇の中でも克明に見分けられる。
鮮明な闇。真の影色。夜の暗闇を蹴散らすほどの暗黒。
駆け巡る変化に耐え切れず、遥が黒く変化した髪を振り乱す。ままならない呼吸に喘ぎ、幾度となく苦痛に呻く。まるで地獄絵図を再現するかのように。
「せ、先生っ」
朱里は泣きながら、苦痛にもだえる遥に取り縋ることしか出来ない。早くこの発作のような瞬間が立ち去ってくれれば良い。それだけしか考えられなかった。
「先生」
涙で歪む視界に映る遥は、朱里が夢の中で出会う彼そのものだった。副担任として現れた遥よりも、闇に勝る艶やかな黒髪は、闇呪の面影を色濃く宿す。
「――闇呪の君……、先生!」
もはや夢でも現実でも、どちらでもかまわない。朱里は無我夢中で、懸命に名を呼ぶだけだった。一刻も早く、彼を襲う苦痛が和らぐことだけを祈る。
「――っ」
貫かれた遥の体が、びくりとひときわ激しく震えた。上体が仰け反るほどの衝撃に襲われ、彼がついに絶叫した。苦悶の悲鳴が恐ろしいほど残酷で、朱里は思わず固く目を閉じて耳を塞いでしまう。
「副担任っ」
朱里が再び目の前の光景に戻ると、遥がゆっくりとその場に崩れ落ちる所だった。彼方の腕に受け止められたまま身動きしない。だらりと投げ出された手が、血に濡れている。 何をどんなふうに受け止めれば良いのか判らない。
感情が飽和していた。
朱里がただ立ち竦んでいると、突然背中を叩かれた。
「しっかりして、朱里さん」
雪に声をかけられて朱里ははっと身動きした。可憐な容姿に似合わず、彼女は目の前の惨状に怯んでいない。強い眼差しで、気丈に朱里を見つめていた。
「あ、ごめんなさい」
朱里が答えると、雪は安堵したかのように顔を綻ばせた。彼方の声が更に朱里を励ましてくれる。
「委員長、副担任は大丈夫だから。大怪我はしているけど、絶対にこのまま死んだりしない。気を失っているだけだよ」
「守護も無事のようです」
続けて奏の声が足元から聞こえた。見ると姉の麟華が奏の腕を支えにして横たわっていた。黒い巨体の面影は微塵もなく、元の姿に戻ったようだ。一糸纏わぬ美しい体には、既に奏の上着がかけられていた。
朱里は遥と麟華に駆け寄って、ひとまず無事を確認した。心が緩むと再び熱いものが込み上げてくる。それは涙となって溢れ出た。
小さく嗚咽すると、雪が慰めるように朱里の背中をさする。朱里は溢れ出る涙を止めることがままならず、まるで子どものようにしばらく泣き続けていた。
朱里が絶望的な思いに竦むと、彼方が「でも」と続けた。
「呪いなら打つ手があるかもしれないよ。呪いは不完全な呪のようなものでしょ。副担任の呪のように完全に鬼を制することができないだけで、強い思いや念によって、鬼を動かすことには変わりがない」
「たしかに彼方の言うとおりです。呪鬼を持たない者が、鬼の力に縋る方法、それが呪いです」
「だったら、副担任には昇華させることが出来るかもしれないよね」
彼方が期待をこめた眼差しで遥を眺めるが、彼は今までのように呪を以って制することをしない。奏がすぐに結論を出した。
「それが可能なら、遥がためらうはずがありません」
「呪いと鬼の繋がりを断つことができないということ?」
「わかりません。それに呪いは本来これほどの効力を持たないものです。なぜなら、呪いを発した元凶もそれ相応の反動を覚悟しなければならない。霊獣を捕らえるほどの呪いならば、元凶は魂魄を失うことになるでしょう」
雪が腑に落ちないというように首を傾げる。
「兄様、その理屈だと呪いを発した途端、元凶も絶たれることになります。ただの自滅行為で、呪い自体が成り立たないわ」
「そう。だから、呪いによって魂魄を奪うような大それたことは出来ません。ささやかな悪意しか形にできない筈です」
「じゃあ、これは呪いじゃないってこと?」
「判りません」
奏が険しい表情になる。結局話が振り出しに戻る。朱里は胸の前で握り合わせた手がぶるぶると震えた。力を込めすぎて爪が食い込むが、痛みは感じない。全ての感覚が不安と恐れに占められているかのようだった。
「結局、副担任は守護を倒すしかないってことだよね」
「そんなっ」
朱里が思わず呟くと、同時に遥の声がした。
「麟華。その戒め、すぐに解いてやる」
静謐な夜の闇に波紋を描くように、場違いなほど穏やかな呟きだった。
朱里は嫌な予感に貫かれて息が詰まる。彼方達も同じように何かを感じたらしく、まるで身動きすることを封じられたように、目の前の光景に注目していた。遥はのたうつ麟華の巨体を交わすようにひらりと跳躍した。本性を映した守護の背後に回り、手にしていた刀剣を何の未練もなく虚空に収める。
麟華は突然目の前から標的を失って低く唸ったが、すぐに主の気配を察して体躯を翻す。朱里は心臓が握りつぶされそうな思いで、その光景を見守っていた。そのまま角を振りかざして突進されたら、遥には受け止める術がないのだ。
「先生」
朱里が見つめていると、遥が一瞬こちらに視線を向けたのが判った。口元に苦い笑みが浮かぶ。朱里にはその微笑みの意味が判らなかったが、背後の奏には意図が読めたらしい。
「遥っ」
奏の叫びと、麟華の高い咆哮が重なった。しなやかな黒い影が前足を地に打ち鳴らす。猛然と遥に狙いを定めて、巨体が突進した。足元が震えて身動きできない朱里の傍らから、ざっと何かが風を切ってすり抜けていく。それが奏であると気付いたのは、麟華の長い角が遥の身体を刺し貫いた時だった。
「副担任っ」
彼方の声と、雪の絶叫が交差した。朱里は目の前の光景に感覚が追いつかない。全身を巡る震えがひときわ大きくなった。鼓動が止まるのではないかと思えるほどの、衝撃。
「先生っ」
自分の叫びをどこか他人事のように聞きながら、朱里は突き動かされるようにふらふらともつれる足で駆け寄った。
「遥、莫迦なことを」
身体を貫いた光沢のない角の根元を掴んで、彼が麟華の巨体を押さえていた。ぎりぎりと角を掴む手に力が込められているのが判る。その手が流れ出てきた遥自身の血の赤に染められるのは、すぐだった。麟華は角を押さえられて、まるで成す術がなくなったかのように動きを止めた。
光景の残酷さを滲ませるように、視界を歪ませる涙が溢れ出てくる。朱里は涙を拭うこともせず、黒い巨体と遥に取りすがるように腕を伸ばした。先生と呟く声が、はっきりとした言葉にならない。遥は浅い呼吸を繰り返しながら苦笑する。
「大丈夫。朱里、私はこれくらいの傷では、……死ねない」
それでも痛みは感じるはずだと、朱里は激しく頭を振るだけで精一杯だった。血の気のひいた蒼白な顔色が彼の衝撃を物語っている。
「麟華は――っ」
彼の言葉が不自然に費えた。角の根元を掴んでいた遥の手が、電流が走ったかのようにびりっと震える。それは瞬きする間もなく彼の全身に伝わって、その身を侵す。
「う、あ……っ」
身を苛む苦痛が高まっていくのが分かる。角を掴む彼の手から腕へと、血管が不自然に隆起し、真っ黒な筋となって這い上がって行く。目に見えぬ何かが遥の身体を蝕み、それは彼の爪先から頭頂へと侵食した。柔らかな頭髪がぞわぞわと暗黒に染められていくのが、夜の闇の中でも克明に見分けられる。
鮮明な闇。真の影色。夜の暗闇を蹴散らすほどの暗黒。
駆け巡る変化に耐え切れず、遥が黒く変化した髪を振り乱す。ままならない呼吸に喘ぎ、幾度となく苦痛に呻く。まるで地獄絵図を再現するかのように。
「せ、先生っ」
朱里は泣きながら、苦痛にもだえる遥に取り縋ることしか出来ない。早くこの発作のような瞬間が立ち去ってくれれば良い。それだけしか考えられなかった。
「先生」
涙で歪む視界に映る遥は、朱里が夢の中で出会う彼そのものだった。副担任として現れた遥よりも、闇に勝る艶やかな黒髪は、闇呪の面影を色濃く宿す。
「――闇呪の君……、先生!」
もはや夢でも現実でも、どちらでもかまわない。朱里は無我夢中で、懸命に名を呼ぶだけだった。一刻も早く、彼を襲う苦痛が和らぐことだけを祈る。
「――っ」
貫かれた遥の体が、びくりとひときわ激しく震えた。上体が仰け反るほどの衝撃に襲われ、彼がついに絶叫した。苦悶の悲鳴が恐ろしいほど残酷で、朱里は思わず固く目を閉じて耳を塞いでしまう。
「副担任っ」
朱里が再び目の前の光景に戻ると、遥がゆっくりとその場に崩れ落ちる所だった。彼方の腕に受け止められたまま身動きしない。だらりと投げ出された手が、血に濡れている。 何をどんなふうに受け止めれば良いのか判らない。
感情が飽和していた。
朱里がただ立ち竦んでいると、突然背中を叩かれた。
「しっかりして、朱里さん」
雪に声をかけられて朱里ははっと身動きした。可憐な容姿に似合わず、彼女は目の前の惨状に怯んでいない。強い眼差しで、気丈に朱里を見つめていた。
「あ、ごめんなさい」
朱里が答えると、雪は安堵したかのように顔を綻ばせた。彼方の声が更に朱里を励ましてくれる。
「委員長、副担任は大丈夫だから。大怪我はしているけど、絶対にこのまま死んだりしない。気を失っているだけだよ」
「守護も無事のようです」
続けて奏の声が足元から聞こえた。見ると姉の麟華が奏の腕を支えにして横たわっていた。黒い巨体の面影は微塵もなく、元の姿に戻ったようだ。一糸纏わぬ美しい体には、既に奏の上着がかけられていた。
朱里は遥と麟華に駆け寄って、ひとまず無事を確認した。心が緩むと再び熱いものが込み上げてくる。それは涙となって溢れ出た。
小さく嗚咽すると、雪が慰めるように朱里の背中をさする。朱里は溢れ出る涙を止めることがままならず、まるで子どものようにしばらく泣き続けていた。
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