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第十一章:仕掛け
6:違和感
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聖女よ、血を捧げよ
魔女よ、聖女を求めよ
人よ、聖女を捕らえ、魔女を狩れ
聖女か、魔女か、人か、答えは己の中にある
汝、為すべき使命を全うせよ
司祭であるドラクルに旧聖堂の調査についての報告を終えると、シルファはベルゼと共に教会を出た。すっかり日も落ちて夜道になっている。このまま王宮の離れへ戻ろうかと考えて歩き出すと、部下であるゲルムが血相をかえて参上した。
彼にはミアの警護をさせていた筈である。シルファは嫌な予感を覚える。
「シルファ様、申し訳ありません」
「どうした?」
「ミアが王宮の離れから外に出たようで」
「彼女が最後にいたのはどこだ?」
「シルファ様のお部屋ですが」
「――まずいな」
シルファは一気に不安が増す。魔鏡のある自室には仕掛けを施してある。それを破って出たとなると、彼女自身に強固な意志が働いたか、外から働きかけがあったかのどちらかである。
「彼女は教会に行きたがっていました。だからこの辺りで捜索も始めているのですが」
「教会? なぜ?」
シルファはゲルムから離れの書庫であったドミニオとの経緯を聞いた。ルミエの失踪を知ったのなら、ミアが心配してしてしまうのは仕方がない。正体について事情を説明しておかなかった自分の落ち度である。
ルミエへの思いが、仕掛けを破る程の意志を働かせたのだろうか。
ミアの性格を考えると、ないとは言えない。けれど、彼女自身も危険に晒されたばかりである。影の一族を振り切ってまで行動に出るだろうか。そこまで状況を顧みないのも不自然だった。
「彼女には印を施してある。すぐに探索を開始するが往来ではまずいな。教会の聖堂を借りよう」
聖堂は既に人々に開放されている時刻も過ぎている。人目を凌ぐには絶好の場所になる。シルファがベルゼとゲルムを連れて教会へ戻ると、聖堂から出てくる人影があった。
夕闇のせいで良く見分けられないが、一人は司祭のドラクルだろう。白い衣装が浮かびあがっている。その白い影に伴われる、もう一つの人影。シルファが見分けるより早く、ドラクルがこちらに気付いたようだ。
「Dサクリード。良かった、いま連絡を入れようと思っていたところです」
司祭に伴われている小柄な人影。シルファは思わず駆けだした。
「ミア!」
駆け寄ると、ドラクルに寄り添われて聖堂から出てきたミアが、靴も履かず裸足であることに気付く。ドラクルも戸惑っているようだった。
「驚きました。聖堂の見回りをしていたらミアが立っていたので。しかも裸足で」
「ごめんなさい……」
彼女は項垂れたように視線を伏せた。どうやら自分の行動を顧みて反省をしているようだ。
ルミエを案じるミアの気持ちはわかる。それでも、シルファにはひどく違和感があった。
違和感の正体が掴めないまま、とにかくミアが無事だったことに安堵する。
ドラクルがミアに諭すように声をかけた。
「ルミエはミアに懐いていましたから、ミアが案じるのも仕方がありません」
気遣うようにミアの背を叩いて、そっとシルファの方へ押し出す。
「ですが、今日はもう帰りなさい。ルミエはきっと大丈夫ですよ」
「はい」
しゅんと俯くミアを責めることはできない。シルファは「気が済んだか?」とだけ聞いた。
ミアはゆっくりと顔を上げる。不安そうな目をしているが、ゆっくりと頷いた。
「うん。ごめんなさい。私が探しても仕方がないのはわかっていたのに……」
ルミエの失踪で、彼女が心を痛めているのがわかる。シルファは自分が浅はかだったのだと悔いた。正体を語っても、ミアはルミエという存在が失われたことを嘆くのかもしれない。
それでも、彼女の哀しみが少しでも和らぐことを望んでしまう。
「帰ろう、ミア」
「うん」
魔女よ、聖女を求めよ
人よ、聖女を捕らえ、魔女を狩れ
聖女か、魔女か、人か、答えは己の中にある
汝、為すべき使命を全うせよ
司祭であるドラクルに旧聖堂の調査についての報告を終えると、シルファはベルゼと共に教会を出た。すっかり日も落ちて夜道になっている。このまま王宮の離れへ戻ろうかと考えて歩き出すと、部下であるゲルムが血相をかえて参上した。
彼にはミアの警護をさせていた筈である。シルファは嫌な予感を覚える。
「シルファ様、申し訳ありません」
「どうした?」
「ミアが王宮の離れから外に出たようで」
「彼女が最後にいたのはどこだ?」
「シルファ様のお部屋ですが」
「――まずいな」
シルファは一気に不安が増す。魔鏡のある自室には仕掛けを施してある。それを破って出たとなると、彼女自身に強固な意志が働いたか、外から働きかけがあったかのどちらかである。
「彼女は教会に行きたがっていました。だからこの辺りで捜索も始めているのですが」
「教会? なぜ?」
シルファはゲルムから離れの書庫であったドミニオとの経緯を聞いた。ルミエの失踪を知ったのなら、ミアが心配してしてしまうのは仕方がない。正体について事情を説明しておかなかった自分の落ち度である。
ルミエへの思いが、仕掛けを破る程の意志を働かせたのだろうか。
ミアの性格を考えると、ないとは言えない。けれど、彼女自身も危険に晒されたばかりである。影の一族を振り切ってまで行動に出るだろうか。そこまで状況を顧みないのも不自然だった。
「彼女には印を施してある。すぐに探索を開始するが往来ではまずいな。教会の聖堂を借りよう」
聖堂は既に人々に開放されている時刻も過ぎている。人目を凌ぐには絶好の場所になる。シルファがベルゼとゲルムを連れて教会へ戻ると、聖堂から出てくる人影があった。
夕闇のせいで良く見分けられないが、一人は司祭のドラクルだろう。白い衣装が浮かびあがっている。その白い影に伴われる、もう一つの人影。シルファが見分けるより早く、ドラクルがこちらに気付いたようだ。
「Dサクリード。良かった、いま連絡を入れようと思っていたところです」
司祭に伴われている小柄な人影。シルファは思わず駆けだした。
「ミア!」
駆け寄ると、ドラクルに寄り添われて聖堂から出てきたミアが、靴も履かず裸足であることに気付く。ドラクルも戸惑っているようだった。
「驚きました。聖堂の見回りをしていたらミアが立っていたので。しかも裸足で」
「ごめんなさい……」
彼女は項垂れたように視線を伏せた。どうやら自分の行動を顧みて反省をしているようだ。
ルミエを案じるミアの気持ちはわかる。それでも、シルファにはひどく違和感があった。
違和感の正体が掴めないまま、とにかくミアが無事だったことに安堵する。
ドラクルがミアに諭すように声をかけた。
「ルミエはミアに懐いていましたから、ミアが案じるのも仕方がありません」
気遣うようにミアの背を叩いて、そっとシルファの方へ押し出す。
「ですが、今日はもう帰りなさい。ルミエはきっと大丈夫ですよ」
「はい」
しゅんと俯くミアを責めることはできない。シルファは「気が済んだか?」とだけ聞いた。
ミアはゆっくりと顔を上げる。不安そうな目をしているが、ゆっくりと頷いた。
「うん。ごめんなさい。私が探しても仕方がないのはわかっていたのに……」
ルミエの失踪で、彼女が心を痛めているのがわかる。シルファは自分が浅はかだったのだと悔いた。正体を語っても、ミアはルミエという存在が失われたことを嘆くのかもしれない。
それでも、彼女の哀しみが少しでも和らぐことを望んでしまう。
「帰ろう、ミア」
「うん」
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