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第十三章 愚かな嫉妬
4:聖女の失態
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ぼんやりと角砂糖のような塊を口に含んだ。途端に口内が甘さで満ちる。ミアはびくりと反応した。
どこか狭いところに閉じこめられて、小さな窓から外を眺めているような気がしていた。異次元から外界を眺めているような気持ち。その世界が急速に広がって、ミアは鮮明な視界を取り戻す。
傍にセラフィがいることはわかっていたが、まるで遠ざかっていた感覚が蘇るように、はっきりと彼女を意識した。
「セラフィ?」
まだ口の中に残る甘味をたしかめながら、ミアは寝台の傍らで自分を見つめているセラフィを見た。存在を感じていたのに、なぜか久しぶりに会ったような気がする。
不思議な感覚だった。
「ミア!?」
セラフィは泣き出しそうな顔で、寝台に上体を起こしているミアに抱きついてくる。
「え? え? どうしたの?」
戸惑うミアを力一杯抱きしめて、セラフィはぐりぐりと頬擦りをしてきた。
「ちょっと、何? どうしたの? セラフィ」
「良かったです。良かった」
何かを噛み締めているセラフィにされるがままの状態で、ミアは辺りの様子を確かめる。魔鏡のある広い部屋。どうやらシルファの部屋で寝込んでいたようである。
(あれ? なんか、おかしいような――)
違和感はすぐに記憶とつながった。あまりにも自分らしくない行動の数々を思い出して、ミアは体が強張る。その緊迫した調子が伝わったのか、ようやくセラフィがミアから離れた。
「あー、本当に良かったです。正気に戻って!」
「正気って……?」
ミアは全てが夢だったのではないかと一縷の希望にすがっていたが、セラフィに事情を説明されて、全身から火が出そうな勢いで羞恥心がこみ上げる。
(ゆ、夢じゃないってこと?)
「ミア? どうしたんですか? どこか具合が悪いですか?」
「さ、さいあく」
「え?」
シーツを掴んだ手がぶるぶると震える。
昨夜の記憶。
覚えている、全て。
自分は何という失態をやらかしてしまったのだろう。恥ずかしさと申し訳なさで、涙が滲んだ。噛み付いて掻き毟った傷跡は失われている。きっとシルファが治してくれたのだろう。けれど、起きた出来事は、やり直すことも、消去も削除もできない。
ミアは去来した感情に、ぐわぁっと悶絶した。
「え? ミア? どうしたんですか?」
戸惑うセラフィにミアは縋り付く。
「わたし、シルファのこと襲っちゃった!」
「はぁ?」
ミアは絶望的な失態を抱えきれず、泣きながらセラフィに打ち明ける。
「まさか、昨夜にそんなことが……」
「どうしよう。わたし、ただでさえ迷惑ばっかりかけているのに、シルファにどうやって償おう。ただの痴女だよ! 絶対に軽蔑された! 嫌な思いをさせた!」
「いや、落ち着いてください、ミア」
「落ち着いていられるわけないでしょ!」
セラフィは場違いにくすくすと笑っている。
「笑い事じゃないってば!」
「あ、ごめんなさい。でも、自分のことを痴女って……」
こらえきれないのか、セラフィは大笑いする。
「心配しなくても、シルファ様は気にしていませんよ」
「本当に!? 本当にそう言い切れる?」
気にされないのも、それはそれで問題である。彼にとっては子猫がじゃれかかって来たくらいの出来事なのだろうか。良いのか悪いのかわからないが、痴女として軽蔑されるよりは良いかもしれない。
「気にしてないっていうか、シルファ様はミアが怒り狂って暴れるかもしれないって心配していましたよ」
「え?」
「きっとシルファ様もそれなりに楽しんだじゃないですかね?」
「え? は?」
全く眼中にない自分に迫られて、そんな気持ちでいられるだろうか。どう考えても迷惑以外の何ものでもないだろう。
「それにしても、昨夜そんなことになっていたなんて。それで? どうでした?」
「何が?」
「気持ち良かったですか?」
どこか狭いところに閉じこめられて、小さな窓から外を眺めているような気がしていた。異次元から外界を眺めているような気持ち。その世界が急速に広がって、ミアは鮮明な視界を取り戻す。
傍にセラフィがいることはわかっていたが、まるで遠ざかっていた感覚が蘇るように、はっきりと彼女を意識した。
「セラフィ?」
まだ口の中に残る甘味をたしかめながら、ミアは寝台の傍らで自分を見つめているセラフィを見た。存在を感じていたのに、なぜか久しぶりに会ったような気がする。
不思議な感覚だった。
「ミア!?」
セラフィは泣き出しそうな顔で、寝台に上体を起こしているミアに抱きついてくる。
「え? え? どうしたの?」
戸惑うミアを力一杯抱きしめて、セラフィはぐりぐりと頬擦りをしてきた。
「ちょっと、何? どうしたの? セラフィ」
「良かったです。良かった」
何かを噛み締めているセラフィにされるがままの状態で、ミアは辺りの様子を確かめる。魔鏡のある広い部屋。どうやらシルファの部屋で寝込んでいたようである。
(あれ? なんか、おかしいような――)
違和感はすぐに記憶とつながった。あまりにも自分らしくない行動の数々を思い出して、ミアは体が強張る。その緊迫した調子が伝わったのか、ようやくセラフィがミアから離れた。
「あー、本当に良かったです。正気に戻って!」
「正気って……?」
ミアは全てが夢だったのではないかと一縷の希望にすがっていたが、セラフィに事情を説明されて、全身から火が出そうな勢いで羞恥心がこみ上げる。
(ゆ、夢じゃないってこと?)
「ミア? どうしたんですか? どこか具合が悪いですか?」
「さ、さいあく」
「え?」
シーツを掴んだ手がぶるぶると震える。
昨夜の記憶。
覚えている、全て。
自分は何という失態をやらかしてしまったのだろう。恥ずかしさと申し訳なさで、涙が滲んだ。噛み付いて掻き毟った傷跡は失われている。きっとシルファが治してくれたのだろう。けれど、起きた出来事は、やり直すことも、消去も削除もできない。
ミアは去来した感情に、ぐわぁっと悶絶した。
「え? ミア? どうしたんですか?」
戸惑うセラフィにミアは縋り付く。
「わたし、シルファのこと襲っちゃった!」
「はぁ?」
ミアは絶望的な失態を抱えきれず、泣きながらセラフィに打ち明ける。
「まさか、昨夜にそんなことが……」
「どうしよう。わたし、ただでさえ迷惑ばっかりかけているのに、シルファにどうやって償おう。ただの痴女だよ! 絶対に軽蔑された! 嫌な思いをさせた!」
「いや、落ち着いてください、ミア」
「落ち着いていられるわけないでしょ!」
セラフィは場違いにくすくすと笑っている。
「笑い事じゃないってば!」
「あ、ごめんなさい。でも、自分のことを痴女って……」
こらえきれないのか、セラフィは大笑いする。
「心配しなくても、シルファ様は気にしていませんよ」
「本当に!? 本当にそう言い切れる?」
気にされないのも、それはそれで問題である。彼にとっては子猫がじゃれかかって来たくらいの出来事なのだろうか。良いのか悪いのかわからないが、痴女として軽蔑されるよりは良いかもしれない。
「気にしてないっていうか、シルファ様はミアが怒り狂って暴れるかもしれないって心配していましたよ」
「え?」
「きっとシルファ様もそれなりに楽しんだじゃないですかね?」
「え? は?」
全く眼中にない自分に迫られて、そんな気持ちでいられるだろうか。どう考えても迷惑以外の何ものでもないだろう。
「それにしても、昨夜そんなことになっていたなんて。それで? どうでした?」
「何が?」
「気持ち良かったですか?」
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