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第二十三章:帝国の花嫁の夢
145:巨大な墓穴を掘る王女
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スーは愛の囁きに負けてはいられないと、しっかりと自分の魂の尻尾をつかんだ。
「る、ルカ様は! またわたしの反応を見て面白がっておられるのでは?」
「まさか。これまでは素直に伝えられなったので、あなたには何度でも伝えておきたい」
「~~~っ!」
スーはすでに瀕死である。夢物語に登場しそうな麗しい皇太子に、率直に愛を語られては身がもたない。魂が飛びだしたまま、幸せを噛みしめて昇天しそうになる。
結局抱きあげられたまま、ルカは大階段をのぼりきってしまった。私邸では、大階段をはさんで対極となるように互いの居住空間があった。
部屋へむかうためには、この階段から続く通路で道がわかれる。
スーがようやくとんでもない心拍数から解放されると胸を撫でおろしていると、ルカが立ち止まった。
降り立つためにスーが身動きすると、ルカの腕が遮るように身体を抱きよせる。
「ルカ様?」
スーの真っ赤にのぼせた顔を眺めながら、彼が悪戯っぽくほほ笑んだ。
まるで美しい悪魔が降臨したように、壮絶に麗しい微笑である。スーはふたたび平常心を見失う。
「あの、ルカ様、何か?」
「このままあなたを寝室に連れこむか、それとも先に夕食をすませるか。スーはどちらを望むのかと……」
「えっ?」
「じつはスーが私にふさわしい妃になるために何を考えたのか、すこし小耳にはさみました」
「えっ!?」
「あなたを遠回しに口説いていては、取り返しのつかないことになりそうなので。だから、スーに何を望むのかは、素直に伝えます」
「は、はい! ありがとうございます!」
もはや何を指摘されているのかも、よくわからない。スーの頭の中は大混乱である。内容をしっかり咀嚼できないまま勢いで返事をすると、ルカがスーの顔に頬を寄せるようにして、耳元でささやいた。
「私はあなたが欲しい。でも、先に食事をすませた方が良いですか?」
夢にまで見た大人の階段が目の前に築かれている。もちろん選ぶべき選択肢は決まっている。決まっているが、残念ながらスーはこの急展開についていけない。
(ダメ! このままでは無理よ!!!)
まさか帰宅後すぐに絶好の機会がめぐってくるとは思ってもいなかったのだ。
スーの作戦としては、決戦はもっと夜がふけてからだった。晩酌を理由にルカの寝室に突撃する前に、身支度をすませる計画なのだ。入浴で体を完璧にみがいて、女性らしい装いで色気をふりまきながら、彼の前に登場するというのが、スーの理想である
(あああ~! 油断していたわ!)
「スー?」
ルカが伺うように名を呼ぶ。スーはだらだらと全身から変な汗が流れそうになりながら、素直に打ちあけた。
「申し訳ありません! ルカ様! さきにお食事でお願いします!」
最高の準備をしておきたい乙女心は捨てられない。必死に訴えると、ルカは吹きだしそうになるのをこらえてるのか、「申し訳ありません、スー」と肩を震わせている。
「? なぜ、ルカ様が謝るのですか?」
「今のは冗談です」
「え!? 冗談!? 冗談ですか? 今のが!?」
スーはますます顔がゆであがっていく。
(あんなに圧倒的な大人の色気でささやくのが、冗談!?)
迫真すぎてスーはすぐに頭が切り変えられない。顔がゆであがったまま呆然となってしまう。
「久しぶりに会って、少しスーをからかいたくなってしまいました。申し訳ありません」
ルカはようやく抱きあげていたスーを下ろす。
「スーと食事をするのも久しぶりで楽しみです」
通路の勾欄へ身をかたむけると、彼は階下のテオドールに食事の指示をだした。それから再びスーを振り返ってほほ笑む。
「では着替えてきます。スー、またのちほど」
去っていくルカの背中を見送りながら、スーはハッと気づく。
(もしかして、大人の階段に怖気づいたと思われたのでは? だからルカ様は咄嗟に冗談にされたのでは!?)
それはまずいとスーは慌てる。幼いと思われてしまうのはまずい。大人の階段をのぼる機会が台無しになってしまう。
「お待ちください、ルカ様!」
スーはルカの背中に体当たりする勢いでしがみついた。
「スー?」
驚いたように振り返ったルカに、スーはまくしたてる。
「さっきのは怖気づいたということではないのです!」
スーはどう説明すべきかと迷いながら、とにかく気持ちを伝えようと懸命に言葉を並べる。
「その、わたしは! もっと女性らしい装いで、体もこれ以上はないくらいつるつるぴかぴかに磨きあげて、香油で全身に花の香りをまとって、その香りをふりまきながら誘惑して、最高の状態でルカ様と大人の階段をのぼりたいのです!」
「……………」
「先に食事を選んだのはそれだけが理由で、決して大人の階段に怖気づいたというわけではありません。ルカ様と一緒なら、大人の階段なんてよろこんで駆けあがります! 本当です! だから――」
「スー、大丈夫です。あなたが私を怖れるとは思っていません」
スーはじっくりとルカの美しい顔をみつめる。
「でも、ルカ様はわたしのことを幼いと思っておられるのではありませんか?」
「…………、思っていません」
「あっ! なんですか? いまの間は!? わたしは怖気づいたりしません!」
「はい。わかっています」
「今夜もルカ様の寝室に晩酌を装って突げ……いえ、お伺いしますので!」
「……はい」
「本当ですよ! もう広間でなんて牽制はなしですよ!」
「はい」
「もうルカ様がわたしを牽制する理由もなくなったはずですし!」
「はい」
「わたしはこれからも全力でルカ様を口説きますので!」
「はい。でも、それはこちらの台詞です」
ルカはスーに会わせて少し身をかがめると、美しく青い眼でスーの顔をのぞきこむ。
「それにしても、スーがそんなに積極的だと、今夜が楽しみです」
ルカに魅惑的にほほ笑まれて、スーは「あっ!」っと、冷水を頭にぶちまけられる勢いで我にかえった。
「どうやら眠れない夜になりそうですね、スー」
やらかしてしまったと思ったが、スーがそれに気づいたのは、とんでもない巨大な墓穴を掘ったあとだった。
「る、ルカ様は! またわたしの反応を見て面白がっておられるのでは?」
「まさか。これまでは素直に伝えられなったので、あなたには何度でも伝えておきたい」
「~~~っ!」
スーはすでに瀕死である。夢物語に登場しそうな麗しい皇太子に、率直に愛を語られては身がもたない。魂が飛びだしたまま、幸せを噛みしめて昇天しそうになる。
結局抱きあげられたまま、ルカは大階段をのぼりきってしまった。私邸では、大階段をはさんで対極となるように互いの居住空間があった。
部屋へむかうためには、この階段から続く通路で道がわかれる。
スーがようやくとんでもない心拍数から解放されると胸を撫でおろしていると、ルカが立ち止まった。
降り立つためにスーが身動きすると、ルカの腕が遮るように身体を抱きよせる。
「ルカ様?」
スーの真っ赤にのぼせた顔を眺めながら、彼が悪戯っぽくほほ笑んだ。
まるで美しい悪魔が降臨したように、壮絶に麗しい微笑である。スーはふたたび平常心を見失う。
「あの、ルカ様、何か?」
「このままあなたを寝室に連れこむか、それとも先に夕食をすませるか。スーはどちらを望むのかと……」
「えっ?」
「じつはスーが私にふさわしい妃になるために何を考えたのか、すこし小耳にはさみました」
「えっ!?」
「あなたを遠回しに口説いていては、取り返しのつかないことになりそうなので。だから、スーに何を望むのかは、素直に伝えます」
「は、はい! ありがとうございます!」
もはや何を指摘されているのかも、よくわからない。スーの頭の中は大混乱である。内容をしっかり咀嚼できないまま勢いで返事をすると、ルカがスーの顔に頬を寄せるようにして、耳元でささやいた。
「私はあなたが欲しい。でも、先に食事をすませた方が良いですか?」
夢にまで見た大人の階段が目の前に築かれている。もちろん選ぶべき選択肢は決まっている。決まっているが、残念ながらスーはこの急展開についていけない。
(ダメ! このままでは無理よ!!!)
まさか帰宅後すぐに絶好の機会がめぐってくるとは思ってもいなかったのだ。
スーの作戦としては、決戦はもっと夜がふけてからだった。晩酌を理由にルカの寝室に突撃する前に、身支度をすませる計画なのだ。入浴で体を完璧にみがいて、女性らしい装いで色気をふりまきながら、彼の前に登場するというのが、スーの理想である
(あああ~! 油断していたわ!)
「スー?」
ルカが伺うように名を呼ぶ。スーはだらだらと全身から変な汗が流れそうになりながら、素直に打ちあけた。
「申し訳ありません! ルカ様! さきにお食事でお願いします!」
最高の準備をしておきたい乙女心は捨てられない。必死に訴えると、ルカは吹きだしそうになるのをこらえてるのか、「申し訳ありません、スー」と肩を震わせている。
「? なぜ、ルカ様が謝るのですか?」
「今のは冗談です」
「え!? 冗談!? 冗談ですか? 今のが!?」
スーはますます顔がゆであがっていく。
(あんなに圧倒的な大人の色気でささやくのが、冗談!?)
迫真すぎてスーはすぐに頭が切り変えられない。顔がゆであがったまま呆然となってしまう。
「久しぶりに会って、少しスーをからかいたくなってしまいました。申し訳ありません」
ルカはようやく抱きあげていたスーを下ろす。
「スーと食事をするのも久しぶりで楽しみです」
通路の勾欄へ身をかたむけると、彼は階下のテオドールに食事の指示をだした。それから再びスーを振り返ってほほ笑む。
「では着替えてきます。スー、またのちほど」
去っていくルカの背中を見送りながら、スーはハッと気づく。
(もしかして、大人の階段に怖気づいたと思われたのでは? だからルカ様は咄嗟に冗談にされたのでは!?)
それはまずいとスーは慌てる。幼いと思われてしまうのはまずい。大人の階段をのぼる機会が台無しになってしまう。
「お待ちください、ルカ様!」
スーはルカの背中に体当たりする勢いでしがみついた。
「スー?」
驚いたように振り返ったルカに、スーはまくしたてる。
「さっきのは怖気づいたということではないのです!」
スーはどう説明すべきかと迷いながら、とにかく気持ちを伝えようと懸命に言葉を並べる。
「その、わたしは! もっと女性らしい装いで、体もこれ以上はないくらいつるつるぴかぴかに磨きあげて、香油で全身に花の香りをまとって、その香りをふりまきながら誘惑して、最高の状態でルカ様と大人の階段をのぼりたいのです!」
「……………」
「先に食事を選んだのはそれだけが理由で、決して大人の階段に怖気づいたというわけではありません。ルカ様と一緒なら、大人の階段なんてよろこんで駆けあがります! 本当です! だから――」
「スー、大丈夫です。あなたが私を怖れるとは思っていません」
スーはじっくりとルカの美しい顔をみつめる。
「でも、ルカ様はわたしのことを幼いと思っておられるのではありませんか?」
「…………、思っていません」
「あっ! なんですか? いまの間は!? わたしは怖気づいたりしません!」
「はい。わかっています」
「今夜もルカ様の寝室に晩酌を装って突げ……いえ、お伺いしますので!」
「……はい」
「本当ですよ! もう広間でなんて牽制はなしですよ!」
「はい」
「もうルカ様がわたしを牽制する理由もなくなったはずですし!」
「はい」
「わたしはこれからも全力でルカ様を口説きますので!」
「はい。でも、それはこちらの台詞です」
ルカはスーに会わせて少し身をかがめると、美しく青い眼でスーの顔をのぞきこむ。
「それにしても、スーがそんなに積極的だと、今夜が楽しみです」
ルカに魅惑的にほほ笑まれて、スーは「あっ!」っと、冷水を頭にぶちまけられる勢いで我にかえった。
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