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第三話 失われた真実
第五章:4 複雑な乙女心
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いつものように麟華に叩き起こされて、朱里は変わらない朝を迎えた。のろのろと寝台から這い出しながら、夢の続きを見ていないことに吐息をつく。落胆しているのか、安堵しているのかは、自分でもよく分からない。
何か重大なことを忘れている気がしたが、まだ頭がぐったりと眠気をひきずっている。寝台の心地よさに未練を残しながら、ぼんやりと自室を出た。朱里は寝起きのまま、ぺたぺたと裸足で階下へ向かう。
「うー、眠い」
目元をこすりながら、何の躊躇いもなくリビングへ入った。
「おはよう、朱里」
麟華の明るい声に迎えられて、朱里も「おはよう」と呟く。昨夜は寝つきが悪かった上に、途中で目覚めてしまったのだ。頭が寝足りないとだるさを訴えている。朱里がぼうっとしたまま食卓に座ると、麟華が朝食を整えながらふと動きを止めた。
「朱里、どうしたの? ものすごく泣き腫らした目になっているけど」
「え?」
指摘されて、朱里は目元を触りながら顔を上げた。昨夜の泣き方を考えれば無理もない。
「そんなに腫れているかな? 昨夜、すごく嫌な夢を見ていたらしくて――」
麟華に適当に答えながら、朱里はふっと視界の端にとんでもない光景を見つけた。
素顔が歪むほどの黒縁眼鏡と、だらしなく皺でよれた白衣。
冴えない教師を演じている副担任の遥が、間違いなく向こう側のソファで寛いでいる。
「せ、先生?」
飛び上がりそうなくらいに仰天して、朱里は一気に眠気が覚めた。どうしてと狼狽したのは一瞬で、すぐに昨日の成り行きを思い出した。
彼はソファに腰掛けて呑気に新聞を手にしていたが、眼鏡の奥の視線は、完璧に朱里に向けられている。麟華とのやりとりを興味深く見守っているようだった。
朱里の動揺が一気に上り詰めていく。
(ち、ち、ちょっと待って。私ってば、なんて格好で……)
かあっと頬が染まるのが分かる。朱里は思い切りうろたえながら、ガタガタと食卓の椅子から立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、先生。私、こんな、寝間着のままで……、あの、で、出直してきますっ」
朱里はリビングを飛び出して自分の部屋に引き返す。慌てて制服に着替えると、洗面所に駆け込んだ。そこで鏡に映った自分の腫れた目元を見て、再び仰天する。
(こ、こんな顔を先生に見られるなんて、最悪っ)
がっくりとうな垂れつつ、朱里は着々と身支度を整えた。いつものようにきっちりと髪をまとめて眼鏡をかける。瞳の色合いだけではなく、今朝は泣き腫らした目元をごまかす道具としても役立ちそうだった。
居たたまれない気持ちでリビングへ戻り、朱里は真っ先に遥に頭を下げた。
「あの、たいへん見苦しい処をお見せして、……ごめんなさい」
嫌な汗をかいていると、背後から麟華が不思議そうな声を出す。
「朱里ったら、何を謝っているの?」
姉の乙女心を無視した発言に、朱里はくわっと食って掛かった。
「あのね、麟華。先生がいるんだから、そういう処は注意してくれないと。見苦しいでしょ」
「そういう処って?」
「だから、その、思い切り寝起きのまま、寝間着でふらふらと歩き回ったりなんかして……」
恥ずかしさのあまり、語尾がかき消えてしまう。朱里がもじもじと指先を組み合わせながら俯くと、麟華がぴしゃりと言い放った。
「そんなの、いつものことじゃないの」
「だから、いつも通りじゃ駄目なのっ」
たまらず声を高くすると、麟華はきょとんと首をかしげた。
「どうしてよ。それに、寝起きの朱里は見苦しくないわ。とっても可愛らしいのよ。だから、ぜひ黒沢先生にも見て頂きたかったの。私の心遣いがわからないのかしらね、この子は」
「はぁ?」
(ず、ずれてるよ、麟華)
朱里は姉の奇天烈な発想に頭を抱えたくなった。遥は二人のやりとりが可笑しかったのか、小さく笑っている。
朱里にも、麟華の気遣いが全く分からないわけではない。昨夜、妹に打ち明けられた気持ちを、姉として応援しようとしてくれているのは、よく分かる。分かるのだが、麟華は更に墓穴を掘ってくれた。
「ねぇ、黒沢先生。寝起きの朱里は無防備で可愛かったでしょ?」
朱里はそれ以上口を開くなと、麟華を呪いたい気持ちになっていた。遥は笑いながら、分厚い眼鏡を煩わしそうに外した。露になった綺麗な眼差しが、真っ直ぐに朱里に向けられる。口元に浮かぶわずかな笑みが甘い。
朱里はそれだけで鼓動が高くなる。
「そうですね。髪をおろして素顔でいるほうが、私は好きです」
副担任を演じたまま、遥が素直な感想を漏らす。朱里は再び顔がのぼせてしまう。
「せ、先生こそ、眼鏡をしていない方が素敵です」
照れ隠しに口を開いて、朱里は麟華と同じように墓穴を掘った。何を言っているのだと、ますます顔に熱が込み上げる。遥は困ったように苦笑を浮かべる。
「私は地味に過ごしたいので……」
今の格好もある意味、全然地味じゃない。朱里は喉まで出かかった台詞を、辛うじて呑みこんだ。遥は手にしていた新聞を置いて、指先を組み合わせる。
「だけど、天宮さんもそんなふうに生真面目な生徒でいる方がいいでしょうね」
「どうして、ですか」
「それは、……目立たないから」
低く理由を語ってから、遥はごまかすようにいたずらっぽく笑う。
「天宮さんは可愛いから、あまり目立つとモテすぎて困ったことになるでしょう?」
楽しそうな口調だった。朱里にも生徒をからかっているのだと判ってしまう。判っているのに、理屈とは裏腹にぼっと顔が熱くなる。
朱里は取り繕うように慌てて口を開く。
「ひ、人をからかうのは止めて下さい」
遥は小さく笑ったが、すぐに何かを思い悩むように表情を改めた。副担任のとぼけた印象がすっと姿を消す。
「では、真面目に君に聞きたい。――朱里、私がここにいることを嫌悪するのなら、そう言ってくれて構わない。他の方法を考える」
彼は真顔で朱里を見つめる。朱里は火照っていた顔から、急激に熱が冷めていくのを感じた。どんなふうに答えるべきか考えた挙句、朱里は麟華に助けを求めるように視線を投げかける。麟華は嫌な笑い方をして、わざとらしくそっぽを向いた。きちんと自分の口から誤解を解けと言わんばかりに、妹を放ったらかしにする姿勢らしい。
朱里は肝心なときに助け舟を出してくれない姉を怨みつつ、「えーと」と言葉を探した。
「あの、黒沢先生。私には、先生と一緒に生活することを嫌がる理由なんてありません」
出来る限り深い意味を探られないように、はっきりと伝えた。遥は深い色を宿した瞳で、その言葉を推し量るように朱里を見つめていた。
「じゃあ、その泣き腫らした目は? 私には他に理由があるとは思えない」
遥が気に病んでいる理由を理解して、朱里は「違います」とすぐに答えた。
「これは、その、本当に嫌な夢を見ていただけで……」
朱里は夢で描き出された光景を語ることを躊躇してしまう。遥に打ち明けると、無邪気に彼を慕うことが許されなくなりそうな気がした。今の関係よりも、更に何かが遠ざかってしまう気がする。
今はまだ、このひとときを手放したくない。
どこにでもいるような女子高生のままで、遥のことを想っていたいのだ。
朱桜が誰なのか、朱里はそれを知っていてはいけない気がした。知っているとしても、あまりにも全てが断片的すぎる。
朱里は夢で辿った光景については触れずに、秘めたまま、とにかく誤解を解こうとして言葉を続ける。
「たしかに先生と出会ってから、身の回りで色々なことがあったけど。でも、……前にも言ったように、先生が護ってくれるなら安心です。私は先生が傍にいてくれるほうが心強い。本当です」
はっきりと本当の想いを伝えた。
遥は朱里を見上げていた顔を伏せるようにして、ただ頷いた。朱里には自分から目を逸らすための仕草に見えた。
「それなら、いいんだ」
遥は再び素顔を歪ませる眼鏡をかける。それでも依然として俯いたまま、小さく呟いた。
「――すまない」
朱里には彼が何に対して詫びているのか、わからなかった。
何か重大なことを忘れている気がしたが、まだ頭がぐったりと眠気をひきずっている。寝台の心地よさに未練を残しながら、ぼんやりと自室を出た。朱里は寝起きのまま、ぺたぺたと裸足で階下へ向かう。
「うー、眠い」
目元をこすりながら、何の躊躇いもなくリビングへ入った。
「おはよう、朱里」
麟華の明るい声に迎えられて、朱里も「おはよう」と呟く。昨夜は寝つきが悪かった上に、途中で目覚めてしまったのだ。頭が寝足りないとだるさを訴えている。朱里がぼうっとしたまま食卓に座ると、麟華が朝食を整えながらふと動きを止めた。
「朱里、どうしたの? ものすごく泣き腫らした目になっているけど」
「え?」
指摘されて、朱里は目元を触りながら顔を上げた。昨夜の泣き方を考えれば無理もない。
「そんなに腫れているかな? 昨夜、すごく嫌な夢を見ていたらしくて――」
麟華に適当に答えながら、朱里はふっと視界の端にとんでもない光景を見つけた。
素顔が歪むほどの黒縁眼鏡と、だらしなく皺でよれた白衣。
冴えない教師を演じている副担任の遥が、間違いなく向こう側のソファで寛いでいる。
「せ、先生?」
飛び上がりそうなくらいに仰天して、朱里は一気に眠気が覚めた。どうしてと狼狽したのは一瞬で、すぐに昨日の成り行きを思い出した。
彼はソファに腰掛けて呑気に新聞を手にしていたが、眼鏡の奥の視線は、完璧に朱里に向けられている。麟華とのやりとりを興味深く見守っているようだった。
朱里の動揺が一気に上り詰めていく。
(ち、ち、ちょっと待って。私ってば、なんて格好で……)
かあっと頬が染まるのが分かる。朱里は思い切りうろたえながら、ガタガタと食卓の椅子から立ち上がった。
「ご、ごめんなさい、先生。私、こんな、寝間着のままで……、あの、で、出直してきますっ」
朱里はリビングを飛び出して自分の部屋に引き返す。慌てて制服に着替えると、洗面所に駆け込んだ。そこで鏡に映った自分の腫れた目元を見て、再び仰天する。
(こ、こんな顔を先生に見られるなんて、最悪っ)
がっくりとうな垂れつつ、朱里は着々と身支度を整えた。いつものようにきっちりと髪をまとめて眼鏡をかける。瞳の色合いだけではなく、今朝は泣き腫らした目元をごまかす道具としても役立ちそうだった。
居たたまれない気持ちでリビングへ戻り、朱里は真っ先に遥に頭を下げた。
「あの、たいへん見苦しい処をお見せして、……ごめんなさい」
嫌な汗をかいていると、背後から麟華が不思議そうな声を出す。
「朱里ったら、何を謝っているの?」
姉の乙女心を無視した発言に、朱里はくわっと食って掛かった。
「あのね、麟華。先生がいるんだから、そういう処は注意してくれないと。見苦しいでしょ」
「そういう処って?」
「だから、その、思い切り寝起きのまま、寝間着でふらふらと歩き回ったりなんかして……」
恥ずかしさのあまり、語尾がかき消えてしまう。朱里がもじもじと指先を組み合わせながら俯くと、麟華がぴしゃりと言い放った。
「そんなの、いつものことじゃないの」
「だから、いつも通りじゃ駄目なのっ」
たまらず声を高くすると、麟華はきょとんと首をかしげた。
「どうしてよ。それに、寝起きの朱里は見苦しくないわ。とっても可愛らしいのよ。だから、ぜひ黒沢先生にも見て頂きたかったの。私の心遣いがわからないのかしらね、この子は」
「はぁ?」
(ず、ずれてるよ、麟華)
朱里は姉の奇天烈な発想に頭を抱えたくなった。遥は二人のやりとりが可笑しかったのか、小さく笑っている。
朱里にも、麟華の気遣いが全く分からないわけではない。昨夜、妹に打ち明けられた気持ちを、姉として応援しようとしてくれているのは、よく分かる。分かるのだが、麟華は更に墓穴を掘ってくれた。
「ねぇ、黒沢先生。寝起きの朱里は無防備で可愛かったでしょ?」
朱里はそれ以上口を開くなと、麟華を呪いたい気持ちになっていた。遥は笑いながら、分厚い眼鏡を煩わしそうに外した。露になった綺麗な眼差しが、真っ直ぐに朱里に向けられる。口元に浮かぶわずかな笑みが甘い。
朱里はそれだけで鼓動が高くなる。
「そうですね。髪をおろして素顔でいるほうが、私は好きです」
副担任を演じたまま、遥が素直な感想を漏らす。朱里は再び顔がのぼせてしまう。
「せ、先生こそ、眼鏡をしていない方が素敵です」
照れ隠しに口を開いて、朱里は麟華と同じように墓穴を掘った。何を言っているのだと、ますます顔に熱が込み上げる。遥は困ったように苦笑を浮かべる。
「私は地味に過ごしたいので……」
今の格好もある意味、全然地味じゃない。朱里は喉まで出かかった台詞を、辛うじて呑みこんだ。遥は手にしていた新聞を置いて、指先を組み合わせる。
「だけど、天宮さんもそんなふうに生真面目な生徒でいる方がいいでしょうね」
「どうして、ですか」
「それは、……目立たないから」
低く理由を語ってから、遥はごまかすようにいたずらっぽく笑う。
「天宮さんは可愛いから、あまり目立つとモテすぎて困ったことになるでしょう?」
楽しそうな口調だった。朱里にも生徒をからかっているのだと判ってしまう。判っているのに、理屈とは裏腹にぼっと顔が熱くなる。
朱里は取り繕うように慌てて口を開く。
「ひ、人をからかうのは止めて下さい」
遥は小さく笑ったが、すぐに何かを思い悩むように表情を改めた。副担任のとぼけた印象がすっと姿を消す。
「では、真面目に君に聞きたい。――朱里、私がここにいることを嫌悪するのなら、そう言ってくれて構わない。他の方法を考える」
彼は真顔で朱里を見つめる。朱里は火照っていた顔から、急激に熱が冷めていくのを感じた。どんなふうに答えるべきか考えた挙句、朱里は麟華に助けを求めるように視線を投げかける。麟華は嫌な笑い方をして、わざとらしくそっぽを向いた。きちんと自分の口から誤解を解けと言わんばかりに、妹を放ったらかしにする姿勢らしい。
朱里は肝心なときに助け舟を出してくれない姉を怨みつつ、「えーと」と言葉を探した。
「あの、黒沢先生。私には、先生と一緒に生活することを嫌がる理由なんてありません」
出来る限り深い意味を探られないように、はっきりと伝えた。遥は深い色を宿した瞳で、その言葉を推し量るように朱里を見つめていた。
「じゃあ、その泣き腫らした目は? 私には他に理由があるとは思えない」
遥が気に病んでいる理由を理解して、朱里は「違います」とすぐに答えた。
「これは、その、本当に嫌な夢を見ていただけで……」
朱里は夢で描き出された光景を語ることを躊躇してしまう。遥に打ち明けると、無邪気に彼を慕うことが許されなくなりそうな気がした。今の関係よりも、更に何かが遠ざかってしまう気がする。
今はまだ、このひとときを手放したくない。
どこにでもいるような女子高生のままで、遥のことを想っていたいのだ。
朱桜が誰なのか、朱里はそれを知っていてはいけない気がした。知っているとしても、あまりにも全てが断片的すぎる。
朱里は夢で辿った光景については触れずに、秘めたまま、とにかく誤解を解こうとして言葉を続ける。
「たしかに先生と出会ってから、身の回りで色々なことがあったけど。でも、……前にも言ったように、先生が護ってくれるなら安心です。私は先生が傍にいてくれるほうが心強い。本当です」
はっきりと本当の想いを伝えた。
遥は朱里を見上げていた顔を伏せるようにして、ただ頷いた。朱里には自分から目を逸らすための仕草に見えた。
「それなら、いいんだ」
遥は再び素顔を歪ませる眼鏡をかける。それでも依然として俯いたまま、小さく呟いた。
「――すまない」
朱里には彼が何に対して詫びているのか、わからなかった。
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