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終章 終焉のあと
3:王子との食事会
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長く続いた雨が止んだ頃、ミアはシルファと共に王宮のドミニオを訪れた。
以前から、ドミニオには事あるごとに食事の誘いを受けていたようだ。シルファは断り続けてきたようだが、今日は珍しく誘いを受けたらしい。
相変わらず王宮の内装は豪華絢爛を絵に描いたような煌びやかさに満たされている。幸いドミニオの私的な誘いなので、晩餐会の時のような煩わしさはない。
通路を案内されながら、ミアは隣を歩くシルファを仰ぐ。
「どうして今日は王子の誘いを受けたの?」
「前に事件が解決したらミアを連れて来いと言われていたからな。美味しいものを食べさせてくれると言っていたから、ミアも楽しめるんじゃないかと思って」
「美味しいもの?」
ミアはパッと顔を輝かせてしまう。
崇高な一族に生まれ変わってからも、これといって大きな変化はない。不老不死の体を手に入れたと言われても、実感がなかった。
戸惑いが全くないわけではないが、永い時間をどう過ごすかについてを今考えても仕方がない。ミアはその日を大切に過ごすだけである。
その積み重ねが、いつか永遠になる。
魔力についても、慣れ親しんでいないミアには使い方がわからない。全く思い描けないのだ。練習をすれば良いと教えてもらったが、まるで必要性を感じないので、このまま眠らせておこうと思っている。
崇高な一族になって一番感謝している変化は、味覚を取り戻した事だった。あまりの嬉しさに最近は食べまくっている。
「王子は何を食べさせてくれるんだろう」
期待で胸を踊らせながら、ミアはシルファと王子の私室を訪れた。
中へと案内されて、ミアは「わぁ!」っと声をあげた。
王子の私室とは思えないほど、すでに室内は料理で溢れていた。
「ようこそ! 二人で来てくれて本当に嬉しいよ! とても楽しみにしていたんだ」
ドミニオは満面の笑みで歩み寄ってきた。
ミアはシルファと共に王子に挨拶をすると、素直に室内を見回して喜びを伝える。早速三人で大きな卓についた。寛いだ雰囲気ですぐに食事が始まった。
「正直、シルファが来てくれるとは思わなかったな」
ドミニオは率直だった。不思議と嫌味もなく、皮肉にも聞こえない。宝石のような美しい碧眼で、じっとシルファを見つめる。
「もう二度と会えないんじゃないかと思っていたよ」
さらりとドミニオが告げる。シルファは給仕が用意したワインを片手に王子を見た。
「――王子は、私に何か言いたい事があるのではないですか?」
早速皿に盛られた肉に食い付いていたが、ミアは二人の会話に雲行きの怪しさを感じる。肉を頬張ったまま、交互に二人を見つめた。
「そうだね。実はずっと気になっていた事があるんだ」
「何でしょう?」
「シルファはさ、僕が幼少の頃から見た目がずっと変わらないよね」
ミアはゲホッとむせる。肉が喉に引っかかりそうになって慌てた。シルファは動じる様子もなくミアに水を差し出してくれる。
自分の秘密に触れられても、王子に微笑む余裕があるようだ。
「やはり、そうでしたか」
「あれ? 僕のこと気づいていたんだ」
「はい、薄々は。王家にはたまにいらっしゃいます。ドミニオ王子のように、魔力に耐性を示す方が」
「ええ? 王子が?」
ミアは驚いて思わずドミニオの方へ身を乗り出す。目が合うと、王子はミアの慌てぶりを見て面白そうに笑った。
「その反応からすると、シルファの女神にも雨の影響はないのかな?」
「そこまで気づいておられましたか」
「まあね。おかげで僕の幼少期は変人扱いだったよ。もともと呪術対策局は秘められている部分が多いけど、何度か僕の記憶と周りの様子に違いが生まれる時があった。そんな時は、決まってマスティアの雨季を挟んでいる。気がつかない方がおかしいよ。でも、今回はちょっと様子が違うよね。今は雨季じゃないし、シルファの素性には変化がないみたいだし」
「そこまで理解しておられるなら、今さら隠すつもりはありません。お聞きになりたい事には答えましょう」
「本当かい? じゃあ思い切って聞いてみようかな」
以前から、ドミニオには事あるごとに食事の誘いを受けていたようだ。シルファは断り続けてきたようだが、今日は珍しく誘いを受けたらしい。
相変わらず王宮の内装は豪華絢爛を絵に描いたような煌びやかさに満たされている。幸いドミニオの私的な誘いなので、晩餐会の時のような煩わしさはない。
通路を案内されながら、ミアは隣を歩くシルファを仰ぐ。
「どうして今日は王子の誘いを受けたの?」
「前に事件が解決したらミアを連れて来いと言われていたからな。美味しいものを食べさせてくれると言っていたから、ミアも楽しめるんじゃないかと思って」
「美味しいもの?」
ミアはパッと顔を輝かせてしまう。
崇高な一族に生まれ変わってからも、これといって大きな変化はない。不老不死の体を手に入れたと言われても、実感がなかった。
戸惑いが全くないわけではないが、永い時間をどう過ごすかについてを今考えても仕方がない。ミアはその日を大切に過ごすだけである。
その積み重ねが、いつか永遠になる。
魔力についても、慣れ親しんでいないミアには使い方がわからない。全く思い描けないのだ。練習をすれば良いと教えてもらったが、まるで必要性を感じないので、このまま眠らせておこうと思っている。
崇高な一族になって一番感謝している変化は、味覚を取り戻した事だった。あまりの嬉しさに最近は食べまくっている。
「王子は何を食べさせてくれるんだろう」
期待で胸を踊らせながら、ミアはシルファと王子の私室を訪れた。
中へと案内されて、ミアは「わぁ!」っと声をあげた。
王子の私室とは思えないほど、すでに室内は料理で溢れていた。
「ようこそ! 二人で来てくれて本当に嬉しいよ! とても楽しみにしていたんだ」
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ミアはシルファと共に王子に挨拶をすると、素直に室内を見回して喜びを伝える。早速三人で大きな卓についた。寛いだ雰囲気ですぐに食事が始まった。
「正直、シルファが来てくれるとは思わなかったな」
ドミニオは率直だった。不思議と嫌味もなく、皮肉にも聞こえない。宝石のような美しい碧眼で、じっとシルファを見つめる。
「もう二度と会えないんじゃないかと思っていたよ」
さらりとドミニオが告げる。シルファは給仕が用意したワインを片手に王子を見た。
「――王子は、私に何か言いたい事があるのではないですか?」
早速皿に盛られた肉に食い付いていたが、ミアは二人の会話に雲行きの怪しさを感じる。肉を頬張ったまま、交互に二人を見つめた。
「そうだね。実はずっと気になっていた事があるんだ」
「何でしょう?」
「シルファはさ、僕が幼少の頃から見た目がずっと変わらないよね」
ミアはゲホッとむせる。肉が喉に引っかかりそうになって慌てた。シルファは動じる様子もなくミアに水を差し出してくれる。
自分の秘密に触れられても、王子に微笑む余裕があるようだ。
「やはり、そうでしたか」
「あれ? 僕のこと気づいていたんだ」
「はい、薄々は。王家にはたまにいらっしゃいます。ドミニオ王子のように、魔力に耐性を示す方が」
「ええ? 王子が?」
ミアは驚いて思わずドミニオの方へ身を乗り出す。目が合うと、王子はミアの慌てぶりを見て面白そうに笑った。
「その反応からすると、シルファの女神にも雨の影響はないのかな?」
「そこまで気づいておられましたか」
「まあね。おかげで僕の幼少期は変人扱いだったよ。もともと呪術対策局は秘められている部分が多いけど、何度か僕の記憶と周りの様子に違いが生まれる時があった。そんな時は、決まってマスティアの雨季を挟んでいる。気がつかない方がおかしいよ。でも、今回はちょっと様子が違うよね。今は雨季じゃないし、シルファの素性には変化がないみたいだし」
「そこまで理解しておられるなら、今さら隠すつもりはありません。お聞きになりたい事には答えましょう」
「本当かい? じゃあ思い切って聞いてみようかな」
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